第5話 制裁完了(ミッションコンプリート)!
「カイウス!! 今スカーレットが言ったことは、本当なのか!?」
王である父親の大喝に慄いて、王太子はしばし固まっていた。
「……スカーレットの言うように、お前が密かに隣国との開戦準備をしているというのは本当なのかと聞いている! 今すぐに答えよ! 隠し立てしても、調べれば必ず露見するのだぞ!!」
更なる追及に、王太子は目を白黒させながら掠れ声で答えた。
「ほ……本当……です」
「………なんという愚かなことを!」
王は息子の所業にショックを受けたのか、眉間にしわを寄せて苦し気なため息を吐いた。
「……でも父上、お聞きください! ここにいる聖女マリアベルの力があれば、隣国を征服して我が国の領土をさらに広げることもきっと可能で──」
「この、痴れ者がっ!! たかが治癒魔法を使える婦女子一人に何ができるというのだ! それ以前に、せっかくここ十数年落ち着いていた両国間にまた血を流させようとするなど……恥を知れ!!」
父の正論に王太子は口をパクパクさせていたが、ふと私の方を振り向いて食って掛かって来た。
「……おい、スカーレット! お前はなぜそんなことを知っていたんだ!?」
秘密裏に進めていたはずの事が露見して、訳が分からないという顔をしているが……。
「この国で起きることは、私にはなんでもお見通しですわ!(なにしろ、小説は最後まで読破したからね!)」
私の決めゼリフに、王太子はガクリと肩を落とした。
そんな息子に対し、王が冷徹な声で告げる。
「お前には失望した」
「ち、父上?」
「婚約者を蔑ろにし、身分の低い娘との恋愛にうつつを抜かしているところまでは黙認していたが……。それだけでは飽き足らず、我が国を危機に陥れようとまでしていたとは……!」
「父上、俺はこの国を更に発展させるために──!」
「もういい! ……カイウス、お前は廃嫡だ!」
「っ!? そ、そんな……!!」
どうやら私の夢は、小説とは違った方向に進んでいるようだ。
本来なら王太子カイウスは、この後現王が病に倒れると同時に新王となり、すぐに聖女を伴って戦場へ向かい戦功を上げるはずなのだが……そうなる前に廃嫡されてしまうとは。
(だいぶ話が変わっちゃったわね。……ま、別に夢だからいいか!)
田山似のアホ王太子に思う存分制裁を加えられて、私はだいぶすっきりしていた。
(気持ちの良いオチが付いたところで、そろそろ目が覚めて欲しいんだけど……。さっさと起きて朝までに残りの仕事を終わらせないと、また田山に怒鳴られるんだから)
そろそろ起きなければと、私が自分の頬をつねったり叩いたりしていた時、再び王が宣言した。
「新たな王太子に、第二王子ユリウスを据える!」
(うーん、どうやっても目が覚めないわね。……って、ユリウス?)
聞き覚えのある名前に、私はハッとした。
(ユリウスって……私の『推し』の、あのユリウス!?)