5.校庭侵入 (3)
ようやく西通用門に続く林に辿り着いた私達は、校庭内での騒ぎに気付いた。
「遅くなっちゃったね…もうみんな中に入ってるのかな?」
「なに、先に入った奴の騒ぎで警戒に穴が開くから、この位の時間に着くのが良いんだよ」
ジムが小枝を顔の前でくるくる回しながら進んでいる。この動作は蜘蛛の巣避けだ。昔、雑木林で蜘蛛の巣に顔を突っ込んだ私が大泣きした後、ジムは蜘蛛の巣避けをしながら前を進む様になったんだ。
「蜘蛛、いる?」
「昨日も蜘蛛の巣取りはしたんだけどな。冬だからそんなに元気に蜘蛛は巣を張らないだろ」
「そう」
しばらく薄暗い林の中を進んだ私達は、校外からは初めて見る西通用門に辿り着いた。
「こっち側から見るのは初めてだね」
「俺は昨日も見たぞ」
ジムがライトを弱くして照らすと、なるほどいつもは付いている南京錠が付いていなかった。ジムが金網の張られた扉を開けると、ちいさく『ギィ』と音が鳴って扉が開いた。
「行くぞ」
「うん。でもどっちに行くの?」
「正面玄関の近くで騒いでいればそっちに行きたいけど、南非常階段から入るのが無難だろうな」
正面玄関に近い校庭からは
「きゃー」
「くそー」
など子供の声が聞こえていた。大人と追いかけっこをしているのだろう。南非常階段は静かだった。
「どう考えても南も東も、非常階段の3階の扉は閉めてあるだろうな…3階の廊下だけ駆け抜ければ良いんだから、一番楽な道だもんな」
「そうなんだ」
「だから南非常階段の2階で新館に入りたいんだけど…こう静かだと、待ち構えているだろうな…」
学校の校舎は南向きの建物が昔建てられ、そこを旧館と呼んだ。その後に南北に延びる建物が追加され、そこを新館と呼んだ。今、私達の近くに見えるのはその新館の端にある南非常階段だ。ジムはここでしばらく待つ事にしたらしい。私は手を握られているから、ジムに付いて行くしかない。
すると、校庭の南側から木々の影を進んで来た子供達が南非常階段に近づこうとした。よく見ると新館裏から人影が近づいて行く…なるほど、大人が隠れていたんだ。横からライトで照らされた子供達は驚いて引き返してくる。
「うわっ」
「逃げろ!」
ジムは小声で呟いた。
「バカヤロー、こっち来んな」
それは私達の都合で、あの子達は隠れて逃げたいだろう。ところが、もっと大声を上げる子供がいた。
「こっちに来んなよ!」
校庭の中央から南非常階段に近寄っていた子供達がいたんだ。南非常階段近くに隠れていた大人達がその子供達に走り寄っていった。
「ちくしょー」
「逃げるぞ!」
それを見ていたジムが小声で言った。
「今の内だ、非常階段の2階から中に入るぞ!」
「うん」
反論の余地はなかった。だって私の手を握ったままのジムが走り始めてしまったのだから。
急いで非常階段を2階まで上がった私達は、そこから新館に入り、二つ目の教室に入った。
「非常階段を登る音は聞こえた筈だ。見回りの大人をここでやりすごすぞ」
「見つかっちゃわない?」
「これを被れ」
ジムは背負っていた大き目のザックを降ろし、中から黒い布を取り出した。
「暗幕?」
「遮光カーテンだ」
私達は並んだ机の影に隠れる様に座りこんだけれど、遮光カーテンを被ったジムはまた私の手を握り、すぐ隣に座っている。別れて机の陰に隠れないと扉から大人が入って来たら見つかると思うけど…
幼い頃、ジムの家の物置に二人で隠れた事を思い出した。中々私達を見つけられなかった大人達は、私達を見つけた後にきつく叱ったものだった。昔みたいに二人で遊んでいる…なんだか笑ってしまう。
教室の扉を開ける音がした。ジムが私の手を強く握った。うん。私もどきどきしている。
教室の入口から顔を出した大人は、ライトで教室を左右に照らした…そこで西階段の方から音がした。大人が声を出した。
「正面玄関か?」
「度胸がある奴がいるな、西階段で待とう」
大人達が去った後、ジムが言った。
「遮光カーテン、役に立ったろ?」
「騒ぎで気が逸れたみたいだけどね」
私達は心臓の鼓動が落ち着くのを待った。




