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生徒会と愉快な仲間たち  作者:
1:生徒会の日常
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04.板子一枚下は地獄

差し替えを行うことになりました4話目です。

今回は新聞部と、とある部活と、怪しいアイスクリームのお話。

新聞部が中心で、生徒会は最後にちょろっと名前だけ出ます。

 某高校二階のどこかに、ひっそりとたたずむ空き教室。

 普段授業などで使われることはないので、校内でもこの部屋の存在を知る者は少ない。しかし中に入ればそこが何のためにあるのか、どういう目的で使われているのかをすぐに知ることができる。

 中心部に置かれたテーブルと、椅子が向かい合うようにして二人分。そのうちの一つに、眼鏡を掛けた平均より少し小柄な男子生徒が座っていた。愛用のカメラを丁寧に手入れしながら、時折自身の眼鏡もついでに拭いている。

 彼こそがこの部屋の主たる、某高校新聞部の部長・大束修である。

「たまには休息も必要なのだよ、諸君。ボクたちもさすがに、ずっと生徒会のスクープを追いかけているわけにはいかないものでね」

 誰に言っているのかさっぱりわからない独り言を漏らした修は、手元のカメラはそのままに、気取って足を組んだ。

 彼以外誰もいない教室に、ふぅ、と小さく息を吐く声が響く。

 その時ちょうど、ガラガラとドアが開いた。自分以外にここに入ってくる人間は大体決まっているので、修はさほど驚きを見せない。

 落ち着き払った声で、口を開いた。

「やぁ、お帰り友哉くん」

 入ってきた彼――この部屋のもう一人の主である、新聞部副部長・水無瀬友哉は、「ただいま、修」といつものように柔和な笑みで応じると、修の向かいにある無人の椅子へ腰かけた。

「いい情報は仕入れられたかい」

「まぁ、それなりに……あぁ、そうだ」

 世間話のついでというように、友哉は持って来た紙袋をテーブルに置いた。修が何かと問いたげな視線を送れば、相変わらず優しい笑みを崩さずに答える。

「貰いもののアイスがあるんだけど」

「アイスかい? いいね。君にしては気が利くじゃないか」

「何でも、溶けないアイスなんだって。珍しいよね」

「ほぉ、面白い」

「ま、何にしても冷たい方がいいから、ドライアイス入れてもらったけどね」

 最近汗ばむ季節になってきたからちょうどいいね、と笑う修に、そうこなくっちゃ、と不敵に笑った友哉は、白い煙が漂うキンキンに冷えた紙袋から取り出したそれを差し出した。

「さて、食べようじゃな……いか……」

 透明なフイルムに入ったそれを見て、修は言葉を止めた。友哉も中身を確認していなかったのか、同じようにぴたりと動きを止める。

「え、何この色」

「ドブ水みたいだ……」

「しかも見て。角度変えると、もっと形容しがたい色に見えるよ」

「本当だ。こっちから見ると苔みたいな色で、反対側から見ると学校のプールみたいだね。下から見るとカピカピに乾いた血みたいだし……何なんだいこれは」

「これ、なんて色なの……?」

「少なくとも食べ物の色じゃないな」

 額を突き合わせ、二人は盛大に顔をしかめながら、形容しがたい物体こと溶けないアイスを眺める。

 まだフィルムを開けていないことと、溶けないらしいことがまだ救いだ。これで開封して溶かしていたら、今頃この部屋は異臭で大変なことになっているに違いない。

 ……というか、こんなもん絶対臭いに決まっている。

「というか、友哉くん」

 ふと、修に疑問が生まれた。優しい顔立ちを珍しく嫌悪に染めた友哉が、アイスから目を離さないまま「何」とぞんざいに返事をする。

「これ、誰に貰ったんだい」

「……それ、聞く?」

「聞くよ。当然だろう」

 何を今更、と修が鼻で笑う。ナルシストの気があるだけに、その仕草は非常に様になっていて腹立たしい。

 はぁ、と一つ溜息を吐き、友哉は答えた。

「化学部」

「……化け学?」

「化け学」

 既に嫌な予感がした。

 実は某高校には『科学部』と『化学部』がある。前者は健全に、生物学や地学などといった平和な実験を主として活動しているのだが……。

 真の爆弾は、後者である。

 化学部といえば、三階の理系科目の教室が多く並ぶエリア――通称危険地帯にアジトを構える、生徒会に負けず劣らず危ないテロ集団……もとい部活である。

 噂では、日頃世間を騒がす某国家のように、ミサイル(という名の危険物体)発射の実験を毎日試行錯誤しているとかなんとか。

「あのエリアで情報収集をしていたら、部長に捕まったんだ。ここで逢ったも何かの縁、是非我が化学部で実験中の新作アイスクリームを手土産に差し上げようじゃないかって」

「……まるで戦場ジャーナリストじゃないか、キミ」

 うぅ、と観念したように友哉は唸る。その様は、さながら敵に捕まり味方の情報を無理矢理吐き出させられている捕虜だ。

「もうあの部活が関わってきた時点で、僕も怪しいとは思ったんだけどさ……こんな酷いもんだとは思わなかった」

 だんだんトーンが下がっていく友哉に、はぁ、と修は溜息を吐いた。もともとあまり整っていない髪を、ぐしゃぐしゃと掻き回す。

「こんなもん爆弾に決まっているじゃないか。どうするんだい……」

「ごみ箱に捨てちゃったら、さすがにバレるよね?」

「バレるだろうな……」

「聞いた話なんだけど、以前、バスケ部の部員が変な色の飴玉を化学部に渡されたらしいんだ。それを気味悪がって捨てたら、部室で異臭騒ぎと食中毒まがいの事件が起きて、バスケ部ごと二週間ほど停部になったって」

「あぁ、それはボクも聞いたことがある。あの騒ぎは、化学部の仕業だったのか。もう公害レベルじゃないか……何なんだい」

「分かんない……ってかもう、ホントにこれどうしたら」

「……」

「……」

 嫌な沈黙が流れる。

 ちらりと、修が友哉を見た。ぞくりと、友哉の背筋が震える。

「友哉くん、キミが貰ってきたんだから責任もってお食べよ」

「嫌だよ!」

 案の定だった。友哉は必死で否定する。

「ってか一方的に押し付けられただけだし……修が食べなよ。珍しいもの好きじゃん」

「こんな見るからに怪しいものに誰が近づくっていうんだい!」

「いいじゃないか、こういうのも経験だよ経験!」

「いやいやいや」

「いやいやいや」

 未開封のアイス(溶けない)を中心に、修と友哉が命のかかった譲り合いを繰り広げる。いつの間にか互いに首根っこを掴み合い、あわや乱闘騒ぎ寸前となったところで、ガラガラと間抜けな音がした。

 二人が、ほぼ同時にそちらを見る。

「やぁ、二人とも」

 何も知らない顧問が、能天気な笑顔で二人に挨拶した。

「新聞の進捗はどうだい……って、どうしたの? 互いに掴みかかってそんな怖い顔して。喧嘩?」

 落ち着きなよー、とヘラリと笑った顧問は、ふとテーブルの上に問題の兵器……もといアイスクリームが置いてあるのを見つけた。

「何これ、アイス? ちょうどよかったぁ、俺喉渇いてたんだよね」

 あっ、と二人が叫ぶ間もなく、顧問はそれを手に取り、フィルムを開けた。むわり、と予想通りの……いや、予想以上の異臭が部室を包む。二人はとっさに互いの胸倉から手を離し、両手で鼻と口を覆った。

 しかし、そんな異変は何も気にならないらしい鈍感な顧問は……。

「いただきまーす」

 ぱくっ。

「「あっ」」


    ◆◆◆


 翌日。

 未だに悪臭の名残があった部室を、脱臭剤や換気でどうにかマシにしようと四苦八苦している修と友哉。そんな二人のもとに、代わりにやって来た副顧問――今までいたのかどうかさえ知らなかった――に二人が告げられたのは……。

「あの人、入院した」

「「やっぱり」」

 当然の結果だった。


「君たちさぁ、この件スクープにしないわけ? 結構面白いと思うんだけど……化学部手作りの『溶けないアイス』、犠牲者ついに現る!! みたいな」

 副顧問にそう勧められたが、さすがに二人は口ごもってしまった。

「いや、だって……ねぇ」

「ほら、うちの新聞部って、基本的に生徒会絡みのスクープしかほとんど取り上げないじゃないですか……」

「それに、かなりの内輪ネタ含まれますよ。しかもかなり情けない……」

「しかも、化学部に直々に喧嘩売ることになりますしね。あんなもん敵に回したら、あとが怖すぎます」

「うーん。確かに、入院したあの人の名誉にも関わってくるからなぁ……一応教師だし」

「でしょ? そんなネタを、率先してうちが出すってのはちょっと」

 というわけで、この件はお蔵入りになったそうな。


 ちなみにこの件があったおよそ一週間後、某高校各所で異臭騒ぎと入院沙汰が頻発したという。


 事態が大きくなったことによって、大げさに騒いだ顧問の命令でようやく重い腰を動かした生徒会。

 彼女らの鮮やかな活躍によって犯行(?)を暴かれた化学部が、部員全員停学処分の挙句、廃部へと追い込まれたことは言うまでもない。

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