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皇妃の夜伽の身代わりに~亡国の王女は仇である皇帝の秘密を知る~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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43/64

43:夢と現実

 降り注ぐ陽光と、優しく吹く風が心地いい。


 ここは眼下に王宮や宮殿を見下ろすことができる丘の上だ。宮殿の敷地内とは思えない程、広々としている。日当たりがよく、風通しもよく、巨木の下は日陰もでき、いろいろな種類の花・薬草の栽培に向いていた。


 子供の頃はこの場所に、毎日のように貴族の令息達が、私に会いに来ていた場所でもある。まだ婚約者が決まっていない私に気に入られようと、日替わりで貴族の令息が、挨拶に来ていた。


 そして今日も早速、誰かがやって来た。


『フローラ第一王女様、初めまして、こんにちは。僕はリラード伯爵家のロヴェルと申します』


『こんにちは、ロヴェル。私のことは、フローラと呼んで構わないわ』


『え、王女様を名前でお呼びしていいのですか!?』


 ロヴェル・デヴィッド・リラード。


 フルネームでしっかり覚えているのに、顔の詳細がよく思い出せない。でも細いフレームの丸い眼鏡をかけ、宮廷音楽家みたいに、ブラウンの長髪のかつらをかぶっていた気がする。どうしてかつらを被っているの?と聞いたら、髪の色が珍しいので、いじめられたことがあるからだと言っていた。


『あら、髪の色が珍しいからといじめをするなんて。随分ヒドイ話だわ。珍しいと言ったら、私の瞳を見て。こんな色の瞳、見たことがないでしょう? 他の子と違うわよね。でも私は気にしないわ。だってこの瞳、気に入っているもの。みんな同じではつまらないわ。私はこれが個性だと思うの。文句を言う子には、こう言うわ。私の瞳が珍しいからって、妬まないで頂戴!ってね』


『フローラはすごい。強いんだね』


『みんなとは違うって、萎縮したら、そこがつけいる隙になっちゃうのよ。意地悪をしたい人は、そういう隙を見つけるのが得意だから。隙を見せず、なんならこの人に何か言ったら、ぎゃふんとされちゃうぐらいのイメージを、植え付けちゃえばいいのよ。この人、怒らせたら怖いって。一度そのイメージがつけば、手出しはしてこないわ。それでも手を出して来たら、もう最大限でぎゃふんと言わせてしまうの。多分、そうしたら、もう手出しはしないと思うわ』


 子供の頃の私は、勝気だ。


 第一王女であり、長女だったし、幼い頃からしっかり教育をされていた。ゆえに男勝りで、弁が立つ子だった。それなのに「素直で可愛らしく、美しい君は、お飾り妃にピッタリだと思った。だがこういう時は鈍感で、役立たずで、本当に困るよ」なんてリンドンに言われてしまうなんて……。


 でもそれは……リンドンが私に、こう言ったことに起因すると思う。


「フローラは綺麗で可愛くて、ふわふわした子でいてくれればいいんだよ。僕の隣でいつもニコニコしていればいい。僕に甘える愛らしいフローラでいてくれると、嬉しいな」と。


 そこで最後に見たリンドンの冷たい顔を思い出す。

 いつも見せていた優しい表情が思い出せなくなるぐらい、冷めた顔をしていた。まるで虫けらを見るような目つきだった。


 愛されていると思っていたけれど、どうやら違ったようだ。


 ――「フローラ。地獄へ向かう君に、手土産だ。君の兄であるマーカスを背中から刺したのは、この僕だよ!」


 この言葉を思い出すだけで、心臓が止まりそうになる。

 兄は黒装束の男に、背中から刺されたと、ナオは言っていた。

 黒装束の男=リンドンだったというの……?


「お兄様……」


 涙が次から次へと溢れる。


「フローラ……」


 お兄様なの?


 ふわりと抱き寄せられ、その温かさに、心の底から安心できた。


 兄は亡くなったと思っていたのに。生きていたのね……。


 ぎゅっと抱きしめられ、その胸に頬を寄せる。

 やはり騎士の訓練もしていただけあり、たくましいわ。


 シルクのような肌触り。

 その肌にもっと触れようと伸ばした手を、ぎゅっと握られ……。


「チュッ」


 目元に触れた柔らかさと温かさに、ドキッとして目が覚める。

 兄を慕ってはいるが、目元にキスをされると、さすがに驚く。


 目を開け、ほのかな明かりの中、浮かび上がる素肌が目に飛び込んでくる。


「えええええ」と叫び、「気づいたか」の声に、ハッとして顔を上げると……。


 アイスブルーの前髪は後ろに流しており、形のいい額が露わになっている。銀色の瞳には炎が映りこみ、いつものクールさがなくなり、なんだか情熱的な雰囲気が漂っていた。さらに炎の揺らめきに合わせ、顔に陰影ができている。結果、そのシャープな顔立ちだと鼻の高さが実に際立っていた。


 そう、顔を上げるとそこには、上半身裸で、これまた上半身裸の私を抱き寄せる、ガレスがいたのだ。そして私はどうやら気を失い、過去の記憶を夢のように見ていた。


 その事実を認識し、陶器のような素肌に残る傷痕を見て、お互いが上半身裸であることを思い出す。


 悲鳴をあげようとしたら、両手で頬を包まれ、「きゃぁふゅうぅぅぅ」となんだか変な声をあげることになった。


「何があったか、覚えているか?」


 そう問われると、馬車から落下する瞬間を思い出し、泣きそうになる。

 じわっと涙が溢れたその時。

 ふわりとガレスの唇が目元に触れた。


 え、私の涙を、唇で受け止めてくれている!?


「お転婆だったとは思ったが、まさか馬車から飛び降りるとは」


「! そ、それは、私が好んで飛び降りたわけではありません! リンドンが私を蹴飛ばし、なんとか掴んだカーテンも切り裂いたからで……」


「そうか……」


 フイッと横を向いたガレスは「足首から順番に折っていくか。それとも切り落とすか? それとも……」と、なんだか不穏なことを呟いている。


 一方の私は、上半身は裸であるが、ドロワーズは履いている。ちなみに胸は、自分の長い亜麻色の髪で、隠れてくれていた。チラリと見たガレスも上半身は裸だが、ズボンは履いたままだ。


 本来こんな姿、未婚女性として、異性に見せたくなどない。だが目の前にいるのは、この国の皇帝だ。それに初夜の練習相手として対面した時に、これとほぼ似たような姿で会っている。今さら恥ずかしい……とは言えない。


 それにしても、ここはどこなのだろう?


 よく見ると、焚火がたかれ、その周囲に着ていた物が広げられている。さらにパチパチと焚火の音が聞こえるが、カエルの鳴き声も聞こえ、水の流れる音も聞こえた。目を凝らすと、三日月が揺れるように川面に映っている。


 つまりここは、川原なのか。


 どうして……と思ったら、ガレスがこちらを向いた。


 やはり炎を宿した銀色の瞳は、いつもと違い、とても情熱的に見える!


「リンドンには、フローラにしたことを一生後悔するような罰を与えよう」


「あ、え、でも……」と言い淀んだが、リンドンが兄にしたことを思い出す。兄はリンドンに裏切られ、背中から刺された。とても卑怯なやり方で、兄は殺されたのだ。


「はい。極刑でお願いします」


 そう答えた後に、いろいろと「?」と思うことになる。

 まず、私のことを当たり前のように「フローラ」と言わなかったか。それに割とあっさりと、自身が滅ぼしたハーティントン国の王太子の名を口にしている。


「順に話そう」


 そう言ったガレスがまず話してくれたのは、今の状況。


 私を乗せた馬車をガレス、ノリス卿他、近衛騎士、帝国騎士団の騎士が追っていた。


 エントランスで私がわざと落としておいたハンカチ。護衛についてくれていた近衛騎士は、すぐに発見してくれたのだ。


 しかもこのハンカチは、目印で落としたに違いないと、判断してくれた。私は何者かに脅迫され、馬車に乗せられた――つまり連れ去られたと、想定してくれたのだ。すぐにガレスへ連絡が行き、私を連れ去る馬車の追跡が始まった。


 宮殿の周辺には、警備兵が等間隔で配備されており、彼らは宮殿周辺を行き交う馬車の監視も兼ねていた。そこで宮殿の敷地から出てきた、少し急いだ様子の馬車を、しっかり見ていたのだ。


 ガレスはその馬車を追うことになった。


 馬車の左側で見た黒鹿毛に乗った騎士――それがガレスだった。


 つまり、私が馬車から落ちそうになり、カーテンを掴んでいる姿も。そのカーテンを引き裂かれ、馬車から降りる瞬間も見ていた。


 私が落ちた場所は、不幸中の幸いで、橋の上だった。


 つまりそのまま河に落ちることになったのだが……。


 河に落ちる私をガレスは見ていた。

 そして彼は迷うことなく、自身も河に向け、飛び込んだのだ。


「な、どうして……!」


「私の愛馬は頭がいいから、私がいなくても問題ない。それにノリスが間違いなく、リンドンの乗った馬車を、押さえたはずだ。わたしが河に飛び込む姿は、後ろに続いている部下も見ていただろう。だから大丈夫だ。救援は間もなく来るだろう」


 いや、そこではない。

 なぜ、ガレス、あなたは河に飛び込んだのですか!?

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●読み切り新作全4話●
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『完結●ざまぁと断罪回避に成功した悪役令嬢は婚約破棄でスカッとする~結局何もしていません~』はサクッと読めます!

●断罪終了後シリーズ●
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もふもふ悪役令嬢の断罪が溺愛ルートなんて設定していません!バナー
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断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~
読者様の声に応え『断罪の場で悪役令嬢は自ら婚約破棄を宣告してみた~回避成功編~』続編公開&完結

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