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異世界召還のリスク  作者: ボナパルト
第二章 魔王領の侵攻
16/33

16 謝罪のリスク その1

一体何ごとかと思うほどのアクセス数、ありがとうございます!

これからも頑張ります。


 対面の席に座る王の表情を見て、ネフルティスは、やはり、と確信した。


 やはり、この国は一度目の召喚を無かったことにした。


 ともすれば、ネフルティスが二百日前に発言したこと、体験したことは全てが張るに値する札となる。

 切羽詰まった状況であり、“勇者”の力を是が非でも欲しい王国としては、決定的な失点だ。

 後は追い詰め過ぎないように交渉の締めに入ろうかとネフルティスは思う。

 詰めの段階になった時点で、残りは作業であり、別段興味を引くことも無いだろうと判断した。


「そ、れは、その……」

「どうしたというのか? こちらは遺骸を返却してくれと言っているに過ぎない。そんなに難しいことでもないのでは?」


 ラーガスの声がどもる。ネフルティスは怪訝な表情を浮かべた。


「返却は、できぬ」

「どういうことかな?」

「既に火葬してしまった」

「では遺灰を」

「それもできぬ」

「なぜ?」

「風に流してしまったがゆえに」


 規定の路線だった。当然、そのような証拠を残している訳がない。


「この国では風葬が習わしか。仕方がないな。分かった。せめて墓を見たい」

「墓は……無い」


 ネフルティスは怪訝な表情を見せる。これは演技ではない。だが“頭外領域”では同時に先程出した結論にたどり着くよう、自分の動きを補正させている。また別の思考を展開し、相手の論に打ち勝つだけの札を整える。


「疑問だ。答えてくれ。それではこの国では弔いをどう行うのだ?」

「普通ならば墓はある。だが、ネフルティス殿の墓は無い。弔いもしておらぬ」


 今分かった、という表情。聡い人間なればこその反応と見えただろう。


「――ああ、なるほど。そうか。これは失念していた。王国は“勇者召喚”自体を“無かったこと”にしたのだな?」

「その通りだ……」


 ラーガスの言葉は尻つぼみに消えていく。

 反対にネフルティスは怒気を強めていった。


「それではさすがにこちらに立場が無いのだが?」

「余の首でことが収まるならば持っていってもらいたい」


 恐らくは最初からその覚悟を決めて会談に望んだのだろうとネフルティスは判断する。

 命を投げ出す提案だというのに、一切の淀みがない。普段からそれだけの覚悟を持っている人物なのか、それとも何か策があるのか。或いはその両方か。

 “頭外領域”は可能性の検討を始める。



「それは無理だサーランド王。そちらの行為は我が国への侮蔑行為と受け取らざるを得ない。国家元首が拉致され、更に外交上の席で斬り殺され、遺骸は棄てられ弔いさえも行われていないのだぞ? 貴国は我が国を愚弄し挑発した。戦争が望みなのだろう、と思うことすら優しい解釈だと思うのだが」


「怒りは尤も。だがどうか話を聞いてもらいたい」


「どのようにして“無かったこと”を償うというのだ? ここまでされてなお話を聞け、というのは一体どういう茶番だ? 脅迫なのか、それとも懇願なのか。それさえ判断するのが難しい」


 ネフルティスはラーガス達サーランド王国の厚顔無恥さに不快感を露わにした。そこに篭められたのは怒髪天を突くような怒りではなく、常識が通じない相手への憤りだった。



「今は生きておるではないか。ネフルティス殿」

「オルド翁。それは命を安く見積もる発言だが、構わないのか?」


 オルドの発言が更にネフルティスの神経を逆なでする。

――こいつらは自分達がやったことの全てが赦されると思っているのではないか?

 ネフルティスは先入観による錯覚に陥りそうになっていた。

 冷静さを欠いている。



「そうは言っておらん。ネフルティス殿が“特別”だと申しておるのだ」

「確かに以前ならばその言い様に納得もしよう。だが思い出せ。この会談の最初に名乗り身を明かした以上、この身は立場を得たのだ。そちらの立場で括ること自体が無礼に当たるぞ」


 特別と勇者のどこに違いがあるというのか。結局は言葉を変えただけで立場を押し付けられている。

 ネフルティスは今一度自身の立場を強調した。


「それは失礼した。だが行い自体は悔いているのも分かって欲しいのじゃよ。その償いとして、こちらが用意できる同等の代償、つまりは王の首を差し出しているではないか」


「その程度の策が見抜けぬとお思いか。この身が斬られたという“事実は無い”のだ。それに対しての代償なぞ“当然存在しない”。

 故に、この身がサーランド王の首を獲ればこちらの立場が無くなるだけではないか」


 ネフルティスを怒らせ、ラーガスやオルドの首を獲らせる。それが何を最終目的としているのかは分からないが、こちらが手に抱えた札を再び屑札に変えさせる小目的があると“頭外領域”は判断した。ネフルティス自身の感情は、怒りで本当に首を獲りかねないほど荒れている。



「じゃが、こちらの誠意は見せている。“事実は無い”が非道は認めよう。あまりのことに補填はできぬが、同等に大切なものを失うことで誠意とした。その後の若いのの立場とは別の話であろう?」


「この世界で生きていくならば黙れと再び言うのか」


 オルドの声は自分達が絶対の優位にあることを基点においた物言いだ。あらゆる価値は双方合意で決めるのではなく、王国側が決める、と言っている。これだけの賠償を払うから許せ、と。

 ネフルティスにしてみれば、支払われる品は自身の立場を危うくする物だ。下手に受け取れば手に抱えたカード全てが意味を無くすほどの。



「別の問題だ、と申しておるだけよ。我等とて強引とは思っている」

「――そうか。斬られてまで訴えたことは無意味だったようだ。残念だな」


 なるほど、とネフルティスは自身の過ちと敗北を知る。

 王国は是が非でも勇者の力を欲している。それは間違いない。だが、それとは別の切り札も持っているのだ。

 ゆえに、勇者であるネフルティスを爆弾と判断し、王という強力な札を捨て札にしてでも勝負の場から排除したがっている。

 要は名乗りの時点で追い詰め過ぎていたということだ。


 その時、意外な方向から助け舟が来た。




「無意味などではありませんっ!」




 マイヤが叫んだのである。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 その2は、0時過ぎに掲載予定です。

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