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第6話 推しを見ると目が良くなる


(ユリウスって……私の『推し』の、あのユリウス!?)



第二王子ユリウスと言えば、私が小説を読んでいた時に密かに推していたキャラクターだ。


小説では悪役寄りに描かれていたが、王となった兄をいさめ、隣国との開戦を防ごうと奔走していた彼の方が、私には圧倒的に正しく思えた。



「ユリウス、ここへ!」



父王の呼びかけに応え、銀髪に水色の瞳をした青年が、学生たちの間から前へ進み出た。



(うわあああ!! イ、イケメン! 小説ではあまり描写されていなかったけど、実写化するとこんな感じなのね! ……って、私の願望を反映してるからだろうけど)



どうやら私は自分の夢の中なのを良いことに、推しを絶世のイケメンとして具現化させたらしい。


キラキラ輝く銀髪と、青空を写したような意志の強い水色の瞳から目を離せない。



(オッホ! が、眼福ですわぁ……!!)



これだけのイケメンを見ていると、パソコンの見過ぎでドライアイが酷い私の視力まで回復する気がする。


私が推しをガン見していると、王がまた話し始めた。



「ユリウス。これからはお前が王太子として、この国を守ってほしい」


「父上……。これまで次の王になるのは兄上と信じ、兄を支えるのが私の使命と思い精進して参りました。しかしこうなっては、この国を守れるのは私しかおりますまい。……王命、謹んでお受け致します」



ユリウスはそう言って床に膝をつき、胸に手を当てて頭を垂れた。



「カイウス様が廃嫡されて、ユリウス様が王太子に……!?」


「ど、どうしてこうなったんだっけ!?」


「……まあでも、正直ユリウス様の方が王太子に相応しいというか……」


「真面目だし、それでいて周囲の意見も聞いてくださるし」


「正直カイウス様の独断専行には、周りも疲れ果てていたしなぁ……」



カイウスが廃嫡されたとあって、周囲の学生たちも、もはや言いたい放題である。


父からの廃嫡宣言の上、学友たちからの酷評まで受けて、カイウスは床に膝をつきがっくりと項垂れていた。



(わぁ〜、推しが王太子に就任したわぁ! 自分の夢の中とは言え、ここまで上手くいくとは思ってなかったけど……うん、満足満足!)



小説を読んでいた時、私が『そんな展開おかしいだろ!』『カイウスのアホよりユリウスたんの方が、圧倒的に王太子適格あるだろ!』『聖女ぶりっ子スギィ!』等と納得行っていなかった部分が見事に解消されて、私はものすごくスッキリしていた。


そして喜びのあまり、ついパチパチと手を叩いて推しを讃えた。



「ユリウスた……ユリウス様! おめでとうございます!」



推しへの惜しみない拍手である。


私の拍手に釣られたように、周りにいた生徒たちも拍手を始めた。


最初はやや遠慮がちなパラパラとした拍手だったが、その音は段々と大きくなり、最終的にはホールを揺らすほどの大きさとなって辺りを包み込んだ。


その辺りで、ユリウスがこちらを振り返る。そうして真っ直ぐにこちらを見つめてくる。



(イヤー! ユリウスたんがこっち見てる!)



オタクのサガというか、推しというものは一方的に見つめるものであり、推しがこっちを見るのは気が引けるのだ。


早く私から視線を外して欲しいのだが、ユリウスは目を逸らすどころか、軽やかな身のこなしでこちらへ近づいてきた。



「スカーレット様。兄の無礼をどうかお許しください。……そして兄の企みを暴き、この国を守ってくださったことを感謝いたします」



ユリウスはそう言って、推しが近すぎてガチガチに固まっている私の手を取り……手の甲に唇を落とした。



(イヤあああ! お、お触りしてしまった! 推しへのお触りは犯罪なのに!!!)



あまりのことに私は声も出せず、ブルブル震えながら硬直していた。


どちらかと言えば、推しが私をお触りしているので、無罪……として欲しい。


そして夢の中とは言え心臓が保たないので、早く放して欲しい。


……のだが、ユリウスは私の手をしっかりと握ったまま続けた。



「今言うべきことでは無いとわかっているのですが……美しく聡明なあなたが婚約を解消したとなれば、国中の男があなたの元へ押し寄せてくるでしょう。そうなる前に言わせてください」



ユリウスは私を真っ直ぐに見据えながら言った。




「子供の頃からずっとお慕いしておりました。私と婚約してください」


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