第拾参話 衣装
「うん!上手い!これは皮肉じゃないからな。グランマから、比良坂町の料理は上手いって聞いたけど来た甲斐があった」
夕飯の時間となり東家では食卓を囲み、カレーライスを口にするティムの反応を見てホッと胸を撫で下ろす望海の姿があった。
「お口にあったようで良かったです。...あっ、無線機が反応してる。ちょっと私、出てきます。離れますね」
彼女の声かけに側にいた圭太も自身の無線機を手に持つが何の反応も示さなかった為、フッと肩を撫で下ろし安堵しているようだった。
何かの緊急事態が起こり、全体で招集されるケースを思い浮かべていたのだろう。
彼はスプーンを持ち直し、いつもの日常動作へと戻って行った。
「ちょっと、ティム。僕のポテトサラダ食べないでよ。それにしても、姉貴に用事なんて。何かあったのかな?二十一時前には一緒に協会に行きたいんだけど。朝日奈兄妹に会わないといけないし」
頭の中でタイムスケジュールを考えていた圭太だが、順調に事が運ぶ方が難しいのだろう。
望海は慌てた様子で食卓へと戻り、一言告げた後その場を去って行った。
「すみません、圭太。今、協会に呼ばれまして。青葉さんが衣装作製の為に採寸をするので来て欲しいと彼方も夜には時間を空けてくれると言っているので行って来ますね」
「残念だな。姉貴と一緒に夜の散歩デートでもしようと思ったのに」
「やめなさい、圭太。望海も忙しいんだから、迷惑をかけてはダメよ。二人とも日付が変わる前には帰って来なさいね。私は家でティム君とお留守してるから」
家に誰かがいてくれる事、とりわけ母親がいてくれる事実に二人は安堵していた。
そんな中で顔を顰め、不服そうにしているティムの姿を見て。圭太はまだ、自分は此処にいると彼を宥めた。
その後、望海は指示通り協会の一室へと足を運んだ。
室内には呼び出した青葉本人と、不安げな表情を浮かべる希輝と小町がいた。
四人が揃った所に加えて、更にもう一人ある人物が入室して来た。
その正体は愛であり、血液検査の結果が出たのか?資料の入ったファイルを持ち辺りを見渡している。
「…もしかして、カードに書かれた三姉妹って私と希輝さんと小町ちゃんなんですか?私はてっきり光莉ともう一人必要なのかと」
「私も最初、望海さんの見解通り。富士宮家の血を引く誰かがこの中に入ればと思ったんです。でも、結果はどうでしょうか?このお二人にも共通の祖先がいる事が判明しました。以前から噂が出ていたようですが、今回の血縁検査によって明らかになった真実です」
未だにこの状況を受け止められないでいるのか?小町は暗い表情をしながら俯き、希輝もまた検査資料から目を逸らし周囲はギクシャクとした空気に包まれていた。
しかし、それに反するように青葉は優しい言葉を二人に投げかける。
「良いのよ、二人とも。寧ろ、素直な表情で助かったわ。ねぇ、望海ちゃん。この際だから、この三人で神楽を舞う事を周囲に秘密にしておかない?とりあえず、候補が見つかったという事だけは皆に伝えて“誰か”という事は皆に伏せておく。本番では仮面を付ける訳だし。どうかしら?」
青葉の提案に望海は頷き、一旦。この二人と自分が神楽を踊る事について思考を巡らせる。
彼女達もまた、富士宮家の血を持つ運び屋である。しかし、その詳細についてを望海本人は分からずにいた。
「えっと、共通の祖先ってどういう風にわかるんでしたっけ?父系ですか?母系ですか?」
「男性であれば、Y染色体を辿る事によって先祖に辿りつくんですが。お二人の場合は母系ですね。母方の先祖を辿ると富士宮家に辿り着くようになっていました。まだ、運び屋の祖である富士宮祝について不明確な点も多くありますがご本人か?割と近い血縁のからのものである事が今回の調査で分かりました」
淡々とした口調で話す愛とは対照的に当の本人である希輝自身は目を泳がせ、何かを考えた後。重い口を開いた。
「…私、知らない。何も知らない。でも、ちょっと思ったの。この前のツアーで魚人達のアジトに潜入した時に。昔、大鯰の妻の役割をしてた人がいたんだって話声が聞こえて。巫女なのか?生贄なのか?分からないけれど高貴な身分の人もその中にはいたらしいからもしかしたらと思って」
「じゃあ、比良坂町が出来る前から此処には人が住んでてそれが私達のご先祖様って可能性があるってことなの?此処にくる前、隼から「小町なら出来るよ。頑張って」って言ってもらえたから最後まで頑張りたいの」
「ちょっとは前向きになれたかしら?それにしてもまた厄介なことになったわね。比良坂町以前の話を持ち出されても、この町中を探しても手がかりを掴めるかどうか?」
青葉の疑問に対して、望海は自身の持つ「希望」のカードを目の前に翳した。
「まだ、諦めるのは早いと思います。自凝島にあるのは比良坂町だけではありません。私達の知らない世界がきっとあるはずです。そこを調査してからでも遅くないかと」




