第拾壱話 再び
協会を出た阿闍梨と青葉が向かった先は以前、ツアーでも巡った大和にある神社だった。
「前に寿彦さんから話は聞いた事があったんだけど、あの古ぼけた楽器達はちゃんと存在する意味がある物達なのね」
「文中にある乙女の声色というのは“神楽鈴”の事かと思われます。他にも琴や扇子も保管されているのを皆さんと見ましたし。これは偶然ではなく、必然かと」
以前と同じように社務所の中に案内され、もう一度楽器を並べ見る事にした。
それと同時に、青葉は舞手達が身に纏う予定の衣装を調べているようだ。
「通常の神楽では白衣、緋袴その上に羽織る千早があれば成立します。髪飾りも此方で貸し出す事も出来ますが、面が必要なのですか?」
「えぇ。そう言った指示が出ていて、仲間達が町中を駆け回っているんです。本当に不思議な物ですよね。誰もこの指示に対して疑問を浮かべる事もないんだから」
神主と話す彼女の表情に釣られて阿闍梨もまた同じように苦笑いを浮かべる。
確かに、皆。翻弄されているのにも関わらずその危険な場所に足を踏み入れようとしている事に対して危機感を持っていないのか?
それとも分かった上で行動に移しているのか?二人は同じ議題を悩み考え、答えをそれぞれ出すことにしたようだ。
「私としてはまずは自分自身が出来る事をこなして、行き詰まった後にもう一度考えれば良い事だと思います。正直、他にやれる事や案があるとは思えませんし」
「そうなのよね。思っている以上に、沢山の考えや人々が交差し合っている状態で何から手をつけたら良いのか分からない所に丁度このカード達が届いた訳だからまずはこの命令に従っておきましょう。疑問に思う時間も無駄だもの。皆もそう思っているはずよ。とりあえず、衣装の見学が出来たから後は制作に移るだけなのだけど肝心のモデルがいない事には事は始まらない。貴方はどう思う?舞手について予想した事は?」
そう言われると阿闍梨は腕を組み、首を長時間傾け熟孝しているようだ。
次第に青葉も申し訳なくなって来たのか?苦笑いしながら首を元に戻すように嗜める。
しかし、待ったをかけるように彼は目の前に手のひらを翳した。これには彼女も目を見開く。
「いいえ、少し考えさせて下さい。これは思っている以上に大切な事だと思うのです。結果は愛さんが分析してくれるとは思いますが、何故それに至ったのか?という経緯については自分達で事前に考えておくべきだと思うのです」
「結果で全てを語るんじゃなくて、その過程が大事だって阿闍梨さんは言いたいのよね?そうね…私の予想なんだけど三姉妹というのだから血縁関係が必要だと思うの。必ず共通点が必要になってくると私は踏んでる。最近になって、皆んな。自分のルーツについて知りたがってる人も多いし。運び屋は共通して赤い血を持ってる。その根幹を私達は知りたいのよね」
「それで言うのであれば。巫女として、最も神聖である富士宮家の血筋を持っている人が適任でしょうね。運び屋として元祖の名家でもありますから。私は以前旭さんから富士宮家は帝国において貴族として繁栄していたと聞いた事があるんです。ですが、神職であるというような話は聞いた事がありません。今回の私達の予想と事実が噛み合うのかどうかは?未知数な所ではあります」
富士宮家の血筋を持つ者を今回の舞手に選定する。
その答えに青葉は微かな疑問とその裏にある“意図”について考えを巡らせていた。
「…何かしらね、この“違和感”このカードを送った人はまるで気づいて欲しそうにしているの。恐らく、その答えは私達が予想出来ない。想像出来ない事だからなんでしょうけど。答えを教えて私達を混乱させたいんでしょうね。それともう一つ、富士宮家は何か隠し事をしている。あれだけ大きな家だもの、何かの不祥事やタブーを起こしていてもおかしくないわ。例えば、本家の知らない所で“落胤”がいたりしてね」
落胤という言葉に阿闍梨は首を傾ける。
その本来の意味は高貴な男性が愛人等に産ませた私生児の事を指す。
しかし、富士宮家とその単語には大きな相違点がある。
「ですが、富士宮家というのは女性当主が多い家系ですからね。殿というイレギュラーもありますが、本来落胤からは一番遠い位置にいる家系です。彼女達が産んだ子供が後継になれない事なんてあり得ませんから」
「確かに、それもそうね。でも、もし。可能性があるとすれば、富士宮祝が妻以外との間に子をもうけてる事だけど。…それもほぼあり得ないわね。だって、咲羅さん家の方なのが判明してるんだもの。その方の目を掻い潜る事なんて出来ないでしょうね」
「でしょう?純粋に考えれば、もうこれ以上子孫が増える事はあり得ないんです。でも、これ以上の富士宮家の血を欲している。この矛盾がどういう意図を示しているのかは私達には分かりません」
結局、その後答えが出る事はなく。二人は神社を後にした。
問題は山積みであり、この一連の騒動に終止符が打たれるのはまだ先になりそうだ。




