1.お誘い
「なあ、ベティ、23日の闇イベントに一緒に参加しないか?」
お隣のジムが柵越しに手招きするから近づいたら、小声でそんな事を言って来た。
「え…あの、学校に侵入して屋根の時計台のベルを鳴らすイベントの事?」
「そうだ。一生に一回しか参加出来ないイベントなんだから、参加しない手はないだろ?」
エクセター南部プライマリースクール(小学校)では、6年生のみ参加できる闇イベントとして、クリスマスイブの前の晩に学校のベルを鳴らす事が代々受け継がれて来た。
「でも、見つかったら怒られない?」
「そりゃあ説教くらいされるだろうけど、その程度さ。だって、毎年6年生がやってるんだから、そこまで怒られはしないだろ」
私は迷っているフリをした。ジムとは昔は家族ぐるみで仲良くしていたが、彼がサッカーの育成クラブに参加する様になってから疎遠になっていたんだ。ひさしぶりに一緒に過ごせるなら、断る理由はない。プライマリースクールで一生に一回の思い出を作るなら、やっぱりジムが良い。
「でもさ、良いの?男の子同士と違って、私だと足を引っ張るかもしれないよ?」
「実は、有力な情報があるんだ。西の通用門がその日の晩だけは開いているんだって」
「え?本当?」
「クラブチームの先輩が教えてくれた。代々伝えられてるから嘘じゃない」
「普段開いてない門が開いてるなら、そっちは見張りは少なそうだね?」
「ああ。今日回って見たら、雑木林の中に一応道はあるし、錆ついて開かないなんて事はなさそうだった」
「東の正門とか駐車場側だと見つかりやすいだろうし、やるなら学校の中には入りたいもんね」
「だろ?じゃ、参加で良いな?」
「良いけど、これって親には…」
「親には内緒で家から抜け出すのがルールだ。絶対黙ってろよ?」
「それで、準備はどうしたら良い?」
「ハンドライトと、寒いからな、水筒にお茶を入れて持って行った方が良い」
「ベルを鳴らす道具は?」
「先輩に聞いた。金槌とかは駄目だけど木槌だけは持ち込んで良いらしいから、俺が用意して持って行く」
「じゃあ、当日はどこで落ち合う?」
「8時過ぎに南の通りに出たところで待ってる」
「約束だよ?」
「ああ」
私達は指切りをしてそれぞれの家に戻った。
学校でも誘い合う子供達がいた。
「ねぇ、ケイト、23日のイベントって参加するの?」
「ん?今のところ、誘われてもいないし誘ってもいないよ」
「じゃあさ、私と参加しない?」
「そうだね。積極的に参加しようとは思わなかったけど、誘われたなら参加しても良いかな、と思ってるよ」
「本当!?じゃ、一緒に参加しようね」
「うん…ところで、シャーリーは持って行く道具とか分かってる?」
「…ごめん、よく知らない」
「良いよ。ちょっとバレない様に聞いてみる」
「ごめん。お願い」
そばかす顔に金髪のシャーリーは虚勢を張って口喧嘩をする事はあるが、普通の女の子だ。一方、男子を含めてクラスで二番目に背が高い黒髪のケイトはスポーツでは男子にも負けないし、大人びた少女だった。自然、シャーリーはケイトに甘え気味だった。
校舎の西側には木々が植えてあり、木陰で子供達が話している事も多い。大柄の赤毛の男の子と背高のっぽの金髪の男の子、そして小柄な茶色の毛の男の子が集まって話をしていた。
「俺は上手く家から抜け出すから、8時10分頃には大通りの一本裏の通りに集合しろよ」
「サムやら俺は上手抜け出せるだろうけど、エドは注意しろよ」
「僕だって上手く抜け出すよ」
「『僕だって』が心配だから言ってるんだろ」
「本当に心配してんだぞ?」
「うん、ごめん。気を付けて抜け出すよ」
「用意するのはハンドライトとお湯を入れた水筒だからな。木槌は俺が持って行く」
「エドは水筒の準備で親にバレないようにしろよな?」
「大丈夫だよ。アルだって気を付けてよ」
「俺がヘマするかよ」
違う木の影では他の男の子達も話をしていた。
「23日は絶対サムを出し抜くからな!気合入れろよ!?」
背は高くないががっしりした体形の黒毛の男の子の言葉に、細身の赤毛の男の子が答えた。
「ダリルは熱くなりすぎるとヘマをするから、もうちょっと冷静になれよ。ライトと水筒を忘れるなよ?」
「分かってるよ。ニックこそ忘れんなよ」
「当たり前だ。8時10分頃に駐車場側から入るから、遅れるなよ」
「分かってるよ」




