第仇話 高天原
望海が帰宅をする少し前の事、台所に居る圭太と母親の二人に対し声がかかる。
その声の主はティムであった。
「やっと荷解きが終わった。東、ちょっとこっち来いよ。良い物見せてやる」
「そういえば、寮の中でも同じ事言ってたよね?確かお婆ちゃんが当時の写真を持ってて見せてくれるとかなんとか」
ティムの祖母は此処、比良坂町の出身であり彼女の心のあり方に孫である彼も大きな影響を受けている。
若い頃に異国へと渡り、そこで家庭を築いた。
しかし、故郷への名残り惜しい気持ちも少なからずあったのだろう。
彼の手には何枚かの写真が握られていた。
「大祭っていうのは色んな地域で開催されていて、東がくる前にもうちの王国でやってたんだ。マジェスティも開催式でパフォーマンスをされて、現地は勿論。テレビの前でも大盛り上がりだった。俺は依頼もあって、何度も開催会場に足を運んだし。写真を撮ってグランマと自分のを見せ合った事もある」
「へぇ、あの方がね。そういえば、同じアングルの写真があるけどこれはどう言う事?この炎はそれだけ二人を惹きつけたって話になると思うけど」
圭太が指差したのはメラメラと上空に昇り立つ、躍動感のある大炎だった。
これがセピアとカラー写真、両方あるという事は時代に共通して存在する物という事になる。
「あぁ、これだろう?開催式では聖火を専用の台に焚べるんだ。大祭の発祥の地から頂いてな。だけど、此処は特別だ。ある意味な」
「何?比良坂町では偽物の聖火が使われるって言いたいの?実際にティムの祖母の時がそうだったって事?」
「自凝島は危険な場所で聖火を現地まで運べる奴がいなかった。もうダメだと思った時、現地で神聖な。神秘的な炎を見つけた事でなんとか開催に漕ぎつけたっていう噂話を当時グランマは聞いたそうだ」
そのあとの事だった、二人の近くに足袋を擦る音が聞こえ。
それと同時にある単語を口にする者がいた。
その正体は最後に残された住民である母親だった。
「...“高天原”ね。あの人が話していたわ。山の中に洞窟があってずっと燃え続けている聖火があるんですって。御伽噺じゃあるまいし、男性はそういう冒険譚に惹かれるのかしら?」
「えっ?そんな地名の場所、比良坂町にあったっけ?」
「ははっ!珍しく東が動揺してるな。当時、同じ事を疑問に思った人々が比良坂町を隈なく探したが見つける事が出来なかったそうだ。だが、今はどうだ?」
ティムの問いかけに答えたのは、圭太ではなく玄関の方から慌てているのか?不規則に足音を鳴らす望海であった。
聞き慣れない「高天原」という単語に興味と動揺を示したようで、買い物籠を持ちながら三人の元へと近寄って来た。
「おかえり、姉貴。カレーの材料は見つかった?」
「あぁ、うん!ちょっと皆の話が聞こえて来て…ねぇ、お母さん。まだ私達に話してない事あるよね?」
「私と言うより、貴方達のお父さんがね。…分かりました、良い機会だから私の知ってる事を話しましょう。あの人が言うにはね、比良坂町って言うのは一つの島の一区画に過ぎないんですって。町の外に出たら更に四分割にされていて高天原というのは区画名称の一つ。他にも根ノ国という湖に埋まった都市があるなんて話してたわ。正直言って、半信半疑どころか信じられなかったわ。あの人の空想かと思ったもの」
しかし、この会話によって望海は全て合点が行ったというように身震いしながらも以前大学図書館から盗み見た本の内容と母親の言う事が重なり真実味を帯びて来たと思ったようだ。
目を見開く彼女を見たティムは情報が欲しいと質問を投げかけた。
「じゃあ、マムの言う事が正しければその高天原に隠された聖火があるって事だよな?町の外にある可能性が一番高い!早速、行ってみようぜ!」
「いやいや。僕達、自凝島の全体像も知らないんだよ?高天原に行きたいって言われてもどの方向にあるのかも分からないし」
「圭太の言う通りです。此処は衝動的にならずに慎重に行動しましょう。外の探索に行きたいのであればある程度の情報と仲間が必要不可欠です。…でも、もしこのカード達が此処に導く為の物だったとしたら?」
望海は自身の懐に入れていたカードを手に取る。それに釣られるようにして、圭太も同じ動作を行った。
自分達に与えられた試練の終着点を知った二人は、尚の事この謎を解き明かさなければならないと決意した。
「とりあえず、今夜。姉貴の紹介してくれる人に会ってみよう。夜間専門の運び屋だから、今はいないんだよね?」
「はい。お二人の始業時間は21時からなので、その少し前にお話し出来れば良いかなと考えてます。では、会いに行きましょう。朝日奈兄妹に」




