第弐拾弐話 白鷺の湯
黄泉と別れ、吉備に残る事になった光莉だが彼女の使命はまだ終わっていない。
彼女は行動を開始し、とある人物に助けを求める事にした。それが潮風だった。
学制帽に袴姿、まるで合わせ鏡のように似たような性格をしていそうだなと感じた。
「ねぇ、貴方だよね?勝山に連れて行ってくれる運び屋って。私を連れて行ってくれない?」
「おぉ!遂にアンタも二名洲デビューって奴かい?一度行ったら、協会に戻りたくなるかもよ?それでも良いって言うなら案内するけど」
「そんな意地悪言わないでよ、これでも仕事で来てるんだから。私は温泉に行きたいんだよ。知ってるでしょ?」
「温泉に行くのが仕事って良い身分だねぇ。さあね、俺は知らないな。少なくとも担当じゃないし」
どうやら押し問答が始まってしまったようである。
潮風は不思議な運び屋で各地域事に訛りがあるのは光莉も知っているが、彼の場合は壱区の高齢者が使用しているべらんめぇ口調である。
どうしたものかと考えていると、真っ赤な衣装を見に纏う運び屋が現れる。
土佐を担当する白南風だ。これはまた面倒な事になりそうだと彼女は咄嗟に判断した。
「やめるんだ!潮風君。皆んなと仲良くしておくれ。彼女が困ってるじゃないか」
「はっ!正義のヒーロー気取りとは良い身分だな。やる気か?俺のパンチとお前のパンチ。どっちが強いか勝負しようじゃねぇか」
お互いに煽り合いが止まらず、仲が良いのか?悪いのか分からない状態になってしまった。
これでは収集がつかないと、光莉は笑顔で手の関節を鳴らし。二人を威嚇した。
「お前らが喧嘩を始めるなら、私のパンチが飛んできても文句言えないよな?白南風、お願いがあるんだけど。今夜、富士宮が土佐に行きたいらしいんだ。吉備で合流したら連れてってやってくれない?」
「OK、ボス!それでは僕は次の依頼があるから此処で。潮風君、彼女の事を頼んだよ」
「わ、分かった。じゃあ、俺たちも移動しよう。勝山温泉に行きたいんだろう?それなら、俺の担当場所から人力車で行けばすぐの所にある。一番有名なのは温泉本館だな。有名な小説家が滞在したって話だ」
時間は進み、光莉は人力車の中でその二人とのやり取りを俥夫に話していた。
「…って事があってさ。困ったもんだよ全く。二名洲は個性的な運び屋が多いね。癖が強いというかさ。ここの温泉は歴史があって、結構有名だよね。こっちにも話は届いてるよ」
「ほんまですか?せや、今の時間やったらカラクリ時計が動いてる所が見れますよ。行きたい言うてた本館の近くにありますんで行ってみたらえぇ」
「カラクリ時計ね。分かった、何か手がかりがあるかもしれないし一度記念に見てみるよ。ありがとね、帰りもよろしく」
人力車を降りて、最寄りである温泉街の入り口をチラリとみると塔のように聳え立つカラクリ時計の姿があった。人集りもあり、もうすぐ動き出しそうだと待機していると時報と共に機械が動き始め時計板が裏返しになると少女のような人形が出てくる。
「あっ、待って!手に持ってるそれって!」
良く目を凝らすと手には巻き物が添えられており。そのまま垂直に落下しようとしている。
それに合わせて彼女は真下まで駆け寄り、それを空中で掴んだ。
「ホッ、良かった、汚れなくて。これってDr.黄泉が撮影した奴と似てるな。やっぱり、これを揃えれば何かが見えてくるって事で良いんだよね?でも、単純すぎて。逆に罠な気もするんだよな。そもそも、偶然落ちたとも考えられないし。誰かが設置しないと。これは手に入らないわけで。…まぁ、いいか。考えても仕方ないし。私は身体を動かさないと。皆んなそれぞれの場所で情報収集してると思うし」
心に少しの言い訳と納得を押し込めた光莉は再度、協会へ行き。朝、集計した会議室へと足を運ぶ事にした。
そこには零央と黄泉の姿もあり、誰かを待っているようだ。
「ひかりおねぇちゃん、おかえりなさい!れおね、パパを待ってるんだ」
「児玉君は吉田の方に行ってみるそうだ。そこの地域の紋章に砂時計のような形の旗が使われていると思い出したようでね。僕と零央君で留守番だ」
「もうそこまで分かってるんだ。それなら安心だね。私も手に入れてきたよ。温泉に入る暇はなかったけどね。ほら、お土産。揚げたてだから美味しいよ。ちゃんと冷ましてから食べてね」
「わー!ありがとう。ロールケーキ?れお、しってるよ。あんこだよね?」
「うーん、可笑しいな。店の人からはタルトって紹介されたんだけど。これの何処がタルトなの?」
《解説》
今回、光莉が行った場所は道後温泉ですね。実際にアーケード前にカラクリ時計が存在します。
勝山という地名は近隣の城の名前に由来します。
夏目漱石の「坊ちゃん」の舞台としても有名で潮風が意地悪な性格で江戸っ子気質なのは主人公の影響です。
南風は高知と言えばやなせたかし先生の出身地という事でアンパンマンのようなイメージで書いてます。
香川の高松駅にもモニュメントがあったり、特別塗装の列車が運行されていたりしますね。




