第拾捌話 早朝
翌朝の六時頃、いつもの喫茶店にはコーヒーカップを磨く児玉の姿とカウンター席に座る黄泉の姿があった。
「児玉君、いつものブレンドを」
「はいよ。今日は皆、予定がぎっしりだろうな。黄泉も珍しく外に出て光莉と一緒に吉備に向かうんだろう?今日は天気が良いし、日が暮れる頃には日焼けしてそうだ」
窓から差し込む光を見ていると、人が通りがかっているのが黄泉には見えたようだ
その正体は待ち合わせをしていた光莉であり、ドアベルを鳴らし中に入ってくるとそのまま手を上げヒラヒラと動かしている。
「二人ともおはよう。Dr.黄泉。昨日、案内するって約束したでしょ?開園時間を調べたんだけど朝の八時からみたい。私は仕事に言ってくるからコーヒー飲んで待ってて。他にも調べてる内に分かった事もあってさ。彼処、庭園として有名なんだけど野菜を栽培してた事もあるんだよね。舞台は実際に言って見ないと分からないけど、結構広い場所だから何かしらはあると思うんだよね」
「そうだ、この後。零央も来る予定なんだ。カードの内容からして空に近い場所に行けば何か手がかりが得られそうだしな。俺もこれから仕事だし、入れ違いになったら「此処で待っていてくれ」と伝えてくれないか?花菜ちゃんが零央を連れてくるから」
「なんだい?僕に子守を頼みたいって事かな?暇じゃないんだけどね、まぁ良いか。研究所でなくとも喫茶店でも出来る仕事はあるし」
黄泉の言葉に光莉は苦笑いを浮かべ後、宥めるように軽くポンっと肩を叩いた。
「Dr.黄泉なら大丈夫でしょう?子供の扱いも慣れてるし。じゃあ、私行ってくるね」
光莉が喫茶店から出た後、時間差で児玉も依頼に向かい店内は静かな静寂に包まれる。
黄泉の小さな溜め息も良く響き渡る程である。
頬杖をつき、作業に没頭する最中。
まるで鈴の音色のように明るく、軽快な親子の声が聞こえてくる。
「零央君はそのままこっちの扉から入ってね。ママは裏口から入るから」
「うん!ママ、行ってらっしゃい!黄泉先生、おはようございます!」
声をかけられた黄泉は彼の側まで駆け寄り、ドアを開ける手伝いをする。
今日は休日の為、私服姿の零央だがその腰にはパンパンに膨れたポシェットがあった。
「そのバックの中にいるのは君の友達かな?」
「うん!ゴーくんとね、シー君っていうの。れおのおともだち!あたらしいおともだちにみせるんだ」
そう言いながら零央は大事そうに怪獣の人形と子犬のぬいぐるみを抱き抱えている。
黄泉が頭を撫でたと同時に花菜も中へ入ってきた。
「Dr.黄泉。主人がお待たせして申し訳ありません。コーヒーのおかわりはいかがですか?朝食はもうお済みでしょうか?モーニングメニューもありますのでこちらも是非」
「れおね、おおきいパンがだいすきなの。しゃしんよりもおおきいんだよ!ほんとうにすごいの!」
「君が言うのなら本当なんだろうね。そんなに大盛りなら沢山の人がいないと食べきれなさそうだ。コーヒーのおかわりだけもらおうかな。そうだ、児玉君が行っていたが高い場所に今日は行くのかな?」
「うん!でもね、そうするとおおきいタワーがみえなくなっちゃうの。れおはそのタワーがみえるばしょにいきたいな」
零央の言葉を聞き、黄泉は手を顎に当て考え始める。
頭の中で比良坂町の地図を思い浮かべ、高い建物がないかどうか?を思い出しているようだ。
「では、小坂に行くのはどうだい?彼処にもタワーはあるからね。君の会いたい友達もいるかもしれないよ」
「ほんとう!じゃあ、パパにおねがいしてみるね。よみせんせい、ありがとう!」
どうやら、零央達親子の行き場所が決まったようだ。
慌ただしい朝はまだ続き、光莉や児玉が仕事から戻ると店内が賑やかになる。
「Dr.黄泉!もう準備出来た!?私も吉備まで行くからさ、一緒に行こう!」
「光莉君は相変わらずだね。君が戻ってくる間に小説を読んでたんだ。行き先と此処の舞台が一緒らしいよ。作中で「住田の温泉」って書かれていた」
「あっ、やっぱり。じゃあ、有名な所なんだ。どうしよう、私。マドンナみたいって言われちゃったら!」
物語の登場人物同様、袴姿の光莉は上機嫌でこれから向かう場所への準備をはじめていた。
その様子に小説のページを捲りながら黄泉は小声でこう言った。
「...マドンナより。無鉄砲な主人公の方が、君にそっくりだと思うけどね」
《解説》
零央の持っているオモチャの元ネタですが、ゴジラとシナモロールですね。
サンリオは山梨県と縁があり、創業者の方が元々山梨の県庁職員だった事に由来します。
作者は勝手にシナモンはウサギをイメージしていると思っていたんですけど、調べると子犬だと言う事に気づき驚いた事があります。男の子なのは一人称で理解出来ますけどね。
カラーリング的に零央が好きそうだなと思って選びました。




