修×杏里
次の犠牲者は、何となく公式っぽい雰囲気もなくはない修と杏里。
冬のほのぼのデート話と、小悪魔杏里にがっつく修のちょいエロ?話の二本立てでお送りします。
ちらちらと、白い雪が空から降ってくるのが見える。道理で寒いはずだねぇ、なんて隣に立っていた杏里先輩がほのぼのと言った。
「ほら、こんなに息が白いよ」
はぁ~っ、と真っ白な息を吐き出して、杏里先輩は屈託なく笑う。寒さのせいか、幼さを多分に残した頬が赤く上気していた。
「修くん、」
呼ばれてそちらを見下ろせば、手袋をしていたはずの小さな手がむき出しになったまま、こちらに伸びている。ボクは思わず首を傾げた。
「杏里先輩、手袋はしなくていいんですか」
嫌いなのはわかりますが、手が冷えるといけないでしょう。
そう言ったボクに、杏里先輩はゆるりと、何故か頬を緩ませながら首を頬に振った。
「いーの。ほら、修くんも取って」
言われるがままに、自分もしていた手袋を片方取る。刺すような冷たい空気が、無防備に晒された手を容赦なく貫いた。
「つめたっ……」
「ほら、こうすればあったかいよ」
何も纏わない互いの手同士を、絡め合わせて密着させる。杏里先輩の手はひんやりと冷たくて、けれど合わせ続けてたらだんだんと温かさが復活していくのが感じられた。
この僅かな温もりが、幸せだなぁ……なんて柄にもないことを思う。
「えへへっ、修くんの手あったかぁい」
嬉しそうに笑う、彼女の手ごとジャケットのポケットに突っ込んだ。大きな目をぱちくりさせる杏里先輩に、にっこりと笑ってみせる。
「こうしたら、もっとあったかいでしょう」
驚いたような顔をしていた杏里先輩は、ボクの言葉に花咲くような満面の笑みを見せた。ぴょこぴょこと飛び跳ねんばかりの勢いで、「修くんあったまい~!」なんて無邪気に言われたら、もちろん悪い気なんてしない。
ポケットの中で互いに手を繋ぎあったまま、ボクたちは歩き出す。積もり始めた雪が、足元でしゃくしゃくと音を立てた。
「ねぇ杏里先輩、コンビニ行きましょうか」
「うんっ。また、肉まん買って一緒に食べようねぇ」
「今日はボクが奢ります」
「ホント? やったぁ」
彼女が傍にいてくれれば、それだけで凍てつくような寒さも、不思議と気にならない。
そんな幸せを噛み締める、ある冬の休日。
◆◆◆
大きな手があたしの肩を押した、と思ったら、背中にぽふり、とベッドの柔らかな感触。三つ編みを解いた自分の長い髪が、ふわりと視界の端で広がるのが見えた。
目の前には天井と、いつもより近い彼の顔。それでようやくあたしは、目の前のこの人に押し倒されたのだと気付く。獲物を前にした獣みたいな表情とは裏腹に、あたしに触れるその手つきはあんまりに優しすぎるから、とっても切ない気持ちになった。
「修くん?」
「……杏里、せんぱい」
せんぱい、だなんて。
取ってつけたように言わないでよ。あたしのこと、恋人みたいに呼び捨てたいんでしょ、ホントは。
「無防備って罪なんですよ」
「なに、が」
彼が言わんとすることを、知っていながらわざと惚けるなんて、あたしもなかなか酷い子だと思うんだけど。
でも、そんなことをしてでも、どうしても見たかった。いつも淡白な彼が、あたしを全力で欲するのを。
彼の、雄の顔を。
「ボクだって、男ですよ?」
「……うん」
「分かってるのかな、ホントに」
わかんないわけないでしょ。そんなにあたし、アホじゃないもん。
挑発するように笑ってみせれば、修くんの顔がくしゃりと歪んだ。そんなに我慢しなくたって、葛藤しなくたって、いいんだけどなぁ。
だってあたし、修くんになら……。
「……杏里」
低い声で、あたしの名前を呼んで。彼は、大きな黒縁の眼鏡を外す。その瞬間がたまらなく色っぽくて、好きだと思う。
「しゅーくん」
首に腕を回して抱き寄せたら、耳元で彼の息を呑む音が聞こえた。
「……知らないから」
そんな呟きの後、首筋にそっと口づけられる。ぶるりと、身体が震えた。




