異世界のお姫様を孕ませた祖父の尻ぬぐいをするために異世界に行くことにしました。
先日、祖父が老衰で亡くなった。享年81歳であった。
祖母は既に他界しており、祖父が亡くなっているのを最初に発見したのは近所の通りがかりの人。
縁側で眠るように息を引き取っていたらしい。
孫の俺が言うのもなんだが祖父は変わった人物だった。
自分は異世界を救った勇者なのだよというのが口癖で、祖父の家に遊びに行くと俺はいつも異世界での冒険話を聞かされるのであった。
孫を楽しませるために考えた作り話なのだろうが、祖父の家にある蔵には怪しげな骨董品の刀剣やら鎧やらが置いてあり子ども心に俺は祖父の話を信じた。
まあ、俺は15歳になり、今ではもう信じていないが。
今、俺は祖父の遺産である蔵の掃除をしている。
なんで俺がと思ったが祖父の遺産の骨董品で好きなものを一つやるからと言われて掃除を手伝うことにしたのであった。
俺が所望したのは祖父が大事にしていた異世界から日本に戻ってくる際にお姫様から貰ったという設定のペンダント。
このペンダントは仕掛けが施されており、開くと綺麗な金髪碧眼の姫様の絵が現れるようになっていて俺はお姫様の絵を気に入っていた。
祖父の遺体が縁側で発見された時も手にはこのペンダントが固く握られていたそうだ。
最近は祖父の家にはあまり遊びに行かなくなっていたのだが、もしかしたら祖父は空想と現実の区別がつかないくらいボケていたのかもしれない。
はたきで骨董品の埃をはたき落とすと埃が舞い上がり俺はケホケホとむせた。
「これはマスクがないと駄目だな」
掃除をすること4時間。そろそろ休憩するか。
そう思ったその時だ――
ポケットに入れていた祖父のペンダントが突然光り輝きだした。光は強さを増していき、蔵を光で白く塗りつぶす。
謎の発光現象が収まりホッとする俺であったが、今度は目の前には見知らぬ中世ヨーロッパ風の綺麗なドレスを着た金髪碧眼の美少女が忽然と立っていた。
人形のように整った顔立ちをしていて、祖父のペンダントの中の絵のお姫様にそっくりである。
そんな馬鹿な。ありえない……
「だ、誰だ?」
俺が動揺しながら少女に質問すると、少女は俺を見て顔をほころばせながら小さな口を開いた。
「お会いしとうございました。お祖父様」
「は?」
結論から言うと彼女は異世界のお姫様だった。
名前はノルンと言い、俺を見て祖父と勘違いしたらしい。
ノルンの首には祖父のペンダントと似たペンダントがかけられており、開くと祖父の若い頃の絵が描かれており俺によく似ていた。
祖父が話していた異世界の話は全て本当であった。
俺が祖父は先日亡くなったと伝えると、ノルンはすごく残念そうにしていた。
そして祖父が亡くなってから判明した衝撃の事実。
ノルンは俺の祖父と異世界人との間に生まれた子どもが生んだ子ども。
つまり俺とは遠い血縁であった。
腹違いの従妹とでもいうのであろうか?
「異世界で何やってんだよ。隠し子っておい! 糞ジジイ! 殺す!」
いや、もう死んでるか……
祖父は異世界に愛する者を置いて日本に戻ってきたことになる。
「私の母が祖母のお腹の中にいることが判明したのはお爺様が元の世界にお戻りになられた後だったのです」
ノルンは慌てて祖父を庇った。
だがしかし、異世界のお姫様と関係を持っていたというの日本に戻ってくるとは……
祖父がそんな無責任な人物だったとは……
怒りの矛先を向けようにもその人物はもうこの世にはおらず、もうどうしようもない。
なによりもあまりにも時間が経ち過ぎている。
ノルンの祖母ももう既に亡くなっているそうだ。
祖父が何故日本に戻ってきたのか、ノルンの祖母がなぜ祖父を追いかけて日本にやって来なかったのか。
異世界で祖父と姫様の間に何があったのかはもう知る術がない。
「ところで、ノルンはなんでこの世界にやって来たんだ」
「お爺様が封印した魔王が復活したので再び封印してもらおうとお願いしにやってまいりました」
「なんだって!?」
隠し子に、魔王は封印が解けて復活。
まったく俺の祖父はやることが中途半端すぎる。
母の元にノルンを連れていき事情を説明したが母は半信半疑といった様子だ。
仏壇の前に安置されていた祖父の遺灰の前でノルンは手を合わせて線香をあげてくれた。
母は仏壇で涙を流すノルンを見てやっと話を信じ、祖父に対して大激怒。
祖父に代わってノルンに深く謝罪した。
そして母に命令されて俺は祖父の尻ぬぐいをするためにノルンと共に異世界に行くことになった。
なぜだ?
まあ、可愛い従妹が困っていると言うのならば俺に出来ることなら力になってやりたいと思う。