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生徒会と愉快な仲間たち  作者:
7:生徒会の結成
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34.足駄を履いて首ったけ

お久しぶりです(7か月ぶり)

めっちゃ間が空きましたが、過去篇第3弾。今回は恋する乙女×2の、恋に落ちた瞬間に関するお話です。

 毎日いろいろなことが起こる某高校には、もちろん恋愛沙汰もそれなりに存在する。大抵第三者に引っ掻き回されおかしな方向へ行くのがお決まりだが、それでも恋の始まる瞬間は、いつだって胸キュンでピュアッピュア。紛うことなき、青春の一ページなのである。

 ……こらそこ、死語だとか言わない。


 というわけで今回の主人公は、今や某高校を代表すると言っても過言ではないほどの、純粋に恋する乙女二人。

 彼女たちそれぞれの、恋に落ちた瞬間を見てみよう。


    ◆◆◆


「お世話になります、新任の小倉三和子と申します。担当は現代文です。よろしくお願いいたします」

 新任式終了後。職員室で改めて行われる自己紹介のため、ずらりと並んだ新任教師たちの中で、特に緊張でガチガチに固まった女性教師――小倉三和子が、ぎこちなくぺこりと一礼した。

 緊張のためかほんのりと赤く染まった頬に、潤みがちな瞳。しかもスタイルも容姿もそれなりな女性がそんなことになっているのだから、当然その場にいた男たちが心を奪われないわけはなく……。

 深く頭を下げる小倉の姿に、息を呑む音が響いた。

「鼻の下伸び切っちゃって……」

「ま、かなり美人さんだから。当然かもね」

 そんな男性教師たちの雰囲気も、こそこそと話し合う女性教師たちの話し声も、緊張MAX状態の小倉には届いていない。

 ちなみに、この男も例外ではなく……。

「おい霧島、何ボーっとしてんだよ」

 隣にいた英語教師・安浦恭一郎に肘で小突かれた男性教師――霧島慧は、思わず「ほぁ!?」と声を上げた。

「な、何ですか安浦先生。びっくりさせないでください」

「お前が悪いんだろ。ほら……新任の自己紹介終わったから、こっちも自己紹介しないと」

 小声で言ったあと、安浦は「安浦恭一郎です。担当は英語です」とそのままさらっと自己紹介を終えた。この物語でさほど存在感がない彼だが、さすがはベテラン教師。手慣れたものである。

「お前の番だぞ」

「あ、はい……」

 再び安浦から小突かれた霧島は、気を取り直して顔を作り直す。爽やかと評判の、こちらもすっかり手慣れた笑みをうかべた。

「霧島慧です。担当は古典です。よろしくお願いします」

 表面上は何事もなく、すぐに次の教師の自己紹介へと移った空気。ほんの少し違ったことといえば、やはり霧島が発言した後に「かっこいい……」と若干女性教師がざわついたくらいのものだ。

 しかしその中でただ一人だけ、この瞬間にガラリと人生が変わってしまった女性がいた。

 ――他ならぬ、小倉三和子である。

「霧島、慧先生……」

 口の中でその名を呟き、小倉は熱のこもった視線で彼を見つめた。先ほどまでの緊張は既に遠く彼方、今はただふわふわした頭と熱くなる頬、そして鳴り止まない胸のドキドキに五感の全てを奪われている。

 彼女は今、いわゆる一目惚れという体験をしているところだ。

 ちなみに彼女の熱い視線の先にいる人物――霧島はというと、隣の安浦と何やら小声で話をしている。内容はまぁ、小倉先生って綺麗な方ですよね……とか、お前同じ国語科なんだから近づき放題じゃん羨ましいなコノヤロウ……とか、おおかたそういったところだろう。

 しかし小倉にとって、そんなことはどうでもいい。彼女の頭の中は現在、霧島の爽やかな笑顔とよく通る声に支配されきっているのだ。

「素敵……」

 こうして彼女の、ピュアな片想い(?)は幕を開けたのだった。


    ◆◆◆


 某高校の新入生の一人である藤山涼香は、姉である生徒会副会長・暖香譲りの涼しげで切れ長な目を静かに壇上へ向けていた。入学式の日、生徒会長が祝いの場に似つかわしくないほどやる気のない挨拶をさっさと終え、目にも鮮やかに去って行った光景は記憶に新しい。

 それからさほど経っていないこの日――四月某日は、新入生向けの部活紹介と委員会紹介の日だった。真新しい制服を着た同級生たちと並んで体育館に集まり、退屈極まりない話を聞く。もともと部活などにさほど興味を持っていないが、それでも利己的な涼香は、とりあえず内申のために何かしらはやっておいた方がいいだろう……とただ漠然と考えていた。

 まずは委員会説明からだという。委員長だという上級生が直々に、委員会の活動内容を説明していく。美化委員、図書委員、保健委員……などなど、しばらくお決まりのラインナップが続いた。

 保健委員……仕事とはいえ、誰かへの献身なんて御免だわね。図書委員は楽そうだけど、美化委員の方が内申的には強いかしら……。

 話を聞きながら頭の中でそんなことを考えていると、『次は風紀委員、お願いします』とマイク越しの声が聞こえた。風紀委員もいいかな……と思い、何気なく顔を上げた涼香は、次の瞬間衝撃に目を見開く。

 壇上に立った男子生徒は、きっちり着こなした規定通りのはずの制服が、まるで自身のアイデンティティとでもいうようによく馴染んでいた。引き締まった腕にはもちろん『風紀委員』と書かれたよく目立つ腕章をしているが、それさえも違和感なく見えてしまう。これが、ある意味では彼のカリスマ性なのだろう。

 白髪が混じっているのか、黒髪というより若干グレーに近い髪色をしているが、何故かそれさえも遜色ない。照明できらきら光るシルバーは眩しく、いっそう彼を奇妙に、しかし魅力的に引き立たせた。

 真ん中で分けられた、少し長めの前髪に、角ばった男性特有の綺麗な手がサラリと触れる。色気を感じ、思わず涼香は息を呑んだ。

『風紀委員長の、今井零です。我々風紀委員会は――……』

 カンペ通りの文言さえ、彼が口にすれば途端に自然なものへ変わる。抑揚のない部分のはずなのに、彼自身の意思がそこには十分すぎるほど込められているような気がした。

「綺麗な人……」

 思わず、呟いてしまう。

 涼香はもう、風紀委員会の活動内容など一切聞いていなかったし、その後の委員会紹介も一切耳にしていなかった。

 その後、(涼香の内心のみ)余韻も冷めやらぬ中……。

 引き続き行われた部活紹介で、件の彼――今井零は、先ほどとは打って変わって活動的なサッカーのユニフォームに身を包んでいた。聞いたところによると、彼はサッカー部主将でもあるのだという。

 サッカーボールを片手にユニフォームで立つ姿もかなりしっくりきていて、先ほどとは違う活動的な一面を見た涼香は、せっかく少し落ち着いていたところに新たな衝撃を受け、さらにくらくらしてしまった。

 ――あぁ、どうしよう。

 涼香の乙女心は揺れる。

 風紀委員とサッカー部を掛け持ちできないだろうか。でもサッカー部は男子だけだから、どのみちマネジャーしかできないか……あぁ、自分がもし男だったら、チームメイトとして彼にもっと近づけるのに!


 もどかしい気持ちを抱えたまま、全ての説明が終わり、教室に戻ってからも涼香は悶々していた。

 新入生はしばらくの間は早く帰れるので、ホームルームが終わるとすぐに放課になる。他のクラスメイト達が続々と帰っていく中、涼香はただ一人、自分の席で余韻に浸り続けていた。

「涼ちゃん、帰ろ……涼ちゃん?」

 他のクラスから、友人である男子生徒が二人やって来た。そのうちの一人――この時期はまだ男子の制服を着ているが、後に男の娘と化す校倉みことが、涼香に声を掛ける。

「おい、涼香? ぼうっとしているのは珍しいな」

 もう一人――この時期はまだ零の真似をしていないので、普通の髪形と格好をしている小山内出雲が、続いて声を掛ける。

 しかしそれでも、涼香は反応しなかった。

 ぼうっと虚空を見つめる涼香の目を、みことが覗きこむ。あっ、と小さく声を上げ、みことは嬉しそうに呟いた。

「さては涼ちゃん、誰かに恋しちゃったな?」

「こい……?」

 虚ろに、出された言葉を繰り返す。

 今まで経験がないが、噂には聞いたことがある。自分の心情と照らし合わせ、涼香はすぐに悟った。

 おそらく、そういうことなのだろう。

「……みこと、出雲」

「「何?」」

 そこでようやく、涼香は二人の友人を見た。不思議そうに自分を見る二人へ、涼香は意を決して口を開く。

「相談したいことが、あるのです」

 ――こうして涼香の純粋な、けれど少しおかしな片想いは幕を開けた。


    ◆◆◆


「はぁ……今日も霧島先生は素敵だったわ。でも、今日もあんなに一生懸命アプローチしたのに、全っ然手応えがなかったの。ねぇ大束くん、水無瀬くん……わたし、どうしたら霧島先生に女として見てもらえるのかしら」

「少なくとも、最近の小倉先生がだんだんストーカーっぽくなってきてることだけは確かですね」

「放っておくと大変危険です」

「ストーカーなんかじゃないわよ。ただ、あの人がいつどこで何をしているか、ずっと見ていたいだけ……わたしのいないところでどういうことをしているのか、誰とお話しているのか、気になって夜も眠れないの。そろそろ真剣に、監視カメラでも買おうかしら」

「やめた方がいいです。いくら優しい霧島先生でも、そこまでしたらさすがに嫌われちゃいますよ」

「そうよね……正論だわ。はぁ」

「うーむ。これ以上拗らせると大変だな……早急に手を打たないと」

 こうして今日も、小倉三和子は片想いを拗らせる。


    ◆◆◆


「あぁ、今日も零先輩は麗しいですね……」

「はぁ、鈴奈ちゃん可愛い……」

 現在は放課後。IRS(今井零親衛隊)改め、RRM(零・鈴奈見守り隊)の活動中である。

 壁に隠れて想い人を一心に見つめる涼香の、そしてみことの視線の先には、某高校の生徒会長と、その幼馴染である風紀委員長の姿。相変わらず彼女は嫌そうに、彼はからかったように、長い付き合いが為せる業ともいうべきテンポの良い会話を繰り広げている。

「あんた今日、このまま生徒会室に寄ってく気じゃないでしょうね」

「もちろん、寄らせてもらうに決まってるじゃないか。久しぶりに暖香嬢と杏里嬢に挨拶したいことだし」

「委員会か部活入れときなさいよ」

「毎日予定入れてたら続かないよ。今頃投げ出してることだろう。めんどくさがり屋で飽きっぽい鈴奈なんだから、こういう俺の気持ちがよく分かるだろう?」

「正論なのが悔しい……」

「そんなことより、カモミールティーはあるのかい」

「昨日暖香が買って来たわよ。悔しいことにね」

「ほう、それはありがたいことだ」

 どこか仲睦まじい様子(と言ったら、本人たちは間違いなく真っ向から否定してくるだろうが)で連れ立って歩いて行く二人の後姿を、相変わらず涼香とみことは熱っぽく見つめている。

「麗しい……」

「可愛い……」

「まったく、この二人も飽きないねぇ」

 その様子を、少し離れたところで出雲がやれやれと言ったように眺めていた。


 いつもの、某高校の光景である。

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