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異世界召還のリスク  作者: ボナパルト
第一章 異世界と勇者
7/33

07 人種のリスク

ファンタジーによくある人種についてのお話です。


 貨幣の話はそれからもしばらく続いた。

 その結果、紙幣の発行に帝国は即座に対応してくるだろう、という推測も加わる。

 これは帝国というシステムの利点だ。皇帝勅命ならば、会議の是非は必要ない。


「帝国は外交が弱いというのは誤りだったのかのう」

『皇帝が万能過ぎたのではないでしょうか。いかに有能でも体が二つ三つとある訳では無いでしょうし。

国内発展に力を注いで、外交には力を入れていなかった、と私は推測します』


 あえて力を抜いても、戦争にはならない。それだけの工作は既に終えているということ。

 貨幣工作により厭戦感情を刺激され、魔物の脅威で税を高めることもできる。

 民衆は従順となり、頂点である皇帝の下で貴族は力を削がれ、官僚が跋扈する。

 なるほど。これが歴史か、と感慨を抱くネフルティス。

 ふと、帝国皇帝とはどのような人物なのか気になった。


『皇帝とはどのような人物なのでしょう?』

「カイラス帝国皇帝イーギル・カイラス一世。五十過ぎの星人ではあるが、主に軍略に才覚を発揮した人物じゃのう。

 元は地方豪族でしかなかったが、僅か三十年程度で帝国領土を平定したのだから大したものだ。

 それからは内政に勤しみ、外交ではよく下手を打っておったのだが、どうやら貨幣のことを含めると外交でもやり手だったようじゃのう」


 頭を掻いて困るオルドに苦笑しながらネフルティスは思う。

 

 才能に満ち溢れた権力者が隣国の支配者である。可能なら暗殺でもしてしまいたいところだろう。だが、情勢も戦力もそれを許してはくれまい。世界最強と言われる勇者ならば或いは、というところなのだろうが、ネフルティスには応じる意味が殆ど無い。


 ふと“星人”という聞きなれない言葉に複数の人種が居ることを思い出し尋ねる。


『そういえば、オルド翁は竜人とのことでしたが、執事長やマイヤ殿とは人種が違うのでしょうか?』

「ふむ。そうじゃな。人種のことも話しておこう」

『お願いします』


 オルドは息を大きく吸い、朗々明快に言葉を紡ぐ。


「この世界には“人族”という括りで呼ばれておる七種の人種がある――」


 オルドの言うことをまとめると以下のようになる。


“星人”:開拓民として優秀で、人間族の内六割が彼らに当たる。

    サーランド王家は純血の星人で、平地に住んでいる。


“森人”:自然を好む種族。岩人と仲が悪い。個体数は少ないが長寿で美形が多い。

    五感も鋭く狩人が多い。主に森に住んでいる。


“岩人”:鉱物を加工するのと酒が生きがい。森人と仲が悪い。山岳を好む。

    成人した星人の胸辺りまでしか身長が伸びない。


“水人”:川辺、海辺に住んでいる。主に漁師になる。

    手や足にヒレがあり、水中では素晴らしい敏捷性を誇る。


“風人”:翼を持ち空を飛ぶことができる。谷などに暮らしている。

    体は成人でも岩人よりも小さく童顔で好奇心旺盛。人族の中で最も小柄。


“竜人”:他種族に紛れて暮らす。体躯やマナも図抜けている。

    非常に長寿で、語り部のような扱いになることが多い。


“魔人”:元迫害種族。魔物の血を引いてしまった種族。

    親の魔物次第で特徴は大きく変わるらしい。


 これらを合わせ、人族と呼ぶ。


「――とまあ、こんな感じなんじゃが大丈夫かの?」


 オルドの説明にネフルティスは首肯を返す。

 同時に、七種もの種族――生活圏こそ違うが、生命として近い存在――に疑問を持つ。

 進化の段階で分かれたというのは納得がいく。元はもっと多様な種族だったのかもしれない。

 生活圏が違うからこそ各々で繁殖した、ということなのだろうか。しかし、魔人の特徴が気になった。


『それぞれの種族間で子供などはできないのですか?』

「できる。その場合は両親どちらかの特徴を持って生まれてくるな」


 気になった魔人の特徴以外をぼかす形でネフルティスは尋ねる。


『目鼻髪等、多少の差異ならば個人間でも生じるとは思うのですが、なぜ能力の規格そのものが違うような親から子が生まれるのですか?』


 進化の過程で離れた者達が、今一度繋がる可能性。


「交配実験と品種改良。それに突然変異としか言い様がない」

『随分と簡単にお認めになるのですね』


 ネフルティスは努めて冷静に話すオルドに驚いた。

 自分達は、種族自体が実験成果の賜である、などと自覚しているとは。


「ふふん。驚いたか。太古の遺跡や、各種族発祥の地というのを調べていくとな。出てくる出てくる。それを裏付ける証拠がな。

 ま、問題は当然起きた。種族間の対立は激化し、幾度も根絶やしの声が上がり、やがては戦争にな。我らこそ至高、という大義名分を振りかざして」


 誰が自分達を創ったのか? 造物主が誰であろうと関係はない。

 大事なのは、造物主が創った生命の中で、自分達こそが最も愛され優れているのだ、という事実。

 それは造物主の姿無き時代には、多種族を攻撃することでしか実感できなかったのだろう。


『当然ですね』


 よく滅びなかったな、とネフルティスは思う。

 だが、そもそも生活圏自体がかけ離れているのだ。早々全滅はできはしない。


「儂らは生き残った。融和などできぬと申す者は少数になり、国が起こり苦労をしながら繁栄した。それを支えたのが宗教の力よ。

 “我らを別々に創りたもうたは神の御業。ならば、異能協調こそが神の御心に沿う”とな」


 縋りつくような想いから生まれたと推測できる宗教。

 嘆いても、多種族を攻撃して自分達が一番だと証明しみせても、造物主は現れないし自分達は救われない。

 いつ終わるとも知らぬ戦いは、人々の心を摩耗させ疲労させていったのだろう。

 最初に宗教を創りだした人物は、絞り出すような気持ちだったに違いなかった。


『その宗教の名は何と?』

「ボリア教。教義に“平和”を謳う古い宗教じゃな。どこの街にも教会があり、孤児院なども運営しておるよ」

『どの程度の人々が信じているのです?』

「ほぼ全ての人族が信じておると言ってよいな」


 単一宗教ならば、宗主が大きく力を持つだろうとネフルティスは警戒した。

 サーランド王国が五百年の歴史を持つということは、今話していた闘争の時代はそれよりも遥か前ということだ。

 その時代から生き続け、打算から生まれた宗教ならば、確実に内部は腐敗している。

 狂信から生まれた訳ではないようなので、恐らく理性的な汚れ方だろうが、ネフルティス自身にとってどんな影響を及ぼしてくるかわからない。

 なにせ、彼は勇者なのだから。



『……戦争中にそんなことを言えば、戯言と取られるのが普通の反応かと思うのですが』

「うむ。まず第一にボリア教が発祥したのが戦争時代の末期、皆が疲れ果てた時期であるということ。第二に、彼奴らは魔術、それに伴った魔道具を開発し、神の奇跡として民衆を癒した。そりゃもうすごい人気だったそうじゃよ」

『でしょうね』


 ネフルティスは警戒を悟らせぬよう、話題をずらした。

 聞けたのは思いもよらぬ言葉。ここで魔道具が出てくるとは。

 魔術と魔道具はどうやら別物らしい。

 彼は興味を強く示した。


「実際は、宗教シンボルに魔力集積用の魔道具を取り付け、比較的使いやすい魔術を補助させた、ということらしいのだがな」

『効果は十分だったというわけですか』


「まあのう。それまで魔術を使えんかった連中が、シンボルを持つだけで使えるようになったんじゃ。奇跡にも思えるじゃろう」

『それが魔道具の起こりですか?』


「事実としての起こりじゃな。実際に発表されたのはもっと後での。ボリア教の奇跡とは別口として扱われておる。原理は基本的に一緒じゃよ」

『なるほど』


 うむ、と一息入れるつもりなのだろう。いつの間にか戻ってきたブルーメに合図を入れ、茶のお替りを再び一息で飲み干す。


 オルドの様子を余所にネフルティスは考える。

 本当にそのボリア教開祖は天才だったのだろう。

 或いは、幾人かの功績を一つに纏めているのかもしれない。こちらの方が可能性は高そうだと予測。

 だがしかし、警戒するのは前者。圧倒的な天才が居た場合に自分へどのような影響を及ぼすか。

 しばらく味方ならば良いか、と楽観的に考えるように思考を変えた。警戒はしつつ楽観的に。これはネフルティスの基礎的な思考法である。


 歴史を語るオルドは、語り部の竜人として、一流だった。

 聞き取りやすく、理解しやすい。

 その彼の口から出された“魔道具”という単語。

 ネフルティスにとっての未知。最も興味を惹かれた物である。

 同時に、最も自身にとって手に負えなくなる可能性を秘めた要素であると警戒した。

 

 気がつけば、陽が傾きかけている。

 日没までは後僅か。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次回で、恐らく前提情報のお話は終わると思います。

一体説明に何話かけるんだという思いはあるでしょうが、ご辛抱いただければ幸いです。


6月26日 一部修正

6月29日 一部修正、誤字修正

7月01日 誤字修正

7月02日 誤字、脱字修正

7月21日 一部修正

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