課せられた仕事③
スタメン5人が全員ガードをやれと言ってから、三十分。
いまだにフォワードやセンターはわざわざボール運びをしては、カットされてターンオーバーだ。
これじゃあどうにもならないし、助言の一つや二つは出さないといけないかな?
「先輩!この練習は無意味だと思います。
いきなりガード以外の人がガードをやるのは無理です!」
うわーーやっぱおっかねえ。自分の理念にそぐわないものは却下しそうだな。
まあ、それはチームのためだと思ってやってるんだろうけどね。まあ、でも・・・
「そうやって逃げるのか?」
「!そんなんじゃないです!」
「俺が作ったメニューが不満か?それなら結構だ。
しかし、俺が作ったメニューは君たち個人個人に有益な練習になる」
「そんなの言い切れますか?」
「ああ、言い切れるよ。俺は人を分析する仕事のセンターだから。
だからはっきり言って、たったこれだけの時間でも君よりはこのチームの弱点、個人の弱点はわかってるつもりだけど?」
おーおーイラついてるイラついてる。自分が一番チームに貢献してると思ってるんだろうね。
これは、んー成長すれば良いキャプテンになるのになあ。仕方ないし、助言するか・・・
「先輩はガードをすれとは言ったけど、ボール運びをすれなんて言ってないよ。
ガードの仕事は運ぶ以外にもあると思うんだけどな。ね?先輩」
「お、おお」
いやいや、さすがは杉本さん。俺の考えはお見通しか。
今、俺と1on1やってら勝っちゃうんじゃないかな?
「さあ、練習再開してくれ。あとは自分たちで考えろ。
人に頼るくせを抜かないとこれからも甘やかさなきゃいけないからな。
わかった?片桐さん」
「・・・わかりました」
ちょうど順番になる杉本さんは俺の耳によって来た。
「とりあえず、私が見本を見せてみますよ」
「頼むね。」
「了解です」
これは助かるわ。
杉本さんの動きが無駄がなかった。
フェイク一つ一つが洗練されていて、パス一つ一つが流れるようで、シュートは吸い込まれていく。
これほどの子だったとは思わなかった。先輩たちがいなくなり、練習の機会が増えたことでより力が身についている。レベルはほかの子たちの何段も先にいる。でも、それに誰も気付かない。
多分、あの動きでもまだレベルを落としてるんだ。皆に合わせて・・・
「ごめん、ちょっとタイマー止めて」
すぐさま、マネージャーの子が止めに入る。
これだけのものをみせられて俺は黙れないでしょ。
「ちょっと、マッチアップを変更させてくれるかな?
杉本さんのマッチアップの子、俺と変わってくれるかな?」
「え?あ、はい」
名前の知らない子だ。俺が覚えてないってことは、まあふつうのレベルか。
これなら杉本さんはレベルを下げなければいけないかもしれない。
他人のスキルアップのために自分を犠牲にするのか・・・はかないね。
「杉本さん、本気で来ていいよ」
「ほんとですか?」
「もちろん」
俺も少々、本気で行く必要があるだろう。
幸い、ゲームパンツとバッシュもはいてる。ないのはリストバンドくらいだけど、ハンデにはいいか。
そう、思ってたのが甘かった。
「!」
抜かれた。一瞬のフェイクで見失った。なんていうスピードとそれを支えるハンドリングだ。
朋輝と同じ速さ?いや、それはありえない。なら、緩急のテクニックか。
これはかなり興奮してくる。久々の面白い相手だ。本気でやれる。
「ちょっとごめんね、リストバンドとヘアバンドつける」
「先輩も本気ですか?」
「もちろん」
次は俺たちからのボール。センターだが、練習内容のこともあり、ガードをやる。
本当はボール運びの必要はないけど、今回は特別。女子の後輩にいいものを見せてあげよう。
そして、杉本さんには上を見せなければいけない。
「いくよ、杉本さん」
「はい!」
勝負は一瞬だ。足の遅い俺だが、追いつかれることはない。
たった一回のフェイクで杉本さんに気付かれないまま、俺はシュートを決めた。
「これが、本当のスコアラーの力だよ。杉本さん」
その場にいた全員が俺の方を見ていた。ただ一人、杉本さんだけはさっきまで俺がいたとこを見つめる。