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おれんじふぁーむ四季折々。~俺と農家の業務日誌~  作者: はなうた
夏のひととき篇:導かれし乙女たち
22/43

3話:とある朝礼風景。



 黒服のオッサンもとい『S・K・E』の従業員、黒部(くろぶ)太郎(たろう)氏が、フェンスに張りついたまま会心のスマイルを向けてくる。

 その姿、まるでス○イダーマン(クモ男)みたいだ……。いや、そのふくよかな体格からして"豚マン"くらいが適当か。


 そんなどーでもいいことを考えていると、黒部氏はフェンスから身を離してこっちへやってきた。


「バイトくん。どうしたんだい? 乙葉家の摘蕾(てきらい)作業は今月の頭に終わったと聴いて(・・・)いたが……」

「……」


 この人の"きく"という言葉には、どこか危ないニオイを感じる……。

 まあそこはあえて触れまい。ロクなことがなさそうだ。

 今回ここに来た経緯を軽く説明しとくか。


「今日は、これから乙葉さんちに行っ……」

「ところでどうだい! 今から『S・K・E』にて面白い恒例行事をするんだが、もしよければ見学に来ないかいッ?」

「っ!?」

「恒例行事とは、つまりは"全体朝礼"なのだが、うちの朝礼はそれはそれは統率のとれたスバラーなものだよ!」


 くっ、このオッサン……。俺が話してる途中だってのに……。

 俺の声をかき消すようにまくし立てる黒豚リーダー。

 あいかわらず調子の狂う人だ……。


「では、こちらへ来たまえ」

「えっ! 強制的に行くことになってる!?」




 ……てなわけで。


 女性陣二人の「面白いものが見られるなら行く」的な意見、それと乙葉家との約束の時間にまだ余裕があるという状況。

 これらを鑑みた結果、俺たちは早乙女さんちの農園にお邪魔することになった。


 キレイに植わった柿の樹には、小ぶりながらも真っ青な柿の実がいくつもなっていた。つい半月前までは蕾だったのに、もうこんなになったのか。


「「リーダー! おはようございまーすッ!!」」


 畑の中腹、開けた場所には黒服集団が整列していた。

 よこ五列、たて四列のキレイな隊列ながらもどこか暑苦しい光景である。


「おう隊員たちよ! 全員揃っているか!」

「あとはリーダーだけです!」「また寝坊ですかリーダー!」「今週七回目の遅刻ですよ!」「最近たるんでますよリーダー!」「勤務態度もお腹もたるんでますリーダー!」「このままだと次期リーダーの座はボクが頂きますよ!」


 黒部氏の言葉に敬礼しながらも、隊員たちから次々と言葉が投げかけられる。

 てかほとんど不満と批判じゃないか! 公に謀反を企ててるヤツもいやがる……!


 そんな部下たちの不満を一身に浴びた、今週オール遅刻疑惑の黒部氏。

 彼は静かに目を閉じたあと、すぐにその目をクワッと見開き、


「ええい! 黙らんか愚民どもッ! 僕はリーダーだ! 寝坊がなんだ! 遅刻がなんだッ! 僕はリーダーだぞぉぉッ!」


 全力で開き直っていた。

 こ、この人……、まるでリーダーの器じゃねぇ……!


「……なあ、草太。このおっちゃんらって知り合いなのか? なんだかヲタ臭がハンパないんだけど……」


 隣で姉ちゃんもドン引いている。てか全国のヲタのみなさんに謝らんか。

 保科も一言も発さずほうっと黒豚軍団を眺めていた。

 この図……女性陣にはちとキツイものがあるのか。


「とにかく! 今から朝礼を始めるッ!! まずは点呼! 番号ー!」


 若干強引だが、どうにか朝礼とやらが始まるらしい。


「いちッ!」

「にッ!」

「「さんッ……」」

「……おい、ボクが三だろう?」

「いやいや、我が輩が三でござる」

「なんでだ! ボクが三番目にいるんだからボクに決まってるだろうッ!」

「いやいや、我が輩が三番目にタイムカードを押したので我が輩が三番目にござるッ!」

「……」


 ノッケからトラブル発生。


「おい貴様ら! 今日は客人もいるんだぞッ! しっかりしろッ! この際二人とも三にしておけッ!」

「「へへ~い……。んじゃ……さん」」「よーん」「ごー」……。


 ……おいおい、それでいいのかよ……。

 すごいグダグダなんだが、大丈夫なのかこの集団。


 だが、リーダーはまだまだめげてはいないようだ。


「では次に唱和だ! 僕に続け! 今日も玲さんはーッ!」

「「べっぴんさんーッ!!」」

「今日も今日とて彼女と農園を守るためにーッ!」

「「退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬーッ!」」

「我らが『S・K・E』はーッ!」

「「愛こそ正義ーッ!!」」「愛などいらぬーッ!!」

「……おい、誰だ! 今間違ったやつは! ここは"愛こそ正義"だろ!?」

「き、昨日……合コンで「キモい」って言われたんっす……。こんなに辛いなら……こんなに悲しいなら……、愛などいりませぬーッ!!」

「……っ! ば、バッカやろうお前ッ! 玲たんファンクラブともあろう者が合コンなぞ行きおって! しかもいつのまに! 僕も参加させろぉぉーッ!」

「愛などいりませぬーッ!」「僕も合コン呼べぇぇッ!!」「オレも!」「我が輩も呼ぶでござるッ!!」「ボクにも良い子紹介しろーッ!」「結婚したいぃぃッ!」


 そして再び始まるカオス劇場。


 なんてこった……。

 統率がどうとか言っておきながら、これでもかというくらいバラッバラじゃないか……。

 チームワークもへったくれもあったもんじゃない。


「お前らぁぁぁ――――ッ! まぁたサボっとんのかぁぁぁぁ――ッ!!」

「「ト……トリコさんだ……!!」」「トリコさんが来たぞ……!」「こ、コロサレル……」「「ごめんなさ~~いぃぃッ!!」」



 結局、この黒豚軍団の暴走は、作業の手を止めてやってきたトリコさんの制裁が加えられるまで続いた――。



 * * *



「……なんか、どっと疲れた……」


 見学(?)を終えて、車のある場所まで戻る俺たち三人。

 俺はいったい、なにしにここに来たんだろう……。


「なんか……農業って大変そうだな」

「たしかにそうかもしれんが、あの人らは農業とは別ジャンルだからな?」


 姉ちゃんなぞ、危うく農業というものを誤解しそうになってるし……。


「先輩……。農家って、カッコいいっすね……!」

「今のでどこからそんな結論が出たッ!?」


 保科には多大なる悪影響が及んでしまっていた。


 あの黒服軍団のどこにカッコいい要素があったというのか……。





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