第参拾陸話 英雄
「もうこんな時間になってしまったか、急がなければ。確か、光莉の言う通り吉備に向かいそこから土佐を目指せば良いのだな」
もう真夜中と言って良い時間だが、白南風と待ち合わせをし其方へと向かった。
しかし、疑問に残る事もあり。この時間では施設を見回る事も不可能だ。その疑問を直接彼に質問してみた。
「済まない、案内してもらえるのはありがたいんだがこの時間だ。やはり、もっと早くに向かうべきだったな。私は日中行動出来ない能力を持っているから申し訳ない」
「そんな事はないよ。君には出来る事が沢山あるはずだ。此処から少し離れてるけど浜辺にむかって歩いてみると良い。見たい物が見れるかもしれないよ」
素直に彼の助言に従い其方へ向かいたいのだが、行かんせん彼女は此処周辺には疎い。
助言をと思った矢先に彼の姿は消えて無くなり、タイミングが悪いと苦笑い顔をしていたが新しい助っ人が現れたのも事実だった。
「アンタ、富士宮の御当主やないの。こんな時間に何をしとるんじゃ?魚市場なんかやっとらんよ」
「失礼、御者の方。あまり接点のない土地だから迷っていましまして。あの、泣き虫な英雄に心当たりはありませんか?その人に関連する場所を探しているんです。巻物や立札、像の類いがあるとありがたいんですが」
「あぁ、それなら浜辺にその人の像があるよ。でも水の中に入るのは危険じゃから気をつけて。急に深さが変わるからな」
「ご忠告痛み入ります。どうか私をその場へ連れて行っては頂けないでしょうか?近くまででも構いません。出来るだけ今日中に向かいたいのです。我儘な願いだと思いますがどうか」
富士宮が頭を下げると逆に相手は驚いてしまい、動揺を隠せないでいるようだ。
そこまで切羽詰まった状況なのだと察知に直ぐに馬車の準備を始める。出来るだけ浜辺の近くまで連れて行ってくれるようだ。
「此処も殿が訪れた寺同様、月が綺麗に見えるな。名所なのだろうか?あっ、彼処に男性の像が!御者の方、ありがとうございます。それでは私はこれで」
施設内の公園に足を踏み入れると同時にその像が見えて来た。
和装姿に足元はブーツを履き、よく目を凝らすと懐には拳銃があるように見える。
「これが泣き虫な英雄という事なのだろうか?凛々しい顔をされていると思うが、そう言った生い立ちがあるのやもしれないな。それで肝心の神楽舞に関する手がかりは?像の場合だと側面にありそうな物だが、見つからないな」
周囲を見渡し、手がかりを探る彼女だが上から下まで穴が空きそうな程見つめているのだがそれらしい文字を見つけられない。
立ち去ろうかと足を遠くへと向けた瞬間、違和感を感じた。
「どう言う事だ?像の周囲だけ妙に地面が硬いな。まさか...」
最初、彼女は土台の一部かと思ったようだがそうではない。周囲の砂利や素直をかき分けると文字が記されている。
これで全ての手がかりが得られたと安堵と歓喜の感情を彼女は胸にしまい自分の仕事を最後までやり遂げようと一度協会へと出向く事にした。
そこには節子と亘の姿もあり、報告を聞くと両者とも笑みを浮かべていた。
「では、これで全て揃ったという事だね。僕も最後の仕事をしなければ。この花紋鏡を高天原へと持っていく。先程、望海が気になる場所を教えてくれてね。出来るだけ早いうちに斑鳩の案内で其方に向かいたいと言っているんだ。これには殿の鏡も必要だ。これで全ての舞台が整うはずだよ」
「でも、高天原は未曾有の地。何か困難が生じる可能性もあるわ。慎重に物事を運ばないと。かなり昔からある場所のようだし、土砂崩れの警戒もしないとね」
「地盤が緩んでいる可能性もあります。大勢で向かいたい所だが、それが出来ないと言うのが現実か。後日、メンバーを選定しましょう。巫女達は必ず同行させるべきだ。それにしても比良坂町の外にそんな場所があるとは。思っている以上に自凝島の敷地は広いな」
「そうね、私達はこれまで周囲の壁に苦戦を強いられていて身動きが出来ずにいた。でも今は違う...と言いたい所なのだけど縛られているのには変わらないわね。出来るだけ早く真相を突き止めましょう。勿論、この島の歴史も」
「確かに歴史が分かれば、この島が何のために存在したのかも理解出来るはずだ。戦争による逃げ場なのか?或いはもっと別の意味が込められて場所なのか?いずれにせよ、現地に行ってみるしかないだろうね」




