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猫のような彼女

 物凄く遅ればせながら、2/22の猫の日SSです。

 時系列としては、灰かぶりの不純物十一話直後に当たります。

 事後のイチャイチャにかこつけ、亭主関白気取ろうとして失敗するシャロンの話です。

 ベッドの掛布で全身を覆いながら、肩に頭を持たれ掛けてきたグレッチェンの短い髪を、シャロンは愛おし気に撫でていた。

 髪を撫でられて気持ちよさそうに目を細める未来の妻は、機嫌良くゴロゴロと喉を鳴らす猫のよう。


(……ふむ、この状態であれば聞き入れてくれるかもしれん……)


 血液の毒販売以外でも、シャロンはグレッチェンにできれば辞めて欲しい、と、兼ねてから案じていたことがある。

 折角の甘い雰囲気を壊してしまうかもしれないのは勿体ないが……、シャロンの求婚も毒販売を辞める約束すらもすんなりと受け入れてくれたのだ。

 この機に乗じないでどうするという。


「……そう言えば、私は君にもう一つお願いしたいことがあるんだ」

「……何でしょうか??」


 シャロンは軽く咳払いをした後、こう告げた。



「きちんと食事を摂った上で間食として菓子を食べるのは構わないが、食事代わりに菓子を食べるのは止めなさい」

「…………」


 グレッチェンの表情は見る見るうちに強張っていく。


「気付いていないと思っていただろう??君が店に入る前に立ち寄った市場や広場の屋台でマフィンやクッキーを買って腹ごしらえしていることくらい、知っている」

「……い、いつもしている訳では……」

「でも、週の大半はそうしているだろう??」

「……よ、夜はちゃんと自炊したものを食べてますが……」

「夜だけまともな食事を摂っていてもねぇ……」


 グレッチェンはシャロンの身体から身を離すと、拗ねたような表情で睨み上げてきた。


「……お言葉ですが、シャロンさんだって食事を摂る代わりにお酒ばかり飲んでいるじゃありませんか……。幸い、アルコール依存症に陥ってはいませんけど、私以上に不健康な食生活送ってますよね??ご自分を棚に上げて、私のことばかりをとやかく言うのは止めて下さい」

「…………」


 返す言葉が見つからないシャロンを、グレッチェンは「本当に仕方のない方ですね……」と、いっそ憐憫混じりの視線を送り付けてくる。


「……でも……」

「……??……」


 再び、グレッチェンはシャロンの肩に頭を持たれ掛けさせてくる。


「私が貴方の妻になったら栄養管理の行き届いた食事を毎日きちんと作りますし、それに倣って私も一緒に席に着いて食べますから、これで互いの問題は解決すると思うのですけど」

「……そうだな……」

「なので、口にするだけ不毛な話だと思いませんか??」

「…………」


 どうも上手く丸め込まれたような気がしてならないが、グレッチェンの言う通りなのは間違いない。


(……いやはや、本当に彼女には敵わないなぁ……)


 ようやく身も心も完全に手に入れた筈なのに、気を抜くとするりと腕の中から離れ、そっぽを向いてしまう。

 そうかと思えば、控えめとはいえ不意打ちで甘えてくる。

 気高く、ツンとすましたシャム猫のような彼女に一生翻弄され続けるのも悪くはない、などと思いつつ、グレッチェンの髪を再び撫でたのであった。

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