リベルクローツ
リベルクローツに着いた私達三人は、現在進行形で馬鹿っぽく口を開けている。
「あの、ルミナさん。道、間違えたんじゃないですか?」
疑問が浮かんだので、馬車を降りながら質問してみる。
「いいえ、間違えてはいないわ。では行きましょ」
馬鹿を見るような目で言われた。
だめだ。全然頭がついてこない。
学園よりも街って聞いた方がまだ現実味がある。
魔導学園?には一般人らしき人がいるし、家もあるし。
この人たち一般人じゃなくてリベルクローツ関係者。
なんてことは…ないよね?
でも、何?この街の活気は。王都やその周辺にでもいるかのように賑わってるいけど……
うーん。ヨハリフォトの街の近くにあるって今でも信じられないわ。
「リベルクローツ魔導学園って、この街も含まれることは知らなかった」
セレナからの質問に答えにくそうにする。
「そこは微妙なところだけど、そのとおりよ。」
ルミナさんは進みながら註釈する。
「リベルクローツ魔導学園とよく言われるけれど、商人達からはリベルクローツ街と呼ばれるわ。他国からはリベルクローツ国とかね。その人たちがここに来る目的によって、呼び名は変わるのよ。だからリベルクローツ自体の正式な呼び名はないわ。」
成る程。全然知らなかった。「だから、貴方達からしたら、リベルクローツ魔導学園かしらね?」と笑顔で返してくる。
つまり、整理するとここに住んでいる人もいる。ってわけだ。
道理で普通に家とか店とかが並んでるんだ。服屋もあるし、飲食店もある。さらに武器屋ですか。
これはもう1つの国の首都に居るみたいだ。まぁ、違うんでしょ
うけど。
進みながら勝手に納得していると
「それと、盛大に勘違いしてそうだから付け加えておくわ。
国ではないから。」
と言われた。
うっ、勘違いしかけた…
でも仕方ないよね。そっ…そうよ!!仕方ない、仕方ないのよ。だって、これは1つの国なんですよ。って言われたら誰もが勘違いするよ。きっとね!!
あ~、うん…たぶん…
私だけじゃないよね!
なんか唐突に、不安になってくるわ。
「へぇ、国かと思った」
「うん。指摘されないとずっと勘違いしたままだよ。これ」
よしっ!!ナイスよ、セレナとシェリ。これで味方ができた。
なんてバカなことをしていると
「着いたわ。あとはこれに乗って移動するだけ」
えっ!?
これ…何?なんかワイヤーみたいなのに人が10人ほど乗っても余裕が出来そうな、鉄でできたカゴ?が引っ付いてるんですが。
「早くしないと置いてくわよ?」
と、先に乗ってしまったルミナさんに急かされる。
仕方ないね。乗ってから聞いてみるか。
乗ってみると以外に揺れは少ない。不思議だ。
ようやく乗った二人は、椅子に腰かける。私は立って窓の景色を眺める。
少しずつ動きだし、ゆったりとした速度で上昇する。
少々おっかなびっくりしてるセレナとシェリを、セラさんは微笑ましく思っているのか、楽しそうに見ている。
それから私に視線を戻すと、手を顎にやりいくつか考えて近付いてくる。
「以外と平気なのね。驚いたわ」
「はい。不思議と恐怖心はありません。なんででしょうかね?」
「普通は初めて、このロープウェイに乗ると怖がったりするのにね。人によりけりといったところかしらね」
ルミナさんは納得気味に頷く。
私は別のところに頷く。
へぇ、ロープウェイって言うんだ。聞いたことはあるけど、乗るのは初めてだわ。中も綺麗だし、なによりも景色が良い。
それも一瞬のこと。
これを動かすのに人手でないことは考えるまでもない。…恐らく、というか、確信を持って魔石といえる。
魔法を使えない人でも、魔力自体は誰しもが天性的に持っていて、そしてこの星にも廻っている。魔力は内的に外的に存在しているもので、結晶化したものが魔石と呼ばれる。なぜ、魔物の体内に、魔石があるのかは不明だけれど。
「魔石…」
「どうしたの?」
突如口を開いた私を不思議に思ったのか、顔を覗き込んでくるので「なんでもないですよ~」とふざけるように誤魔化す。
再び、景色を堪能していると頂上付近につく。
ロープウェイを降りるとまた、何やら入り口が見える。大きく聳え立つといったほうが正しく思えてくるような、そんな煉瓦造りの入口。
「おっ!相変わらず早いねぇ。」
「仕事だからな。」
「さすが、仕事熱心なルミナだ。そんなことだと、休みたいときに休めなくなるよ~」
「何よ!じゃあ、こっちも言わせてもらうけど、あなたこそ仕事が雑すぎるの!!どうしてファイルに、あなたの大好きなファッション雑誌があるんだ!?しかも毎回毎回、私のファイルだけに!!」
セラさんがファイルを開いて、挟まっている雑誌を手で叩く。
「あぁこれ?今度一緒に服でも探しに行こうかなって思っててさぁ。そしたら、ねっ。…痛っ!?」
受付嬢が可愛らしく舌を少し出すと、ルミナさんによるファイルを使った鉄槌が下る。
うわぁー…冗談抜きで痛そう。ちょうどファイルの角で叩かれる。
「今のは痛いね」
「うん。あの鈍い音は…ね。ミレイお姉ちゃん、気を付けようね。…叩かれないように」
ファイルによる鉄槌を喰らった受付嬢は、まだ痛いのか頭を撫でながら受付を始める。
「え~っと、セレナさんとシェリさん、そしてミレイさんね。ではD区の7052番の家を使って下さい。試験は明日の10:00から第一演習場にて開始ですので遅れないでください。午後13:00からの筆記は追って伝えます。今日はお疲れでしょう。ゆっくり休んでください。では、健闘を祈ります。」
受付嬢から鍵と地図を渡される。
「最初っからそうしろ!…ったく」
「てへ」
ファイルを振り下ろすセラさんと、ギリギリ受け止める受付嬢。
「ごめん!ごめんってば!!冗談だって!!」
受付嬢の必死な願いが届いたのか力を緩めるルミナさん。
そして反撃とばかりにおちょくる受付嬢。
「全くもう、そんなんだと彼氏に振られるよ~?リベルクローツ第一部隊主席総長さ・まに」
「なっ!?うるさい!!こんなバカは無視していくぞ」
「行ってらっしゃ~い」
心なしか顔が赤いのは気にしたら負けよね。
ルミナさんってクールな人と思ってたけど、いろんな表情持ってるんだね。
急に歩みを止める。
ルミナさんどうしたの?
あっ、睨まれた。
なっ何もないですよ!?ホントホント。お願いだから睨まないでください。正直言って怖いです。
必死に誤魔化していると再び歩きだす。
無言で…
ふぅ、にしてもよく恋人いますね。はぁ、ほんと怖い。
「!?総長、お疲れ様です。」
いきなりどうしたの?ルミナさん……
ルミナさんの視線の先を見ると、背の高い男の子の人がいた。灰色のローブっぽい服を身に纏っている。手には何やら茶色の布が巻かれていて、剣が腰にさしてある。身長は…185cmくらい?声は低くて独特なゆっくりめの口調。肩よりも少し長く伸びた茶色がかった髪に、髭を生やしている。見た目は渋くて格好いい中年って感じ。
というか、態度変えるの早っ。
「ん?ルミナ大尉か、相変わらず仕事が早いな」
「総長の副官を勤めているのですから、当然です」
さっきから総長と言ってるところから、さっき言ってた主席総長なんだろうけど、相当な忠誠心ですね。
と感心していると、私たちに目をやる。
「大尉が無礼をかけなかったか?」
「総長。余計なことを言わないでください。そんなことしてませんから」
冷静を装ってるけど、必死なのが犇々と伝わってくる。
「ふっ」
ルミナさんを見て頬を少し緩ませると、こちらに向き直る。
「我が部下の無礼、お詫び申し上げる。私は第一部隊主席総長レイ・デア・ヴェルカと申す。以後お見知り置きを」
微笑みながら軽く一例をする。
この丁寧さに呆気をとられ、反応が遅れる。
「えっと、私はミレイと言います」
私の礼に続き二人も挨拶と礼をする。
「私はセレナといいます」
「私はシェリといいます」
「ふっ、礼儀正しいな。よろしく頼む。それと、ルミナ。仕事熱心なのは構わんが、あまり無理をするな。少しは休暇をとるようにすることだ。」
「総長がそう仰るのなら、お言葉に甘えて何れは」
「ではな」
部下想いのいい人…なのかな?何かが引っ掛かる。
「何か、貫禄あるよね」
「うん。すごい人だね」
なんて会話を小声でしている。
セレナとシェリが気づいてないなら、私の気のせいか?
「にしても、年上が好きなんですね。意外でした」
「そんなに総長は歳をとっているように見える?」
「えっ?」
ルミナさんが驚きの言葉を口にした。
えっ?というと、見た目より……若いの!?
「その反応だとそうみたいね。ミレイはいったい何歳だと思っていたの?」
「少なくとも35歳くらい」
「はぁ……年相応に見えないってよく言われるから気になってはいたけど、そんな歳で見られていたなんて……。まだ22歳よ」
「「「!?」」」
三人揃って驚きの声をあげたのは言うまでもなく。
幾つもの家を通り過ぎると、先程言われた家についてソファーに寛ぐ。
何かいろいろと疲れた…
ルミナさんはというと
「今日はゆっくり休めよ。また明日来る。」
こう告げて帰った。
1階はロビーとキッチン、風呂場にトイレ、部屋が2つ。2階は6つの部屋がある。ロビーは無駄に広い。何に使うの?って言うレベルで広い。風呂もやたらと広い。これ、4人は入れるよ。
各階にある部屋は、まぁ普通に1部屋だ。
木で出来ており、やたらと落ち着きのある家だ。
今日はゆっくりして眠ろう。