01 言葉のリスク
一人の青年が、長時間の作業用にあしらえた椅子でまどろんでいた。
見目麗しい二十歳前後の男子である。
黒髪黒目、肉付きは平均よりもやや細いが、身長は平均よりも高い。
染み一つ無い白いシャツのネックボタンを二つ外し、リラックスしている時だった。
突然の浮遊感に見舞われた。
体が、吸い込まれていく、という感覚。
まどろみから即座に覚醒した青年だが、次の瞬間には視界が白くなり、椅子に肩肘を乗せ腰掛けたままの姿勢で、世界から消失していた。
† †
青年は光のない暗闇に閉ざされた空間に浮かんでいるようだった。
上下も分からず、長らく居たのなら確実に発狂するだろう。
その中で青年はじっと待っていた。必ず次の変質が起こる、と確信を持って。
待つことしばし。青年の読み通りに空間は変質を始める。
光が暗黒の一点に現れ、続けて極彩色の回廊が、青年と光を結ぶように繋がった。
腰掛けた姿勢からゆっくりと立ち上がると、青年は力強い足取りで光の方へと歩き出す。
その表情には、未知へ対する好奇心が強く表れている。
やがて光点まで辿り着き、一つ呼吸を入れてから光の中へ歩を踏み出す。
それが合図だったかのように、周囲は光に包まれた。
眩さに目をしかめたが、それも一瞬のこと。
視界がクリアになれば、周囲は天然物と思しき石を組み上げ作られた小さな部屋。
足元には、直径数歩分の魔法陣。そこから三歩程度離れた所で、ローブを着た数人が興奮気味に声を上げている。
どうやら自分をここに呼び出したのは彼ららしい、と青年は理解した。
害意はあるのか? 何の目的で呼び出したのか? 全てが不明。
おまけに大きな問題が一つあった。
当然と言えば当然の問題ではあるのだが。
「~~~※!!!」
「*-○▽!?」
青年には、彼らの言葉が理解不能だったのである。
6月23日 一部修正