19.雨降って地固まる
霧島と小倉が仲違い(?)する話。冒頭のみクリスマスで、あとは年明けです。
一応、オールキャラ登場してます。
とっぷりと陽が落ちた、十二月二十四日の夕方のこと。
某街で一番大きな規模を誇るタワーはクリスマスカラーにライトアップされており、その周りではたくさんの人――それは初々しく若い男女の二人組だったり、おっとりとした雰囲気の老夫婦だったり、集団でワイワイ楽しむ学生たちだったり、ポツリと一人っきりでたたずむ独身と思しき大人だったりと、様々である――が、それぞれの思いを胸に、思い思いのクリスマスイブを過ごしている。
そんな中、ライトグレーの細身のコートに身を包んだ、色素の薄いショートカットの女――小倉三和子は、存在感のある明るいタワーには目もくれず、ただひたすらに、隣でたたずんでいる連れの男の顔を盗み見るように横目で眺めていた。
今日ようやくデートに誘うことに成功した男――勤務先である某高校での同僚教師である霧島慧は、こちらの気などまるで気にも留めていないかのように、ほわほわと笑いながら「街もすっかりクリスマスカラーですねぇ」などとのたまっている。
ライトに照らされた笑みは見惚れてしまうくらいに爽やかで綺麗だけれど、彼の極端なまでの鈍さには時々苛立ってしまうことがある。きっと今日だって、デートとは露ほども認識していないままの状態でここにいるのだ。
だけどそれでも、彼の爽やかで無邪気な笑顔を見ているだけでほだされてしまい、何でも許せる気になってしまう自分は、ほとほと馬鹿で単純なのだろうと思う。
「あ、見てください小倉先生!」
霧島がタワーの方を指さしながら、弾むような声を上げた。小倉はつられるように、何気なくそちらへ視線をやる。そして、思わず吐息にも似た声を上げた。
「うわぁ……」
暗がりの空から、ちょうど雪が降り始めるところだった。ちらちらと音もなく落ちてくる白い粉にも似たそれは色とりどりのライトに照らされ、闇にぼんやりと浮かぶタワーと共に幻想的な雰囲気を作り出す。
「綺麗ですね」
「そうでしょう」
感じたままのことを口にすれば、返ってきたのはふにゃりととろけた笑顔と、どこか誇らしげな相槌。それがまるで母親に褒められた子供のようで、なんだか可愛らしかった。
タワーを見つめる横顔に見惚れ、ぼうっとそちらを見ていると、不意に霧島がこちらを見た。至近距離で目が合い、顔が徐々に熱くなっていくのが分かる。
「小倉先生」
彼の言動に、他意はない。そんなこと、今までの経験からとっくにわかっていたはずなのに。
「今日、こんな綺麗な景色を先生と一緒に見られて……俺、とっても嬉しいです」
それでも、期待してしまう自分が憎い。心臓を、馬鹿みたいに高鳴らせてしまう自分が憎い。
「今日という日こそが、今年一番の想い出ですよ!」
だけど……それ以上にわたしは、あなたが愛おしい。
愛おしさとか切なさとか、そういうので一気に胸がいっぱいになって、目の前が徐々にかすんでいく。
「ど、どうしました!? 俺、何か気に障るようなこと言っちゃいましたか!?」
慌てたような様子の霧島に、小倉は目に涙を浮かべながら首を横に振る。喉が詰まって、とっさに言葉が出そうにない。
だけど、言いたい……。
「霧島、先生」
嗚咽混じりに名を呼べば、わたわたしていた身体の動きをピタリと止め、どうしました? と無邪気に首を傾げる。そんな霧島に、ほぼ吐息で構成されているであろう小さな小さな声で、囁いた。
「好き……」
霧島は一瞬目を見開いたかと思うと……ふんわりと、心から嬉しそうに微笑んだ。
◆◆◆
「慧ちゃんさぁ……そりゃあ、三和ちゃんも怒るに決まってるって」
年明け、某高校二階の大職員室隣に位置する生徒会室にて。
来客用ソファで小さくなっているスーツ姿の男性教師――霧島に、自分の席で彼の話を聞いていた三つ編みの女子生徒――生徒会書記・早川杏里は、心底呆れたような視線を向けた。
今、この部屋には珍しいことに霧島と杏里の二人きりだった。本来ならばあと二人くらい女子生徒がいるはずなのだが、その二人――生徒会長と副会長は、現在生徒会補助の教師と共に別室で雑用をしている(というか、させられている、と言った方が正しいかもしれない)。
目だけを杏里に向けながら、むぅ、と拗ねたように霧島は唇を尖らせる。
「何でぇ?」
「だってさぁ……」
普段は見せない軽蔑のまなざしと共に杏里が口を開きかけたところで、ドアの向こうからちょうど話し声が聞こえてきた。
「――お疲れ様。二人とも、今日はありがとね」
「あぁ、面倒くさかった。なんでわたしがこんなことしなきゃいけないの」
「当然でしょ。私がいつもあんたに押し付けられてる仕事なんだから、たまには自分でやりなさい」
「ハハ、相変わらず手厳しいな藤山は。……じゃあ、俺はここで」
「うん。バイバイ、安浦センセ」
「お疲れ、安浦」
刹那、ドアの開く音と共に二人の女子生徒が入ってくる。思わずといったように、霧島と杏里はそちらへ顔を向けた。
いつも通り生徒会室に戻ってくるなり、二人して深刻な顔でじっとこちらを見てくるものだから、女子生徒二人――生徒会長の中村鈴奈と副会長の藤山暖香は、一瞬キョトンとしてしまった。
「……杏里に霧島センセ? 二人が揃ってここにいるなんて珍しいね」
「しかも、二人して辛気臭い顔しちゃって……何かあったの?」
杏里はもう我慢しきれないというように、がばっと立ち上がった。僅かに目を見開く二人にずんずん近づいていくと、「聞いてよぉ!!」と非難めいた声を上げる。
後ろ手でびしり、と霧島を指さし、杏里はまくしたてるように叫んだ。
「慧ちゃんったら、クリスマスデートで思いっきりやらかしやがったんだよ!!」
「――あぁ、そりゃあさすがの小倉センセも呆れちゃうよ」
いつもの席に着き、これまで杏里と霧島の間でなされていた話の内容を聞いた鈴奈は、机で頬杖をついたままため息交じりにそう言った。
同じようにいつもの席に着き、話を聞いていた暖香も、椅子の背凭れに身体を預け腕を組みながら「納得だわ」と訳知り顔でうなずく。
「まさか、好きだと告げられた後のコメントが『ありがとうございます、嬉しいです。俺も小倉先生のこと、同じ教師仲間として好きですよ!』って……あんまりだわ」
「それで三和ちゃん、『もういいです!』って叫んで帰っちゃって、新学期になってからも機嫌悪くて口きいてくんないんでしょ? はぁ、まったく……慧ちゃんってばホンット、女心分かってなさすぎ!」
肩をすくめ、やれやれと首を横に振る暖香、そして相変わらず軽蔑しきった目線を向けてくる杏里に、霧島は訳が分からないというような顔をする。どうやら本人の中では、それが筋の通った返答だったらしい。
「だって、小倉先生が言った『好き』ってそういう意味でしょ? そうじゃないとおかしいもん。だってあの小倉先生が、俺なんかのことを他の意味で好きになってくれるなんて、まさかそんな夢物語みたいなことあるはずが」
「とことんネガティブ志向なのね、あんた」
「あんなあからさまな態度で気付かないなんて、どこまでも天然というか、鈍感というか……」
暖香と杏里がすっかり呆れきって匙を投げそうになっているところに、鈴奈が不意に静かな声を上げた。
「ねぇ、霧島センセ」
頭を抱えうなだれていた霧島がゆるゆると顔を上げ、「なんだい?」と首を傾げる。そんな彼に、鈴奈は一言、こう尋ねた。
「そもそも霧島センセは、小倉センセのことどう思ってるの?」
◆◆◆
一方、生徒会室から離れた場所にひっそりと位置する小さな教室――もとい、新聞部部室では。
普段使われない三つ目の椅子には、眉を下げながら語る女性教師――小倉が座っている。その向かいに揃って椅子を並べ、彼女の話を聞いていた二人の男子生徒――新聞部員の大束修と水無瀬友哉は、やっぱり呆れたような表情をしていた。
「なるほど……冬休みの間に、そんなことがあったんですか」
「鈍感も、時には罪ですよね」
二人がうんうん、と訳知り顔でうなずくのに、小倉は「そうなのよ」と言いながらさらに肩を落とす。
「でも本当は、もう許しているの。わたしは霧島先生のそういうド天然なところも合わせて好きになったのだもの。惚れた弱みって、そう言ってしまえば簡単なのだけれど……だけど、やっぱりいつまでもそんな態度のままだから、いつまでも霧島先生はわたしの好意に気付いてくれないのよね。だから、やっぱりどうしてもわかってほしくて。だからわたし、霧島先生が気付いてくれるまでこのまま怒ってるふりを続けようかなって思ってるんだけれど……」
「それはちょっと……あまり効果ないんじゃないかと思いますよ」
困り顔の修が、片手で眼鏡をくいっと持ち上げながら言う。
「霧島先生は、想像以上に鈍いみたいですからね。小倉先生が『好き』と直接好意を口にしたにもかかわらず曲解するくらいですから、かなり重症ですよ。ここはもっと、わかりやすい方法を取った方が」
「わかりやすい方法って、どんなの?」
「うーん……」
涙目の小倉に尋ねられ、困ったように小首を傾げ考え込む修。そこに助け船を出すように、友哉が口を開いた。
「そもそも、どう伝えれば霧島先生が妙な曲解をせずに小倉先生の好意を受け取ってくれるのか……まずはそこを考えないといけないかもしれませんね」
「ふむ……確かに」
まるで自分のことのように頭を悩ませる修と友哉に、小倉は申し訳ない気持ちになりながらも、同時にありがたさを感じていた。
霧島は生徒会顧問だが、実はこの新聞部の顧問でもある。それゆえ他よりも霧島の人柄をよく知っている二人に、小倉は近頃何かと相談を持ちかけていた。霧島を知っているという点では生徒会の三人も同じなのだが、生徒会室にはわりと結構な頻度で霧島本人がいるので、相談しに行くことができないのだ。
「とりあえず時間もあることだし、作戦を練ることにしましょう。紙とペンを持ってきますから、小倉先生は少し待っててください。友哉君、誰も入ってこないように施錠をしておいてくれたまえ」
「了解」
ガタリ、と椅子から立ち上がる二人を、小倉は相反する二つの感情とともにぼんやりと眺めていたのだった。
◆◆◆
「そもそも霧島センセは、小倉センセのことどう思ってるの?」
鈴奈にそう尋ねられ、霧島は一瞬固まった。うーん……としばし考えに沈み、ようやく口を開いたことには、
「……永遠の、憧れ?」
何ともはっきりしない答えにイラついたのか、暖香と杏里が揃って抗議しようとするのを、鈴奈は片手で制した。「なるほどね」とだけ言ったかと思うと、静かな声でもう一度問う。
「例えるならそれは、テレビの向こうの女優さんを応援するのと同等って感じ?」
「うーん……それとはちょっと違くて」
そう答えながら目を逸らす霧島は、何とも歯切れが悪い。辛抱強く続きを待っていると――もっとも、本当に辛抱強かったのは鈴奈だけで、あとの二人は痺れを切らして何かを言おうとするたびに鈴奈に止められていたのだが――、霧島は考えながら一言ずつ、本心らしきものを零した。
「何度も言ってるけど、あの人は高嶺の花、なんだよね。もっと端的に言うなら……そうだなぁ、小倉先生が人気女優さんなら、俺は彼女が所属する事務所の一従業員、ってとこ。テレビで見るよりも身近な存在だし、たまに直接話もできるような関係なんだけど、でもやっぱり看板女優さんだから、それ以上踏み込むことはできなくて……」
「つまり霧島は、自分が小倉と釣り合わないって思ってるのね」
暖香の質問に、コクリと霧島はうなずく。
「それもあるし……小倉先生には、今のままでいてほしいっていうか。俺のせいで変わってほしくは、絶対にないっていうか」
ふむ……と考え込む鈴奈と、複雑そうに眉を寄せる暖香。
その時、杏里が何の前触れもなく椅子から立ち上がったかと思うと、ツカツカツカ、と足音を立てながら霧島に近づいた。霧島が目を丸くするのにも構わず、杏里はそのネクタイに手を伸ばし、グイッと荒々しく引っ張る。
「ぐえっ! は、早川……?」
「御託はいいんだよ。さっさと三和子んとこ行ってこいやコラ」
どうやら先ほどから鈴奈に止められていたことで、募っていたイライラがピークに達したらしい。
その豹変ぶりに、霧島だけでなく、鈴奈や暖香も目を丸くしていた。
「あ、杏里がキレた……」
「食べ物絡んでないのに……」
「ほら、早く行けっつってんだよ!!」
そのままネクタイごとソファから転げ落とされた霧島は、痛っ、と何とも情けない声を上げる。そんな彼に憐れむような視線を向けながら、暖香と鈴奈は順にエール(?)を送った。
「が、頑張ってきなさい……」
「小倉センセは、二階奥の空き教室にいるから……」
何とか立ち上がった霧島は、涙声で「い、行ってきます……」とだけ言うと、三つ編みを逆立てんばかりの勢いで仁王立ちしている杏里におびえるように、そそくさと生徒会室を出ていった。
◆◆◆
「――やっぱり、言葉で伝えるのは限界があるんじゃ」
「いっそのこと、無理やりキスしちゃったらどうですか」
「そ、そんな……わたしにはできないわ」
部室の中央でテーブルを囲み、先ほどから真剣に話し合いを続ける修と友哉、そして小倉。
三人の会話しか聞こえない、静かな部屋に突然、ガッ、ガッ、とせっついたような音が響き、三人は一瞬ビクリ、と身体を揺らした。
「……おや」
扉の方向を見やり、修が言う。
「誰か来たようだ」
「霧島先生じゃないかな」
一拍遅れて同じ方向に目をやった友哉が、僅かに眉を寄せる。
修も同意するようにうなずいた。
「まぁ、十中八九そうだろうね」
「小倉先生……どうします?」
早くしないと、このまま帰ってしまうかもしれませんよ。
友哉に問われ、オロオロしたように落ち着きなく辺りを見回す小倉。修は座っていた椅子から立ち上がり、施錠された戸の方へそっと近づいた。
「……話し合い、された方がいいのでは?」
今はまず、断ち切ってしまった関係性を元に戻す方が先決でしょう?
小倉はハッとした。
そうだ、このままずっと今の状態を続けていたら、霧島先生と今まで通り話をすることすら叶わなくなってしまう。
もう怒ってないことを伝えて、これまでの無礼を謝らなくちゃ……!
「お、大束くん!」
「はい」
震える声で、小倉は修に告げる。勇気と決意を込めた、前に進むための一言を。
「鍵を、外して」
ドア前の修――そして椅子に座ったままの友哉が、その瞬間待ってましたとばかりに笑みを零した。
「わかりました」
◆◆◆
『小倉センセは、二階奥の空き教室にいるから』
出て行く間際に鈴奈が言ったのを、何の疑問も持たず信じ込んだまま、霧島は言われた通り二階奥の空き教室――つまり霧島が顧問を務めている新聞部の部室へとやってきた。
ドアの前に立って、息を整えながら、そういえば鈴奈は何故そんなことを言ったのだろうと今更になって考える。
彼女が聡い人間なのは知っていた。新聞部のことも、その顧問を務めている霧島のことも、鈴奈にはすべてお見通しだったのだ。
けれど……小倉と新聞部には、何の接点もないはず。それなのにどうして鈴奈は、半ば断定的に――間違いなくそうであるとでも言うように、霧島をここまで来させたのだろう?
……とにかく、来てしまったものは仕方ない。いくら考えても無駄だと諦め、霧島は目の前の戸に手を掛け、スライドさせようと試みる。
ガッ、と何かが引っかかり、霧島の思惑通りにドアは開いてくれなかった。
新聞部も部活中であるはずの時間だ。つまり中には、人がいるはず。それなのに何故、開かないのだろうか?
不思議に思いながら、その後も幾度も戸をスライドさせようと試みるが、ガッ、ガッ、と何かに引っかかる音がするだけで、やはり開かない。
今日はもう、帰ってしまったのだろうか?
首を傾げながらも、今探しているのは新聞部員ではなく小倉だと思い出した霧島は、とにかく彼女はここにいないと諦め踵を返そうとした。
中から声が聞こえたのは、ちょうどその時だった。
「お、大束くん!」
男しかいないはずのドア向こうから、女の人の声。どことなく、小倉の声に似ているような気がする。
「はい」
呼ばれた男――新聞部部長である大束修の返事が小さく聞こえたかと思うと、女の人の声は懇願するようにこう言った。
「鍵を、外して」
「わかりました」
刹那、ガチャリ、と音がしたかと思うと、向こうからガラガラッ、とドアが開かれる。目を丸くする霧島の前に、おずおずと姿を現したのは……ここにいるはずのない、小倉だった。
「小倉先生……どうして、ここに」
「ごめんなさい」
ぺこり、と軽く頭を下げる小倉。そのふわふわとした茶髪を、霧島は呆然と見下ろしていた。
顔を上げた小倉は、大きな目に涙を浮かべながら言葉を続ける。
「わたし……ホントはもう、怒ってなんかないんです。でもわたしの本当の気持ちにどうしても気付いてほしくて、だからわざと怒ってるふりをして、今までずっと口をきかないで……ホントは、もっとお話したかったのに」
「あ、あの!」
さらに続けようとする小倉を遮るように、霧島は叫んでいた。目をぱちくりとさせる小倉に、霧島はほんの少しの気恥ずかしさを覚える。
「あの、えと……謝るのは、俺の方です。いくら小倉先生がもう怒っていらっしゃらなかったとしても、あの日小倉先生の機嫌を損ねちゃったのは、やっぱり事実ですから」
「じゃ、じゃあ……」
さらに瞳を潤ませる小倉に、霧島は彼女を元気づけるように、いつも通りの満面の笑みを浮かべる。
「小倉先生さえよろしければ、これからも今までどおり俺とお話してくれませんか。小倉先生に無視されるのは寂しいし、悲しいです」
「……は、はい!」
泣き笑いの表情を浮かべる小倉と、「やった! ありがとうございます」と心から嬉しそうに笑う霧島。
そんな二人のある意味いつも通りの姿を、従来の部屋の主である修と友哉は、椅子に座ったまま微笑ましげに見守っていた。
◆◆◆
「――ただいま」
「あ、お帰り鈴奈!」
「どう、うまくいったかしら?」
「うん、バッチリ仲直りしたみたい」
「それはよかったわ」
「で、三和ちゃんは今度こそ告白できた?」
「んーん。今は、あの関係性を維持できるだけで満足みたい」
「えー……もう、まどろっこしいなぁ。早くくっついちゃえばいいのに」
「でもさっき聞いた話だと、霧島センセはまだ小倉センセに対してそれほどまでの恋愛感情は持ってないみたいだったよ?」
「分かってるよぉ……憧れなんでしょ? でも、それってもうほとんど恋みたいなもんじゃん」
「そううまくいかないのが、人生なのよ」
「まぁ、霧島センセの方が一方的に線引きしてるみたいだしね、今のところ」
「さっさとあのヘタレっぷりを矯正しちゃえばいいんだよ!」
「杏里、今日すごく毒舌だねぇ。暖香みたい」
「鈴奈、あんたも何気失礼よ」
「いいじゃん、ホントのことなんだし」
「何ですって」
「あははっ……」




