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第六十話 弱肉強食の素顔

 カシウス一家がバグガンのスラムで働き始めて半年。


 スラムの人達は大分穏やかな生活態度になってきた。


 毎日昼と夜にはカシウス一家が早朝から昼前までに狩ってきた大量の魔物を食材とした栄養豊富でかつ美味な料理を食べているので、スラムの人達も誰かを襲い殺してまで金銭を奪い、スラムで手に入る貧しい食料を得る必要がなくなったからだ。


 カシウス一家は食事、栄養面以外にもスラムの健康な生活、快適な生活環境、衛生環境の向上、スラムの住人が自活できるための教育を、レンの知識とクロ、シロ、ニュート、キリアの能力で出来る限り整えた。


 健康な生活に関してはまず病気を患っている人達をレンとニュート、血液をもらったキリア、そしてクロ、シロが出来る限りの治癒魔法で癒した。


 高齢で働くことの出来ないおじいさんおばあさんやシングルマザーの人達、リグロウで治しても元の健康な体への回復に時間がかかる四肢を失ったり目や耳等を失った人達、孤児たちの家もレンが教会の近くに巨大なマンションを岩魔法で作り上げた。


 快適な生活環境に関してはスラムの、今にも崩れそうな家の修繕や、スラムの住民が所持していない魔石生活道具等を工面した。


 魔石生活道具含む普通の生活用品は馬鹿でかいトラックのような魔石車をバグガン中心部で借りて、スラムの住居と巨大マンションに住む人達に必要な物資を運び込んだ。


 それらの便利な道具に住人は感動し、全員が一週間足らずで快適な生活環境を得た。


 衛生環境の向上についてはレンが地球時代の知識とイクスでの経験を活用して下水道設備をオリジナル魔法で作り、カシウス一家全員で力と魔法をフル活用して巨大な男女別の魔石銭湯を作り上げ、町も人も衛生面でも困ることがなくなった。


 スラムの住人が自活できるための教育に関しては、最初の3日間冒険者ギルドからバグガン周辺の詳細な魔物情報を収集し、購入した大量の装備を冒険者志望のスラム住民に装備させ、最初はEランク、Dランクを獲物として魔物狩りの基礎と冒険者ギルドを利用するのに必要な読み書き算術を指導した。


 魔法はレンが治癒魔法、防御魔法、補助魔法を教えたのだが、治癒魔法と補助魔法はイメージが難しく、高レベルの魔法を習得できる人は少なかった。


 特に補助魔法は治癒魔法と同じく、敵を弱め仲間が傷つかない、又は仲間を強めるイメージが必要なのだが、それに加えさらに対象の能力に干渉するイメージが必要で習得は非常に難しい。


 レンやニュートが異常なだけで、普通なら補助魔法の習得には数十年単位の鍛錬が必要だ。


 トライアードやキリアのように長く生き鍛錬し続け、さらに人間や魔物についての具体的な知識を獲得し、それに基づいた強いイメージを構築しなければ習得できない。


 また補助魔法はあくまで補助的なもので、それよりも単純に剣術や魔法を鍛錬して強くなったほうが手っ取り早い。


 レンのような異常すぎる限界を超えた補助魔法を行使できる魔法使いはキリア以上に長生きしている吸血鬼ぐらいしかいないだろう。


 そんな長い鍛錬を経て補助魔法を習得してもせいぜい対象の能力が10%上下する程度。


 長い鍛錬に見合わない効果のためクロやシロもレンほどの補助魔法は習得していない。


 2人が習得しているのは一般的なリンフォース、ハードニング、アクセラレート程度だ。

 

 それでも普通の冒険者から考えれば若すぎる段階で習得している。


 また単純にレンが地球のチート知識と優しさという弱さから生まれる歪な強さで開発したマキシマイズやミニマイズは対象の能力を100%上下させることが可能で、元々最強のパーティ全員が能力を倍化される。


 さらに感覚機能やマジックコアからの魔力供給、思考加速能力まで倍化される。逆に敵はフェニックスのようにひたすらかわいそうなぐらい弱体化および混乱させられるので、クロとシロ、キリアが今以上の補助魔法を習得する必要がなかったのだ。


 そんな使い勝手の悪い補助魔法とは逆に自分が死なないため必要なヒールやクイックエイドなどの低レベル治癒魔法や、敵を倒す攻撃魔法、または身を守る防御魔法がニエフの多くの人にとってイメージしやすく習得も早い。


 スラムの人達は自分の身を守り生活していくための武器の扱いや攻撃魔法、防御魔法をクロ、シロ、ニュート、キリアから熱心に教わり、魔力も筋力と同じように鍛えれば鍛えるほど向上するのでスラムの若者6割ほどが武器の扱いも魔法も上級前後の実力を獲得した。


 しかし育ってきた国の性質というものは人々に深く刻み込まれているらしく、最初の2ヶ月ほど、戦う力を得たスラムの人たちは度々バグガン中心部でお金持ちを襲ってしまうことがあった。


 強くなったとはいえスラムの人達はようやく数人でDランクを倒せる程度、そのため中心部に住む比較的強い住民を襲って逆に返り討ちにあったり、他の襲われた人も返り討ちには出来なくとも自分の身を守ることは充分に出来た。


 他のスラムの住人から話を聞き付けたカシウス一家が一瞬で駆けつけ、治癒魔法で加害者被害者両方の負傷を完璧に癒し、加害者には超越者からの世にも恐ろしいお仕置きと教育を受けさせ、被害者には深く謝罪し莫大な慰謝料を払って何とか事なきを得た。


 レンがスラムの住人に「あなたたちには自分に必要な生活費をもう充分に得られるはずです。コツコツ魔物狩りと読み書き算術を鍛練してちゃんと働いてください」と以前キリアを怒った時のように怖い笑顔で膨大な全属性魔力と魔法を放出しながらスラム全体に響く声で注意した結果、やはり力がすべてという国の性質のためか、レンの恐ろしさがスラムの住人達を震え上がらせ、それ以降は滅多にお金持ちを襲うことはなくなった。


 彼らがここまでする理由は、ウチダ牧師夫妻のためだと伝えた結果、冒険者の能力を得た若者など自分で生活できる人たち以外は三割ほど教会に来てくれるようになった。


 またちょうどバグガンに来たのが春だったため、レンがジャマングで購入していた大量の稲と小麦の種籾を木属性魔法で発芽させギルタン島と同じ魔法で整えた水田と畑に植えた。


 食用にするには手間のかかる魔物の一部を乾燥させ粉砕したものを使った、栄養豊富すぎるニエフの農家が卒倒しそうな肥料を土壌に加えたため、半年後、秋には大量でジャマングでも考えられない品質の米と小麦、各種の野菜が収穫でき、主食の食料面でも問題は解消された。


 子供たちは12歳以上であればレンが作った水田や畑で働いてもらい、また他の冒険者として魔法や剣術があまり上達しなかった若者達や、40代から60代ぐらいの冒険者として成長時期を逃してしまった人達にも水田や畑仕事を無理のない範囲で働いてもらい、その分の賃金を支払った。


 孤児たちの教育に関しては昼以降にウチダ牧師夫妻が聖書の学びを、レン、クロ、シロ、ニュート、キリアはウィリアムとレベッカに習って家族同然に愛情かけて育てていた。


 聖書の学びは力が全てという国の性質が生まれたときから刻み込まれている子供たちには当然のように理解が難しかった。


 しかし、ウィリアムやレベッカ以上かもしれないウチダ夫妻は根気強く丁寧に分かりやすい子供向けの学びをし続けた結果、大人たちよりもイエス様のことを受け入れる人数が増えていった。


 良くも悪くも子供たちは幼いので周囲の影響を受けやすい。

 まだ弱く自分では生きていけない子供たちは辛く苦しいことがあっても自分達を必ず守ってくださると聖書に書いてあるイエス様の愛を受け入れやすいのかもしれない。

 それは高齢者の人達や傷ついた人達、自活するのが難しい人達も同様だった。

 弱く困っている人ほど自分の無力さと罪人であることを認めやすく、イエス様の救いと守りを信じやすいのかもしれない。


 カシウス一家も全員血の繋がった子供がいないため、大人数の子供たちを実の子供のように愛していた。


 結果男の子たちは今でも10代のように若く美しいクロ、シロ、キリアにとてもなつき、今まで愛情を受けてこなかった反動か、3人への愛情が爆発的に湧き上がり、実の母のようにママと呼んでいた。


 女の子達も優しいレンとニュートを慕い実の父のように愛していた。女の子特有のかわいい笑顔で2人をパパと呼び、グレイスを思い出すのかデレデレした笑顔のレンに2人同時に肩車してもらったり同じくデレデレした笑顔のニュートに数人抱えられて空を飛んだりしていた。


 しかし、カシウス一家にも解決できないことはあった。

 カレンが言っていた性的に乱れている風習だ。

 さすがに性行為に及んでいる家の中にまで押しかけてまでとめることは難しい。


 それも元々スラムでの苦しい生活を紛らわせる風習であったため、食事があり、仕事があり、衛生的にも充実した生活を送り始めているスラムの人達から消えつつある風習ではある。


 結果、強姦や多数の男女による交わりは少なくなり、野外でのそういったことも行われなくなった。


 屋内までは分からないが、野外で女性が襲われることもなくなり、また助けられた女性も教会に来てくれるようになった。かなり強引な方法ではあるが、結果オーライかもしれない。


 結果、半年経ってカシウス一家が炊き出しを毎日しなくともスラムの人達は充分に魔物狩りをして生計を立てたり、農業を営んだりして自活できるようになった。


 衛生面も毎日お風呂に入り石鹸やシャンプーで体を洗い、死体の腐敗による伝染病がなくなり、またレンがちょくちょくホーリーレインクレンジングを唱え、下水道設備も整えたのでバグガン中心部とさほど変わらない環境となった。


 しかしどうしても屋内で行われる多数の男女による交わりはなかなか減らず、しかしそれも自由軍国自体の風習ではあるのでバグガン中心部とあまり大差ない。

 これ以上はカシウス一家でも難しい問題だろう。


「ふぅ……なんとかできることはやったかね。だいぶ町もきれいになったし、みんな仕事があるからか生き生きとしてるな。どうしようもない性風習はなくならんみたいだが……」


「いや、レン?充分すぎると思うわよ……?あの巨大な建物をあっさり作っちゃった時も驚いたけど……魔物でお米や小麦があんなに育つなんて……」


「ん、レンはすごい。あの見るに耐えなかったスラムが今は見た目だけなら普通の町と変わらない。それもレンの優しさの強さ」


「パパはすごいですね。僕でもあんな巨大な建物を魔法で作ることは出来ないです。パンもギルタン島で食べていたのよりすごいおいしいですし、お米もジャマング以上です……」


「そうじゃのう、こんなにおいしい米やパンを食べたのは初めてなのじゃ。しかもそれがバグガンのスラムでとはのう……ウチダ夫妻の教会にも通ってくれる人数が増えてきたしの。妾がおった昔と比べても信じられんぐらい町の様子が改善されておる……」


「そのあたりも全部地球のずるい知識で補った技術や魔法だけどな。ニエフの魔法は本当は結構万能なんだと思う。知識によるイメージ次第で割と自由に物質を操れるんだからな」


「そうですね、魔法は魔力をエネルギーとして自分のイメージを実現化する方法ですし、パパのように地球での不思議な知識があれば本当は存在するものなら何でも自由に操れるのかもしれませんね」


「そうじゃのう、主のように無から有を創造したり生命を創り出すことこそ魔法では出来んが、それ以外ならおおむね可能なのかもしれませんな」


「ま、今回の場合は突貫工事だったからな。金はあるけど時間をかけてる余裕はなかったし、それを俺の魔力で短縮できてスラムがよくなるなら問題ないよ。さて、そろそろジャマング調味料も少なくなったしジャマングに買出しにでも行くか。というか久しぶりに刺身が食いたい。スラムのことは、ウチダ先生たちにお願いしよう」


「ジャマング、久しぶりね。刺身楽しみだわ」「ん、醤油と味噌は欠かせない」「また海鮮丼たべたいです」「父上が作る出汁のきいた味噌汁が飲みたいのう」


 それぞれ思うところはありつつもバグガンのスラムの状況を半年かけて改善できたことに満足したカシウス一家5人は、ウチダ夫妻と巨大マンションの人達、今や普通の町となったスラムの住人達にしばらく留守にすることを伝え、ジャマングへ赴きしばしの休息をとることとなった。


 一週間ほどでカシウス一家はバグガン周辺部に戻ってきたのだが、最初に来た時よりはましなものの、町中が破壊され血の匂いが蔓延し、住人達も絶望の表情を浮かべていた。


 その理由は単純で、バグガン中心部の住人はスラムの住人の半数以上が何故か急激に強くなり、頻繁に冒険者ギルドに獲物を売ったり残りの住人も高品質の農産物を売って生計を立てられるようになったため、蓄えがあると狙いをつけていたのだ。


 しかし同時にカシウス一家の噂も当然バグガン中心部には届いており、その強さが抑止力となって今まで襲い、奪い、略奪することが出来なかったのだ。


 そしてその抑止力が国外に出たと聞きつけた中心部に住む比較的低所得者の住人が周辺部を今がチャンスとばかりに襲いかかり、金目の物を奪いに来たのだ。


 不幸中の幸いか周辺部にはカシウス一家が指導した冒険者達がおり、他人を守る目的ではなかったが簒奪者と戦い、剣術6位、魔法4位のウチダ夫妻が懸命に戦闘の指揮をとり、ギリギリで死亡者はでなかった。


 しかし戦力差がありすぎたため命は失わなくとも今まで蓄えた財産は根こそぎ奪われた上、かなりの負傷者がいた。


 農耕で生計を立てていた住人と、巨大マンションに住む人達もレンの限界を超えた防御魔法で作られた扉を固く閉ざし閉じこもったため無事だった。


「……これが自由軍国か…………ここを離れてジャマングに行くなんて…………慢心していたな…………みんな、とにかく負傷した人達を治療しよう」


「ひどすぎるわ…………こんなの自由なんかじゃないわよ『ギガヒール』『リジェネレイト』大丈夫ですか?」


「自由という言葉を曲解しすぎている…………『リバイブ』『ギガヒール』『リジェネレイト』どうですか?」


「本当にこんな国だったんですね…………パパのおかげで落ち着いていたから気づきませんでした…………『リバイブ』『ギガヒール』『リジェネレイト』みなさん、もう痛くはないですか?」


「父上…………すまないのじゃ…………妾もこの国の本質を忘れておった…………父上、ニュート、血をもらうのじゃ…………『リバイブ』『ギガヒール』『リジェネレイト』みな、すまなかった…………妾達がここを離れたばかりに…………」


「皆さん、本当に申し訳ありません『ギガメンタルヒール』『リバイブ』『ギガヒール』『リジェネレイト』『ホーリーレインクレンジング』『ギガメンタルヒール』今後こういう事態にならないよう当分はここを離れませんので…………」


「……お前らのせいだ……ぬか喜びさせやがって……中心部のやつらが襲ってきたことなんて今までなかったんだぞ……?」

「……でもこいつらが戦う方法を教えてくれなかったら死んでたんだぞ……?そりゃ全部奪われちまったけど・・・・・・これからどうすりゃいいんだ……?」

「……俺達が弱いくせに金持ったりするとこうなるのか……?いつまでも貧乏な暮らしに耐えろってのか……?この半年の幸せは嘘だったのかよ……」

「……これからどうすればいいの……?私達がいくらお金を自分の仕事で稼いで暮らしても……また奪われてしまうわ……」


 クロ、シロ、ニュート、キリア、レンの治癒魔法で肉体的に、レンのギガメンタルヒールで精神状態は落ち着いているものの主に戦った若い冒険者の住人達は不平不満や将来への不安を訴え、今までの泡沫のような幸せを疑っている。


「レンさん……すみません……私の力不足で守りきれませんでした……私もレンさんたちの働きのおかげでスラムが普通の町のようになり……教会にも人が増え……ここが自由軍国ではないと錯覚して……襲われることを失念していました……」


「申し訳ありません……精一杯戦い守ったのですが……相手の人数が多すぎて……」


 他の冒険者と共に肉体的治癒魔法と精神的治癒魔法を受けてもへたり込みつつレンに謝罪するウチダ夫妻。


 「いえ、ウチダ先生たちは精一杯戦い守ってくださいました。ウチダ先生たちが謝る必要は全くありません。今回のことは俺達のミスです。自分達がスラムを助け、そこからいなくなればどうなるのか予想して当たり前でした…………申し訳ありません」


 これが自由軍国という国である。

 強者は弱者から全てを奪い去る。

 動物や魔物となんら変わらない弱肉強食の世界。

 罪人である人間が作り出した究極に最悪な国。

 しかし弱肉強食という、罪人の捻じ曲がった事実が生み出したニエフの最強最大国家でもある。


 その後レン、ニュート、キリアが残り治療を続け、同時にクロとシロが大量のCランク以上の魔物を狩り続け、ジャマングで購入してきた食料と共に大量の食事を作り、破壊された町も最初に来た時と同じように修復していった。


 しかしそれでは根本的な解決にはならない。カシウス一家が周辺部に抑止力として留まり機能し続けない限り同様の事態は何度でも発生するだろう。


「クロ、シロ、ニュート、少し留守番しててくれ。キリアと一緒にカレンに相談に行く。カレンがこの状況を打開する方法を知っているとは思えないが、カレンは長くニエフを観察してきた。そこに自分の長い経験を持つキリアが加われば何か解決の糸口が見つかるかもしれない。ここ数日神様に祈り続けてはいるが……答えは与えられなかった……何かもっとちゃんとこの事態を解決できないか少し模索してくる。すまないが、俺とキリアの代わりに町を守ってくれ」


「わかったわ……このままだと一生自由軍国にいないといけない……」


「ん、神様からの答えはすぐには来ない。今できることを探すべき。それに一生こんな国に留まるのはイヤ」


「そうですね……僕もどうすればいいのか分かりません……パパ、キリア、カレンさんと一緒に神様からの答えをもらってきてください。町は全力で守ります」


「母上たち、ニュート、しばし父上を借りるのじゃ。阿呆がなんぞよい考えを持っておるとは思えんが……何もせんよりはましじゃろう……妾達の愚かな知恵で出来るだけ考えてみるのじゃ……」


「じゃあちょっと行ってくる。幸い冒険者の人達もなんとか持ち直して働いているし、農産物も量が多すぎたのか全部は持っていかれてないから当面は町の人も大丈夫だろう。キリア、行くぞ」


「了解じゃ父上」


「いってらっしゃい」「気をつけて」「パパ、キリア、お願いします」


 3人の言葉を背中に受けつつレンとキリアは中心部へ向かった。


 レンとキリアは初めてバグガンの中心部にある対談所にやってきた。

 建物自体はかなり立派で過剰な装飾がされており、かなりの人数が出入りしているのだが特に何の反応も見せていない。


「自由軍国は無宗教というかなんでもありな割りに対談所はしっかりしてるんだな。カレンの趣味とはだいぶ違う建物だが」


「無宗教な分偶像や魔物崇拝も少ないのじゃ父上。カレンも相談は受けるのじゃろうが妾がおったころから自由軍国国民にはあまり的確な答えは与えんよ。せいぜい暮らしていくのに必要な魔物狩りの情報を与え少しでも略奪がなくなるよう取り計らう程度じゃの」


「なるほどね、ゼクルスとは別の意味で本当に大変そうだ」


 対談所の中の個室に入る2人。


「よお、カレン、久しぶりだな。会いにこなくて悪かったな」


「ふん、状況は把握しておるんじゃろ?何かよい考えでも浮かんでおるか阿呆?」


「2人とも久しぶり……すごくがんばってくれていたのにあんなことになって……僕もスラムがあそこまで改善されるとは予想外で……レンレンと同じ油断と慢心の極みだった……」


「それは俺も同じだからかまわない……ってわけにもいかないが、キリアの言う様に何かいい考えはあるか?俺達もさすがに死ぬまでここにいるわけにもいかない。俺は父さん母さんが神様の元へ旅立つのを息子として見届けたい。かといって周辺部の人達を放置することもできない。どうにかならないか?」


「残念だけど……自由軍国の今の在り方は僕がニエフを観測し始めてから1000年後、つまり今から3000年前にはもう完成されていた……力が全て、奪えるものは何でも奪う……そんなことが3000年も続いているとそれを変えることは不可能に近い……それに……神様から教えてもらったニエフの終末では自由軍国が最もひどい惨状になる……最終的に神様がそう計画している以上恐らくこれからも自由軍国の在り方は変わらないだろう……」


「なんじゃ?それでは父上のやってきたことは無駄じゃったといいたいのかの?」


「いや、無駄ではないよ……ただレンレン達が頑張ってもどうしようもない部分はあったでしょ?」


「生活面でのことじゃなく性的な風習のほうか?」


「それかな……レンレンたちが周辺部の人達に生きる術を教えてあげたのは無意味じゃない。これからもその人達が鍛錬を積んでいけば中心部の人達と同等の強さを得てレンレンたちが守らずとも生きていけるだろう。ただ人間は性的なことに流されやすい。だからこそ人間が多く生まれ人口の多い強い国に成長して多くの国民がいるから試行回数が増えて生まれる可能性が極低いはずのガンジャン・シュウという異常に強い人間が生まれたんだと思うんだ」


「自由軍国がどうしようもなく淫らな国じゃということは分かったのじゃ。周辺部に関しては今しばらく父上率いる妾達が留まり住人が強くなるのを待てば襲撃はなくなるのじゃな?では中心部の人間とはどの程度の強さなんじゃ?」


「それはそんなに時間がかからないと思うよ。あと半年も経てば中心部の一般的な市民、だいたい10位から8位ぐらいの人達には負けないようになるはずだ」


「となると後の問題は完全聖書か。カレン、ガンジャン・シュウは未だ健在なのか?」


「うん、まだ元気だね……それに完全聖書を持っていなくても9人の将軍がいてかなり強い。キリア、ブラッドレイク一族は知ってる?」


「まさか吸血鬼がおるのか……?ブラッドレイク一族はあまり知らん……妾のブラッドライン一族が最強のオリジナル吸血鬼一族じゃと聞いておったのじゃが……」


「うん、それはあってるよ。僕のイメージした吸血鬼にキリアはそっくりだしね。ブラッドレイクはブラッドラインほど個人の能力が高くないけど、吸血による力の吸収効率が高い一族なんだ。そして第二将軍、男性オリジナル吸血鬼ブラッドレイク・アレクセイはかなり強く体格がいい。多分今400歳ぐらいじゃないかな?」


「他の8人はどんな感じなんだ?全般的に優秀な魔族かエルフあたりか?」


「レンレンの予想はだいたい当たりだね。第3将軍は女性魔族のボーウェン・クローディア、レンレンには遠く及ばないけど限界を超えているのは防御魔法だね。第4将軍は女性エルフのカーライル・エルヴィラ。全部の階位が2位以上のバランスタイプ。第5将軍は獣人と魔族のハーフ、レオンハルト・ザビウス。ほかは普通の人間だね。レンレンたちなら余裕で殺さず無力化できるはずだ」


「しかし、アレクセイとやらはいつごろ自由軍国の将軍などになったんじゃ?ガンジャン・シュウと違いあまり噂を耳にせんかったが……それに元々攻撃魔法が限界を超えておる上、ガンジャン・シュウとクローディアとやらの血をもらえば妾と変わらぬ能力じゃの」


「アレクセイはキリアが将軍を辞めた30年後ぐらいに第2将軍になって、影ながらこの100年ぐらい自由軍国をコントロールし続けている裏の支配者って感じかな。多分だけど、世界最強の国を自由に動かせることが面白いんじゃないかな?吸血鬼は高潔な人物が多いから珍しいパターンだけど、まあキリアも将軍になったこともあるし特別な例外ではないね。人間としては普通だし」


「ぐっ……確かにあの頃は暴れておったが……忌々しい想像主め……妾の恥ずかしい過去を父上の前で暴露するでない……」


「んー、よしよし、キリア、落ち着けよ、誰にでもそういう時期はある。俺にもたくさんあったよ。しかし意外と普通の人間の将軍が多いんだな?世界最強の国だから将軍もエルフと魔族、吸血鬼ばっかりかと思ってたぞ?」


 キリアをなだめつつ、いつものように頭を撫でるレン。

 とろけきった顔のキリア。


「さっきも言ったけど、あまりエルフや魔族、吸血鬼なんかの強力な種族は自由軍国を好まないんだ。キリアは黒歴史があるけど、それも吸血鬼としては若い時期に自分の力におぼれた結果だしね。多くの優秀な人種たちは自分の力を誇示することよりも家族や自分の町を守ったり、教師とかになることが多いんだ」


「その割には町にエルフや魔族が多かった気がするが…………?」


「そのあたりはファルバと同じ理由かな。だいぶ規模が違うけどね。キリアが言ってたけど、バグガンは良くも悪くも、いや、明らかに悪いんだけどとにかく世界最大の町だから自然と人も物も集まって来るんだよ。ただ集まってくる人材全てが将軍クラスの実力を持っているわけじゃない」


「それで~どうするんじゃ~あほ想像主め~あと半年は~指をくわえて……父上の指……かぷっ……ちゅーちゅー……ああ~美味なのじゃ~父上の信仰が味わい深く熟した果実のようになっておるのじゃ~」


「いや、キリア、別に痛くないからいいんだが……一言断ってから血を吸ってくれ。それで、カレン、キリアの言うとおり指をくわえて待っているしかないのか?それとクローディアはアブソリュートウォールを使えるのか?」


「使えるけどレンレンには遠く及ばないし、全魔力を使い果たすよ。というかレンレンがあそこまでアブソリュートウォールを連発したり使いこなしちゃうほうがおかしいんだよ」


「なるほどね。ガンジャン・シュウ以外を倒すことに問題はないわけか。どうするかね?スラムは時間を待たないといけない以上どうしようもないし神様の計画も自由軍国には厳しい。さっさと将軍ぶっ飛ばしてガンジャン・シュウ殺してでも完全聖書奪うかね……?」


「レンレン……ガンジャン・シュウを殺すつもりなの……?」


「さてな。話したこともないがカレンの話を聞く限りベヒーモスやキマイラのほうがはるかに高潔な性格だ。最悪のケースとしては想定するべきだろう。家族が死ぬよりはいい。今までは殺人を犯さずカレンの目的を達成できていたが今回はそうもいかないだろう」


「そうだね……Sランク魔物のほうが人間よりも罪がなく知能が高い分高潔な生き物だろう……ただ、ガンジャン・シュウの剣戟がレンレンのホーリーアブソリュートウォールを突破する可能性もあるんだ……今までに前例がないから僕にもどうなるか分からない……」


「まずは小手調べに第6将軍以下でもぶっ飛ばして、それ以上の将軍は各個撃破、最終戦でガンジャン・シュウってところかね?俺の信仰が弱くて防御が破られるなら、もうどうしようもないだろう。あとはやってみるしかないだろ」


「いや……レンレンの信仰は弱くないよ……むしろ自分が弱いと自覚している分ニュートくんの障壁よりも防御力は高い……」


「ふん、先ほど父上のすばらしく美味な血をもらったので父上の信仰が強まっておることなぞ言われずとも分かっておる。それよりも阿呆よ、具体的にどうするのじゃ?いきなり将軍達のいる王城に攻め込むわけにもいくまい?」


「そうだね、ちょっと乱暴な方法になるけど、町を巡回している兵隊を襲うのが最初の一手かな。それを何回か繰り返せば、たぶん第6以下の将軍が出張ってくるかもしれない。もし僕のほうに相談がきたら、適当にレンレン達の居場所を教えてけしかけておくよ」


「撒き餌をまいておびき寄せるってわけか。ギガントスクイッド思い出すな。カレン、とにかく困ってたことへの解決策教えてくれてありがとうな。撒き餌が終わって本命がきたら場所と時間連絡してくれ。それじゃな」


「父上、抱っこで帰ってたも?」


「あぁ?そんなんニュートにしてもらえよ?」


「ダメなのかぇ?」


「はぁ……キリアはカレンに会うとなんか幼児化するな……普通の抱っこな?」


「はぁ~暖かいのじゃ~抱っこされておるだけで治癒されておる気分じゃ~」


 また色々と別の意味で幸せオーラを纏いつつ出て行く父娘。


「もういよいよか……でもレンレンはまだ33歳……時間は残ってる……神様、どうか5人誰一人かけることなくこの厳しい試練を乗り越えてレンレンに残りの時間を幸せに過ごさせてあげてください…………」


 キリアが甘える様子などまったく眼中になく、ひたすらレンがこの試練を乗り越え、その後幸せな人生を送ることを祈るカレン。


 バグガン周辺部での働きはおおむね終わった。

 しかしそれでも自由軍国が3000年以上築き上げ続けてきた国の性質は変わらず変えられず、神のニエフでのご計画でも厳しい裁きを受けるという。


 残された戦いは9人の将軍と魔王人間ガンジャン・シュウ。


 レン、クロ、シロ、ニュート、キリアの戦いはどういう結末を迎えるのだろうか?

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