戻ることのない時間
後輩や先生と別れてから数分後、ようやくキャプテンを見つけた。
一人になりたかったのか、誰もいない外のベンチで上を見上げていた。
一人にしてやっても良かったがせっかくなので隣に座ることに
「なんで来んだよ。」
「んー、せっかくなんでキャプテン殿の久々の泣き顔を拝見に」
「腹立つわー」
キャプテン・・・朋輝に笑顔が見えた。でも目はまだ赤い。さんざん泣いたのだろう。
それもそうだ、こいつは誰よりも頑張ったんだ。膝をケガして体を壊してもずっと練習を続けて
ここまでこれたんだ。ずっと一回戦で負け続けていた俺らが初めて来た大舞台。
なのに、そこでも一回戦で負けるなんて悔しすぎる。
「俺、足がもうだめって言われてたんだ」
「知ってる、何回も聞いてるよ。お前と何年の付き合いだと思ってるんだよ」
「でも俺、この試合に引退を落としてきちゃったわ。
これでやめたら俺、どこに行っても中途半端な人間になっちまうよ」
朋輝の声のトーンが少し下がる。それだけで、悔しいという朋輝の心がこっちに伝わってくる。
それだけ、つらい試合だった。勝てた試合だからこそ栄光をつかみ損ねた自分たちに
後悔は何十倍にも膨れ上がって落ちてくる。
「お前は、やめんな」
「え?」
「朋輝はさ、このチームで一番上手いんだ。誰が何と言おうと俺が言ったからそうなんだ。
だからさ、お前は皆の後悔の分だけ高校で上に行くべきだ。お前ならやれるよ」
「勝手なこと言うなよ。」
二人でハイタッチを交わす。二人だけにしかわからない約束の証。
これで、朋輝はもっと頑張れる。こいつなら本当に強豪校でもやっていける。
一年かけてリハビリすれば高校では足は大丈夫だろう。
「だったらさ、お前も俺の高校バスケを手伝えよ。
俺とお前、それから優理は同じ高校志望だからいけるよ」
「俺?・・・俺は」
先生にも言われたけど、俺はきっと・・・無理だ。
「考えとくよ。とりあえず、俺もお前も受験だよ」
「うっせー。現実に戻すなよ~」
「現実から目をそらすなよ!」
もう、朋輝は大丈夫だろう。ほかのチームメイトは元から大丈夫だ。
あとは・・・俺か。
「じゃあ、朋輝の泣き顔を見たし、行くわ」
「うい」
俺は静かに小さく朋輝に「さよなら」と告げた。