第弐拾壱話 礼拝
毎週日曜日の十時頃、海鴎はいつも神に祈りを捧げる為教会へと足を運ぶ。
聖書の朗読や聖歌を奏でる事は勿論の事、パンやブドウを奉納する事は彼にとって大切な行いだ。
オルガンの演奏が終わるとミサは終焉へと向かう。
祈りを共にした信者達と言葉を交わした後、今日は珍しく出口へと向かった。
すると、違和感を覚えたのか?近所に住む老婆が小声で話しかけてきた。
「あら、まぁ。珍しい。カモメちゃんが早足で此処を立ち去ろうとするなんて。いつもは名残惜しそうにヨシュア様をご覧になるのに」
「申し訳ありません。なにぶん、大事な用事がありまして。隣接する庭園に用事があるのです。今日はこれで失礼致しますね」
教会を出て、そのまま海鴎は花園への門を開いた。
美しい花や居住地。高台という事もあり下に広がる海を眺める事が出来るにも関わらず。
一直線に目的のある場所へと向かった。
それが裁判所であり、再度確認しようとカードの文章を読み始める。
「秘密の花園...天罰を下す場所。正に此処の事を言っていると思うのですが肝心の手がかりが見つかりませんね。何処にあるんでしょう?あっ!?」
彼が裁判官の席を見つめていると、判決を下すハンマーと机の間に何か挟まるようにして紙が置かれているのを発見した。
恐る恐る近づき、確認してみると古い巻物のように見えそろりと近くまで行き。それを抜き取った。
「これは、色褪せてますが絵のようですね。女性が沢山。まるでクルクル回っているような。なるほど、皆さんが探し求めていたのはこれだった訳ですね。では、すぐにでも報告しないと。筑紫に移動しなければ」
帰路へと就くため、海鴎は庭園の坂を下りもう一度出入り口へと向かう。
更にそこから驛のある方へと足を進めた。
彼の日常は日曜日には神に祈りを捧げる為、人力車を借り此処に訪れる。
御者とは顔見知りであり、毎週のように利用するのでお得意様であり感謝されている事が多いようだ。
「チンチン」とベルの音がするともう少し。
俥夫と目を合わせると海鴎は笑みを浮かべた。
「お帰りなさい。今日は早かったですね」
「仕事の報告がありまして、筑紫の方まで行く予定があるんです。私の印がある肥後までお願いします」
俥夫が走り出すと、街並みを目にして海鴎は思い出に浸っている。
異国料理店が集まった区画、両親と一緒に訪れ食事の量にいつも驚かれている。
橋を渡ると父と母が出会った場所、小さな人工島が見えて来る。
6月には紫陽花が咲き乱れる事を、彼は良く知っている。
「ご利用ありがとうございました。では私はこれで」
「はい。また宜しくお願いします。私も移動しなければなりませんね」
場所を移動し、筑紫にある七星邸に向かうとリビングで一緒に考え事をする咲羅と燕の姿があった。
彼女はカードを凝視した後、彼に対しこのように言った。
「斑鳩おじさんからはね、肆区に答えがあるんじゃないかな?って言われたの。お星さまが見える場所って何かあるかな?あっ、海鴎君お帰りなさい!早かったね、もう見つけたの?」
「はい、グローバー園なのは私も検討がついていましたから。その中にある裁判所に行ってきました」
「成る程。燕、後探していない場所と言えば薩摩だろう?筑紫は粗方探したし、瑞穂は隈本に行っている。皆、動き出しているぞ。遅れをとっていいのか?」
しかし、咲羅の言葉に燕は不服そうな顔をし。頬を膨らませ足をプラプラと浮かせている。
「えー。燕、歩き疲れてもう動けない!咲羅が肩車してくれるって言うなら考えてあげてもいいよ?」
すると、彼は太い眉を動かし。彼女を凝視している。
燕の冗談に対し、無言の威圧感を発揮しているようだ。
両者一歩も動かない状態で時は流れたが、此処で咲羅が動き状況が変わる。
「仕方ない。乙黒家の令嬢にこんな事をするのは気が引けるが、行くぞ燕。俺の肩に乗れ」
「えっ、本当にいいの?じゃあ、薩摩まで燕を連れてってね。…星の見える場所ね。そんな場所あったかな?あっ、じゃあまたね海鴎君。何か見つけたら、まだ戻ってくるから」
「はい、お二人ともお気をつけて。そうだ、七星様に鏡を借りて復元をしなければ」
場所を移動し、亘の自室に行くものの扉は開いており。人は不在のようである。
いつも鏡を立て掛けてある台座からは鏡本体がなくなっている。
「七星様が何処かへ持ち去っていったんでしょうか?真実を映す鏡はとても便利ですが、その分残酷な現実でさえも見通してしまうんでしょうね。もしかしたら、私達のしている事は誰かにとっての…いいえ、そんな風に言うのはいけない事ですね。だけど、嫌な予感がする事も確か。どうか、皆さまの無事を祈るしかありませんね」
《解説》
海鴎が訪れた場所は長崎県の大浦天主堂に隣接するグラバー園ですね。
カードに書かれていた“秘密”というのは近くに三菱の造船所があり当時大和型戦艦2番艦「武蔵」が停泊していた関係もあり情報の秘匿の為高台にあり造船所が見下ろせるグラバー園は同社によって回収されました。
地方裁判所も同時に敷地内に存在します。




