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第8話 夢から醒めた夢


気付くと、私は慣れ親しんだ会社のオフィスにいた。


「いた」というか、床に倒れ込むような体勢で寝ていたようだ。



時計を見ると、深夜の2:30。


……どうやら私が寝ていたのは、せいぜい30分ほどだったらしい。


おそらく三徹の疲れに転んだ衝撃が加わって、半分気絶したような状態だったのだろう。



けれど少し寝たせいか、だいぶ頭がすっきりしている。


私は両腕を上げて伸びをしながら呟いた。



「……それにしても、いい夢みたなぁ。まさか推しのユリウスたんがあんなにイケメンだったなんて!」



しかもその推しと婚約して、キスまでする夢を見られるなんて。


夢の中では推しが近すぎて逃げ出したかったけれど、醒めてみればただただ最高の夢だった。


脳裏にはまだ夢の余韻が残っていて、私は改めて幸せな気持ちを噛み締めた。



「ま、夢だからすぐ忘れちゃうだろうけど! ……それより、朝までに残り仕事を終わらせないと。長谷川のやつが残して行った未処理の書類は、まだまだあるんだから!」



私は残りの仕事を片付けてしまおうと、制服の袖を捲って気合いをいれた。


──その瞬間、オフィスのドアがバタンと大きな音をたてて開き、なんとクソ上司(田山)が飛び込んできた。



「ええっ!? た、田山さん!? こんな時間にどうしたんですか!?」



田山は走ってきたのか、息を切らしてこちらを見ている。


こんな深夜に田山が出社してくるとは、異常事態だ。


普段なら私に仕事を押し付けて、自分は悠々と遅刻してくるようなやつなのに。


……しかし、先ほどまで夢の中でこの田山にそっくりな王太子(カイウス)を見ていたせいで、今度は田山が王太子(カイウス)っぽく見えてきた。



(……やっぱり似てるわ〜。眉毛とか、口元とか。って、そんなこと考えてる場合じゃない! なんで田山がここにいるのよ!?)



私が戸惑っていると、田山はゆっくりと私に近付きながら、訳のわからないことを話し出した。



「……すまない。俺が間違っていた!」


「はあ?」


「俺は傲慢で身の程知らずで、君のことを蔑ろにしていた!」


「……!?!?」



田山が言っていることが、わかるようでわからない。


確かに田山が傲慢で身の程知らずなのは認める。


私のことを蔑ろにしている……というかパワハラしているのも間違いない。


……が、なぜ田山はこんな深夜に突然謝罪を始めたのだろうか。


戸惑う私の前に、突然田山が跪いた。



「全て悔い改める! それにマリアベルとは別れるから、俺とやり直してくれ!」


「…………!? マ、マリアベル!?」



それは、先ほどまで私が見ていた夢の登場人物の名前だ。


田山がなぜ、その名前を知っているのだろうか……?


私が衝撃のあまり口をパクパクさせていると、ふいに背後から高い声がした。



「王太子さま! 私を捨てるのですか!? 昨日はあんなに愛し合ったのに、酷いわ!」



私が慌てて振り向くと、そこに長谷川が立っていた。



「は、長谷川さん!? あなたまで、どうしてここに!?」



ますますおかしい。


長谷川が定時外にオフィスにいるところなんて、一度たりとも見たことがないのに。


しかもさらに意味のわからないことに、長谷川は会社の制服ではなく、なぜかピンクのヒラヒラしたドレスを着ている。


……そのドレスは、先ほどの夢の中でマリアベルが着ていたものとそっくりだった。



「は、長谷川さん、どうしてドレス……? そ、その格好で家からここまできたんですか?」



そうだとしたら、ある意味勇者である。


しかし長谷川は私の問いかけを完全に無視して、田山に文句を言い続けている。



「私を捨てて、スカーレット様とよりを戻そうと言うのですか!? そんなの卑怯です! だったら私だって、あなたよりユリウス様と婚約したいですわ!」


(スカーレット!? それにユリウスの名前まで出てきた!? ど、どうなってるの!?)



もう、訳がわからない。



「なんだと! この浮気者が!」


「どっちが浮気者ですか!」



2人の罵り合う声に、さらに別の人物の声が重なった。



「あーあ。カイウス様と聖女様、もう破局かぁ」


「まあ2人でいると碌なことしないだろうし、別れてもらった方が安心かもな」


「この国のことはユリウス様とスカーレット様がきちんと治めてくれるだろうし」



声に気付いた私があたりを見回すと……いつのまにか同僚たちが出社して、田山と長谷川の喧嘩を見守りつつ、感想を述べている。


その上同僚たちまで、先ほどの夢のモブ貴族たちのような豪奢な衣装に身を包んでいるのだ。



……いや、おかしい。何もかもがおかしい!



「いやっ、もう、なんなのこれ!?」



私は耐えきれなくなって、叫び声をあげた。


するとオフィスにいた全員が、一斉にこちらを振り向く。



「スカーレット様はどう思います?」


「スカーレット、悪いのはマリアベルだよな!?」


「浮気者なのは、私ではなくカイウス様ですわよね!? スカーレット様!?」


「スカーレット様! お返事を!!」


「スカーレット様!!」


「スカーレット様!!!!」


「スカーレット様!!!!!!!!!!!」



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