第拾仇話 菜園
今年最後の投稿となります。2025年もありがとうございました。来年もよろしくお願いします。
吉備に到着した光莉と黄泉だが、そのまま一直線に目的地まで向かうかと思いきや、彼女の観光案内を一方的に聞く彼の姿があった。
「此処の近くにある鶴形は玉ちゃんのお気に入りの場所でジーンズが名産品なんだよ。綺麗な街並みも有名なの。そうだ!デミグラスソースが乗ったカツのお店も紹介しないと」
「光莉君、それと同じくらい大切な事があるだろう?この菜園に行くためには僕はどうしたらいいのかな?」
無理矢理彼女の視界に入るようにカードを至近距離で見せ、そのあとまるで蜻蛉を捕まえるようにグルグルと円を書く。
騙されないと光莉は不機嫌な表情を浮かべた後、ある方向を指差した。
「あっち。烏が見える方向に行けば良いって地元の人に教えてもらった事があるんだよね。だけど、此処からは私も未知数なんだ。あくまでも依頼で来てるだけだしね、生活圏じゃないから」
「僕もあくまで研究の一環で外に出る事はあっても細部まで巡る事はないからね。電波が届いているかどうか?や武器を正常に作動出来るか?が分かれば良いわけだし...」
そのあとの事だった、二人の会話を遮るように足止めをする子供達の姿があった。
黄泉の白衣を掴み、物珍しそうに目を輝かせている少年少女達を見て驚くのと同時に彼のスイッチが入ったのか?優しい声色で話しかけている。
「やぁ、僕の名前はDr.黄泉。運び屋達のお医者さんをしているんだ。サインや写真ならいつでも受け付けるよ。何か質問がある子はいるかな?」
「はこびやってなんのしごとをするの!?」
「ひかりちゃんとどこにいくの!?」
「すきないろは?」 「すきなたべものはなんですか?」
光莉が冷や汗を掻くほどの質問の群れにも関わらず、黄泉自身は余裕の表情で返答をしている。
「僕や光莉君の他にも沢山の運び屋達がいるが、各々瞬間移動や運搬能力の他に得意な技能を持っている人もいるんだ。同じ行動範囲でも個人のスキルによって活躍出来る場面が違うんだよ」
「ただ、お姉ちゃん達は人を運んでも物を運ぶのは得意じゃないんだよね。それは別の運び屋さん達がやってくれるの。精々、三十キログラムじゃないかな?自分達が出来るとするなら。人なら千人を一度に運ぶ事も可能だけどね」
光莉は自分に力がある事を見せるように腕に力瘤を作り、子供達にアピールをしているようだ。
「すごいね!」と言われると自信満々の笑みを浮かべている。
そして更に付け加えるように、彼や自分の特技について話を始めた。
「後はDr.黄泉なら医者として皆んなの治療とか武器の開発をしてくれるけど、それは彼にしか出来ない特別な事なんだよね。ただね、運び屋達は仕事を通して色んな人や物を見てるから目が肥えてるんだよ。私は映画とかプロレスとかディスコなら右に出る者はいないってほどのマニアだし!」玉ちゃんはスポーツ選手とかお城とか詳しいんだよ。後は子供の頃は提灯職人になりたいって言ったほど好きだしね」
「その雑学が何処で役に立つのかは置いとくとして。実際に役に立った話はあるしね。絵画に詳しい朱鷺田君は依頼人の家に飾ってあった贋作を見抜いて町内新聞で話題になっていた時があったんだ。そういう所も彼の魅力の一つなのかもしれないね。それでは君達、僕らは菜園に行く大事な用事があるんだ。また会える日を楽しみにしているよ」
黄泉が笑みを浮かべながら手を子供達に振るものの、向こうはキョトンとした表情をしているのを見て光莉も違和感を覚えたのか?首を斜めに傾げた。
「あれ?今日って休園日じゃないよね?時間も間違ってないと思うんだけど」
「いまはね、こうえんにいくにはひとにたのまないといけないの。ついてきて」
子供達に案内され、一緒に歩いて行くと数台の人力車が路上に停まっている事に気づいた。
派手な赤と青の法被が視界に入ると子供達は目を輝かせ何度も彼らを指差している。
「あのふたりに「おにわまでつれてって」っていったらいけるよ!」
「すごいよ!ラッキーだね!」
言われるがままに従い、気づいたら人力車に乗り込んでいた二人だが、不安要素しかなかった。
何故なら光莉よりも幼い見た目をし、青年というよりも少年に近い風貌をしているからである。
非力そうな二人に務まるのか?と思いきや軽々と動かし、巧みに操るその姿に光莉は開いた口が塞がらない。
そんな時、車夫から変な会話を聞いた。
「出発!ねぇ、君。もしかして、半蔵の仲間だったりしない?この町には忍者が沢山いるって聞いた事があるんだ。凄い速さで移動する人達が沢山いるんだって」
「まぁ、似たようなのは沢山いると思うけどね。...というか、前見なくて大丈夫?流石に余所見してたらぶつかるんじゃ」
光莉の警告も虚しく、活発で気の多い二人は近くの柱に顔をぶつけてしまう。
「あっちゃー、へこむな」 「なんてこった」
まるでコントの一部始終を見ているようだと思った光莉は腹を抱えて笑っていた。
「光莉君、きっと彼らは新人なんだよ。良いじゃないか、子供達にも人気で将来有望だろう?今は見守ってあげよう」
「分かってるけどさ、こんなに愉快な人達とは思わないじゃん。あっ、もうそろそろ着くんじゃない?意外とあっという間だね」
地図を開き、最寄りまで到着した事を知ると二人はそのまま下車し後園と呼ばれていた場所に足を踏み入れる。
正門を入って直ぐにある建物を見つけ、二人は足を止めた。
「あれは、歌舞伎というより能の舞台に見えるね。もしかして...」
黄泉はそろりそろりと近づき、松の木を背景とした舞台を眺めている。
そのあと、古めかしい立て看板を見つけ所々絵や文字がかけていて判断はつかないものの直感的に必要なものである事を感じとり、カメラにそれを収めた。
「Dr.黄泉。何か良いものは見つかった?」
「あぁ、光莉君の言う通りだったよ。では早速、協会に戻ってこれを現像し、鏡に映してみよう。何か分かるかもしれないね」
《解説》
黄泉のミッションに書かれていた場所は岡山県にあります日本三大庭園の一つ「後楽園」ですね。
昔は烏城と呼ばれた岡山城の後ろにあった事から「後園」「御後園」とも呼ばれていました。
検索すると先に東京ドームとかラーメン屋の方が先に出て困った記憶があります。
本編で登場した俥夫達には元ネタがありまして、岡電路面電車では鉄道アニメ「チャギントン」とのコラボ車両が運行されていてそれぞれウィルソンとブルースターを意識したセリフを入れております。
ココやハンゾーと言った新幹線車両をモデルとしたキャラクターも登場するという事で入れております。
岡山県は全国的にも晴れの日が多く、太陽の国というキャッチコピーがありますね。
野菜園に関してですが、歴史の背景から池田家が管理しており当時の藩主が田園風景を好んだ事から田植えや野菜の栽培を行っていました。
そのあと、近代になると池田家は財政難に陥り後楽園の一部の土地を売却。軍や県庁の管轄となっていきます。
太平洋戦争中は食糧難になり、後楽園ではイモなどの栽培を行っていたそうです。能の舞台も実際に存在します。




