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変わり者の物語  作者: あなぐま
第1章 岩のドラゴン
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第5話 旅の行方

 馬車は村に近づくにつれ速度を上げた。

 荷台の僕らからは遠くに煙が見えている。

 街道はとても荒く、今は馬車が壊れそうなほど揺れて、どこかに捕まっていなければ振り落とされそうだった。


「急げ! もっと早く走れんのか!」


 御者が馬に怒鳴り散らし、何度も鞭で打っている。近付くにつれ大きくなる煙を悲痛な顔で見ていた。


 立ち上る黒い煙、トレントを通過した岩のドラゴン、街に現れた岩の怪物。彼の生まれ故郷、目的地であるショーロの村で何が起こったのか、みんな最悪の形の予想がついていた。彼だって同じだろう。それでも決してそれを口には出さず、ただひたすら馬をせかし続ける。


 ドラゴンはトレントの西北西から現れた。それに一足遅れてやってきたのはショーロの村が焼き尽くされ、怪物に今なお襲われているという伝令。街に警戒態勢が敷かれ人々が慌ただしく走る中、中央広場で一人、傭兵を募っていたのが彼だった。


 ショーロ一番の商人、彼の名をディランと言った。前払いでいいから腕に覚えのある者は村の怪物を倒してくれと、必死な顔で片っ端から声をかけていた。迷う僕らはアレクに蹴飛ばされるように馬車に乗った。僕らを含め全部で十数人。馬車はすぐに出発した。


 ショーロはもう目の前だ。

 でも僕は、今更馬車に乗った事を後悔していた。

 最悪の予想はもう確信に変わっている。

 ただ、それを、自分の目で見たくなかった。



***



「やれ! 今すぐだ!」


 ショーロの全様が見えるなりディランが叫んだ。僕らは一斉に馬車から飛び降り、破壊し尽くされた村をばらばらに走り出す。


 目の前に広がる現実は最悪以上だった。村は火の粉と煙で溢れ、視界も碌に利かない。足元で焼け出された遺体が無残に転がっていた。つらい。辺りを見渡す。窓から見える家の中は炎に包まれ、何もかもが燃えている。


 コップ。椅子。服。ベッド。

 誰もいない、誰か、誰か!


「誰か! いないのか! 助けにきたんだ!」


 出来る限り大声で叫んだ。

 返事はない、それもすぐに炎の音でかき消される。


 僕は叫びながら夢中で走った。家という家が残らず潰されていたけど、燃えていてすぐには確認できない。道はあちこちで大きく抉れ、元々どんな村だったのかも分からなかった。


「!」


 急に前の家を突き破って何かが飛び出した。慌てて剣を抜く。続いて壊れた家から人が出てきた。


 生存者じゃない。一緒に来た傭兵の一人だ。草色の長髪に、見上げるような長身の男。武器の一つも持たず、引き千切られた動物の上半身のような物をだらりと掴んでいた。岩の怪物だ。見れば、家から投げ出されたのはその下半身だった。


 でも、トレントで見た怪物と違う。

 四本の脚に尖った耳、怪物は狐の姿をしていた。


 その時、視界の端を他の何かが掠めた。別の怪物だ。見るともう何匹も村を走り回っている。草色の傭兵は上半身を投げ捨てると、僕を無視してそれらを追いかけて煙の中に消えた。無意識に僕もそれを追いかける。


 村の広場。

 そこに追い込まれていたのは一際大きな怪物だった。

 蠍だ、家よりも大きい。


 アレクを含めて何人もの傭兵がそれを取り囲んでいるけど、蠍の体は斬っても叩いてもびくともしない。剣のような脚が振り下ろされれば、受け止めただけで盾まで貫きそうだった。それが両の鋏を含めて全部で十二本。全身が武器のような怪物相手に、ただそこに押さえつけているだけで精一杯のようだった。斬り落とした脚はまだ二本。完全に消耗戦だ。


 広場の端で一人が怪我の手当てを受けている。脇腹から血が滲んでいた。メイルがそこに薬草を押し当てながら包帯を巻いている。


 確かに、あれは蠍の形をしているだけで、ただの岩なのかもしれない。でもそれは怪物の尾に毒が無いって保証には全くならない。一人やられた後だからなのか、尻尾が鋭く突き出される度に傭兵達は距離を取っている。


 マキノが、ゆっくりと手を揚げた。

 静かに、風が強まる。


 村を焼いていた炎の一部が風に巻かれるように吸い上げられ、マキノの周りに流れていく。風は木の葉を巻き上げ、髪を振り乱し、渦巻く炎は勢いを増していく。ゆっくりと両手でそれをかき混ぜると、マキノは蠍に向けて一気に炎を撃ち込んだ。囲まれて逃げられない蠍は鋭く鳴いて身をよじらせるけど、あっという間に火達磨になる。広場周辺の全てを集めた炎は岩の体さえも燃やしていた。


 その隙を見て一人が切り込んだ。蠍はそれを鋏で受け止め、弾き返す。でも遅い。皆がそれを感じ取ったのか、蠍を包む炎をものともせず傭兵達は一斉に斬りかかった。


 突然、背後から悲鳴が聞こえた。

 茫然と皆の戦いを見ていた僕は我に返って振り返る。


 人だ。生きてる。

 

 それに近付いているのは狐の怪物、もうすぐそこだ。とっさに荷物を狐に投げつけた。直前で気付いたのか、狐はそれを避ける。落ちた荷物を一瞥すると、狐は道の角にまで追い詰めた獲物から僕に狙いを変えるとまっすぐ走ってきた。


 剣を抜いてまっすぐ構える。そのまま地面を蹴った。


 僕に剣の腕なんか大してない。一撃で決めるんだ。

 最短距離、このまま貫けば!



***



 ほどなくして、戦いは終わった。

 岩の怪物達は狩り尽くされ、人が集まる。


 でも、村に取り残されていた内、生き残っていたのは十人にも満たなかった。


 広場には全員が集められ、怪我の手当てや仲間の安否を確認している。炎は殆ど消えた。遅れて戻ってきた村人達が協力し合って水や砂でなんとかしたようだ。ドラゴン襲撃前には村の半数が近くの森に逃げていたらしい。でも純粋には喜べない。残りの半数は殆どやられてしまったんだ。


 広場の片隅でディランが泣いていた。彼はちょうど収穫された麦をトレントに売りに来ていて助かったらしい。誰かがその背中をさすっていた。誰を、亡くしたんだろうか。僕は砕かれた蠍に残骸に寄りかかって、呆然と彼らを見ていた。


「おい」


 アレクが声をかけてきた。倒れた狐の口から剣を引き抜いて僕に投げる。体がなぜか動かず、剣は僕の足元にそのまま突き刺さった。


「手放すな。まだ残っているかもしれないだろうが」

「……うん、ごめん」


 そうだ。投げた荷物も取ってこないと。でも、やっぱり体が動かなかった。


 その内、みんなが戻ってきた。治癒の魔法をかけて回っていたマキノに、手伝いのメイルとフィン。助かる人は助けられたんだろう。でも助からなかった人は、いったい何人いたんだろうか。


「ご苦労。どうだった」

「生きて助け出された人達に関しては全員。傭兵達にも死者は出ませんでした」

「蠍の傷はなんとも言えないよ。でも今の所、毒が回っている様子はないと思う」

「辺りをひとっ飛びしてきた。見る限り岩の怪物はもういないみたいだ。どこかに隠れてるかは、知らないけれど」


 アレクの問いに、マキノが、メイルが、フィンが、それぞれ現状を報告する。後はこの村次第、か。傭兵達はもう何人か帰った。報酬は前払いだったんだから当然だ。トレントからの正式な応援も来た。水や食料が広場の皆に配給されている。


 痛々しいその様子を見て、メイルが言う。


「ねえ、あれって何だったと思う?」

「ドラゴンの破片が形を変えたのは、僕らに限らず見た人は多いそうだよ」

「でたらめだろ。猿、狐、蠍、岩ってだけで何種類いたと思ってる」

「蠍を少し調べましたが、既にただの岩に還っていました。これ以上調べた所で、何も出ないでしょうね」


 何も、か。


 僕は折れた短剣を投げ捨てた。出来ないなりに、出来るだけやったと思う。アレクと違って大して倒せもしなかったけど、それでもやった。そして終わった。でもこの広場の様子を見ていると、とてもそんな言葉で済ませていいようには思えなかった。

 

 とても、気持ち悪かった。

 目に映る全てが、僕の記憶をくすぐる。

 何か、何か大事なものが引っかかっているようだった。


「何をやっていたんだお前らは! 一体何人見捨てて生き残った!」

「あの場にいなかったお前に何がわかる! 半分逃げられただけでも奇跡なんだ!」

「畑も焼かれ家も焼かれ、これが奇跡か!」


 ……ドラゴンに、焼かれた。


「ドラゴンはとっくに村を離れていた! なぜ戻らなかった! なぜ……」

「逃げたか、それを責めるのか! お前が!」


 ……村から、森へ逃げ込んだ。

 振り返って見えたのは、空を埋める黒い煙だけだった。


「でなければここまでにはならなかった! お前らが……っ!」



 あの日。


 僕の故郷が灰になった、あの炎の夜。


 僕は一人だった。一人で、故郷を走っていた。

 

 みんなばらばらに逃げていた。最初は何が起こっているか分からなかった。分からない内に家は燃え落ち、人が炎に呑まれ、全てが灰になっていく。それを齎した存在は僕になど見向きもせず、悠々と夜の空に炎の筋を残していた。


 彼等が炎竜と呼ばれていると知ったのは、いつだっただろう。


 その名前に深い意味はない。他にもいくつかの呼び名があり、そのどれもが本当の名ではなかった。ただ炎竜という名が最も単純に彼らを表している。全身から炎が噴き出し、赤く焼けた体はところどころ黒く焦げきっている。山から吐き出された溶岩が、そのまま火口から飛び出してきたような姿だった。

 

 炎竜はこの世に数体しかいないと言う。一国を滅ぼしたという話や時代の節目に現れるという話もある。どれも古い話、時の流れに消えていくほど古い話だ。その彼らが、なぜ僕らの村にやってきたのか。なぜ僕らの故郷を焼き尽くしたのか。その後どこへ消えたのか。何もかもが今でも分からないままだ。


 炎竜が村に舞い降りた夜、辺りは昼のように明るかった。吐き出す炎で、長い尾で、巨大な翼で、あっという間に村は炎の海になった。


 歩き慣れた道を走り、見慣れた家を横切り、辿り着いたそこに僕の家は無かった。かすかに見分けられたのは炎に呑まれる直前の屋根と、崩れる柱、潰れた机。その時村を飛んでいたドラゴンは全部で三体。僕には何をどうすることも出来なかった。


 村の皆が逃げ惑っていたのを覚えている。

 でも、僕はドラゴンを前に動けずにいた。

 細長い首、ゆっくり広がる巨大な翼、そばにいるだけで肌が焼けつくような熱。


 バルサザール。


 今もはっきり覚えている。昔はよく夢に見てその度に飛び起きていた。起きてなお、炎の中から僕を見ていた昏い目がどうしても焼きついて離れない。


 その日、僕は全てを失くした。

 気付けば、彼の姿は消えていた。

 そしてその時、僕は一つの姿を保てなくなっていた。


「やめろ! 人に当たってどうするんだ!」

「うるさい!! さわるな!!」


 僕の故郷はもう無い。でもあそこには父さんがいた。オデオンも、キアランも、それに、サラも。その内どれだけが今も生きているかは分からない。でも、絶対に生きている人がいるはずだ。そう思ってあの場を離れた。そう思って、ずっと旅を続けてきたんだ。


「こんな所で騒ぎでも起こされたら面倒だ! 落ち着くまで追い出せ!」

「死んでしまえ! 貴様ら皆!」

「ディラン! もうやめろ! こっちへ来るんだ!」


 向こうではトレントから来た兵士が、瓦礫の下にまだ生存者はいないかと絶望的な作業を続けていた。でも彼らの顔にあるのは諦めだった。ドラゴン自体が滅多に現れるものではなく、人里に現れるものなど天災のようなものだと言われている。まして相手はここ最近で突如現れたという謎のドラゴン。復旧は手伝う、でもそれだけだ。


 広場は静かな悲しみが支配していた。怪我人から離れた所では、もう何だったのか分からなくなってしまった黒い何かが幾つも並べられていた。その内の一つ、その隣に子供が座り込んでいた。決して離れなかった。


 彼は、彼女は、どんな人だったんだろう。 

 この村でどんな人生を送り、何を想って日々を送っていたのだろう。

 名前は、なんていったんだろう。あの子とは、どういう関係だったんだろう。


 胸が抉れるようだった。


 蘇るのは世界を埋め尽くす様な赤い炎。天を焦がす黒い煙。父の背中。そして焼き出された無力な自分。あの絶望は今でも胸の中に残っている。座り込んだ子供の姿に、昔の自分の姿が嫌でも重なる。


 それが増えるっていうのか。

 あのドラゴンが現れる度に。


 僕の故郷は無くなった。でも僕は、彼等を追いかけるつもりはない。村を焼いた理由を問い詰めるつもりも、死んだ仲間の仇を討つつもりもない。


 でも、もし、彼等がまた同じ事をしようとしたら、僕は。


「クライム、どうしたの?」

「行きましょう。ここにいても、もう私たちに出来る事はありませんよ」

「止める」


 そう口に出た。


 足元に刺さった剣を引き抜く。

 勢いのまま、乱暴に鞘におさめた。


「止めるって言っても。てか止めるって何をだよ」


 アレクが呻く。皆が僕を見ていた。鞘に収めた剣から手が離れない。自然と柄に力が入った。


「放っておけない。あのドラゴン、このままには出来ないよ。もう出来る事はなくても」

「では、クライムさんは、どうしたいんですか?」

「まさかあのデカブツを落とそうと言うんじゃねぇんだろうな」

「駄目だよ。絶対」


 そう言ったのはフィンだった。目を合わせない。突き放す様な言い方だった。


「クライム、何を考えてる。いや、何を考えているにしたって、そんな様子じゃ何もさせられないよ。マキノ、ここを離れよう。今すぐに」

「フィン、どうして?」

「どうしてもこうしても無い。僕らはただの流れ者だ。ここに来たのはただの偶然。ドラゴンに遭ったのも、この村を助ける事になったのも。これからあのドラゴンがどこで暴れたとしても、それをどうにかするのは被害にあった国の軍隊さ。僕らの知った事じゃない」


 正論だ。それに僕がそれに賛成出来ないのも分かっているから、フィンはどこか関係無い所まで一端離れようと言っている。頭が冷えるまで時間を置こうと。


 でも、賛成できない。


「知った事じゃないから、無視しようって?」

「そんな義理も無いって言ってるんだ。自分の手に負えない問題を、無責任に抱え込むもんじゃない」

「義理なんて知らない。偶然でも目の前で起きてるんだ、無視は出来ない。しょうがないだろ」

「これが遠く離れた場所なら無視も出来るだろうさ。人の善意なんてその程度のものだよ。自分は違うとでも思っているのかい?」

「フィンは本当にそう思ってるの? 正論かもしれないけど、そうじゃないだろ」

「思ってるさ。クライム、それはただの同情だ。自分勝手なだけさ」

「僕だってドラゴンを倒そうとまでは言ってないよ。でも何か……」

「何かしたいって? 笑わせないでくれ。何かって何。誰かの為って誰の事さ」

「お二人とも、私達も少しは話に混ぜてくれませんか?」


 口を噤んだ。


 マキノは僕らの間に立ってくれている。メイルは何か言いたそうでも何も言えずにおろおろしている。アレクは面倒くさそうに剣に寄りかかっていた。フィンも口を噤んでいる。また目を逸らしていたけど、多分あの中は不満でいっぱいだろう。それでもその不満を飲み込んでいる。僕も、少し頭が冷えた。


「ごめん」


 謝った。フィンだけと言い合っても仕方ない。


「悪かった。みんなの話を、聞かせて欲しい」


 アレクは相変わらず面倒くさそうな顔でマキノを見た。

 メイルはまだ何も言えずにいる。

 二人の視線を感じてマキノが口を開いた。


「フィンさんの言う事はもっともだと思いますよ。でも私は正直クライムさんに賛成です。偶然とはいえ目の前で起きている事は放っておけない、その通りだと思います。フィンさんも本当はそう思っているのではないかと思うのですが、どうですか?」

「思ってるさ。でもそうは出来ないし、させられない。言ったろ」

「自分の手に負えない事だから、か。その通りだとは思うよ」


 僕は取り敢えず座った。フィンと話が合わないのはいつもの事だ。でも今回フィンが反対しているのは、トレントで遭遇した時からフィン本人がドラゴンに何か感じているからだ。雪の竜独特の嗅覚なのか本人の勘なのかは知らない。でもそれで僕に納得しろというのも無理な話だ。


「ボク、ボクは分からない。暴れるドラゴンを鎮めるなんて、千人束になっても出来ない事もあるし。それは、どうにかしたいとは思うけど。思う、けど……」


 メイルは言葉を濁らせる。どうしようか悩んでいるというより、僕とフィンのどちらの味方をすればいいのか悩んでいるようだった。メイルはこういう空気が苦手だ。仲間内で揉めるなんて、本当は僕だって嫌だけど、でもだからって黙って言いなりになるつもりはない。


「困りましたね」

「この村の復興を手伝う。その程度ならいいけど?」

「いじわる。またそういう事を言う」

「だめったらだめ」


 そう言って僕に向かってあっかんべーした。僕は言い返そうと口を開く。


「だから……」

「そこまでにしなさい。私も白い彼に賛成よ。あれは、追うべきじゃないわ」


 ……あれ?


「おい、女の声がしたぞ」


 アレクが口を開いた。

 そうだ。女の人の声。

 それもすぐ近くからだった。まるで隣にいたような。


 僕らは辺りを見渡す。広場では村人みんなが慌ただしくしていて、僕らには無関心だ。近くにそれらしい女の人も見当たらない。それなのに、声は構わず話し続ける。


「君、えっと、クライムって呼ばれてたわね。私の声、聞こえる?」

「聞こえる、じゃなくて、誰、いや、どこ?」


 ここまで分からないと本格的に怖くなってくる。得体の知れない何かが近くにいるんだ。アレクは剣を構え、マキノは辺りに気を配る。僕はさっき寄りかかっていた蠍に振り返った。まさかこれが喋っている訳ではないと思うけれど、でももし喋るとしたら、これ位しか。


「ねえ、もしかして君、何も知らずにこれを嵌めたわけ? よりにもよって……」

「おいクライム! 指輪だ! 鉱山で拾ったろ!」

「指輪!?」


 僕は右手を見る。そういえばこの指輪、以前ドラゴンを見た時に一瞬すごく熱くなって。でもまさか。


「本当に知らなかったみたいね。どう言ったらいいのかしら。はじめまして?」

「これだ! 本当に喋ってる!」


 その瞬間、マキノが僕の右手をものすごい力で地面に押さえつけた。たまらず僕は倒れるけどお構いなしだ。その後早口で何か唱えたかと思うと、押さえつけた右手を中心に光で出来た魔法陣が浮き上がる。右手が動かない。

 

「えぇ!? ちょっと、いきなり何!?」


 指輪が抗議したけどそれは僕のセリフだ。魔法陣に気付いて村の人達も騒ぎ出した。マキノがもう一言唱えると右手の代わりに指輪が完全に陣の中心に固定された。それでもなぜか指輪から右手が外れず、僕もその場を動けない。


「取り敢えず、ドラゴンを追うか否かは後で話し合いましょう、フィンさん」


 何がなんだか分からない。

 一体どうなってるんだ。


「別の用事が出来てしまった」



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