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跡地  作者: 黄崎ロト
序章 新たなる火種
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第七話 暗夜の蹂躙劇

「………やぁ。こんばんは、アレク、リム。遅れてすまなかったね、無事かい?」



 エドワードは自分の両腕の中で涙を流し、震え、一心に自分に対して謝り続ける二人の教え子にいつものように優しげに微笑み、優しげな声をかける。

 避難所となっていた村立ヴィタエ学園の一階の体育館内にて、それぞれアレクとリムの両親から自分の子がいなくなった。どうか探して欲しいと涙ながらに頼まれたのだ。

 その言葉を聞いた次の瞬間には既に体育館を飛び出していたエドワードは、すぐさま村全体に魔力網を張り巡らせてヴィタエ村のどこに誰がいるかを完全に把握。二人と見知らぬ魔力を持った存在を察知してさらに急いで歩を進めた。

 そして間一髪、賊の男と思わしき者の手にかかる寸前に二人を救い出し、その代償に背中を鋭利な短剣で貫かれたのだ。



「せ、せんせぇ……」


「ごめん、ごめん……なさい……せん、せい……!」



 エドワードの腕の中で泣きじゃくる二人の教え子の頭を撫でてから、エドワードは先ほどこちらに着いたリーゼロッテとエロリアに、顔は二人の教え子たちの方を向けたまま声をかける。



「リーゼロッテ、エロリア。二人を体育館まで連れて行ってくれ。どうしてかはわからないけれど、どうやら彼の目的は最初から……私だったようだからね。その証拠に、彼はこのチャンスを完全にふいにして、今も動きを見せていない。まったく、大した余裕だよ」


「だけどお兄ちゃん……怪我を……!」


「《ヒール》! 《ヒール》! そんな……まさか、『治療不可』のエンチャントウェポン!?」



 エドワードの下へ凄まじい速度で駆け寄った二人は、それぞれエドワードの前と横に立って先ほどからなぜか一言も発さない男と対峙する。

 そして治療を試みたエロリアの悲鳴じみた声が響いた時、ようやくその重い口が開く。



「………ハートレス、二人。だが、女は要らん」



 その言葉だけで、この男が何を求めているのかを理解するには容易すぎた。



「二人を連れて行ってくれ、リーゼロッテ、エロリア」



 エドワードの言葉は、ただの言葉とは思えないほどの効果を二人へともたらす。

 まるで声に操られたかのようにリーゼロッテとエロリアは言葉を挟む間もなくそれぞれアレクとリムを抱え、学園へと飛び立とうとしたところでようやく我に返る。



「待ってよお兄ちゃん! そいつ、明らかに他の奴らとは違う! いくらお兄ちゃんが強くっても、手負いの状態でそれは無茶だよ!!!」


「その通りですエドワード様! ここは万全を期するべきです!」



 二人はそう言ってエドワードに詰め寄るが、その間もエドワードの視線は顔すら見えない目の前の黒衣の男へと向いていた。

 黒いフードに隠されて顔は全く見えず、その表情は伺えない。だが、しかし。なぜか、なぜなのか――――黄金色に輝く双眸だけは、まるで別の生き物のようにフードの奥をうごめいており、この暗闇の中でもハッキリと見て取れた。

 なぜ男はエドワードの背を貫いた後に追撃をしなかったのか。なぜ男は今も動かず、ろくに言葉を口にしないのか。

 謎は多いが、エドワードの勘が告げていた。この男は――――危険である、と。



「彼の目的は間違いなく私一人だ。私がここに残れば、彼が学園へ向かうことはない。それに、まだ賊はかなりの数を残している。新たな増援の到着も近い。彼以外にも上手く魔力を測れない存在が数人いるから、真に万全を期するためにも、君たちには学園へと行ってもらい、防衛に徹してほしいんだ」



 エドワードの半ば哀願するような言葉にこれ以上言っても無駄だと感じたのか、二人は表情を引き締めると再び対峙するエドワードと黒フードの男に背を向け、学園の方を向く。



「お兄ちゃん。わたしは心配なんてしてないんだからね。いつもみたいに飄々とした顔で勝ってきたよって言いに来て。約束だよ?」


「約束するよ。そして、私は約束は守る男だ」


「エドワード様……ご武運を」


「そちらもね、エロリア」



 そして、その場には二人の男だけが残された。



 ※ ※ ※



「チッ……、感づかれたか」



 舌打ちをする男。他の賊とは実力の次元が違う自分を含めた四人で東西南北から避難民と、そして標的であるハートレスと呼ばれる存在が集う村立ヴィタエ学園を奇襲し、避難民を人質として捕らえて生じるであろう混乱に乗じてハートレスをできるだけ多く始末する。

 そんなシンプルではあるが効果的な策は、正門前を担当した男が何者かと相対したのか歩を止めたことで減速し、そして。



「まぁ、そういうことじゃ。遠慮するな、ゆっくりしていくがよいぞ」



 空中だ。自分が今立っているのは、人では決して降り立つことのできぬ、踏みしめることのできぬ空の中のはずなのだ。

 それだというのに、今自分の目の前には自分と同じ高さに、一人の少女が立っていた。いや、見た目を考えればむしろ幼女と言った方が正しいか。

 だが、その言葉遣いと、超然たる雰囲気。そして抑えていてもなお無限であるかのように絶えず溢れてくる強大な真紅色の魔力が、赤髪の幼女が見た目通りの存在でないことを如実に示していた。



「……何モンだテメエ。オレのターゲットはハートレスだけで、見たところハートレスじゃねえテメエは要らねえんだがな。それとも、殊勝にも人質志願かよ?」



 黒髪金眼の大柄な青年がガシガシと頭をかきながらイライラしたような声で問う。

 すると赤髪の幼女はとても普通の幼女にはかもし出せないような妖艶な笑みを浮かべ、口を開いた。



「あまり戯けるなよ、小僧。そして安心せよ。貴様が考える策は成らぬし、貴様はこの地から生きて帰ることも叶わぬわ。その金の瞳、そしてハートレスという言葉をなぜ知っているのかをわらわに話したのち、ゆるりと地獄に堕ちるがいい」


「それのどこをどう安心しろってんだよ……ロリババアがよォ!!!」



 赤髪の幼女―――ティフォンの挑発に乗ったのか、それともこの程度の妨害は予想の範囲内だったのか。

 黒髪の男は何もない空間から大斧を取り出すと猛烈な勢いでそれをティフォンへと叩き付ける。しかし、渾身の一撃も相手には届かない。



「余裕のなさが顔にまで出ておるぞ? 大斧による初撃をわらわのような童女に素手で受け止められたのがそんなに想定外だったか? 小僧」


「うるっせえ!!!」



 村立ヴィタエ学園の西、上空で真紅と漆黒が交錯する。



 ※ ※ ※



「さっきまでの雑魚どもに比べりゃちったぁ長く楽しめたかな。ま、俺に挑んだのが運の尽きだと思って諦めて眠れ」


「何も知らない人が聞けば悪役のセリフですよねそれ………まぁ、この人が敵である以上同情はできませんけど」



 ゼグバとテツヤは突如北から襲ってきた刺客を相手取り、そして勝利していた。

 と言っても、テツヤはほとんど見ているだけで実際相手をしていたのはゼグバなのだが。



「…………愚か者どもめ」



 しかし、ゼグバに打ち倒された白髪白眼の男は倒れ伏したまま不敵に笑う。絶体絶命の危機に瀕しているというのに、そんなものは関係ないとばかりに、笑う。



「そりゃこっちのセリフだっての。このゼグバ様に挑むなら最低でも向こう三百年は死ぬ気で修練を積むんだったな」


「不要だ。どうせ貴様らは、ここで死ぬ」


「あ?」



 ゼグバが男の言葉を聞き返すと、男は隠し持っていた短剣を取り出し、ふいに立ち上がり、そして――――。



「背教の徒よ! 悪逆の輩よ! 今宵が貴様らの最後の夜となる! さぁ――――殉教せよ!!!」



 呪いの篭もった声。重々しい、命を消費して放たれた声。

 白髪白眼の男は大声でそう言った後、そのまま短剣を自分の喉に思い切り突き刺し、呆気なさすぎるほど呆気なく、息絶えた。

 物言わぬしかばねと化した男の喉から、恐ろしい量の血が噴き出るところを嫌そうな目で見ながら、テツヤは首をかしげる。



「え、えぇ……今のは一体……? 辞世の句にしてはえらく怪しげなオーラ出てましたけど」



 突然の超展開について行けず混乱しているテツヤ。しかし、彼の隣にいるのは南のアウギ大陸はおろか、北のグランゼ大陸ですら冒険者なら知らぬ者など一人もいないほどの生ける伝説。

 きっとあの意味深でフラグじみた男の捨て台詞も今までの経験を用いて解説してくれるはず! そんな期待を胸にゼグバの方を見たテツヤに、ゼグバは彼の敵からすればこの上なく恐ろしく、彼の味方からすればこの上なく頼り甲斐のある獰猛な笑みを浮かべて言い切った。







「サッパリわかんねえ!!!」


「ですよねチクショウ!!!」



 ゼグバ・ローダー。最強と呼ばれた冒険者。欠点を挙げるとすれば、攻撃以外の魔法に関して疎い部分が多いというところだろう。



 ※ ※ ※



「異変はっけーん!」


「ん。いっせいに撃破、する」



 村立ヴィタエ学園の校舎上空を浮かぶ二人の可憐な少女は、ゼグバとテツヤが胡散臭い白髪の男を排除した後、突如としてヴィタエ村の各地に出現した無数の異形の魔物を発見した。

 ティフォンに、ここから全体を見回して何か異常なことや異変があったら対処しておくようにの、と言い含められていた双子の美少女は、正門はおろか四方八方、しまいには上空や地中からも次々と沸いて出てくる魔物に目を向ける。



「らくしょーだよね!」


「ん。問題なし」



 そんな言葉と共に二人の少女が可憐な手を頭上にかざすと、手元にそれぞれ意匠の異なった白黒の長杖が現れた。

 そして、二人の少女の周囲から目に見えるレベルの濃厚かつ膨大な魔力の嵐が発生し、ついで二人の姿が――――より正確に言えば、丸かった耳が、変わった。



「よーし、一気に全部やっちゃおー!」


「ん。生半可なハイエルフには真似のできない大魔法、見せるとき」



 人間というには少々尖りすぎた両耳。現在のエメト=ギアにおいては知恵を持ち、言葉を話し、心を有する生物は人間しかいない。それは北のグランゼ大陸や南のアウギ大陸はおろか、この中央の乖離大陸すら同じことなのである。

 そんな中、まるで空想上において語られるエルフのような外見をした二人の少女が、空中からヴィタエ村を支配する。



 ※ ※ ※



「ゲハハハハハハ! いいぜぇ! いい女を見つけちまった! さすがはグランガ山賊団の頭、グランガ様の超強運ってところかぁ!?」



 エロリアと共に学園へと帰還。リムとアレクを親御へと預けてからそれぞれ単独行動に移ったリーゼロッテ。

 東から何者かが侵入したことを感じ取った彼女はそこまで一息に移動して侵入者を発見。その力を一瞬で測り、そして盛大にため息をついた。



「これわざわざわたしが出る必要なかったんじゃないかなぁ。まったく、マスターの、お兄ちゃんのばか」


「あん? マスだぁ? んな魚よりイイもん食わせてやるからよ。早くこっちに……ゲェ?」



 いつの間にか目の前に立っていた、今まで無数の美女を目にしてきたグランガからしてもこれ以上の女はいないと断言できる美貌を誇る瑠璃髪真紅眼の少女は、今回の襲撃の主犯格であるグランガ山賊団の長・『豪腕』グランガと相対したと言うのにほとんど動きがなかった。

 さては、俺様が怖いのか? そう思ったグランガ。しかし、それは全くの勘違いであった。



 いつの間にか、まだ相手の少女は何の動きも見せていなかったにも関わらず、グランガの視界は、縦に真っ二つにと割れていた。

 割れてから、意識が死に没するまでの刹那の間、グランガは最後の力を振り絞ってもう一度目の前に立つ魔貌の少女の姿を目に焼き付ける。やはり、正門の方を心配そうに見つめるだけで、一切動いていない。しかし、周りには自分と少女以外、誰もいなかった。ならば、なぜ?


 ―――――なぜ、自分は死んだのだ?

 死の寸前、一瞬が永遠にも感じられる刹那、ようやく動きを見せた少女の発した言葉こそが、今まで散々エヴン王国北部を中心に好き放題してきたグランガ山賊団の頭・グランガの呆気なさすぎる死を飾る。



「控えなさい下郎。わたしは今、お兄ちゃんのことを考えるので頭が一杯なの。そうでなくとも男が嫌いなわたしに対して看過できないその態度。万死に値すると知りなさい」



 グランガは最後にそんな言葉を耳にし、そして何の成果も挙げられないまま呆気なく死んだ。最後に目にした少女の目は、おおよそ人間に向けるそれではない。もっと冷たく、凍えるほど冷たい、そんな絶対零度の視線だった。



 ※ ※ ※



「むう……お兄ちゃんめ。それにしても、ティフォンの相手はともかく、他はわたしが直々に相手をするまでもない程度だなぁ。へっぽこテツヤ一人でもなんとかなったんじゃない? これ」



 今しがた滅ぼした相手のことなど既に思考の隅にも置かず、そんな独り言を呟きながら、それでも愛される義妹として義兄の気持ちをしっかりと理解してあげたいリーゼロッテは今すぐエドワードの元へ行きたい衝動を抑え、たった今怒涛の勢いで現れ始めた魔物の集団に目を向ける。

 そして、即座にこの戦いの後にマスターに褒められるにはどうすればいいのかを脳内シミュレートし、次に取るべき行動を決定したのはグランガが呆気なく死亡してから十秒後。



「地上に沸いてきた奴らを相手に殲滅戦をするにもゴシックとロリータ相手じゃ分が悪いし。うーん……あ! 地面の下で卑しくもこっちの隙を伺ってる小賢しい奴らを一掃すればお兄ちゃん褒めてくれるかも? いや、絶対褒めてくれるよね! よーし、それじゃ早速行ってみよー!」



 エドワードに褒められているところを想像したのか元々可愛らしさのすぎる顔を一層綻ばせながらリーゼロッテは一度地面を右足で強く踏みしめると、その姿をにゅるんと地中へ沈めていった。

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