第拾肆話 舞台
「殿、お待ちしておりました。此方です」
医務室での要件を済ませ、その場を離れた朝風が向かったのは亘のいる人も疎らになった会議室だった。
皆、ある程度検討がついたのか?明日の行動に合わせ帰宅する事にしたようだった。
「逆に待たせて済まんのぉ。女子だったら今頃キレとる所じゃ。寛大で助かった。それで、要件というのは?」
「その手に持つ花紋鏡をお借りしたいのです。僕の使命が永遠の舞台を作り上げる事だから。ですが、肝心の舞台が分からず困り果てているのです。何かご教授頂ければと思いまして」
亘の願いに朝風は少し考えた後、何かを探すように辺りを見渡している。
「どうかされましたか?」
「いいや、所でお前さんは写真を持っておらぬか?ワシのカメラで撮った写真。島の視察をした時に記念に撮ったものがあるんじゃがどの家が保管しているのか?までは把握しておらんからのぉ。好奇心旺盛な女子が持って行った事ぐらいしか覚えとらん」
「その言い方ですと、節子嬢が所有してそうですがそんな話は一度も聞いた事がありませね。素直な彼女なら色々とお喋りしてくれそうですが。となると、瑞稀さんのいる風間邸があり得そうではあります」
すると、朝風は自身の腕時計をチラリと見て現在の時刻を確認しているようだ。
「もうすぐ日没じゃな、ワシらの時間になる。確か、小坂の邸宅じゃったな。亘もついてくるか?」
「はい。貴方が仰るのなら、是非。しかし、その腕時計。随分と味があると言いますか、年季が入っておられるようですが何度も修理をされているんですか?」
「そうじゃな。これは女子からの贈り物じゃがしてやられたよ。これを見るたびに相手の事を思い出す。側にいるの事は叶わないのにまるで時間を独占されたような気分になる。罪な女じゃな、運び屋にとって時間が最も尊いものだという事を一番理解しているだろうに」
まるで恋する少年のように、純粋に無邪気な笑みを浮かべる朝風に対して僅かではあるものの大事な人物から送られた品なんだなと亘も理解したようだ。
場所を移し、参区の風間邸。天使像の下にあるチャイムを鳴らすと乳母である御堂が玄関から出て来た。
事情を説明し、リビングに通されるといつも優雅な瑞稀が慌てた様子で一階と二階を往復し写真立てやアルバムをかき集めているようだ。
全てが揃ったのか?爽やかな笑顔でソファ近くのローテーブルにそれらを置いた。
「申し訳ない。とても素敵な写真だったものだから私の部屋やお義父様の部屋に飾っていたんだ。まさか、ご始祖が撮られたものだったとは。私はてっきり、お義父様が撮られたものなのかと。お若い頃の写真も混じっていたし」
「そうそう、これこれ。この、若者以外はワシの写真じゃ。色々気になるだろうが、まずはこの森林の写真から行こうか?これは比良坂町の南西部で撮影したもので、此処からは見えずらいが標高三〇〇メートル程の小山が存在しておる。古い伝承では高天原と呼ばれていたみたいじゃな。曰く付きの場所でな、ワシも入った事はないが中は空洞になっていて社のようなものがあると噂で聞いた事がある」
彼から与えられた情報の山に亘と瑞稀は困惑しながらも、お互いに協力し頭の中を整理した後。
各々、別の視点から質問を投げかける。
「色々とお聞きしたい事があるんですが、僕達は比良坂町の外に足を運んだ事がありません。本当にそんな場所があるのかどうか?すら不明なのです。当時はどうされたのですか?移動手段は?」
「そうか、お主らは発展して来た比良坂町しか見て来てないからのぉ。これも宿命か。当時はそこまで建物も敷き詰められておらんかったからな。自動車も自転車もすんなり通れたのよ。馬車や人力車を活用するものもおった。印を持たん運び屋達はそれらも上手く使いこなし、行動範囲を広げ各々が商売を始めた。新天地を開拓するならそのくらいの勇気と手腕が必要じゃろうな」
「では、私からも一つ。その小山にある洞窟のような場所には“そもそも、入る理由もなかった”のか?“入りたくても入れなかった”のどちらでしょうか?何処となく違和感を覚えまして、貴方のように知的好奇心が豊富な方なら中に入って調査されるだろうと思ったものですから」
「良い質問じゃな、正解は後者よ。先住民からはこの中は洞窟になっていると説明を受けて実際に行ってみれば出入り口が塞がれておった。人為的にな。恐らく、最後に使用してから月日が経っておったんじゃろうな。周囲も蔦まみれになっておった。今はどうなっておるのかはワシにも不明じゃがな」
まだまだ、自凝島には運び屋達の知らない場所が眠っているようである。
夜も近づき、町民が帰路へとつく中。未だに活気つく協会の光がある事も事実だった。




