第十一話
――数時間後――
グレッチェンはベッド脇に腰掛けている。
全身を覆い隠すようにして掛布を頭からすっぽりと被り、ベッドの上にいるシャロンに思い切り背中を向けながら。
「おーい、アッシュ。いい加減、機嫌を直してくれないかね??」
「…………」
「分かった。機嫌はそのままでもいいから、掛布だけでも返しておくれ」
「…………」
まいったなぁ、と、シャロンは苦笑を浮かべて頬を指でポリポリと掻いた。
掛布を奪われた以上裸でいる訳にはいかないので、とりあえずズボンを履いて素肌の上にガウンを羽織ってはいるが、初冬の時期にその格好では寒くて仕方ないのだ。
殴られるかもしれないが寒いよりはマシ、と覚悟を決めたシャロンは、ほっかむり姿のグレッチェンの背中に抱き付く。
「アッシュ、私のことが嫌いになったのか??」
掛布をグレッチェンの頭から取り外しながら、シャロンは切なそうに話し掛ける。
すると、グレッチェンは俯いたまま、首を横に振る。
「それならいいが……」
「……嫌いになんて、なる訳ないじゃないですか……。むしろ……」
言いかけたものの、グレッチェンはすぐに顔をぷいと背けてしまった。
「むしろ何だね??途中まで言いかけたなら、最後まで言いたまえ」
分かっている癖に、と面白がっているのが見て取れるシャロンに腹を立てつつ、耳元に唇を寄せて言葉を続けた。
「私も君と同じだよ、アッシュ」
今度は優しく微笑みながら、シャロンは告げる。
「世間から見れば、君は恐ろしい魔女に成り得る存在かもしれないが、私には愛おしいばかりの可愛い女性だ」
「……また恥ずかしい台詞を……」
「順番は違ってしまったが、私の妻になっておくれ」
グレッチェンは吃驚して、シャロンの顔を見つめたまま固まってしまった。
「……私の、この身体では……、子を持つことは望めませんよ……」
「そんなことは承知の上だよ。それよりも君はどうなんだ……」
今度はシャロンがぎょっとなる番だった。
グレッチェンの淡いグレーの瞳から頬に掛けて、一筋の涙が伝っていたからだ。
「……私、いいのかなぁ……。こんな私が幸せになっても、許されるのかなぁ……」
シャロンは、グレッチェンの涙を指先でそっと払いのける。
「罪を犯した私達には地獄行きが決まっている。だったら、生きている間くらいは幸せでいたっていいじゃないか」
幸せになるために生まれてきた筈なのに、誰からの愛情を得られなかった一人の少女。
彼女の身体を治すことよりも、ありのままの彼女を愛し、幸せにすることが自分に与えられた本当の使命だった、とようやく気付いたから言ったまでだ。
例え、神が許さなかったとしても別に構わないーー。
再びグレッチェンの方を見てみると、彼女はもう泣いていなかった。
そして、返事をする代わりにシャロンの肩に頭を持たれ掛けさせてきたのだった。




