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生徒会と愉快な仲間たち  作者:
7:生徒会の結成
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33.鬼に金棒

元4話。よく考えたらこれも過去のお話だなぁってことで、過去篇に持ってきました。

新聞部メンバーの入学時のお話です。

 某高校新聞部。

 もともとあまり人気のない弱小部で、ここ十数年ほどは部員が一人もおらず、すっかり形だけの部になっていた。なぜ廃部にならないのか……それは、誰も知らない。あまりに不可思議すぎて、学校の七不思議の一つに認定されているくらいだ。

 その部が近年、再び注目を集めている。なんと十数年ぶりに新入部員が入り、活動を再開したというのだ。

 彼ら――部長の大束修と、副部長の水無瀬友哉は、主に生徒会のスクープを狙っている。何せ活動内容のほとんどを『生徒会役員追跡』に充てているぐらいだ。その執着ぶりには、周りも脱帽せざるを得ないだろう。

 そんなわけで――本人たちは全く知らないが――今や新聞部は、生徒会とともに一目置かれる部活となっている。


 さて。そもそも、新聞部の二人が生徒会に興味を持ったのは、一体いつだったのか。

 それは、ある年の入学式。彼らが某高校の生徒となった日まで遡る。


    ◆◆◆


 その日、某高校は華やかに飾られ、賑わっていた。

 校門前には桜の木がいくつか植わっていて、時折薄紅色の花びらがはらはらと風に乗って降りてくる。その下で、真新しい制服に身を包んだ新入生たちは、それぞれ緊張した面持ちだったり能天気だったりと、様々な表情を浮かべていた。

 もちろん、保護者も一緒だ。彼らは色とりどりのスーツや着物をバッチリ着こなしていて、今回の主役であるはずの新入生たちよりも気合が入っているのが一目でわかる。遠目からでも非常に目立つのだ。

 そんながやがやとした場所から少し離れたところに、同じ風に真新しい制服を着た二人の少年が立っていた。

「……いやはや。さすがの天才少年といわれるこのボクでも、少し疲れてしまったよ」

 そのうちの一人――眼鏡をかけた、男子にしては少々小柄な少年・大束修が、腕で汗を拭うような仕草をしながら言った。

「いやいや……別に、天才少年とか関係なくない? 天才でも馬鹿でも、疲れるものは疲れるんだから」

 彼の隣にいたもう一人の生徒――色素が薄い髪色の、柔和な顔つきをした少年・水無瀬友哉が、苦笑しながら突っ込みを入れた。

「何を言うんだい、天才少年は滅多なことでは疲れないんだよ。……はぁ。それにしても、人が多いね」

 辟易したように修が言う。友哉は胸ポケットから茶色の手帳を取り出すと、それをぱらぱらと開き、書かれた文字を目で追いながら答えた。

「事前に仕入れた情報によると、この学校は毎年生徒の数が多いそうだよ。何せ学年ごとに十以上のクラスができるほどだから……新入生だけでこんなに多いんだから、全校生徒が揃ったら一体どうなる事だろうね」

 その情報量の多さに、修は目を丸くした。

「おぉ、友哉君。既に情報はしっかり掴んでいるんだね。さすがは、地味な外見を利用してこっそり情報収集をするのが得意なだけある」

「地味って言うな!」

 修の『地味』発言が癇に障ったらしく、友哉がじたじたと暴れる。怒っているようだが、その顔つきと動きのせいであまり怖くはない。

 そんな友哉の様子を見ながら、修は愉快そうに笑った。

「ははは……いいじゃないか、本当のことなんだから」

「むぅ……まぁいいや、ところで修。ちょっと気になる情報を得たんだけれど」

「ほぅ、何だい?」

 友哉の『気になる情報』という言葉に、修の眼鏡がきらりと光った。

「詳しく聞かせてもらおうじゃないか」

「うん。えーとね……」

 再び茶色の手帳をめくりながら、友哉が答える。

「あ、あった。これこれ」

「どれだい。一人で納得していないで、早くボクにも聞かせておくれよ」

 焦れたように足踏みをする修。「そんなに慌てるなよ」と友哉が苦笑する。

 そして友哉は自分の手帳のあるページを開いたまま、そこに書かれた文章を指でなぞり、声を潜めて言った。

「この学校の生徒会は、最強だっていう噂があるんだ」


    ◆◆◆


 そうこうしているうちに、入学式の時間になった。各々新しく決められたクラスへと行き、出席番号順に並ぶ。

 修と友哉は同じクラスではなかったものの、隣同士のクラスになった。並び順により、入学式で座らされる位置も自然と隣同士になる。

「やぁ、また会ったね。友哉君」

「そうだね。おかしな偶然もあるものだ」

 そんな風に話しながら、二人は入学式が始まるまでの時間を過ごした。

「ところで友哉君」

「何?」

「さっき君が言っていた『噂』だが……一体どういうことなんだい?」

 眉をひそめ、怪訝そうに修が尋ねる。友哉は「よっぽど気になっているんだね」と困ったように笑った。

「残念ながら僕にも詳しい情報はわからないんだ。実際に、その目で確認するしかなさそうだ」

 そこまで友哉が言ったところで、向こうから『新入生、入場』の声がかかる。同時に、長く続いていた行列がぞろぞろと動きだした。それを見て、やば、と友哉が声を上げる。

「そろそろ行かなくちゃ。じゃあまたね、修。会場で会おう」

 早口で告げると、友哉は流れに続いて行ってしまった。


 ――その後、修も列の流れに続いて体育館へと入る。

 そこは他の学校と比べてもやたら広々としていた。傍らに並んでいる教師の数も通常より多い。さすがは生徒の数が多いだけあるな、と妙に納得させられた。

 他の生徒に続いて自分の席に辿り着くと、隣には既に友哉が座っていた。「やぁ」と小声で簡単に挨拶を交わし、自らも椅子に腰を下ろす。それから後に続いていたクラスの生徒たちも、続々と椅子に腰を下ろしていき……たっぷりと時間をかけてようやく全員が揃うと、入学式は厳かに始まった。

 開会の挨拶に始まり、校長の話や来賓の方々の話などが続く。

 この辺りの人間というのはやたら長話が好きで、祝いに関係あるのかないのかよく分からない話を延々続ける。入学式や卒業式という行事の、一番きついポイントだ。

 新入生は主役であるため、いちいち立ったり座ったりという動きが多い。少しでも遅れると目立ってしまうので、ここで気を抜くことは本来いけないことなのだが……。

「……くぅ、くぅ」

 あちこちから寝息が聞こえてくる。みんな長々と繰り広げられる話をBGMにしながら、眠ってしまったようだ。ちらりと修が隣を見ると、友哉もほかの生徒と同じように、すっかり夢の中へと旅立っていた。

 しかしそれでも修は終始変なプライドを発揮し、絶対に寝るまい、と心に念じながら、押し寄せる眠気と必死で戦っていた。

「――というわけで、以上を持ちましてお祝いの言葉とさせていただきます」

 三人目の来賓――確か、何とか会の会長とか言っていた――の話が終わり、『続きまして、歓迎の言葉』というアナウンスがかかる。ようやく長い話のスパイラルが終わったか……と、修は安堵した。

 同時に、爆睡している隣の友人を揺り起こす。

「友哉君。長話は終わったよ」

「ん……次は?」

「歓迎の言葉、だと」

 今までうとうとしていた友哉が、その一言で勢いよく顔を上げた。

「どうしたんだい、いきなり覚醒して」

 びっくりしたように修が声を漏らす。友哉は前を見つめたまま、

「わかってないな、修は。歓迎の言葉っていうのはね、大体生徒会長が出てくるんだ。ということは、噂の……あの最強と噂の、生徒会のトップにとうとうお目にかかれるってことなんだよ。覚醒ぐらいするさ」

「おぉ、そうだった!」

 修も背筋をピンと伸ばし、前を見つめる。

「最強生徒会のトップ……一体どんな人間か、じっくり見せていただこうじゃないか」

 二人が息を呑んで見つめる中、『在校生代表、中村鈴奈』というアナウンスとともに、一人の女子生徒が壇上に現れた。

 まるで大和撫子のように、和服の似合いそうな少女だった。濃い茶色の髪は上半分がリボンで束ねられ、そのまま背中に流れ落ちている。それは彼女が歩くたびにさらりと揺れて、さらに少女の可憐さを際立たせていた。

「綺麗な子だね……」

 友哉は思わず、ほぅ……とため息をついた。修もうむ、と素直にうなずく。

 だが……修は少女の姿を改めて頭から足まで眺めると、少しばかり顔をしかめた。

「しかし……服装が、あまりよくないな」

 そう。彼女の服装は……全校生徒の見本というには、少々見苦しいものだったのだ。

 友哉もまた、彼女の制服を見て眉をひそめる。

「確かに、式典なのに……制服がだいぶ着崩されてるね」

「そうなんだよ。教師からは何も言われなかったのだろうか」

 友哉と修が怪訝そうにこそこそと話す。

 そうこうしているうちに、少女は飾られた国旗と校旗に申し訳程度の礼をし、マイクの置かれた台までたどり着く。そして台の上に両手を置くと、周りに視線を投げかけるようにしながら、独特の間を取り――とうとう口を開いた。

『えー、みなさん。ご入学おめでとうございます。これからの高校三年間、色々なことがあるでしょうけど……まぁ、頑張ってください。以上』

 ……何とも適当な感じでそう告げると、とたんに少女は口をつぐんでしまう。そして周りがシンと静まる中、用件はもう済んだとでも言わんばかりに、堂々と壇上を去っていった。

 修も、友哉も……周りの新入生たちも、並んでいた教師たちも、来賓たちも、司会すらも……とにかくその場にいた人間たちは皆、そのあまりにも堂々とした彼女の姿をただポカンと見つめていた。

『え、ちょ……会長? もう、終わりですか』

 司会の困惑したような声が響く。

 少女はその問いかけを完全に無視して壇上から降りると、端っこに控えていた別の少女二人――背の高い栗色ショートヘアの少女と、長い黒髪を三つ編みにした小柄な少女――を引きつれて、颯爽と体育館を出て行ってしまった。

 一人の教師が、慌ててそれを追いかける。

 入学式には普通ありえないそんな光景を、修と友哉はただ呆気にとられたように見つめていた。


    ◆◆◆


「――おい中村、ちょっと待て。あのスピーチは一体何なんだ!? 服装も乱れているし……お前、式典をなめているのか!」

 体育館を出てすぐのところで、三人はあっさりと教師に捕まった。がっしりした体格の教師は三人の行く手を阻むかのように立ちふさがると、早速説教の体勢に入る。

 それにもかかわらず、説教の的となっている女子生徒――生徒会長・中村鈴奈は全く悪びれた様子もなく、むしろどこが悪いのかというふうに開き直った態度を取っていた。

「別にいいじゃん。わたしだって本当はこんな面倒くさいことしたくないんだよ。さっさと終わらせて遊びたいわけ。……むしろ、わたしがこうしてわざわざ来たことを褒めてほしいぐらいだよ」

 鈴奈はいい加減うんざりだ、というようにため息をついた。

「そうよ、鈴奈の言う通りよ」

 それに続けて、鈴奈の右隣にいた、背の高い栗色ショートヘアの女子生徒――生徒会副会長・藤山暖香が口を開く。

「というか逆に聞きたいんだけれど、入学式や卒業式なんて、わざわざする必要あるのかしら? 私、ずっと疑問に思っていたのだけれど」

「だよねー、あたしも思ってた」

 同意するように、鈴奈の左隣にいた、長い黒髪を三つ編みにした小柄な少女――生徒会書記・早川杏里も声を上げた。

「ただ、ある時期からこの学校に通うことを約束されて、三年経てばその義務から解放される。それだけでしょ? そんなの紙切れ一つでどうにかなるじゃん。わざわざ式典なんて上げなくても……って思うな。特に入学式なんて、本当に必要あるのかな。だってアレ、在校生出席しないじゃん」

 杏里の言うことはもっともだ、というように、鈴奈と暖香がうなずく。

 その堂々とした言いっぷりに、教師もぐっと押し黙る。が、ハッと我に返ると首を横に振り、再び怒鳴った。

「へ、屁理屈をこくんじゃない! 大体何で藤山と早川までここに……」

「あーもう、まどろっこしいな。終わったんだからもういいだろ」

 ドスの利いた声が、教師の言葉を遮った。思わずびくり、と教師が震える。

 声の主――杏里は先ほどまでの穏和な表情から一変し、鋭い目で教師を睨みつけていた。

「あーあ……いつまでもグズグズしてるから、杏里が切れちゃったよ」

「杏里、さっきからずっとお腹すいたって言ってたし……これは相当ご立腹ね。どんまい、先生」

 鈴奈が苦笑し、暖香がわざとらしく身震いする。

 やばい、怒らせた……と焦りを覚えながら、教師は一歩一歩後ずさる。それでも杏里(空腹モード)は容赦なく、腕を組んだ状態でじりじりと教師に詰め寄っていった。

「あたしはね……もう限界なの。早くしねぇとどうなるか、わかってるよな?」

「あー……わかった。わかったから、もう行っていい」

 前みたいに『食べ物はどこだー』って大暴れされるのは御免だ……と半泣きで呟きながら、教師は杏里をどうにかなだめた。

「ホント? ありがとっ♪」

 許しの言葉が出たとたんに、杏里はいつもの無邪気な笑顔に戻った。

「じゃあ行こっか。鈴奈、暖香」

「う、うん……」

「えぇ……」

 鈴奈と暖香は若干引き気味に答えた。

 教師が足早に体育館へと戻っていくのを確かめてから、三人は行こうとしていた道を抜けて、今度こそ出て行った。


「――全く、何度見ても……」

「この変わりようには慣れないわ……」

「二人とも、何か言った?」

「「な、なんでもないです!」」

「なんで敬語?」


    ◆◆◆


 ――その後、しばらくして体育館へ戻ってきた教師は、ひどく顔色が悪かった。

「一体、何をされたのだろう……」

 遠目から様子を見ていた修がポツリと呟く。

「なんだか、怖いね。やっぱりあの噂は本当だったんだ」

 おぉ怖、と言いながら友哉は身震いをする。

「修、あんまり生徒会には関わらない方が……ってあれ?」

 隣を見た友哉は絶句した。修の目があまりにも爛々と輝いていたからだ。

 友哉は嫌な予感がして、恐る恐る尋ねてみた。

「しゅ、修……まさかとは思うけど、あの生徒会に興味持っちゃったりとか、した……?」

「そのまさかだよ」

 当然といったように答えた修は、クイ、と眼鏡を持ち上げた。唇の端を持ち上げ、不敵に笑う。

「ボクと一緒に、生徒会を追う気はないかい。友哉君」

 まぁ、ないと言っても無理やり付き合わせるけれどね。覚悟しておきたまえ。

 友人の宣言に、友哉は頭を抱えたくなった。

「グッバイ、僕の平和な日常……」

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