第陸話 矛盾
「望海!まだこっちの話し合いが終わってないから戻って来て」
亘との会話を終えた彼女は彼に一礼すると元の場所に戻る事にしたようだ。
此方にも大多数の運び屋達がおり、議論を重ねていた。
先程の声の主は光莉のようである。
そんな中で圭太は望海にある質問を投げかけた。
「ねぇ。僕、しばらくこっちにいなかったから余り状況が把握出来ていないんだけど。数日の間に月食とか日食が起こるみたいなニュースやってなかった?新聞でも良いんだけど」
「いいえ、特にそんな話題はないですね。確かに圭太の言うように”闇夜に存在する朝日“の矛盾を解決するには適した現象ですよね。...あ!私、分かったかも知れません。ピッタリな名前を持つご兄妹がいらっしゃるじゃないですか。圭太、貴方もご挨拶をした事がある人達ですよ。人探しをする時に協力して頂いたじゃないですか」
「人探し?そんな事をしたような...あっ!瑞稀さんの時か。姉貴が同業者の人に頼んだ奴」
「私も側にいたけどね。圭太君がフグ食べたいって言ってた奴。あれは傑作だったな、その店に風間様がいてさ。じゃあ、零番目は解決したのも同然か。それと富士宮は何か気になる事があるんだっけ?」
光莉が目配せすると彼女は「信念」と「戦車」のカード裏を眺め見比べている。
「やはりな、文脈がよく似ている。潮風と南風、風に乗って目的の場所に向かえば良いという所まで一緒だな。となれば、私と光莉は地理的に近い場所に訪問する可能性が高い。しかし、先程の風達に由来しそうな物はあるのか?」
富士宮の言葉に光莉はニヤリと笑みを浮かべる、彼女にはある手がかりがあるようだ。
「偶に吉備で仕事をしてるとさ、色んな人に会う機会があるんだよね。彼処も結構、依頼人もそうだし運び屋も多いからさ。そんな中で参区の二名洲エリアを担当してる人達がいるの。瀬璃菜もその内の一人なんだけど、子供向けのヒーローアニメが大好きな奴がいてさ。名前も面白いんだよね」
「良いじゃないですか、零央君も毎日楽しみに見てますよ。白南風さんの事ですね、潮風さんも同期でいらっしゃいますし実在の人物の名前をもじってる可能性は高いと思います。だから光莉も気づけた、そうですね?」
そう言われた光莉は腰に自身の手を当て、ドヤ顔をしているようだ。
その態度に富士宮は感心していたが、まだ解決出来る事があると彼女は話を続けた。
「それと、もう一つ。吉備には立派な庭園があって、日照時間も長いから晴れた日が多いって有名なの。これって、Dr.黄泉のミッションの良いヒントにならないかな?」
「成る程ね、吉備か。それなら、僕も移動出来るし現実味が帯びて来た。行動は早い方が良いだろう。相談が終わり次第、直ぐに向かおう」
どうやら光莉、黄泉、富士宮の行き先は何とか決まったようだ。
しかし、それとは逆に残された児玉や望海は不安気な表情をする。
自身の行き先にピンと来るような物が無く、曖昧な答えしか出てこないからだ。
「どうしましょう、児玉さん。私、普段から依頼人を届けるのに必死で周囲の景色をじっくり観察した事なんてありませんでした」
「水面に浮かぶ鳥居なら俺も濱津の近くで見た事あるんだけどな。そもそも、彼処は望海の担当場所じゃないし“戦火の希望”という言葉ともミスマッチだしな。そう言えば、瑞穂はもう行き先に検討がついてるんだよな」
「えぇ、漆黒の将校って言われたら隈本しかないもの。でも、私。望海ちゃんのお願い事、ちょっと分かったような気がする。安芸ってあるでしょう?近くの川に綺麗な鯉が泳いでる所」
「あぁ!依頼人の方が赤いユニフォームを着てるのをよく見た事があります。熱心な野球ファンの方が多いんだとか。小坂とお好み焼き対決をしてるとか噂は予々。安芸なら私も移動範囲内です。ちょっと下見に行ってみるのもありですね。でもどうして、その場所を?」
「俺も分かった。彼処にも大鳥居があるからな。ただ、都市開発の影響で新たに発見された場所だから以前は民家の影に隠れて細々とやっていた神社だったと記憶してる。色々、順路も変わっているだろうし。それに、大祭の影響で交通整備がされて最悪の場合。目的地に辿り着けない可能性だって出てくる。それは用心した方が良いかもな」
児玉の警告を受け、望海は困惑の表情を浮かべた。
当たり前の事ではあるが、もう既に自分達の知る比良坂町とは異なる場所も存在する。
それに加え、大祭という大掛かりな行事の中で様々な制限がかかる可能性も出て来た。
これが以前絡んだ事のある財閥が仕組んだ罠なのか?は不明だが、運び屋達に更なる危機が訪れている事は変わらぬ事情だった。
まずは皆、思い当たりそうな場所に向かう事を目標にしその場で解散するに至った。
圭太は隣の応接室にティムを待たせていると言い、望海と共に其方へと向かう事にしたようだ。




