エピローグⅠ
「………ここに呼ばれた理由はわかっているか?」
広間。時間すら認識できない、天の光届かぬ場に、九人の男女が集っている。
巨大な円卓。中心だけが青白く輝き、その光が円卓を囲む九人の顔を薄く照らし上げる。
「うっせえなァ。しつけえぞ、騎士さんよ」
「貴君と十八番殿、二十番殿の浅慮は、我々の存在を敵へと露呈させた。これは、決して小さくはない失態だ」
その部屋に最後に入ってきた黒髪の男が心底面倒そうに頭を掻く。
そんな彼の行動と言動から全く反省の色が見出せなかったのか、しかしそれでも感情を全く表に出すことなく、全身を兜と鎧で包んだ騎士は声を上げる。
「主は確かに言ったはずだ。敵は手強く、浅い考えでどうにかなる相手ではないと。それなのになぜ貴君は十八番殿と二十番殿を誘い、山賊などという下賤の者と手を組んでまであの村を攻めた?」
「アホっすよねー。脳筋だ脳筋だとは思ってましたけど、そんなからっぽな頭で生きてて恥ずかしくないんすか? あ、もしかして脳と一緒に恥という感情までどっかに落としてきちゃいました?」
「相変わらずうだうだとうっせぇなテメエは………」
騎士の追及に便乗したのは年若い緑髪の少女。失態を犯した黒髪の青年を煽り立て、そういったことに耐性の低い黒髪の青年は瞬く間に激情をあらわにする。
九人もいるというのに、声を上げているのはたったの三人。あまりにも静か、あまりにも異質な場が、そこにあった。
※ ※ ※
「独断専行の結果、十八番さんが消えて十四番と二十番は無様に敗走っすかー。ま、元から期待なんてしてなかったんすけどねぇ」
十四番と呼ばれた黒髪の男はそんな彼女の言葉に額に青筋を走らせることによって反応を返す。
しかしそんなことは威嚇の意味すら呈していないのか、少女の口は止まらない。
「いやぁお見事っす。勝手に出て行ったと思ったら死にかけの身体で帰還するお二方。治療術に長けた十九番さんがいなかったら今頃二人ともジブンのコレクションの仲間入りだったところっすよ?」
「誰がテメエなんぞの操り人形になるか! クソッタレ不気味女が!」
「こんな超弩級の美少女を捕まえて不気味女とはいただけないっすねー。ま、ジブンは一途な女なので、あの人以外にどう見られようが全く気にならないんすけどー」
どちらかと言えば幼げな容姿だというのに色気をかもし出すようなポーズを取りながら、緑髪の少女は遥か彼方を見るようにとある方向へ視線を移す。
その方向、その先に、騎士の言っていた九人の敵がいるのだ。
「主の言葉によれば、敵は既に襲撃の対策を講じているとのことだ。これによって、かの村で戦闘するメリットだった住人たちという手札は消え去った。
この失敗を洗い流すには、相応の成果が必要だ。十四番殿、二十番殿、申し開きはあるだろうか?」
「………チッ。ねえよ、今のところはな。俺が相手したロリババアが敵ン中でどの程度の立ち位置にいるのかは知らねえが、今のままじゃ切り札ほとんど使い果たしてようやく殺せるって程度だ。あの村を攻める日まで、残った時間はこいつの仕上げに使いてえからとっととこのくだらねえ集まりを終えろ」
そう言って黒髪の青年は背に負った黄金の大斧の柄を握る。あの夜襲から一週間。受けた屈辱をバネに、青年は休みなどない死ぬほどの訓練を自らに課してきた。
自分たちの上に立つ存在に直接手渡された得物の大斧はあの夜のそれから色を、質を変え、鍛錬の成果もあって青年の実力を別次元のものとしている。
そもそもとして才能は十二分にあった努力嫌いの青年なのだ。そんな彼が自身の力の向上に努めた結果が、今の彼を構成している。
「負け犬……いや、十四番さんの場合は負け狼っすかね。ともかく、負け組の癖に偉く自信満々っすけど、ぶっちゃけ今のあなたじゃハートレスたちはおろかジブンにすら勝てないっすよ?」
「まだあそこを攻めるまで時間は十分あんだろうが。それまでにテメエなんぞ十秒でひき肉にできるぐらいには強くなってやらぁ」
「―――――しかし、決して油断はするな」
そこで口を開いたのは黒いフードに全身を包んだ男。暗く、重く、それでいて万人が聞き逃さない声色で、男は語る。
「奴らの練度は想定を遥かに上回る。俺が相手にした男――――『万才』の実力は本物だ」
「んだよ。そんなにヤバかったのか? ま、お前があんな血まみれになったのなんて見たことなかったからぬりい相手じゃないのはわかってたけどよ」
そう問う黒髪の青年に対し、黒フードの男は頷いた。
「危険だ。主がなぜこのことを伝えなかったのかはわからないが………あの男は、単身においてもなお危険度Sは下らない。底知れない相手だ」
「トーゼンっすよ。ジブンのセンパイが、二十番さんにやられるはずがありませんしぃ? ま、ある意味幸運でしたと思うっすけどねー。センパイを貰うのはジブンっすから、万が一にも二十番さんがセンパイを手に掛けてたら多分ジブンの矛先は二十番さんに向くことになってたと思うっす」
『万才』に対し浅からぬ感情を抱いている緑髪の少女は高らかに謳う。
「センパイを殺すのも、センパイを奪うのも、ジブンっす。他の奴には渡さない―――――絶対に、渡せない」
緑髪の少女の、かけていたメガネの奥に灯った金色の瞳が妖しげに輝く。
と、ここにきてとうとう四人目が口を開く。
「どうでもいいわ。心底どうでもいい。私は私のやりたいようにやるだけよ」
「だからといっていたずらに規律を乱されるのは困る。先の失敗の二の轍を踏まぬためにも、だ」
「わかってるわ。自由にやらせてもらうけど、積極的に和を乱すような真似はしないわよ」
黒髪の青年と同じような黒髪を長く伸ばした少女が億劫そうにそう言うと、五人目の言葉が広間の中を響き渡る。
「そういえば、キミは大切なものを探しているのだったね。任せてくれ! この僕が必ず見つけ出してみせよう」
「そういうの要らないから」
「なに、気にしないでくれ! 僕たちは仲間じゃないか!!!」
「ウダウダうるせえぞナンパ男。テメエ、十九番が何も言わなくなったからって次は十七番に鞍替えか?」
「僕の愛は等しく全ての女性に捧げられる。もちろん対象にはキミも入っているよ、十二番クン!」
「あんまうるさいと無限蘇生拷問地獄で魂ごと闇に葬り去るっすよ? 十六番」
段々と収拾がつかなくなってきた広間の喧騒によって、眠れる少年が目を覚ます。
「なんだ……このめんどくさいやり取り、まだ続いてたんだ……おやすみ………」
「…………」
先ほどから円卓に突っ伏して眠っていた白髪の少年は再び睡眠へと戻り、その隣に座る黒髪の少女は焦点の合わない目でひたすら宙を見続ける。
会議を主導しようとしつつも集まった面々のあまりに奔放さに手を焼いている騎士の正面に座る黒髪の男は、ただひたすら目を閉じ腕を組んでいるだけ。
「向こうに攻めんのは十日後だったか? 総力戦を挑むならさすがに負けはしねえだろ。十八番が消えちまう結果になったのは俺の落ち度だろうが、そんなもん次の侵攻で手柄立てて洗い流してやらぁ」
「はぁ………そうだな。では各々、十日後の攻撃に向けて身体を休めるなり、準備を進めるなりをしてくれ。私は、自室へ戻り休息を取ろう」
何の進展性もなかった会議が終わり、一人、また一人と順々に暗い広間から姿を眩ませる。
それは彼らにとっての敵――――ヴィタエ村に潜むエドワードら九人の神敵と十四番の男・マサキらが争った夜から一週間後の一幕。
静かに、しかし確実に、終末の時計はその針を進める。その先に何が待っているのかは、まだ――――誰も知らない。
序章CLEAR BONUS!
→ステータス開示
名前:グランガ・バーン
種族:人間
クラス:バーサーカー LV.3
クラス:レンジャー LV.6
筋力:B+
魔力:D
敏捷:C
耐久:A
抗魔:C
技量:A
幸運:C
スキル:騎士の誉れⅡ
守護騎士Ⅰ
堕ちた英雄Ⅱ
山賊王Ⅲ
※ ※ ※
クラス……その者の天性を表す。原則として一人一つだが、稀に二つ三つを兼ねる者がおり、そういった者は俗にダブル、トリプルと呼ばれている。最大レベルは10。
バーサーカー……斧系戦士の上位クラス。斧を使った時に幸運にブーストがかかり、強力な一撃が発生しやすくなる。また、敵対者に威圧感を与えやすい。
レンジャー……弓系戦士の中位クラス。罠の設置・察知に優れる。乱戦時に直感力にブーストがかかる。
スキル……その者の持つ天賦の才。一つ持っているだけでも稀であり、上等とされる。
能力値……EX →測定不能級
SSS→大神級
SS →神級
S →従属神級
A →大英雄級
B →英雄級
C →歴戦級
D →戦士級
E →一般級
F →子供級
騎士の誉れⅡ……国を守護する騎士の矜持。直感力がかなり上昇する。クラスがバーサーカーに変化したことにより劣化している。
守護騎士Ⅰ……何かを守ることに優れた騎士。防衛時に全能力にブーストがかかる。クラスがバーサーカーに変化したことにより劣化している。
堕ちた英雄Ⅱ……悲劇によって闇へと堕ちた英雄の末路。メインクラスを強制的にバーサーカーへと変化させ、正義感や理性の強い人間ほど理性度を下げ、そのぶん狂気度を飛躍的に上昇させる。筋力に高いブーストがかかる。
山賊王Ⅲ……無法者を率いる器。山賊に対してのみ威圧感とカリスマ性が著しく上昇する。




