6.校内侵入 (1)
「サム!エド!行くぞ!」
小声でアルが二人に声をかけた。
「もうちょっと待った方が良くないか?」
「いや、正面玄関も南非常階段も大人が離れた。今が正面玄関に入るチャンスだ!行くぞ!」
「おう!」
二人はエドの意見を待たなかった。三人いれば、二人の合議で行動が決まり、残り一人は多数決に従い付いて行くだけ、それは民主的なプロセスと言えるかもしれない。
サムとアルは一気に校庭を北へ走り抜けた。二人は男子の中でも平均より足は速かったが、エドは遅い方だったから遅れた。最初に正面玄関に入ったアルは、左右の人影を確かめた。
「どうだ?」
後から入って来たサムがアルに尋ねた。
「旧館は死のロードだ。このまま上がるしかない!」
旧館は東側にも階段があるが、そこに進む途中に職員室があり、明かりが点いている。その前を通れば当然捕まるだろう。だから正面玄関の近くにある西階段を上がるしかない。
そこで後ろから声がした。
「放して!」
「はい、お疲れさん」
エドが大人に捕まっていた。
「ちっ」
サムとアルからしたら小柄で弱気なエドは足手まといだったが、二人とも男気があった。仲間を見捨てないんだ。だからサムはダッシュしてエドを捕まえた大人に近づき、低い姿勢でショルダータックルでぶつかった。
「ぐはっ」
その大人がエドから手を放したのを見て、サムはエドを掴んで、走り寄って来たアルに向かって放り投げた。正面玄関に入って来た別の大人が指笛を吹いてから声を上げた。
「Knock-onだ!」
その後ろに立っていた大人が異議を唱えた。
「投げているんだからThrow Forwardだろ?」
エドを抱えたままアルが異議を唱えた。
「ボールを投げてるわけじゃないんだからファールじゃないぞ!」
しかし、一番言いたい事があるのはエドだった。
「人間を投げないでよ…」
南非常階段から新館1階に入ったケイトとシャーリーは、教室に隠れて息を潜めていた。正面玄関の方から聞こえる喧噪にケイトが愚痴った。
「アルの声が聞こえるからサム達ね…せめて2階で騒ぎを起こしてくれれば良かったのに…」
シャーリーもケイトが言いたい事が分かった。
「正面玄関に人が集まったら、西階段を上がれないものね」
「旧館の2階で騒ぎがあれば西階段が使えるかもしれないんだけどね…」
一方、南非常階段を駆け上る足音があった。正面玄関の騒ぎを見て、今なら南非常階段の人手は減っていると思った子供達が駆け上ったんだ。一挙に3階まで駆け上った子供達は、扉を開けようとした。
「くそっ!鍵がかかってる!」
「2階から入ろう!」
階段を下りた子供達は、もう物音を立てない様に気を使っている暇はなかった。
「これだけ音を立てたんだ!もう一挙に行くぞ!」
そう言って子供達は新館2階の廊下を駆け抜けて行った。
その2階の教室に潜んでいたジムとベティにとってはいい迷惑だった。
「くそっ!2階で騒ぐなよ!見回りが気合入れて教室を探したら困るだろ!」
「まあ、教室に隠れてる人には迷惑だよね」
一方、誰かが騒ぐのを待っていたケイトとシャーリーにとっては好機だった。
「2階みたいね…勝負をかけるか…」
「もうちょっと待った方が良くない?」
「もう校内に入る連中が増えてるから、あまり待ちすぎると先を越されるわ。とりあえず隣の教室まで進もうよ」
「うん、そうだね」
イングランドですから…




