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異世界召還のリスク  作者: ボナパルト
第二章 魔王領の侵攻
13/33

13 会議のリスク

 総合PVが13,000を突破していました。

 ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。


 ここから第二章になります。

 勇者召喚成功の知らせは、報告を待っていた王と十人の重臣達を湧かせた。

 召喚されたのがネフルティスだと知った時に初めは困惑と驚愕、それから絶望へと移り変わっていった。


 サーランド王国が彼に行った所業を顧みれば魔王討伐など夢のまた夢である。

 一縷の望みをかけて、彼が本当に勇者なのか不明である、という意見も出たが、それを確認することもまた不可能だった。

 彼らはここに来て初めてマニュアルを失ったのだ。死んだ筈の勇者が再召喚されるなど、どこにも記載にはないのだから。


 “死亡した”という前提を抜かせば、再度ネフルティスが召喚されたのは必然である。召喚陣の設定は変わっていない。であるなら、条件が合致して当然の存在だからだ。


 だが誰が“死”という絶対の概念を覆すなどと思うのか。


 ネフルティスの知識には計り知れないものがあり、恐らくはその知識だけで宝の山だ。

 死亡からの復活もそれだけで世界を揺るがす衝撃である。

 そんな力を持つ存在が、再び現れ、しかも今度は王の姿をしているという。

 つまり世間的にサーランド王国は『異世界の王を召喚し、勇者として戦わせようとし、拒否されたので殺害した』ということになる。

 普通に考えるなら戦争であろう。戦力の問題として王国が強ければ黙らせることはできたかもしれないし、幸いにもネフルティスが死んでしまえばどのような立場だろうと彼の国との連絡は取れないのだから、戦争になることもありえない。

 勇者のみを召喚するシステムは、口止めの容易さ、安全の確保も重視されているのは当然だった。


 ラーガスは額に手を当て頭痛に耐えている。

 オルドは髭を撫で付け眉間に皺を寄せて思考を研ぎ澄ませている。

 その他の重臣達も対応策を協議できないでいた。


 立場が違う者達でも幾つかの見解は共通しており、その一つが、二百日前の謁見よりも時間がない、ということだ。

 今回ネフルティスを逗留しておくことで、次の勇者を呼び出した際の条件を無理やり覆し、別の勇者を呼ぶというやり方を取っている時間もない。

 今現在“勇者”を名乗ることができるのは、ネフルティス以外に存在しないのだ。

 そこまで状況を整理し、ようやく話し合いがはじまった。



「つまりはネフルティス殿の関係を修復し、共に魔王と戦ってもらうという方法しか残っておらんのだな?」



 ラーガスが重く息を吐きながら言い、それに重臣達が首肯することで沈黙が訪れた。

 そもそも他に方法がないと判断したがゆえに勇者召喚を行ったのだ。たった数日で状況が好転することなどなかった。



「オルド。何か良い案は無いのか?」

「うーむ。第一王女を処罰しなかったのはこうなると僥倖かもしれませんな。自身の仇を打てるというのならば、向こうの面目も立ちましょう」



 オルドの声は平坦だ。努めて冷静に告げているが、本人とて“王女の命を差し出せ”などとは本来言いたくはない。

 だが、誰かが言わなければならないことではあるし、ネフルティス側からすれば当然の要求であろうことは明白だった。



「それは我が国の罪を認めろというのか?」


 ラーガスの声は重い。例え正論だったとしても自分の娘を差し出すことに抵抗はある。嫁入りや政略結婚とは別であり、死ぬことが前提であるからだ。

 それが死を必然とするほどの娘の過ちであったとしても、愛情はある。



「仕方ありますまい。仮にも他国の王と思しき貴人を手に掛けたのです。罪人の立場はサーランド王国が認めねば相手を侮っていることになりますぞ」


 謁見中の流血沙汰は国の恥である。それを行ったのが自国人であればなおのこと。更に害したのが他国の貴人であるならば外交問題だ。

 今回であれば、まず守れなかった警備の騎士団に責任が問われる。次に安全を保証したマイヤとオルドに保証責任が求められる。そして国は信用を失う。最後に当然その行為を行った人間の罪が裁かれる。


 犯行を行ったのは自国の人間だが、被害者は他国の人間だ。犯人に対し立場を奪ってしまえば勝手に処罰を行ったことになる。

 それは被害者の国に対し「他国の決定など知ったことか」と宣言するのに等しい。



「それは……そう、だな。しかし第一王女は英雄だ。それが斬られれば我が国としても顔に泥を塗られることになり、国民感情は爆発するのではないか?」


 ラーガスは外交の難しさにどうしようもないと納得せざるを得ない。

 だが、それでネフルティスとの関係は修復できるかもしれないが、同時に自国からの信用を失うことになることに思い至る。



「現状では戦線を押し返せるのは一騎当千の強さを持つ者のみでしょうからな。その強さを持つ者を勇者に処罰させることになるのですから、突き上げは間違いありますまい」


 オルドは残酷な結果を伝える。

 劣勢の中で英雄を戦わせずに殺すのだ。国民の怒りは当然責任者である王家へ向くだろう。



「情報統制で何とかなるか?」

「――第一王女サラエント姫は騎士団にも人気があります。士気は否が応にも下がり、勇者への協力は絶望となりましょう」


 ラーガスの声に反応したのは重臣の一人。騎士団長である壮年の男性だった。

 名前をブロンズ・アイルフェイトと言い、騎士団を率いて十年余りの人物である。

 その声色は刃物を思わせるほど冷たい。勇者への拒否感が滲み出ていた。



「だが最初に手を出したのは姫であって――」

「そのような公式発表はされておりません」

「むぅ……」


 オルドが理由を告げようとするが、公式発表がないという“事実”を告げられて呻く。

 本当にあったかどうかなど、大した問題ではなかった。

 問題は、国が認めるということ。公式な発表が無かった以上、その事実は無かったのだ。

 それを今更発表しようものならば、国としての信用を失墜させることになる。


 ネフルティスへの関係修復のために、貴重な戦力であるサラエントを失い、現状でも負担を強いている国民への感情を逆なでるなど、戦力統括を預かるブロンズとしては狂気の沙汰にしか思えないのだ。

 これも政治である。誰かが一方的に損をしない限り、どこかの益を上げることはできない。

 その矛先がどこを向くべきか迷っていた。



「――あい分かった」



 声を発したのはサーランド国王ラーガスである。

 威厳に満ちた声には、決意が漲っている。


「まずは勇者と会う。すぐにだ」

「それは危険です!」


 ネフルティスがサーランド王国に敬意を持っていないどころか、今は害意さえ持っていると誰でも予想できる。

 そんな人物と王が会えば、最悪王が殺されるかもしれない。

 そんな危惧を口に表したのは、騎士団長のブロンズだ。


「危険は承知である。だがブロンズよ。まずは彼の者の実力を見極めねばどうにもならん。そして余が害されたのであれば、それを理由としてサラエントを復帰させることができる。そうなれば、騎士団としても戦力に数えることができよう。国民の士気も勇者不要と大いに上がり、劣勢な状況も盛り返せるやもしれぬ」


「王は、国のために自らの命を捧げる御積りなのですか?」

「余は戦場に出れぬ弱き王である。ゆえにサラエントが英雄に傾くのも赦した。今我が国に必要なのは治世に優れた王ではなく、純粋な戦力である英雄である」


「――浅慮からの発言失礼致しました」

「赦す。ブロンズは騎士団長として王の身を案じたに過ぎぬ。そもこれは余が害されればの話。のうオルド?」

「そうですな。案外あの“若いの”ならば、飄々とした顔で責任追及もしてこんかもしれませぬ」

「その際にはサラエントを勇者の騎士として共に魔王退治へと向かわせることにしよう。夢も叶って万々歳じゃろうな」


 カカカと笑う王と、応じるオルドに、先程までの悲壮感はない。

 無理に払拭した空気を作ろうとしていると、重臣ならば誰もが理解していた。

 だが、かなりの確率で王は害されるだろうと予測され、王が害されない場合には更に無理難題が生じる可能性を否定できる者はいなかった。

 それでも、王は決意した。ならばそれを止めようという臣下は、この部屋には存在しない。


「そうと決まれば。ブルーメ!」

「ここに」


 すぐ側に控えていたのだろう。執事長がドアを開けて一礼する。


「勇者ネフルティス殿はどこに居る?」

「現在ゲストルームにてマイトキリヤ様とご会食中です」

「案内いたせ」

「畏まりました」


 ラーガスは席を立ち上がり、足早にゲストルームへと向かう。

 彼から見える盤面はごく一部で、賭けられる物は少ない。

 それでも、ここの交渉は負ける訳にはいかないのだった。

 例え相手が悪魔に見えると報告された相手であっても。


 ここまで読んでいただきありがとうございました。


6月26日 ちょっと抜けがあったので投稿直後に修正。

6月29日 脱字修正

7月01日 誤字修正

7月02日 脱字修正

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