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第参拾肆話 色男

時刻は夕方となり、自身の執務室で名誉会長席に座る朝風は椅子に座りながら振り返り。

今尚、沈みそうになる夕陽を見ていた。


「殿、今日の執務はこれまでにして運び屋としての業務に移りましょう。どうされました、浮かない顔をされて?」


「富士宮、まだワシの仕事は終わっとらんよ。物騒な会話を医務室で聞いてな。なんでも、ワシらにこのカードを配り歩いているのは幽霊らしい。困ったもんじゃな」


「困っているのは私の方です。数十分前に席を外して、一服でもして帰って来たのかと思ったら盗み聞きですか?それで有力な情報が出て来るのなら良いのですが、今回はどうでしたか?」


彼女は眉間に皺を寄せながらも、優しい口調で彼に言葉を投げかける。内心では怒りを募らせているのだろう。

それは朝風も感じとっており、笑みを浮かべながらこう返事をした。


「案ずるな、富士宮。神楽舞の準備は着実に進んでおる。2日目にしては上出来じゃろう?全ての手がかりを集めて、それを実行する。これ以上に単純な事もなかろう?」


「それはそうですが。疑問が残るのも事実です。だからこそ、現地に向かいその目で確かめてみるべきなのでは?私も今夜、土佐へと向かう予定です。殿はどうされるつもりですか?」


「そうじゃな、まずは図書館で恋多き男について調べてからにしようと思う。血隈大学に向かうとするか」


朝風と富士宮はそれぞれ、別の行き先を見つけたようだ。

彼は手がかりを掴む為、校内に足を踏み入れ閉館間際の図書館でザラっと文学作品の棚をみる。

しかし、ピンと来るような作品はなかったようだ。


「女流作家じゃろう?古典文学の方も覗いてみるか。なければ司書に聞くまでよ。ほら、あった。これじゃ」


別の棚を覗き仰ぎ見ると、手の届く場所に目的の本があった。

貴族という高貴な身分に生まれながらも、幼くして母を亡くしその面影を別の女性に重ねた貴公子の物語だ。

これを理解した瞬間、朝風は苦い表情をした。


「なんじゃ、ワシへの当てつけか?そこに女子が居れば恋をするのは必然じゃろう?まぁ、最初の女というのは良くも悪くも忘れられないものよ。とは言え、重要なのはこれではないな。ゆかりの寺とはどういう事じゃ?ワシも知ってる場所じゃろうな」


自分の行動範囲を頭に思い浮かべ、寺のある場所を探そうとするが答えが上手く出てこないようだ。

こういう時はキッパリと諦め、人に頼んだ方が早いとある人物の元を訪れた。


「もうすぐ店仕舞いだよ...って。どうしたのお殿様?分かった、望海に会いに来たんでしょう?仲が良いらしいしね。キッカケは私にも不明だけど」


朝風の目の前にいるのは光莉であり、この時間帯という事もあり喫茶店内の清掃をしているようだった。

何故、彼が彼女に目をつけたのかと言うと仕事熱心であり歴戦の猛者だからでもある。

昼間の比良坂町なら彼女の方が詳しいと淡い期待を募らせていた。


「今日はお前さんに用があって来たんじゃ。この物語なら、教科書にも載っておるじゃろう?有名な古典文学よ。この作者にゆかりのある寺の場所を知りたくてな」


「なるほどね。でもさ、違和感もない?これだけ皆んなで町内を探し回ってるんだよ。それなのに手がかりもない方が可笑しいと思わない?噂話でも聞こえて来そうなものだけどな」


すると彼は笑みを浮かべ、それが聞きたかったとでも言うように首を縦に振った。


「流石は光莉、良く周りを見ちょる。もうこうなれば消去法よ。今まで行っていない場所でワシが行ける所はあるかどうかをお前さんに確認をしに来たんじゃ」


「そうだな、近江(おうみ)とか良いんじゃない?私も玉ちゃんも偶に仕事の依頼で行く事があるしね。そこで人の多い場所と言えば膳所(ぜぜ)じゃないかな。その周辺で寺を探してみたら良いんじゃない?」


その光莉の助言通り、膳所へと向かい人力車を頼りにある寺を訪れた。


「おぉ、此処は立派な寺じゃな。紅葉も見頃じゃ」


俥夫「そうでしょう?歴史があって、特に女性が参拝したことで有名なんですよ。菩薩に祈りを捧げてはどうでしょう?きっとご加護があるかもしれませんよ」


しかし、朝風は内心自分はそこまで迷信深く。

清らかな人間ではないなと自覚しているようだ。

この場所で来た事こそが相応しくないと思考を巡らせていた。


本堂より先に境内を散策しようと門や山道を眺めるが、彼の目に止まる物はないようだ。

次第に日が暮れ閉門も近くなり、焦る彼に住職が声を掛けてきた。


住職「おや、見知らぬお方。何かお探し物ですか?お手伝いいたしますよ」


「申し訳ない。用事が済んだらすぐに此処を立ち去ろうと決めておったのじゃがな。月が出て来てしまった」


住職「そうでございますね。今は月を愛でるのに良い時期ですから、こちらにも名所があるんですよ。祝祭の日に是非お越しください」


「...月?済まん、そこにワシを連れて行ってくれんか?恐らくそこに探してる物があるはずじゃ」


彼の予感は命中し、近くに立札があるのを発見した。

夜も更け、月を見上げると彼は自分の愛しい人を思い出した。

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