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いち

中沢弘樹の誕生日です。








視力と私利欲











今日は、いつも通りの日だ。

少し違うのはアキトと遊ぶ事と明日が俺の誕生日だということくらいだ。

正直俺にとって自分に関する出来事はどうでもいい。

だからカレンダーに乱雑な字で書かれている「ヒロキの誕生日」という文字を目にするまで気づかなかった。


毎年アカラギはケーキを買ってきてくれる。

コンビニで買ってきたような安っぽくて、食べてもなんとなく乾いた味のするケーキ。

でも、それがとても嬉しい。

…今年はアカラギがいない。

なんという悲劇か、アカラギは大学の研修で三日間いないのだ。


つまり、今年は一人。


…久しぶりの一人。



アキトはそもそも俺の誕生日を知らないし、言っても迷惑なだけだし…。


「ヒロキ!」


なんて考え事をしているとアキトの声が聞こえた。

周りを見渡すが特に見当たらない。

というかボヤけて誰が誰だかわからない。


「…え?」


「ヒロキ!」


なおも遠くから聞こえる。

声がだんだん近づいてきて、有る程度くる方向もわかってるのに全く見えない。


「……あ!!」


目を凝らしに凝らした所で焦点がだんだんあい、結構前にいるアキトが見えた。


「…アキト、おはよう!」


何事もなかったかのように笑顔で挨拶をする。

頬がつってるような気がするのを抑えてなんとか挨拶し終えた。


「おはようじゃない、マジでお前視力悪いな。」


視力が悪いのは知っていたが最近もっと酷くなっている。

メガネは今が買い時かもしれない。


「はは、メガネ買わなきゃ〜」


アカラギはメガネは目を悪くするだけだからいらないって言うんだよなあ…


「でもさ、メガネって視力悪くなるんでしょ?」


アキトは俺の右髪をかき分けた。

いつもこの右の長い髪がいらない、と言われる。


「そうだとしても、これじゃあ高校入ったら黒板すら見えない。」


俺の目はアキトをまっすぐに見る。

最初は目を見ることの前に身体をアキトに向けることすら怖かった。

これは、アキトに慣れた証拠。


「そうだね…来年までには買わなきゃ」


来年、高校に行けるかもわからないのに来年こそと言ってくれるアキトが好きだ。

最高の友達だと思う。

そのまま髪をわしゃわしゃとされ手をはなされた。


「よし、今日は駅に行ってゲーセンでぬいぐるみとるぞ!!!」


ゲーセン、ゲーセンはこの前初めて一度行ったきりだ。

その時はアキトがユーフォーキャッチャーに張り切ってお金が飛んで行ったっけ。


「もと取れるといいね〜」


「もとが取れる確率は十五パーセント!!」


得意げに言うことではない。

俺はつい苦笑いをする。

こうやって友達と楽に話せる。

…本当に、幸せな人生になったものだ。












「いや〜まさかヒロキにあんな才能があるなんてな〜!!」


アキトが見事にユーフォーキャッチャーに金を吸い取られてる中、俺は面白いほど取れてしまった。

欲しかったフィギュアやぬいぐるみが袋の中にかなり入ってる。

アキトがかわいそうなので、半分ずつ二人で分けた。

おれがとった時計を見ながらアキトが口を開いた。


「そういえば今日アカラギいないんだっけ?」


「うん、研修でいないよ。」


なんで知っているんだろう。

アカラギは自分のことはなるべく話さないタイプだし、アキトとアカラギが話してるところもあまり見ない。


「…あのさ、俺友達と一回したかったことがあるんだけど!」


アキトは目を輝かせ始める。


「え…?何?」


まさか、ボディースローでもくるんだろうか。

唾を飲み込み、聞き受ける体制に俺はなった。


「お……お泊まり会…!!!」











家に帰り見慣れたドアの鍵を開ける。

普段アカラギは鍵をかけない人間だから新鮮だ。

真新しい鍵がスルリと入り滑らかにまわった。

ドアを開けアキトに先を譲る。


「お邪魔しまーす」


「やべ、部屋片付けてないかも。」


玄関で適当に靴を脱ぎさっさと家に入っていく。

家に遊びに来ることはあるが、泊まるのは初めてだろう。

アキトはすごく楽しそうだ。

しかしアカラギに言ってないけど大丈夫だろうか。


「そこらへん座ってて〜」


放置していた部屋は窓など開けていなかった為蒸し暑さで満たされている。

すぐさま窓を開け、ぬいぐるみの入った袋をソファに置く。

帰ってきたらアカラギ、びっくりするだろうな。

…ところで何をすればいいのだろう。

泊まるんだから何かいつもと違うことをやった方が良いのでは…?

…ゲームか?

でもゲームで一日って俺とアカラギくらいじゃん…

普通がわからない事に冷や汗が流れてきた。


「ヒロキ!」


アキトが呼んでくる。

動揺をかくし笑顔を見せる。


「何?」


「特に何もする必要はないよ、…そうだ、今日は出前でも頼もうか?」


アキトはニッコリと微笑んでみせる。

…ああ、アキト俺が困ってるのわかってたのか。


「うん、寿司でも頼んじゃう?」


「いいな!!金ならアカラギに…おっと。」


「あはは、それで決まりだね!!」


不安や緊張は何事もなかったかのように消えていく。

アキトは本当に、最高の親友だ。

全然怖くなんかなくて、とっても優しい、親友。


「そういえば、ハルトに言わなくて大丈夫なの?」


「兄ちゃんはいいよ、寧ろアイツの方がたまに一日いないし!」


なんて不健康な家庭…ということは言わないでおこう、これで頭が良いのが本当に悔しい。


「一応言っておきなよ〜」


アキトが思ってる以上にハルトは心配性だ。

「アイツ、最近元気ないけどどうしたか聞いてくれる?」とか言ってきたりする。

カナに恋してる事はさすがに言えなかったけど。


「うん、OKだって。」


アキトはいつのまにかソファに寝転がり完全にリラックスしている。

明日誕生日って言っても特にアキトには何も起こらないから、言わない方がいいのではないだろうか。

俺もソファに座る。

今日取った中でも一番お好みのウサギが血を吐いたぬいぐるみを手にし、そのまま抱きしめる。

手触り感といい、可愛さといい、完璧である。


「ヒロキってそうゆうの好きだよな〜」


「そうだね。」


「パーカーとかも何処から見つけてくんだよ、クマさん血吐いてるし。」


俺の着る物は大体今日取ったぬいぐるみのメーカーだ。

この血を吐いて狂った感じがとってもチャーミング。


「これ、元々アカラギのだよ?」


「え!?」


驚いた反応をする。

アカラギも同じメーカーが好きなのだ。


「あのアカラギがこうゆうの好きなんて…」


「意外だよね、自分で趣味が悪いとか言っちゃってるけど。」


俺は、気に入ってる。


「親子は似てくるって奴ですかね〜」


「…アカラギは親子じゃないよ」


親子じゃない。

悪魔で他人だ。

始めからアカラギとしか呼んだことがない気がするし。

…他の名前で呼んだら怒りそう。


「もう親子になっちゃえよ〜アカラギは良い父さんになると思うよ?あ、お茶ある?」


そうなりたいのは山々だ。

俺は立ち上がりキッチンへと向かう。

所々アカラギが脱ぎ捨てたであろう靴下が散乱しているのは気にしないことにしよう。


「でも、アカラギに迷惑かけちゃう。」


冷蔵庫に入ってる麦茶を取り出し、コップに注ぐ。

ちょうど良い感じに色がでている。


「はい。」


「サンキュ。」


「あのさヒロキ。考えてみろよ、既に散々迷惑かけてるわけじゃん。それならもうアカラギだって慣れてるんじゃないか?」


アキトは麦茶を一気に飲み干した。

氷がカランと音をたてる。

慣れてる…、今まで我慢してきたということではないか。

それならアカラギからはなれて自由な人生を生きて欲しい。


「第一、アカラギは俺に早く何処かへ行って欲しいとか思ってるかもしれないし。」


いっそ、大学で一人暮らしを始めてしまおうかと思ってるし。

でもアカラギと離れるのが嫌だという我儘な自分がまだ勝ってしまっている。


「こんな人を思える奴を嫌がる父が何処にいるんだよ」


そう言ってアキトは頭を撫でてきた。

アキトは大人だなあ。

…もうちょっと、甘えてもいいんだろうか。

俺にはそれを言う勇気はあるんだろうか。


「うん、ありがと。言う勇気ができたら…言う。」


アカラギとずっと一緒にいたいから。










結局話したりゲームしたりで、あっという間に夜になった。

ふと明日が誕生日だということを思い出す。


「顔も忘れた、家族が産んでくれた日…か。」


本当の家族は今、何をしてるんだろう。

俺の誕生日なんて忘れて楽しい日々を子供と過ごしてるのかな。

…こんなこと考えると、無償に胸に違和感をかんじる。

コインロッカーに捨てられた俺に生きる価値はあるんだろうか。


「ヒロキ!」


ぼーっとしているところにアキトが後ろから寄りかかってきた。


「あと五分だな。」


「…え?」


五分…?

時計を見る。


「アレ三分進んでるよ。」


アカラギは時間を進めて時計を見る癖がある。

家の時計は全部三分早い。

それより、あと二分。

あと二分で日付が変わる。

アキトの言い方が、何故か…


「知ってたの…?」


一度も言った記憶がない。


「知ってる…訳ではなかったけど、アカラギに聞いたから。」


素直にびっくりしてる。

アカラギは本当に隠すのがうまい、悔しい。


「ほら、もう誕生日だ!」


アキトがスマホを出し時計の画面を見せる。

59の数字が、00になった。


「あ…。」


「誕生日おめでとう、ヒロキ!」


笑顔で言ってくれるアキトに俺はほぼ放心状態だ。

友達に誕生日を祝ってもらうのが夢だったのに叶ってしまった。


「あ…ありがとう…」


嬉しくて涙がでてきそうだ。

六月六日と言う文字をただただ眺める。


「誕生日といえば、プレゼントだよな!!」


アキトはカバンを探り始める。

今何が起きているのか本当にわからなくなってきた。

アキトがカバンから出したのは、真っ赤なメガネケース。



「…開けてみて。」


そのまま俺へと手渡される。

ああ、ケース俺の好きなメーカーじゃないか、猫が笑ってる。

アカラギのメガネケースとは違って、新品で固い。

ガチッと音がしてケースが開いた。


「わあ……!!」


赤縁メガネが顔をだした。


「…どう?」


「アキト、これ、アキト…!!!」


感極まってもう何がなんだかわからない。

ただ、そこにはずっと欲しかったメガネがあって、アキトが笑ってる。


「かけてみて!」


言われるがままメガネをかける。

そこからは、透き通った景色が見えた。

…初めて見える世界と、感動で目から何かがこぼれだした。


「嘘!?ヒロキどうしたの!?」


「…アキト…ごめっ…ぐ…ありがと…ありがとう…」


自分でも訳がわからないくらい涙が止まらない。

ただこの涙が悲しみによってうまれたものでは無いことは確かにわかった。


「喜んでくれてよかった…でも泣くほどか〜?」


アキトがティッシュBOXを差し出してくれる。

目を拭こうとしてメガネをかけていたことを忘れてた俺はメガネを拭いてしまった。

アキトの笑いをこらえる声が聞こえる。


「だって…友達にここまでしてくれるなんて初めてで…嬉しくで…」


「…ったく…男なんだからそれくらいで泣くなよな……ヒロキ、誕生日おめでとう。」


アキトは優しく微笑む。

高かっただろうなあ。


…嬉しいなあ。


今の俺はすげーバカな顔なんだろうなあ。


…それでも、いいや。


今だけは、めいいっぱい泣かせて。


…安心させて。


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