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生徒会と愉快な仲間たち  作者:
2:生徒会と顧問の話
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08.二度あることは三度ある

生徒会のお料理教室~クッキー編~

ってなわけで…前回から登場のあの方に、生徒会メンバーが散々振り回されるお話です。

最後にちょろっと新聞部も出てきます。

「これから、君たちにお菓子作りのいろはを教えようと思う」

 平和を取り戻した放課後の生徒会室に、突然現れた男性教師――生徒会顧問・霧島慧は、腕を組みながら尊大な態度で、生徒会室の三人に対してそう言い放った。

 その唐突な言葉に、三人はただ目を丸くしながら聞き返すことしかできなかった。

「「「……はい?」」」


「――この間君たちがくれたお菓子はね、はっきり言って食べられたもんじゃなかった。少し前まで俺が入院していたことは、君たちも聞いているだろう? あれは確実に、あのお菓子が原因だ」

 憤慨する霧島――つい先日退院したばかりだというのに、やけに元気だ――を見て、生徒会長・中村鈴奈と生徒会副会長・藤山暖香は渋い顔で互いに顔を見合わせた。

「いや、あのお菓子はだってさ……」

「私たちが作ったものじゃ……」

 二人が霧島に対して送り込んだお菓子は、霧島本人が生徒会に差し入れしてくれたお菓子を基に作ったものである。つまり……霧島が入院したのは自分が作ったお菓子を直に口にしたからであって、生徒会の責任では何一つない。

「っていうかそもそも、あなたが言えることじゃ……」

 その二人の側で、生徒会書記・早川杏里も難しい顔をしながら呟いた。彼女もまた、この前生徒会で物議をかもしたお菓子を口にした被害者の一人である。

「言い訳無用!」

 とたんにびしっと指を指された。普段生徒会に対してこんなに厳しく指示を出す人間はめったにいないので、三人とも驚いて固まってしまう。

「君たちが俺を入院にまで追い込んだことは、この際水に流すさ。だけどね……」

 そこで言葉を切ると、霧島は深いため息をつきながら、やれやれといったように首を振った。

「このままじゃ君たちは、絶対に後悔するよ。いつか君たちが好きな人に手作りお菓子を振る舞うことになった時、こんな腕じゃどうする? 大切な人を喜ばせるどころか、病院送りにした挙句トラウマを植え付けかねない」

「そういうあなたにトラウマを植え付けられたのはあたしなんだけど」

 ぼそりと杏里が突っ込んだ。

 しかしそれは霧島の耳に届かなかったらしい。有無を言わさぬような声と態度で、三人に言った。

「とにかく、だ。今日はこの俺が、君たちにお菓子作りを一から丁寧に教えてあげようと思う。俺があげたお菓子は、美味しかっただろう?」

 どうやら霧島は、あの日暖香がメモに走り書きしたお世辞を真に受けているらしい。

 彼は思っていたよりも素直で純粋な性格ということか……と、暖香は霧島に気付かれないように小さくため息をついた。

「お菓子作りなんてめんどくさいからやりたくないよぅ……」

 鈴奈は涙目で呟いた。究極のめんどくさがりである彼女は、お菓子作りどころか料理すらまともにしたことがないのだ。

 霧島はその言葉を聞きつけ、キッと効果音が付きそうな勢いで鈴奈に向き直った。

「女の子は料理ぐらいできて当然なんだよ? めんどくさいからってサボってたらモテないよ、君」

「別にモテなくていいもん……」

「お嫁に行けなくなるよ! 売れ残るよ!」

「うぅ……」

 鈴奈はもはや半泣きだ。彼女がペースを乱されるのは珍しい……と、暖香は意外に思った。

「とにかく、時間ないから早く行こう! 大職員室の給湯室を借りてるから」

「手が早いのね」

「手際がいいと言ってくれ」

 暖香の皮肉も、霧島は笑顔でさらりと受け流す。

「さ、行こうか」

 霧島はげんなりとする三人に声をかけると、鼻歌交じりに生徒会室を出て行った。肩を落としながら、仕方なく三人も後を続く。

 普段ではありえないことなのだが、今や生徒会は霧島という男にすっかり手綱を握られていた。


   ◆◆◆


「さ、早速始めるよ。いいかい?」

「「「……」」」

 大職員室の中にある、小さな給湯室。

 そこにはエプロンをつけ、カッターシャツを腕まくりした状態でご機嫌な霧島と、同じくエプロンをつけ、ブラウスを腕まくりした状態でげんなりしている生徒会の三人がいた。

 一人だけテンションの高い霧島は、魂を抜かれたような三人に目ざとく気付くと、次々と三人の肩を叩く。

「ほらほら、三人とも覇気がないよー! 気合だー! えいえいおー!!」

「「「えいえい、おー……」」」

 こんな状況でだれがテンションなんて上げられるかよ……と思いつつ、嫌々三人は声を上げた。


「今回は俺の得意分野、クッキーを作るよ」

 弾むように霧島が言うと、三人は揃って戦慄した。それからゆっくりとあさっての方向へと視線をさまよわせ、それぞれうつろな目で呟く。

「兵器……再来、か。とうとう、わたしたちは犠牲になるんだね」

「今度こそ私たち、生きては帰してもらえないんだわ……」

「あたし、食べ物のことでこんなに絶望を感じたのは初めてだよ……」

「え……どうしたの?」

 不穏な空気をさすがに察したのか、霧島が不思議そうに首をかしげる。その無邪気な姿に三人はカチンときたが、いつものように攻撃を加えコテンパンにする気力はもうなかった――というか、できそうになかった。

「なんか君たちの後ろに変な色のオーラ的なものが見えるような気がするんだけど……?」

「気のせいだと思うよ」

「気のせいだわ」

「気のせいじゃないかな」

 三人が暗い声でそれぞれ答えると、霧島は小首をかしげつつもあまり気にしてはいない様子で、下準備を始めた。

「これで良し、と。じゃあ始めるよ。よく見ておいてね」

 三人は力なくうなずいた。

「まずはバターを湯煎で溶かして……」

「まさか、湯煎を知っていたとはね」

 驚きの表情で暖香が口に出す。杏里も同じように驚いているようだったが、ただ一人鈴奈だけは首をかしげていた。

「ゆせん、って何……?」

 脳内にハテナマークをたくさん浮かべているのであろう鈴奈を見ながら、駄目だこいつ……彼女以外の人間はみな思った。

 苦笑しながらも、すかさず霧島がフォローを入れる。

「火をかける代わりに、お湯の温度を利用するんだ。主にチョコレートを溶かしたりするのに使うね」

「だけど普通、バターを溶かすのには使用しないんじゃないの……?」

 杏里が不思議そうに言うと、霧島は指をピンと立てて

「そうだけど、このバターは冷蔵庫から取り出したばかりでカチカチだから。普通に溶かすには骨が折れるんだ」

「なるほど! 頭いいね、先生」

「それほどでもないよ」

 杏里に褒められ気をよくしたらしい霧島は、鼻歌を歌いながら言葉通り湯煎を使ってバターをうまくほぐしていく。

「……よし、そろそろいいかな」

 程よい柔らかさになったところで、霧島は次に砂糖を投入した。

「これで、クリーム状にしていくんだ。砂糖のザラザラをなくしていくのがポイントだよ」

「小麦粉は入れないの?」

 クッキーといえば小麦粉のイメージしかないらしい鈴奈が、再び首をかしげる。

「入れるけど、まだだよ」

「そんなこともわからないの。あんたって本当に無知なのね」

 サラッと暖香の毒が入る。霧島はその手厳しさに驚いたらしく目をぱちくりとさせたが、当の鈴奈はいつものことでとっくに慣れているため、「むぅ」と唸りながら少し不機嫌そうに唇を尖らせただけで特に何も言わなかった。

「これが生徒会の通常運転なの……?」

 霧島がこそっと傍らにいた杏里に耳打ちする。杏里はこともなげにうなずいた。

「うん。というかそもそも、この生徒会を普通だと思わない方がいいよ。当事者であるあたしが言うのもなんだけど、しょっちゅう問題起こすから」

「じゃああの噂とか、新聞部が貼り出してるあの記事は……」

「だいたい全部本当だよ。新聞部がどうやって情報を得てるのかは知らないけどね」

「あら、二人とも知らないうちに仲良くなってるのね」

 二人でこそこそ話していると、暖香が言葉をはさんできた。すらっとした指で、先ほどまで霧島が扱っていたバターと砂糖入りのボウルを指差す。

「続き、しなくていいのかしら?」

「あ、忘れてた!」

 それで霧島は我に返ったらしく、さっさと続きに取り掛かる。杏里の方も、何事もなかったかのように先ほどと同じように霧島の姿を眺めていた。

「えーと、次はなんだっけ。あ、卵黄か。中村さん、冷蔵庫から卵出してくれる? 一つでいいや」

「めんどくさいなぁ……ん、」

 文句を言いつつも、おとなしく言われた通りに卵を一つ差し出す鈴奈。霧島は「ありがとう」と笑ってそれを受け取ると、コンコン、とその辺の角にぶつけてヒビを入れ、殻を使って器用に黄身と白身を分けていった。

「あれ、白身は使わないの?」

 ここで鈴奈がまた首をかしげる。霧島が口を開く前に、暖香が冷ややかな視線を向けながら答えた。

「クッキーに白身は使わないわ。常識でしょう」

「だけど、勿体ないよ」

「そうだね……」

 霧島が思案顔になる。すると杏里が名案を思いついたというように目をキラキラさせた。

「じゃあ、あたしがメレンゲ作るよ!」

「めれんげ?」

「卵白を使ったお菓子だよー」

「なるほど、それはいい考えだね」

 霧島はたちまち嬉しそうな顔になった。

「じゃあ早川さん、頼める?」

「任せてっ」

 霧島に笑顔で答えると、杏里はそそくさと準備に取り掛かった。

「ふぅん……」

 杏里の姿を眺めながら、霧島が感心したように唸った。

「早川さんは、料理が得意なんだね」

「あの子は食いしん坊だからね。普段から自分でもいろいろ作っているみたいよ」

 微笑ましそうな目で暖香が答える。先ほどの鈴奈への毒舌との差に、霧島はびっくりしたようだった。

 それに気づいたらしい鈴奈が、控えめにクスリと笑う。

「暖香は、杏里には甘いんだよ。その代わりわたしには厳しいけど」

 ほうほう、と霧島は呟いた。

「なるほどね……ちょっとだけ、この生徒会の実態がつかめてきた気がするよ」

「それはよかった。……ところで、次はどうするの?」

「あぁ、そうそう!」

 鈴奈の指摘に、再び霧島は我に返る。「君たちがあまりに興味深いから、本来の目的をすぐに忘れちゃうよ……」と文句のように言いながら、先ほど取り分けた卵黄をかき混ぜていった。

 よく混ざったところで、少し残して調味料入りのボウルに移す。それを見て、鈴奈はまた目を丸くした。

「全部は使わないんだね」

「残した分は、形を整えたクッキーの生地に塗るんだ。見栄えを良くするためにね」

 答えながらも、霧島は手を止めない。どうやら集中モードに入って来たらしい。その空気を察し、鈴奈と暖香もおとなしく(鈴奈の質問とそれに対する暖香の文句は相変わらず続いたが)見守っていた。

 その隣で、杏里は先ほどから黙々とメレンゲを作っている。さすが料理をいつもやっているだけあって、こちらも非常に手際が良かった。

「次は小麦粉を入れる」

「やっと出てきたね。ラスボスって感じかな」

「大げさよ」

 言葉通り小麦粉を入れると、木べらでねりねりとかき混ぜていく。しばらくして程よく混ざったところで、霧島は手を止めた。

「で、本来はここで一時間この生地を寝かせるんだけど……」

 言いながら、別のボウルを冷蔵庫から取り出す。

「一時間たったやつがここにあります」

「「「三分クッキングかよ!」」」

 これには見守っていた鈴奈と暖香に加え、メレンゲを作っていたはずの杏里までもが手を止めて突っ込んだ。

 しかし霧島に少しも気にした様子はなく、機嫌良さそうに飄々と答えた。

「さっきの授業での空き時間に作っておいたんだ」

「思ったより用意周到なのね、あんた」

 暖香は呆れたようにため息をつき、思わず額に手をやった。

「ふふん」

 霧島は得意そうに胸を張った。暖香としては皮肉で言ったはずの言葉だったのだが、どうやら彼には全くと言っていいほど通じていないらしい。暖香はあきらめの表情で、やれやれ、というように首を横に振った。

「――さて。これから型抜きをしていくんだけど」

 霧島はここで言葉を止め、含み笑いを浮かべた。

「ここで、慧ちゃん特製の隠し味登場っ」

 三人の周りの空気がピシり、と凍りついた。それぞれの目が、みるみる驚愕に見開かれていく。

「自分で慧ちゃんとか……」

「気持ち悪いわ……」

「いや。二人とも、突っ込むところはそこじゃないと思うんだけど」

 的外れな鈴奈と暖香の突込みに、杏里は苦笑した。どことなくその表情はひきつって見える。

 誰にともなく、ぼそりと呟いた。

「問題は、隠し味の方だってば……」

 鈴奈と暖香の(別の意味での)ドン引き具合や、杏里の心配など何処吹く風だというように、霧島は気に留めることもなくごそごそと何かを取り出した。

「じゃんっ」

 ちゃちな効果音付きで霧島が取り出したのは、ビンに詰まった黒々とした何かだった。

 気味悪そうに鈴奈が尋ねる。

「何、その怪しげなものは……」

「チャツネか何か?」

 杏里の問いに、鈴奈がまた頭にハテナマークを浮かべる。

「チャツネって?」

「私もわからないわ……」

 暖香も不思議そうだ。

 ただ一人その意味を知る杏里は、スラスラと言葉を並べ立てた。

「チャツネっていうのは南アジアや西アジアで使われてるソースとかペーストみたいなもので、まろやかさやスパイシーさを出すために隠し味として使われる調味料だよ。その原料は様々だけど、あたしが知ってるのはマンゴーとナスとトマトかな。ちなみにうちではカレーとかに入れたりするよ」

 そこまで説明し終えたところで、杏里は不審そうに眉をひそめた。

「でも……そこまでどす黒いチャツネは見たことないなぁ。何で作ってあるの?」

 霧島は水を得た魚のように生き生きとした表情で答えた。

「よくぞ聞いてくれました! これは俺が長年考えに考えてようやく開発に成功した、特製チャツネ……」

 すぅ、と息を吸い、溜めに溜めた状態で勿体つけるように間を置き、そして――……堂々と、答えた。

「サバの缶詰チャツネ!」

「「「生臭いわ!!」」」

 すかさず関西人並みの総ツッコミが入った。

 これにはさすがに霧島もハトが豆鉄砲を食らったような顔をしたが、すぐに破顔したかと思うと「わかってないなぁ~」と言いながら、ちっちっち、と指を振ってみせた。

「俺が長年研究してきた結果だよ! 確かにサバは生臭いかもしれないが、缶詰だとかなりまろやかな味わいになるんだ。しかも、だよ。これに使ったサバの缶詰は、ただのサバの缶詰じゃない」

「と、いうと……?」

 こわごわと、鈴奈が尋ねる。霧島は自信満々に答えた。

「何と、ポン酢に漬けてあるんだ!」

「「「何でポン酢!?」」」

「ポン酢に漬けることで、まろやかさに少しの酸味がプラスされる!」

「クッキーに酸味を入れる意味は何!?」

 暖香も珍しく大きな声で叫ぶが、霧島はなおも自信満々に言い切った。

「きっとクッキーも素敵な味になるはずさ!」

「な訳あるか馬鹿!!」

 杏里がとうとう、耐えかねたように怒鳴った。こんな形でせっかくの料理を台無しにされるということが、相当許せないようだ。額には数本の青筋が浮き立っており、メレンゲが入ったボールを掴んでいる手が、プルプルと小刻みに震えている。

 たいていの人間ならば怯えずにはいられないような迫力とどす黒いオーラを漂わせる杏里を完全スルーし、霧島はおかしな色のそれ――サバ缶のチャツネを、ためらいなくクッキーの生地にぶっこんだ。

「「「やめろぉぉぉぉぉ!!」」」

 三人の全力の叫びは、もはやむなしく響くだけだった。


   ◆◆◆


 大職員室と生徒会室がある校舎の、一番隅にちょこんと位置する空き教室。そこは小さいながらも小奇麗で、置かれている机や椅子もそれなりに立派で無駄にいいものだったりする。

 特に目立つプレートや張り紙こそ出ていないものの、そこはれっきとした某高校新聞部の部室だった。

 普段から生徒会のスクープを追い、必ずと言っていいほど生徒会室の付近に張り付いているため、そこにはほとんど人がいることはない。しかし現在、そこには二人の男子生徒がいた。一つしかないテーブルで互いに向かい合せになるようにして、それぞれ座っている。

 テーブルに何やら紙を広げ、思案にふけっているのは、眼鏡をかけた淡い黒髪の小柄な少年――新聞部部長・大束修。

 その向かいで、茶色の手帳を開いて何やら確認しながら時折ペンを走らせているのは、明るめの髪色の温和そうな顔つきの少年――新聞部副部長・水無瀬友哉。

 二人は時折何やら会話を交わし、それぞれ作業をしていた。次の新聞出版に向け、構想を練っているのだ。

 ……と、大職員室の方向から何か声がしたような気がして、二人は同時に顔を上げた。互いに顔を見合わせ、怪訝そうな表情をする。

「何か、あったんだろうか?」

 心配そうに友哉が問う。修は力なく首を振った。

「わからない。でも……」

 大職員室や生徒会室がある方向に視線をやり、修はぽつりと言った。

「わざわざボクたちが向かわなくても、じきに分かるさ」

「そうだね」

 友哉はどうやらそれで納得したらしい。おとなしくうなずくと、再び手帳に目をやった。


 しばらくすると、唐突に新聞部の戸ががらりと開いた。

 二人は顔を上げ、同時にそちらへと顔を向ける。そしてそこに立っていた人物に、そろって挨拶をした。

「こんにちは」

「こんにちは、先生」

 二人に恭しくあいさつをされた人物――霧島は、屈託なくにこっと笑った。

「こんにちは。大束君、水無瀬君」

 がらり、と戸を閉め、小奇麗な――悪く言うと殺風景な――部室の中へと足を進めてくる。

 テーブルの上に置かれた新聞の草案を一瞥し、控えめに声をかけた。

「いい新聞はできそう?」

「それは……これから先生がくださる情報次第ですね」

 修はハハッと笑いながら答えた。

「何を教えてほしいの?」

 霧島の質問に、そうですねぇ……と言いながら、修は一瞬だけ考えるようなしぐさをした。

「……さっき、大職員室辺りから変な声が聞こえたんですけど。いったい何があったのか教えてもらえませんか?」

「まぁ……今日の先生の様子から見れば、大体分かりますけど」

 生徒会にお菓子作りを教えるのだと意気込んでいた朝の霧島を思い出し、友哉が苦い顔をする。修もまた、困ったように笑った。どうやら二人とも、霧島の手作り菓子の破壊力を知っているらしい。

 しかしただ一人、霧島だけは不思議そうに首をかしげていた。

「おかしいよねぇ……一口食べたとたんに、三人ともたちまち口を押えてぶっ倒れちゃったんだ。仕方ないから生徒会補助の安浦先生に手伝ってもらって、全員まとめて保健室に運んでおいたけど」

 はぁぁぁぁ……と、二人は深いため息をついた。霧島に聞こえないように、こそこそと話をする。

「やっぱりそういうことか……」

「果たして記事にできるのかね、これは……」

「先生の手作りお菓子の件だけ伏せれば、どうにかなるんじゃない?」

「『生徒会メンバー、謎の昏倒!』みたいな感じか……いけるね」

「何話してるの?」

 霧島がひょこりと二人の間に割り込んできたので、そこで二人の会話は中断された。二人とも額に汗を浮かべながら、必死に笑顔を作って首を横に振る。

「何でもないです!」

「ちょっと構想を練ってただけで」

「ふぅん……あ、そうだ」

 ごそごそ、と霧島はスーツの懐を探ると、可愛らしくラッピングされた袋を取り出した。とたんに二人は真っ青になる。

「それは……」

「まさか……」

 にこっと笑って、霧島はうなずく。

「さっき作ったクッキーが余っちゃったからね。いつも頑張ってる君たちに、顧問から差し入れだよ!」

「「い……いやぁぁぁぁぁ!!」」


 ――生徒会顧問、兼、新聞部顧問・霧島慧。

 彼は……色んな意味で、最強だった。

果たして、サバ缶とポン酢を入れるとクッキーは入院レベルの破滅的な味になるのか。

真偽のほどは知りませんが、少なくとも胃の中はヤバいことになりそうですね。

きっと霧島先生は味見をしないタイプだと思われます(笑)


そして、杏里が作っていたはずのメレンゲはどうなったのか。

恐らく先生が独自の味付けをして、大職員室のみんなにふるまったと思われます。←完全に後付け

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