友哉×暖香
さぁ、お次の犠牲者は友哉と暖香。何気にこの二人も絡みが多いです。
前2組と同じく2篇書こうとしたんですが、長くなったので1篇だけにします。以前からこの二人で考えてたシチュです。何となくWIM風。
一緒にいる時にはいつも、水無瀬友哉は私より数歩後ろを歩く。
地味で存在感がないことをコンプレックスだと口では言いながらも、同時にそのことをステータスにして――本人に意図があるのかどうかについては、明らかではないのだが――周りの情報収集なぞやっている。なかなかに狡賢い後輩だ。
「副会長」
「……あぁ、そういえばいたのね。忘れていたわ」
おずおずと声を掛けてくる彼に、前を向いたままわざと軽口を叩いてやれば、「ひどいっ」と泣きそうな声を上げた。きっとまた、情けない顔をしているのだろう。相変わらず反応が面白く、からかいがいがある。
思うに、私たちにはこの距離感が一番合っているのだ。つかず離れず、互いにとって何かしらの得があれば、それでいい。それはうちのなまくら生徒会長の基本的な考え方に、少し似ているような気がする。
けれども、こんな距離感にもどかしさのようなものを、たまに感じることがあったりなかったり……コホン、とまぁそれはさておき。
「用件があるのなら早く話しなさい。私の中からアンタの存在が完全に消える前に」
「今サラッとものすごい暴言吐きましたよね!? ……まぁ、いつものことだから別にいいけど」
はぁ、と溜息を吐いて、水無瀬は立ち止まった……ようだった。
それからすぐに、いきなり前触れもなく、すたすたと歩いていた私の手がグイッと後ろに引かれる。
「っ!?」
突然のことに驚いて、思わず息を呑む。とんっ、という軽い音とともに、私の背中に温かなぬくもりが当たった。
顔を上げればぶつかりそうなほどの近い位置、視界の僅か斜め上に、サラリと明るい茶髪が過ぎる。思いがけず後ろから抱き寄せられる形になっていて、私は柄にもなく狼狽してしまった。
「なっ、な、何を」
「赤信号ですよ、藤山副会長」
耳元で、生温い吐息といつもより低い声が響いた。
いつも地味だとか影が薄いだとか、そんなことを言われているような人間のものとは到底思えないほど、その声は私の中でじわじわと存在感を増していく。
ゆっくりと前を見ると、車が走っている。どうやら、横断歩道をそのまま渡ろうとしていたらしい。私としたことが。
「気を付けてくださいね?」
「……っ」
気遣うような声で囁かれ、緩やかな拘束がほどける。後ろを振り返ると、何故かきょとんとした水無瀬と目が合った。
「副会長? どうしたんですか」
顔……真っ赤ですよ。
離された時に思わず感じてしまったことと、水無瀬からの指摘に、さらにじわじわと羞恥が込み上げてくる。
「だっ、黙りなさいこの地味男!」
「とうとう気にしてることを直接罵倒された!!」
どうせ僕は地味だよぉぉぉぉぉ、といつものように頭を抱えた水無瀬から顔を逸らし、私は熱くなった頬をどうにか冷ませないものかと一人思案した。
図らずも、この私がこんなにもドキドキさせられるなんて。やはりこいつは、狙ってやっているのではないかと疑ってしまう。
今まで知らなかった、気付こうともしなかった、彼の異性としての側面を、わざと見せつけられたような気がした。
それに……。
――もう少し長く、近くにいたかった、なんて。
今日の私はきっと、疲れて頭がおかしくなってしまったのだ。そうに違いない。そうじゃなきゃ、おかしい。
抱えた手の隙間から、まるで慈しむかのように、愛おしそうにこちらを見つめてくる彼の優しい視線に、この時の私は気付いていなかった。




