表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生徒会と愉快な仲間たち  作者:
5:生徒会長の天敵
28/44

22.喧嘩するほど仲がいい

引き続き、胡散臭いと評判の(←何処で)今井零が登場。生徒会+零メインで、最後にちょろっと新聞部も登場します。

鈴奈と零の間には、何やら特別な関係があるとかないとか…?

 いつもの芳香に混じって、むわり、と独特の匂いが漂う。嗅ぎ慣れないそれに、来客用ソファに腰かけて珈琲を飲んでいた生徒会副会長・藤山暖香は細い眉を僅かにしかめた。

「やっぱり、慣れないわね……この匂い」

「でも暖香。カモミールティーには、リラックス効果があるんだよ」

 その向かいのソファに座っていた生徒会書記・早川杏里は、ココアを啜りながら、イラついた様子の暖香をなだめるようにのんびりと薀蓄を垂れた。

 その空間を割くように、先ほどからトントントン、と苛立たしげな音が断続的に響く。

「そうそう」

 同意するように、杏里の隣に座っていた来客――風紀委員長・今井零がうなずいた。

 トントントン……。

「だから鈴ちゃんも、そんな顔しないで」

 トントン……トン。

「鈴ちゃんって呼ぶなって、何回言えば分かるの。このスカポンタン」

「「スカポンタン……」」

 目を丸くしながら、暖香と杏里が振り向く。二人の視線は、『生徒会長』と彫られた黒曜石の置かれたデスクと――そこに座った鬼のような形相の少女・中村鈴奈へと注がれていた。いつも無気力な瞳が爛々と、この生徒会室では異分子とも呼べる存在の零を忌々しそうに睨んでいる。先ほどから続いていたトントントン、という音の正体は他でもない、彼女が人差し指を机に叩きつける音だ。

 杏里が立ち上がり、さりげないように暖香へと近づいた。あたかもじゃれているかのようにその首へ両手を回すと、鈴奈や零に聞こえないよう、耳元で小さく言う。

「鈴奈、機嫌悪いね。いつもの暖香以上に毒舌だし」

「いつもの私以上、は余計だけど……確かに、あんなに特定の誰かに暴言吐く鈴奈も珍しいわ」

 いつもなら、特定の誰かに興味を持つことすらほとんどない鈴奈だ。それも気に入るならまだしも、あんなに毛嫌いする人間がいたとは。

「第一、カモミールティーを好んで飲むなんてこと自体がおかしいのよ。ちょっと病院で診てもらってきた方がいいんじゃないの」

「嫌だなぁ、何を言ってるのさ。俺がカモミールを好むのは、昔からじゃないか」

「だから腹が立つの。いっつもいっつも、鼻につく匂いを身体中に充満させて……そのうえ、わたしのテリトリーであるこの場所にまで、その鬱陶しい匂いを持ってこないでくれる?」

「いいじゃないか。人の好みをどうこう言う資格は、誰にもないよ。君だって、好きなものを否定されたら傷つくだろう」

「それはそうだけど……」

「ほら、納得した」

「あー、また論破された。腹立つ!!」

 なんだかんだでテンポのいい二人の応酬を聞いているうちに、杏里はある違和感に気付いた。至近距離で力ない苦笑を浮かべている暖香に、またこっそり尋ねてみる。

「……ねぇ、暖香」

「何」

昔から(・・・)って……どういうことだろうね」

 んー、と暖香は少し考える仕草をした。

「第一、今日は一体何の用でこの生徒会室に入り浸っているわけ。くだらない理由なら、生徒会長命令で今すぐ出て行ってもらうわよ」

「ひどいなぁ。俺はただ、生徒会の皆さんとティータイムを楽しみに来ただけなのに」

「委員会は? 部活は?」

「委員会の仕事はもう片付けたし、サッカー部は今日から部禁」

「あぁ、テスト二週間前……早すぎるでしょ。何でサッカー部だけ二週間も前から部禁なの。他の部活は普通一週間前とか、ひどいとこだと三日前とかなのに」

「うちの部は平均点があまりよくないからね。顧問と相談して、部長であるこの俺が決めさせてもらったよ」

「生徒会と何の相談もなしに? ふざけんじゃないわよ」

 相変わらず会話を続けている、機嫌悪そうな鈴奈と、怪しさ満点の笑みを浮かべている零。そんな二人をチラチラと見ながら、暖香は珍しく遠慮がちに口を開いた。二人に聞こえないよう、杏里の耳元で手を添えると、慎重に囁く。

「あの二人、どうもね……」

 根本的なところを言いかけたところで、誰かの携帯電話からバイブ音が鳴った。チッ、と舌打ちしながら、鈴奈が椅子に掛けていたブレザーのポケットを漁る。どうやら、鳴ったのは鈴奈の携帯らしい。

 取り出した携帯を幾度か操作した鈴奈は、ますますその眉間に皺を寄せた。「どうしたの?」と問う零に、ちょいちょい、と手招きする。

「鈴奈がこっち来ればいいのに」

「黙れ」

 抗議(?)をものの見事に一喝された零は、見守っていた杏里と暖香へチラリと視線をよこすと、仕方ないなというように肩をすくめてみせた。

「ホント、腰が重いなぁ。いつからそんなになっちゃったんだか」

「うるさい。いいから、早く来て」

「はいはい」

 鈴奈の手招くままに近寄り、彼女の携帯を覗き込む。

「ちょうどいいタイミングで、あんたの母親からメールが来たよ」

 どうやらメールの送り主は、零の母親――前生徒会顧問で、ずいぶん前に退職した元教師の今井琴子らしい。鈴奈はもちろんのこと、暖香や杏里、また他の生徒たちの大半は、この教師を快く思っていなかった。息子である零でさえも、あまり好きではないと漏らしていたくらいである。

 母親が鈴奈に送ってきたメールの内容を読んだらしい零は、顔を上げた後、ハハッ、と声を上げて笑った。そのリアクションにまた神経を逆なでされたのか、鈴奈が少々乱暴に言葉を吐く。

「ホント、今井ちゃんと零って、こういう図々しいとこばっかりそっくりなんだから!」

 何で零はこんなに学校内で人望が厚いのか、分からないよ。

 やれやれ、と言ったように鈴奈が幾度も首を横に振る。それに対して零は、同調するように首を縦に振ってみせた。

「俺自身、そう思うよ」

「今井のおじさんは、いい人なのに」

「俺の人望は、父さんに似たんだね」

「そこだけね」

 ふん、と鼻を鳴らす鈴奈。それから再び携帯電話の画面をチラリと見て、はぁ、と小さく溜息を吐いた。

「……で、今日はおじさんも今井ちゃんも遅くなるから、うちで飯を食わせてやれと」

「そういうことみたいだね」

「今井ちゃんも教師辞めたんなら、おとなしく専業主婦やってればいいのに……何でまた、パートなんて始めちゃうかなぁ」

「あの人は根っからの仕事人間だから、仕方ないよ」

「はぁ……否定は、しないけど」

「まぁそういうわけで。今夜はよろしくね、鈴ちゃん」

「だから鈴ちゃんって呼ぶんじゃないって何度も……」

「はいはい、分かってるよ」

 鈴奈が怒鳴ろうと零の方を向いたところで、零はそれをかわすようにさらりと身を翻らせた。そのまま身軽そうに出口へと歩いていくと、三人に向けてひらり、と手を振ってみせる。

「じゃあ、今日はこの辺で失礼するよ。諸君、また会おう」

「あ……う、うん」

「お、お疲れ」

「もう来んな」

 杏里と暖香の戸惑ったような返事と、相変わらず険のある鈴奈の言葉を背に、零は颯爽と生徒会室を後にした。

「……」

「……」

 二人して、鈴奈へ視線を向ける。相変わらず、その眉間には深いしわが刻まれていた。落胆したような、怒っているような、不機嫌そうな低い声でぶつぶつと呟く。

「今日は、あいつと夕飯一緒か……母さん、やけに零のこと気に入ってるからな。夕飯、相当気合入ってるんだろうなぁ……」

 その後、帰る時間になっても鈴奈の機嫌はしばらく直らなかったとか。


    ◆◆◆


 一方、生徒会室がある校舎とは反対側の、一番隅っこに位置する教室――新聞部部室では。

「中村鈴奈と今井零が、幼馴染だって?」

 今日の部活動を終え、帰りの支度をしていた新聞部部長・大束修は、そう言って目を丸くした。

「うん。調べてみたところ、どうもそうらしいんだ」

 既に帰り支度を整えていた新聞部副部長・水無瀬友哉が、愛用の茶色い手帳を開きながら穏やかな笑みを湛えて答える。

 いつも通り生徒会の偵察に向かった帰りの道すがら、急に友哉が「最近分かったことが一つ、あるんだ」と重々しげに言い出したので、修は密かに何事かと心の準備を整えていた。が……まさか、そんな予想外のことが彼の口から飛び出すとは。

 確かに今日の放課後、こっそり盗み見た鈴奈と零に対して、妙に互いのことをよく知っているなと引っかかりを覚えはしたけれど……。

「まぁ、でも」

 不思議そうな表情を浮かべる修に対し、友哉は妙に納得したような顔をしていた。「何だい?」と修が問えば、一つうなずいて再び口を開く。

「あの二人って、何か雰囲気とかよく似てるし。長年一緒にいるって言われても、あぁそうなんだ……って気はする」

「ふむ……まぁ、言われてみればそうだね」

 こくり、と修も同じように頷いた。

「まぁ、中村会長が聞いたら確実に怒るだろうけどね」

「確かに」

 ハハッ、と二人で笑い合う。

「いや、でも……これはなかなか面白い情報を手に入れたものだね。天晴だよ、友哉君」

「それはどうも。……でもまぁ、新しいスクープとして公にはできなそうだ」

「中村会長の逆鱗に触れそうだしね」

「うん。こればっかりは仕方ない」

「下手に怒らせて、新聞部を消されても困るからねぇ」

 うなずき合いながら、二人は荷物を背負う。

「じゃあ、帰ろうか」

「そうだね」

 出入口のドアを開ける。その時サッ、と何かが視界の端を横切ったような気がしたが、一瞬のことだったので二人はあまり気に留めなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ