再開
リベルクローツ魔導学園の入口。
「ヴェルサス・ラント・シュウですね。D区の7054番の家を使って下さい。試験は明日の10:00から第一演習場にて開始ですので遅れないでください。午後13:00からの筆記は追って伝えます。今日はお疲れでしょう。ゆっくり休んでください。では、健闘を祈ります。」
部屋の地図とキーを貰うと人気の多い通りを抜け真っ先に家に向かう。あいつはあれ以来黙りで一向に出てくる気配はない。
ここが神の光の国……リベルクローツか。色々と面倒が起きそうな場所ではあるが、少しでも手掛かりがほしいからな今は、愚痴ってもいられまい。
!?
微かな気配を感じとり背後を向くも、辺りには人っ子一人いなかった。あるのは道の中央に植えられた草木と端にある街灯くらいなもの。
気のせいか……?ちょうど家にも着いたし、ゆっくりと休むことにしよう。
それからの行動が早かった。荷物を部屋に置き、着替えだけを持って風呂場に向かう。戸を横に開くと、そこは広々としていた。綺麗に磨かれたタイル張りの床に、シャワーがいくつも並んでおり、奥手には人が5、6人浸かれるくらいの浴槽がある。
「貴族が好きそうなデザインではないから、まぁ……落ち着けるか……」
風呂からあがると簡単にタオルで髪を拭き、いつもの白いタートルネックに黒いズボンを身に付け、乾いたタオルを片手にロビーにあるソファーに腰掛ける。腰下まで長く伸びた白銀の髪を拭くために。この作業は本人にとって慣れっこなのだろう。
拭き終わるとそのままソファーの上で横になる。
試験当日
朝から凄い人気だ。演習場だけあって相当に広いはずなのだが、今回はそれが異様に狭く感じる。観客席のようになっている二階には、リベルクローツの学生がどんな新人が来るのかを知るために集まっているようだ。
今日は二千人の受験者がいるとか言ってたか……。それを五百人くらいにわけ、4つの演習場で開始する。
「なあ」
巨体な魔石のついた装置が置かれていた。
成る程な、最初は魔力の属性を見極めるのか。
ヴェルサスの考えた通りに人が次々に魔石に触れ、そのそばを通りすぎる。なので、列がスムーズに進む。
「なあ!」
何てことを考えてるとすぐに順番が回ってくる。
「七七〇番、その魔石に触れ魔力を流せ」
言われた通りに魔力を少量流す。多すぎると属性を詳しく知られることになり、少なすぎると逆に属性を向こうが知ることができなくなるため量を調整する。
「!?」
試験官の顔色が変わる。恐らく、あの量だと得意属性が真逆の水と炎ということくらいで、性質のほうは知られてはいないな。そう思えた。いや、確信というべきか。
「炎と水?特異な属性持ちだな。行っていいぞ」
やっぱりか。こういうケースはよくあったりするからな。
さてさて、お次はあれか。
試験官の前で魔力を体に纏わせオーラ状にする。これで魔力操作を測るらしい。
「なあって!!無視すんなよ」
振り向くと見知らぬ人が立っていた。
まぁ、知らなくて当然なんだが……。
「俺はデュマ。あんたは?」
「お前はデュマか……わかった。じゃあな」
踵を返し次の試験を受けようとすると引き留められる。
「待って待って。君の名前は?」
どうあっても俺と話す気満々か……。
はぁとため息一つし、名前を教える。
「俺はヴェルサスだ」
「ヴェルサスか。よろしくな!!」
「あぁよろしく……じゃあな」
めんどくさいやつに目をつけられたもんだ。とばかりに肩を竦めながらに次の試験へと歩みを進める。
「じゃあ、魔力の放出をやって見せて」
言われた通りに放出する。魔力は基本、透けるような緑だが人によっては色を変える。感情や精神、様々な理由で。
「灰色……」
ボソッと口からこぼれる。
魔力に強い影響を与えるのは感情。どんなに性質を隠そうとしたってこればっかりはどうしようもない。色からは性質を理解することができないのは幸いだと言える。まぁ、察しのいい人なら大方の予測はできなくはないが。
性質のことは触れずに先に進めてくれた。様々な性質を持つ人がいるから無視したのか、勝手に勘違いして納得したのか、あるいは……どちらにせよ聞かれなかったのは良かった。あまり話したくない出来事だからな。
「ヴェルサスも順調に来てるな。お互い無事に合格でそうで良かったよ」
「そうだな」
またしてもデュマの登場。
合格できない要素はこれまでになかったと、俺は記憶してるが?ただの適正試験みたいなものだろ。あの試験は。
次は個別に試験官と総合戦闘の模擬をするらしい。残りの試験すべてここで試すということになる。時間の都合によりという理由だろうが。順番がくるまで暇とはいえ、こいつの相手は勘弁してほしい。ずっと話しかけられてるんだが?俺は……。
「なあ、さっきからあそこの女の子から視線を感じるんだが、お前に気があるのかもよ」
おめでたい考えだな、こいつは。
「でもいいよな」
唐突になんだ?と、目で問うように睨み付ける。それは問いかけではないように感じるが……まぁいいか。
「だってほら、かっこいいじゃんお前。みんな口にしてるよ。かっこいい人がいるって。ん?なぁさっきこっち見てた女の子たちがこっち来るよ、どうしよ」
視界の端で大袈裟に慌てる仕草をするデュマを無視し、一人思考にふける。
「ねぇ、あなたの名前教えてくれない?私はセレナでこっちがシェリ、その隣がミレイよ」
この手はのことはデュマが何とかするだろうから再び思考にふける。
「俺はデュマって言うんだ、よろしく。こっちはヴェルサス」
場が一瞬固まる。
おい……デュマは何をやらかしたんだ?これ以上めんどくさいのは嫌だよ。
「ミレイが見知った人がいるっていうから来たら……」
「まさか、本当にミレイの知り合いがいるとは」
「……」
女の子三人が俺を見て固まっている。なぜ?俺はなにか悪いことをしたか?してないよな?しかも一人は泣きそうになってるし……。
……。
「ヴェルサス……私のこと覚えてないの?」
「またあとでいいか?俺の番が来た」
まさか、覚えていたとはな。
心なしかそれを嬉しく思えた。
もう、しらを切ることはできないな。
試験官のいる場所まで行き、少し距離をとって立ち止まる。
「ヴェルサス・ラント・シュウ、ね。今からあなたの全力を見せてもらうわ!!」
そこにはローブに身を包んだ一人の女性が立っていた。