第漆話 禁止
「まぁ!じゃあ、その方は無線機も使えないままずっとトンネルの中に。そうよね、湿度の高い場所にいたら電波も通らないしそもそも機材だって使用出来ないもの。でもどうして、居場所が分かったの?位置情報を本部に送ったのかしら?」
「レディの言う通り、俺たちの王国では常に電波が通っている場所にいる訳じゃない。それこそ、国境を越える運び屋達だっている。だからこそ、保険として非電波区域に対応出来る対策を行なっているという訳だ。位置情報の開示は運び屋の基本だからな。スケジュールも公開しておけば何かあった時にもすぐ駆けつけてやれる。人命救助はスピード命だからな」
応接室と書かれた両扉を挟んで、呆れた表情をする圭太と微笑ましそうにする望海の姿があった。
「また自慢話をしてるよ。ティム、中に入るよ」
「良いじゃないですか、人命救助は運び屋にとって大事な仕事ですし。節子さんもお疲れ様です。大祭の件は如何ですか?順調に進んでいると...」
節子は“大祭”という言葉にピクリと反応し、そのあと珍しく頬杖を吐きながら溜息を吐いた。
その様子に望海は余計な事を言ってしまったと動揺し、自身の口を慌てて塞いだ。
「いいえ、望海さんや皆さんが悪いなんて一度も思った事はないわ。カードの件もあるでしょう?其方に専念して頂いて、私の方で色々と進めたかったのだけど交通規制をかけられていて上手く人を配備出来そうにないの」
「それは会場とか選手達が使用するからその為に道を開けろって事だよね。運び屋にとっては営業妨害そのものだと思うけど」
「ちょっと圭太、言い方が悪すぎますよ。実際、安全確保の為にも立ち入り禁止区域は必要だと思います。武器や何かの能力を持つ人達が侵入して来ては選手や要人の方々に危機感を与えてしまいますから」
そう言うと更に節子は体調を悪くし、目眩を起こすかのようにフラフラと自身が座っていたソファにそのまま倒れ伏した。
そのあと、気怠げな態度でテーブルの上に置いていた大祭に関わる資料を軽く捲ってる。
「お殿様の交渉もあって、皆さんにはそのまま担当場所で業務を行ってもらいます。通行証もお渡ししておくわね。ただ、一定のエリアでは厳重警備体制が敷かれて条件付きの人達でないと侵入が不可能になってしまったの。武器を持たない、能力を使用しない。例外として、運搬能力があり観光客を案内出来る技能を持った方々は通行可能との事よ」
それを良く考えてみると、まず通常の運び屋達は黄泉達の作った武器を持ち、瞬間移動という能力を持つ。
これに気づいた望海は顔を真っ青にし、今この場にいる全員だけでなく先程会議室にいたメンバーでさえ移動が不可能になってしまった事に気付いた。
「えっ、では他に何で移動するんですか?車とか自転車で移動しろと?運転技能がなければいけないという事ですよね?」
「困ったな。僕達、母さんから怪我をするから自転車に乗るのを止められてるんだよね。そもそも、運び屋に“運転技能”は必要ないしね。一般人じゃあるまいし」
「そうなのよ。そこがミソなの!お殿様は財閥と和解出来たって仰っていたけど蓋を開けてみれば合法的に運び屋を止めにかかってるのよ。それで協力して頂けるような団体とかを調べていたのだけど、ある方達に目星がついたの。お二人は馬車とか人力車ってご存知?」
馬車や人力車という単語に望海は思わず「あっ!」と声を漏らす。
夢の中で数週間暮らしていた長春と呼ばれる帝都にはそれらしき物があった事を思い出した。
「私、知ってます。人を乗せて俥夫の方が車を引くんですよね?一度目に付いて、正直不便だなと思ってしまったんですが確かに周りの風景を楽しむには打ってつけの乗り物ですよね。じゃあ、それをメインの移動手段にしていこうと言う事ですか?大人数の輸送には向かないと思いますが」
「だけど姉貴、観光っていう観点から見たらこれ以上ない移動手段だと思うけどね。運び屋達だって元々は棲み分けをされてた訳だし、用途に応じて客は選ぶ権利を得られるんだよ。姉貴だって全て出来る訳じゃないでしょう?」
圭太の問いかけに対し望海は素直に頷く。
これから環境も変わり、自分達の役割を見直す時期に入って来たと言う事なのだろう。
そんな中でティムは居心地が悪くなったのか?部屋の隅に置いていた大きなリュックサックやキャリーケースを席から立ち上がり持つ仕草をする。
「セカンド、今日から東の家に世話になるからよろしく。マムの事は事前に聞いてるし家の中で騒がしくするつもりはないから」
「ちょっと!何で事前にホテルとか旅館の予約をしておかないの!母さんが許す訳ないでしょ」
珍しく圭太が怒っている姿を見て、望海はクスリと微笑ましそうに静かに笑っていた。
いつも稽古では孤独に演技をし、家柄ゆえに周囲と馴染めずにいた弟が年頃らしい姿をしているのをみて素直に嬉しいという気持ちが彼女にはあったようだ。
「まぁまぁ、許可は実際に帰宅してからにしましょう。とりあえず、再度21時頃に協会に戻ってこればお二人もいると思いますし圭太の課題もそれでクリア出来たら良いでしょう?」
「まぁ、そうだね。僕も荷解きしたいし。でも、また大変な事に巻き込まれちゃったね。相変わらずだけど」
そのあと、三人は節子と別れ協会を後にする事にした。
瞬時に自宅に戻ると、玄関先で「お帰りなさい」と母親の声がする事に気付き姉弟は二人揃って不意打ちを食らったかのようにビクッと身体を跳ねるような仕草をする。
そのあと、廊下の向こうから望海に似た着物姿の女性が出て来た。




