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おれんじふぁーむ四季折々。~俺と農家の業務日誌~  作者: はなうた
夏のひととき篇:導かれし乙女たち
21/43

2話:柿の山みてふるさとを思う。




 ――めつみ分のお給金を渡したい。



 由愛さんから送られてきたのは、その旨のメッセージだった。


 はじめは由愛さんがこちらに来るといっていたのだが、彼女は俺の住むアパートの所在地を知らないだろう。

 そこで、乙葉家の場所を知る俺の方から出向くということで話がついた。



 そして、今日は日曜日。

 のどかに晴れた午前九時。

 俺は約半月ぶりに『乙葉おれんじふぁーむ』へ向かっている。


「毎日小さい文字ばっかり見てるから、こういう田舎道は癒やされるなぁ~」


 仕事が休みで暇だというので、姉ちゃんも同行している。

 しかも運転手まで買って出てくれた。


「アタシー、いのししー♪ 食しー、ショック死ー♪」


 大学が休みだというので、保科も同行している。

 今は後部座席にて、遠出を喜ぶ犬っころのように嬉しそうな顔をしている。


「……て、なんでお前がついてきてんだ」

「へ?」


 いくら大学が休みだからといっても、乙葉家とはなんの関係もない保科がついてくる意味が全くわからない。てかなんだその物騒な唄は。


「いやぁ……実は、話せば長くならないっすが……」

「長くないのかよ」


 無駄な前置きしおってからに……。


「アタシ、真相を確かめたくて」

「真相?」

「そうっす。アタシが見る限り、ここ最近の先輩の様子が変わっていたっす。以前よりも明るい、というか、生々しているように見えて……」

「それをいうならたぶん"生き生き"だろ」


 生々って……。人を生ものみたいにいうんじゃねーよ。

 ほんとに大学入試を突破したのかコイツ……。


「大学生活をハツラツと過ごしたいアタシとしては、この短期間のうちにどうやって先輩が変身を遂げたのか……その謎を追究しなくてはと思ったんっす……!」

「なるほどな。で、なんでこんなところまでついてきたんだ?」

「それは、先輩がこれから向かう先になにかキッカケがあったのではと……アタシの第六感が告げるのっす」


 第六感とはまた……。


「む、疑わしい目っすね……。マジっすよ? それはもう、肋骨あたりがズキズキ、チクチクっとするっす!」

「それ肋間(ろっかん)神経痛とちがうんか?」

「草太ー、そろそろ畑に出るぞー」


 そんなこんなで、いつのまにか外の景色は山林から一面の畑に移り変わっていた。

 夏らしく雲がもくもくと高く積み上がっているも、その他はさして以前と変わらず。

 半月前は白い花が咲いていたが、今はすでに落ちたのか、再び山肌は緑の絨毯に敷き詰められている。……少しその緑が濃くなってる気がしないでもない。


「おお~、ここが柿畑……。どこか我が故郷を思い出させるっす」

「そういえば、保科も田舎育ちだっていってたな」


 窓に手をあてて、保科はうっとりと景色を眺めている。

 その表情は驚きだけでなく、どこか憂いを帯びて見えた。

 ……まあ、保科の動機はどうあれ、道中退屈はしなかったし、良かったといえば良かったのかな。


 保科に倣って窓の外に視線をやる。


 久々の柿畑の景観。

 等間隔に並ぶ柿の樹。

 遠く、『S・K・E』の大倉庫がどどんと鎮座している。


 ほんの少しの期間お手伝いに来ていただけなのに、保科だけでなく俺までも、まるで帰郷したかのような、どこかノスタルジックな気持ちになった。


「やっぱり、良い場所だよなぁ……」


 まったく不思議なところだ。

 ひょんに足を踏み入れただけで、つい先日まで抱いていた鬱屈した気分が面白いように霧散してしまっていた。

 かわりに清々しさが胸の内で踊っている。


「やっぱり、良い景色だなぁ……」


 運転する姉ちゃんも俺と似たような感想を漏らす。


 ……が、その次の発言は俺の予想を大いに裏切っていた。



「ところで、あのフェンスにへばりついてるオッサンはなんだ?」



 思わず車を停めた姉ちゃん。

 その指さす先……ちょうど『S・K・E』と『乙葉おれんじふぁーむ』の境目あたりのフェンスに、黒い服のおっさんが張りついていたのだ。


「……む? 君は、『乙葉おれんじふぁーむ』のバイト君ではないか?」


 そして早々に発見されてしまった……。





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