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生徒会と愉快な仲間たち  作者:
2:生徒会と顧問の話
8/44

07.目には目を、歯には歯を

『ある人』からの差し入れが生徒会室に届きます。

生徒会中心で、新聞部は…最後に名前だけでてくる感じかな←

「あれ?」

 放課後の某高校。

 いつも通り生徒会室に足を踏み入れた生徒会メンバー三人は、いつも通りの様相であるはずの室内に、一つの変化を見つけた。

「なぁに、これ」

 三人のうちの真ん中にいた少女――生徒会長・中村鈴奈が真っ先に駆け寄る。彼女の席である『生徒会長』という黒い石的なものが置かれた机の上に、見慣れないものが置かれていた。

 残りの二人も、それぞれ鈴奈がいるところまで歩いてくる。

「少し重量があるわね。何かしら」

 二人のうち、背の高い方の少女――生徒会副会長・藤山暖香がそれを手に取る。重さを確認するように幾度か手を上下させ、再び机に置いた。

「お菓子かな!? クッキーとかっ」

 もう一人の小柄な少女――生徒会書記・早川杏里が、たちまち大きな目をキラキラと輝かせた。

なるほど、杏里の言うとおり、綺麗にラッピングされたそれはお菓子のようにも見えた。

「差し入れかな?」

 鈴奈は首をかしげ、暖香は怪訝そうに眉をひそめた。

「でも、誰から?」

「わかんないなぁ……」

 考え込む鈴奈と暖香をよそに、杏里は嬉々として袋を開けようと手に取り……そこで何かに気が付いたらしく、はたと手を止めた。

「あれ」

「どうしたの?」

「何かメモがついてる」

 袋を可愛らしく縛っていたリボンのところに、何やら折りたたまれたメモが挟まっていた。杏里はリボンをほどきそれを取り出すと、差し出されている暖香の手に置く。暖香は渡されてすぐに、ためらいなく折り目を開いた。

 中身に目を通すと、暖香は「はぁ……」と感心しているのか何なのかよくわからない声を上げた。鈴奈が隣からそっと覗きこむ。杏里もその傍らからひょこりと顔をのぞかせながら、赤ボールペンで急いだように走り書きされたその文字を見た。

『生徒会の諸君へ。今から用事があるので、今日は伺うことができません。これはそのお詫びみたいなものですので、みんなで食べてください。君たちに会えるのは明日以降になると思いますが、とりあえずよろしくね。生徒会新顧問 霧島(きりしま)(けい)

 新顧問、という言葉に、鈴奈は「そんなことあったっけなぁ……」と呟きながら首をかしげた。杏里が横から口をはさむ。

「今井ちゃんがクビになったからでしょ?」

「あぁ、そういえば」

 生徒会の顧問だった教諭・今井琴子は、つい先日諸事情により退職した(させられた、と言った方が正しいのかもしれないが)。それにより、今回新しく生徒会顧問が決められたというわけだ。

 それにしても、と言いながら、暖香が納得できないというように眉をひそめた。

「あの人が辞めたのは結構前よ。ずいぶん新顧問を決めるのに手間取ったのね」

「大方、誰もやりたがらなかったんでしょ」

 かなり癖のあるメンバーが揃ってるからね、と鈴奈があくびをしながらだるそうに言った。杏里は苦笑しながらうなずき、暖香も頭を掻きながら「まぁね」と呆れたように答える。みんなそれぞれ、一応は自覚があるらしい。

 総括するように、暖香が声を発した。

「ま、決まったからにはちゃんと働いてもらうしかないわね」

「そうだね。いっぱい迷惑かけてやろう」

 答えるように、鈴奈が悪戯っぽく笑う。他の二人もうなずきながら、同様に笑った。

「……ねぇねぇ、早く食べようよ。せっかくもらったんだしさぁ」

 持っていた包みを見ながら、待ちきれないように杏里が地団駄を踏んだ。新生徒会顧問こと霧島の手紙に『食べてください』と書かれていたので、それが完全に食べ物であることが明らかになった今、もはや我慢することができないのだろう。

 暖香はそんな杏里に苦笑しつつ、「よし」と声を上げた。

「じゃあ、食べましょうか。せっかく新顧問さんが差し入れてくれたことだし」

「杏里もお待ちかねのことだし、ね」

 鈴奈が杏里を見ながら笑う。

 二人から許可が得られたところで、杏里は嬉しそうに鼻歌を歌いながら、包みを開けた。既にリボンはほどかれていたので、それは杏里の手の中でたやすく開いていく。露わになった中身を、三人はそろって覗き込んだ。

「美味しそう!」

「これって手作り?」

「なかなかやるわね」

 杏里、鈴奈、暖香が順番に感想を述べる。

 包みの中に入っていたのは、形の綺麗なクッキーだった。一見店で売っているような感じに見えるが、おそらく手作りであろう。袋からいい匂いが漂ってくる。

「じゃあ、いただきまーす!」

 ルンルンという効果音が付きそうなほどに上機嫌の杏里が、早速中から一つ取出し口の中へと放り込んだ。もぐもぐ、と咀嚼するのを、他の二人がじっと見守る。

 杏里は身体全体から嬉しくてたまらないというようなオーラを出しながら、ニコニコと笑っていた。……最初は。

 だが、咀嚼していくうちにその表情は怪訝なものへと変わっていく。それからだんだんと顔から色が失われていき、そして……。

「うっ!!」

 真っ青な顔で口元を抑え、その場に倒れこんだ。

「「どうしたの!?」」

 異変に気付いた二人が、慌てて駆け寄る。

「毒とか入ってたのかな!?」

 泣きそうな声で鈴奈が問う。暖香は杏里に触れると、「大丈夫よ」と言いながら、鈴奈の方へ安心させるように微笑みかけた。

「仮に毒薬でも、こんな少量で命にかかわることはありえないわ。それに、そもそもこれは毒薬を口にしたときの反応じゃない」

 どうして暖香が毒を服用してしまった時の反応など知っているのかは甚だ疑問であったが、とりあえず命の危険はないみたいだ。鈴奈は安心してほっと息をついた。

 杏里は暖香の腕の中でぐったりしながら、それでも何かを二人に伝えようと口をぱくぱくさせていた。暖香がその口元に耳を寄せ、杏里の言葉を聞こうとする。

 やがて暖香は静かにうなずき、杏里から身を離した。

「なんて……?」

 恐る恐る尋ねた鈴奈に、暖香は静かに答えた。

「これは、食べない方がいい、って」

「どうして……?」

 毒が入っているわけでもないのに、どうすればこのようなことになるのか。鈴奈はわけがわからなかった。

 杏里がほとんど力の入っていない腕を動かし、くいくい、と暖香の服を引っ張る。まだ何か伝えたいことがあるらしい。「何、どうしたの?」と優しく語りかけながら、暖香が再び杏里の口元に耳を寄せた。

 杏里は何かを言っているらしく、うんうん、と暖香が神妙に相槌を打つ。

 やがてゆっくりと身体を離した暖香に、鈴奈は不安げな視線を送る。それだけで暖香には何を言いたいかがわかったようで、鈴奈が口を開くまでもなく、間髪入れずにこう告げた。

「壊滅的に、まずいから」

「はい?」

 暖香から飛び出た予想外のセリフに、それまでシリアスな表情だった鈴奈の目が文字通り点になった。

「あのー……暖香さん? 今、なんて言いました?」

「だから、」

 さらさらとした栗色の髪を掻き上げながら、ため息交じりに暖香がもう一度先ほど発した衝撃的な言葉を告げる。

「壊滅的にまずいんですって、それ」

 それ――もとい霧島から送られたクッキーを、暖香は指差した。それが視界に入った途端、鈴奈はかすれた声を上げた。

「じゃあ……杏里が倒れたのは、毒のせいじゃなくて」

「クッキー自体のせい、ってことね」

 こともなげに暖香が答えると、鈴奈は脱力したようにぐったりとした。ちょうど座り込んでいたところにあった机の脚にもたれ、深いため息をつく。

「何だ……杏里が死んじゃうんじゃないかって思って、焦ったじゃんか」

「何だ、じゃないわよ」

 暖香はまだ何か不満があるらしく、不機嫌そうな表情で苛立たしげに言い放った。その様子に、鈴奈が首をかしげる。

「まだ何か心配事があるの?」

「当たり前でしょ」

 暖香はすっかり力の抜けた――いつの間にやら気を失ったらしい――杏里を抱えたまま、杏里が倒れた拍子にぶちまけたクッキーとその包みを顎でしゃくった。

「誰が処理するのよ、それ」

 そういえば、と今思い出したかのように呟くと、鈴奈も再び包みに視線をやった。

「どうしようか……まさか、ごみ箱に捨てるわけにもいかないからね」

 せっかく霧島が好意で――いや、ひょっとしたら好意などではなくただの嫌がらせなのかもしれないが――くれたものを、無駄にするわけにはいかない。たとえ相手にどんな意図があったとしても、そんなことをすれば後々面倒なことになる。

 さて、どうしたものか……。

 しばし口に手を当てながら思案にふける暖香を、鈴奈は困ったような表情で見守っていた。

 やがて、うつむいていた暖香が意を決したように顔を上げて……。

「ねぇ、鈴奈」

 唐突に、鈴奈を呼んだ。

「何?」

 呼ばれた鈴奈は、瞳を潤ませながら首をかしげる。一抹の不安やら何やらが、彼女の涙腺を少なからず刺激しているようだ。

 暖香は少し言い淀むように口を開閉させたが、それでもしっかりと鈴奈の目を見据え、尋ねた。

「もし今、私が協力してほしいと言ったら……多少面倒くさいことでも、やってくれる気はある?」

「……」

 普段ひどく面倒くさがりで腰の重い鈴奈は、ほんの少し顔をしかめた。が、やがて我に返ったようにぶんぶんと首を振る。

「やる! 何でもする! たとえめんどくさくてダルいことでも、この状況が打破できるっていうなら!!」

 鈴奈の反応を得て、暖香はニヤリと意地悪そうに笑った。

「わかった。じゃあ、」

 言いながら、暖香は自らの腕の中でぐったりしている杏里を慎重に机の脚へともたせ掛ける。そして床に無造作に置かれたままの包みを手に取り、ぶちまけられたクッキーを一つ一つ中に入れていった。

 すべて集め終えると、暖香は立ち上がり、座り込んだままの鈴奈を見下ろす。その目には、有無を言わさぬ強い光が宿っていた。

「移動するわ。ついてきなさい、鈴奈」


    ◆◆◆


 一時間後、生徒会室の隣に位置する大職員室にて。

「あいつら、喜んでくれたかな~」

 生徒会メンバーに破壊力抜群な差し入れをした張本人こと、新生徒会顧問・霧島慧は、機嫌良さそうに鼻歌を歌いながらスキップでもしそうな足取りで自分の席まで戻ってきた。

「なんてったって俺、手作りお菓子には自信があるからな。しかしな、振る舞うたびに皆が困ったような顔をするってのがちょっと気になるんだけど……きっと俺にそんなイメージを抱いてないからだな」

 この様子を見ると、どうやら彼には自覚がないらしい。自分の手料理を実際に食べてみたことがないのか、単なる味音痴なのかは知らないが。

「っと……ん?」

 自分の席までたどり着くと、霧島は机の上に可愛らしくラッピングされた包みが置かれているのを見つけた。その横には何やらメモが置かれている。

 手に取ってみると、その紙にはこう書かれていた。

『霧島先生へ。差し入れありがとうございます。三人で美味しくいただきました。これはほんのお礼ですので、ぜひ食べてください。本日お会いできなかったのは残念ですが、これからよろしくお願いいたします。生徒会一同』

 几帳面そうな読みやすい字は、女の子のものとしては珍しいが……おそらく、生徒会の三人の誰かが書いたものなのだろう、と霧島は思った。メモを手で弄びながら、口元が緩む。

「美味しく食べてくれたのか、嬉しいな。しかもお返しまでくれるなんて。生徒会の三人はかなりの問題児揃いと聞いていたけれど……なんだ、すごくいい子たちじゃないか」

 鼻歌を歌いながら包みを開け、中からたくさん入ったお菓子の一つを取り出す。それはクッキーが中に入った、綺麗な形をしたチョコレートだった。

「よくできてるね」

 霧島は嬉しそうにつぶやき、しばらく眺める。そして……。

「いただきまーす」

 大きく口を開け、それを放り込んだ。


 ――翌日の放課後。

 生徒会補助の役割を担う男性教諭・安浦恭一郎が、困ったような顔で生徒会室に入ってきたかと思うと、そろっていた三人に向かって重々しくこう告げた。

「霧島先生が入院した」

「何で!?」

 気絶していたためにあの後起こったことを知らない杏里が、すぐに反応を返す。安浦は複雑そうな表情で、言いにくそうに答えた。

「原因は分からない。昨日の放課後、職員室で倒れていたのが見つかったそうだ。二日ぐらいで退院できると聞いたから、命に別状はないようだが」

「そっか……それならよかったけど。もしかして、相当疲れてたのかな」

「まぁ、あいつにはもともと張り切りすぎるところがあるからな。実は入院沙汰はこれで二回目なんだよ……ったく、だから食生活はちゃんとしろって普段から言ってるのに」

「昨日も用事があるからって、あたしたちに会いに来なかったし……無理して働きすぎちゃうんだね、きっと」

「あぁ……退院したら、今度こそ体調管理をしっかりするように、きつく注意しとく」

「健康第一だからね。これを機に、恭ちゃんもできるだけ協力してあげて」

 そんな安浦と杏里の会話を聞きながら……鈴奈と暖香は、気まずそうに顔を見合わせた。傍にいる二人に聞こえないように、そっと囁き合う。

「あのお菓子はそれほどまでに、」

「ものすごい味だったんだね……」

「ん? どうした二人とも」

「鈴奈、暖香、何か言った~?」

 そろって首をかしげる安浦と杏里に、二人は即行で首を振った。

「「何でもない!!」」

 鈴奈と暖香は再び顔を見合わせながら、このことは決して口外すまい……とそれぞれ心に決めたのだった。


 ちなみに。

 いつもは情報を仕入れたとたんに速報ニュースだと言って喜んで取り上げるはずの、新聞部の大束修と水無瀬友哉も、この件についてはさすがに霧島の名誉を気にしたらしく……生徒会がガッツリ絡んでいたものの、このニュースが新聞化されることはなかった。

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