9話 『~聖剣伝説~ ファーストの相手』②
不意打ち。闇討ち。返り討ち。
卑怯じゃないのは一番右だけ……。
―――イルシア 視点―――
私は、露天を開いていた。
錬金術師ばかりが入っている座、魔道商売座に入っていれば露天は可能だ。
商業に関わるなら、普通な商業系の座に入る。
まぁ、錬金術師は強制的に入る事になるんだけども、今回重要なのは場所だ。
私は、王都にある、城下町、アカルタで露天を開いていた。
しかし、現在地は私が住んでいた村、クーディルテである。
私自身、何故ここに居るかわからない。
露天の準備をして、そろそろ販売しようか……というところで眩暈がしたかと思うと、ここに居た。
私としては、錬金術師の資格を取った事を報告するついでに王都で稼いだお金を村へ寄付するつもりだったので、少し手順が増えただけなのだけれど、これは神隠しというやつなのだろうか?
一昔前では、偶にこんなことがあったと言われている。
わからない事だらけだけれど、村の皆は私のことを歓迎してくれた。
嬉しい気持ちで、分からないことなんて吹っ飛んでしまった。
私が来て、一夜が明けると、村中が騒がしい事に気づいた。
「どうしたんですか?」
「ん?あぁ、シアか……。何でも、ここにこの国のお姫様が来るそうだよ……」
隣の人に聞くと、そんな答えが返って来た。
私が、ここにきたときに、通信ができる石を錬金したので、情報が入ってくるので、それでわかったんだろう。
でも、こんな偶然ってあるだろうか?
行動派のお姫様だとは聞いたり、少し見たりしてわかったけど、こんな勝手に決めてよいものなのか……。
この時は、少しの間、盗賊や魔物が寄り付かなくなるから幸運だな……としか、思ってなかった。
私も騒ぎの一員になるとも知らずに……。
☆
―――姫君 視点―――
ついに夜が来た……。
私は、馬車の隣でクラが寝たのを確認。
そして、走る。
「姫様!クラのふぁ、ファーストを守ります!」
「なっ、フーか。そこを退け!」
「嫌です!」
「私の命令だぞ!」
「ダメです」
今日はどうしても退かないらしいフーにちょっといらだってくる。
「何故だ?」
「え、あ……その……。姫様のファーストの相手は……その……あぁもう!私とキスしてください!」
「……それは……無理だ……」
「え、えぇ!?そんな一気に青ざめないで!私はここですよ!」
ここは、一端引いた方がいい。
クラの策略か……。
将来は有望な策略家になりそうだ。
そうなれば、この国も安心だな。
……今の私の状態は安心ではないが……。
「姫様~」
「く、くるな!近づく出ない!妾を誰だとっ―――」
「ひ~め~さ~ま~」
私の安息の地は何処へ~。
☆
―――クラディ 視点―――
「姫様?どうしたんですかその隈?」
「……お前のせいだ……。だが、その策略は認めよう」
何を言っているんだろうか……。
そういえば、夜にでかい魔物が二匹走り回っている夢を見たな。
まぁ、今は関係ないだろうけど。
「お、城が見えてきたぞ」
少し元気を取り戻す姫様。
俺も、少し緊張してきた。
「あ、俺はちょっとギルドに行って来ます」
城に入る寸前で思い出し、三人に伝える。一人気絶しているが、二人にはわかってもらえたらしい。
いや、あのいやらしい顔をしている方は姫様と二人きりになれるからだろう。
ギルドの建物は、気ではなく、でかい石を持ってきて削りだされてできている。
生活用品から、貴重品まで取り扱っている場所でもある。
地図もあるので、そこで俺は覚える予定だ。
「うわぁ~、一度見たことあるけどこんなに人はいなかったな」
俺が昔行ったのは田舎のギルドだったので、少なかったのかもしれない。
依頼の量が多すぎて、すごいことになっていたが……。
まぁ、全部簡単な依頼ばかりだったので苦労はしないが、ここのギルドは難しいものもあれば簡単なものもある所のようだ。
城が近いので栄えているのかもしれない。
俺達が行くところは、もっと田舎なのでここらへんで大量に食料を積み込まないといけないな……。
「おい、兄ちゃん。お前みたいな子供が来るところじゃないぜ、ここは」
「あ、どうも。俺は地図を見にきただけなんです」
「ほぅ、ん?その顔……どっかで……いや、酒飲んでるから見間違えか」
「誰とですか?」
「いや、数日前まで俺は王都にいたんだがよ、馬車の中で姫さんの隣に座っていた少年と似てると思ってよ」
悟られないように笑いながら、内心ひやひやしているこの気持ちをどうにか静める。
馬に乗って急いだのなら、俺達より早くこの町へ着けるのも納得だ。
「何か急いでいる用事でもあったんですか?」
「いやな、隣のノーベ国で武道大会が開かれるんだ。優勝賞金は一生遊んで暮らせる額だ。俺も参加しようと思ってよ」
「は、ははは」
この話……姫様が聞いたらどう思うかな……と、思いつつ別れを告げて地図のある場所まで移動する。
見ると、街道を通れば二日、森を突っ切れば半日の距離だった。
今日の夜には着けるな……。
おっと、俺の思考も姫様と同じ位に危なっかしいものになっていたらしい。
ここは安全に二日の道を通るだろう。
「えぇ~と、村と町の場所は……よし、覚えた。文字も折角覚えたし、紙に描いておこう」
地図を手に持っている紙に真似して描く。
最近、筆を握っているせいか、思いのほかうまい地図が書けた。
「ふぅ、俺も帰るかな」
そう呟いた時、ギルドの中の店の一角に気になる物が置いてあった。
☆
現在、俺は馬車に乗っている。
勿論、姫様の独断で森を突っ切って夜には着けるのだが、俺の意見は何処で曲がってしまったんだろうか。
いや、いつの間にか街道を通るという案は消えていたのだ。俺とボフストは反対したのに、ボフストが気絶させられ二対一で森ということになったのだ。
その時、卑怯と言えなかったことが悔やまれる。
まぁ、俺達が着いた二日後には街道を通ってやってくる小隊の皆さんもいるので二日は動かない……と思う。
「クラ、この道であっているか?」
「え~と、あの壊れた塔から、西に……うん、あってるよ」
「それでは急ぐか」
納得してしまっている俺がここにいるのであまり強く姫様を叱れないな……と思ってみたり。
まぁ、いつかは文句を言ってやろうという決意を胸に秘め姫様の隣をフィーカに譲り俺はボフストの様子を見る。
「うぅ、動物様……ごめ、ごめんなさ……」
「えぇ!そこで終わり!?」
最後の言葉を言えなかったのできっとボフストは呪われるだろう。
永遠に年を取らない呪いとかいいよね。あ、でも寿命はあるけどね。
俺も、不老不死だったらあの国宝泥棒みたいに何かを怨むことになるかも知れないしな……。
遠い目で見るが、狙われて一週間ぐらいしか経っていないことに気づくと少し怯えていない自分に気づく。
あんなに怖い事があったのに怯えていないなんて……度胸だけは一人前ってことか。
「実力が一人前にならないとな……」
度胸なんていらないから、俺は実力が欲しいな……。
そうすれば、姫様に振り回されることもなくなる……はず。
「クフフ、実力ならもう一人前を通り越して天才の域まで達しているではないか」
「何を言ってるのさ」
「私は説明するのが苦手でな。まぁ、私がいればお前は最強とだけ言っておくか。だから、お前は安心して度胸をつけろ」
「わからないけど、女の人に守ってもらうのはかっこ悪いよ」
「それは、兵に命を預ける者の言葉か?お前は将来もっと重いものを背負う事になる。その時の為にお前は度胸さえあればいいんだよ」
その姫様の一つ一つの声は俺を包んでいるようなもので、まるで母親のようだった。
片親の俺が言うのもアレなのだが……。
「まぁ、姫様と一緒なら度胸なんていくらでもつきますね」
「ははは、そうか。ならっ!」
―――バシッ
『ヒヒィィィン』
「もっと速くだ!」
「うわぁっ、ちょ!」
「姫様!木の枝が!あっ、つぅ……」
フィーカは自分を守るだけで精一杯のようだ。
全速力で走る馬車は、一気に森を抜け、草原を駆けた。
勿論、俺は振り落とされないように馬車の中の一本の柱とボフストを掴んで耐えていた。
「これで、度胸もつくな」
「いきなりは無いんでしょうか?」
もう、言っている言葉が分からない。
馬車の中も木の枝だらけで、色々な物が散乱している。
「ひ、姫様!アレでは?」
「うむ、微かに灯りがついているな」
空を見ればまだ茜色に染まったぐらいで予定よりも早く着いてしまった。
本当に無茶をする姫様だと思う。
店で買ったアレは大丈夫だろうか……。
確認する暇も無く、風を最大まで受けた馬車はそのままの速さで村へ突っ込む。
そして、馬を巧みに操って急停止する。
「ぬわぁっと!?な、何だぁ?」
その拍子にボフストが起きたみたいだ。
俺としては、ボフストが羨ましい。
もう、馬車には乗りたくない……。
ざわざわと馬車の周りに集まってくる村人をフィーカが声を上げて地面に頭を付けさせる。
「ひ、姫様!こんな何も無い村に良くぞおいでくださいました」
「あ、奥様?」
何故か見知った声が聞こえた気がする。
そして、その方向へ全員の視線が集中する。
そこには、顔を赤らめたシアが居た。
―――姫君 視点―――
「いかにも私はクラの奥さ……ん?この声は……イルシアか!久しいな。クラがお前の為に挙兵したんだぞ。その数自分を入れて四人だがな」
「い、いつの間に俺も!?」
最初からに決まっているだろう。
クラが言ったんだからな。
「今日はここに泊まって明日はいよいよ盗賊退治だ」
「姫様……これは公式で外へでているんです。相手も相手ですから様子を少し見ては……」
クラも頷いているところを見ると……恐いのだな……。
「では今から行く。きっと不意を打てるぞ?そうだ、イルシア、お前も来い。錬金術師の戦い方に少し興味があるのでな」
「え?私で―――」
「有無は言わさん。場所は何処だ?」
先手必勝だ。勝つために手段は選ばない。
私は騎士のように気高い誇りなど持ち合わせてはいないからな。
剣術はほとんどが独学だしな。
「え、えぇと、盗賊?何の事で?」
「口止めされているようなら安心しろ。ボフストがここに残りお前らを守るからな」
石造りのギルドを指差して言う。
「あそこに集合しろ。できる限り食料を持ってな。燃やされる心配は無いし、入り口が狭く中が広い、これほど守りやすい場所もないだろう。ボフスト……いいか?」
「まぁ、来るのは弱い奴等だけだろうしな。金品も持て。盗まれるよりマシだ」
ボフストに後の指揮はまかせ、村長を脅す……じゃなくて、聞く。
「盗賊の住処は?」
「ひ、ひぇ、あ、あの崩れた塔に……」
おっと、ここにまで悪影響があったのか。
クラと一緒に後で謝ろう。
「そうか。では行く……と言いたいが、クラお前の持っている紙を全部見せろ」
「え?紙?」
「やはり、書いた紙だけでいい」
三枚ぐらいの紙を受け取る。
一枚目と二枚目には現代語の練習をしたのか単語がいくつか書かれている。
問題は三枚目だ。
古代語で書かれている。
『イルシア、村に行く』
ここに『の』が入っていれば私達がイルシアの住んでいた村へ行っただろう、しかし入っていなかったのでイルシアがここに飛ばされた……ということか。
「これはいつ書いた?」
「これ?確か、武器屋に三人で入った時だったかな」
「……ふむ、すると三日前からという事か。距離は……王都から国境近くまで。……ほぉ、これで防衛戦の時も楽になるな」
「いいから、行くなら行こう。夜中にこそこそと行くなんてやだよ」
「わかっている」
偶然とは恐ろしいものだな……。
☆
―――イルシア 視点―――
空が真っ暗になり、森が漆黒に包まれた頃、私達は崩れた塔を上っていた。
奥様によると、一番上に全員集まっているらしい。
中々一部屋の大きさがでかいので、敵が来たら集中攻撃をかけるためだと思う。
「……ここだ」
緊張感のない雰囲気が扉の向こうから伝わってくる為か少ししか緊張はしていなかった。
「作戦の確認だ。まずはイルシアが先に行き、注目を浴びる」
「その後、近くに寄って来た奴を姫様が斬る」
「私は錬金を使って穴を作って地面に落とす……ですね」
正直、人を傷つける物は生み出したくない。
どんな言葉で取り繕ったって、人を殺したら殺した事に変わりはないからだ。
だから、私は奥様の性格に憧れたのかもしれない。
けじめはしっかりとつけ、自分のやる事を信じて疑わない性格。
私はそんな人になりたい。
―――クラディ 視点―――
実は、あの作戦にはもうひと手間の工程がある。
それは、地味だが一番度胸のいる作業。
そう、下の階から上がってくる奴を入れさせない為に扉を押さえておく作業だ。
それぐらいしか俺はできないから自ら希望した。
武器を使って開けられたら俺は死ぬな……。
まぁ、度胸をつけるためということで割り切ろう。
やればできるものだ。
いつだってそう、旅ってのはそうだった。
おっと、集中しなければ、今は昔話を披露する時じゃない。
「行くぞ」
「ん、クラ、やるきだな」
「まぁね、失敗は死だからね」
「ここまで来たら引き返せないってやつだな」
これなら、フィーカも連れてこればよかった……。
姫様ったらボフストとフィーカなら安心だ、って。
まぁ、納得できるけどさ……。
でもさ、俺は非力な一般人くらいの力しかないんだよ?
いくら強い姫様、錬金術師がいるからって、そこに非力な一般人が入ったら足手まといにしかならないって。
「では、行くぞ」
「あ、ちょっと。待って」
「無理だ」
「あ」
シアが行ってしまった。
決意を固めろ、決意を固めろ、決意を固めろ……。
呪文のように繰り替えす。
こうなったら、やるしかない。
「っ!今だ!」
扉の影から思いっきり勢いを付けて走る。
その時、扉が壊れる。
「え?あ?え?」
……どうすればいいんでしょうか?
困りましたね。
たぶん、あの戦闘の中に入ったら間違えなく殺されるね。
「ぶ、武器」
俺が見つけたものを紹介しよう。
タルの一部分。
木製だ。
「短いし、攻撃力なさそうだな……」
いや、まだ落ちているぞ。
これを投げつければ、戦える。
一個、二個と拾っていく。
丁度二十個の時だった。
「いてっ」
「ん?」
……大将的な人のところまで来ちゃったんですけど……。
周りを見れば、まだ交戦中。
「クッ、こっちもか」
そう言って、鉄でできてそうな剣を構える。
俺にも欲しい。
「こ、こうなったら、やるしかない」
見た感じでは相手の武器は剣だけだ。
しかも、盗賊なので熟練していない。
重いものを持ったら逆に不利になるだろう。
「ならば、やる事は一つ!」
相手の構えに力が入る。
「逃げる!」
「なっ!」
扉に向かった走る。
もしも、こっちに向かって走ってくる盗賊がいたとしても、飛び蹴りでも食らわせてやろう。
足だけは速いんだ、かなりの威力になると思う。
「あっ!」
「ん?え?」
イルシアの声が響く。
そして、浮遊感が俺を襲う。
もしかして……落ちてます?
―――ゴキッ
「いつつ」
大丈夫、変な方向へ骨は曲がっていない。
それは勿論、顔面から落ちたからだ。
「き、奇跡だ。鼻血だけだ……」
いや、鼻の骨が折れている可能性だってある。
これは油断できない。
「お、カモが落ちてきたぞ」
「こいつって、あいつらの仲間だったよな?」
「こいつで脅せば……」
その数五人。
ダメだ。俺じゃ勝てない。
かといって、飛び降りて死ぬ勇気もない。
いや、飛び降りない。
「何か……何かないか……」
俺の手の中にはタルの木の部分が二十個ある。
とりあえず、投げてみようか。
「うりゃっ!」
三日月型のそれは、クルクルまわり、盗賊の手にあたる。
「いたっ」
剣が落ちた。
今だ!
全身系を足と手と感覚に集中する。
かなりの神経をすり減らす事になりそうだけど、このさい気にしない。
剣を拾われないように残り十九個の木の棒と化しタルの木の部分を投げる。
「クッ」
それを感覚だけで避け、剣を拾う。
「剣を拾うのに疲労する……なんちゃって」
っと、そんな事をしている場合じゃない。
俺の決意は何処へいった。
鼻血とか関係ない。
やるだけだ。
「なっ」
五人が一斉に木の棒と化したタルの木の部分を投げてくる。
大丈夫、俺なら避けれる。
「右、右、右、下、下、そのまま走る!」
勿論、階段を上に上がる。
「ん、クラか。こっちは片付いた……が、そっちは大変そうだな」
「俺は時間稼ぎで精一杯だよ。それと、扉を破壊しないで。俺、死ぬと思ったから」
「すまんな。癖だ」
いやな癖だ。
「ん、今だ!」
「なん!!」
俺の唇にやわらかい感触が……。
「って、今!?」
「ふふふ、油断したな……」
「奥様……恩人さん……」
子供が見てましたよ奥さん?
「では、殲滅行動へ移る」
今のキスで呆気に取られていた、盗賊を気絶させ終了。
馬鹿な盗賊だ、これなら俺でも勝てた……と、強者の戯言。
「ふふふ、初めては私、初めてはクラだ」
「良かったですね。奥様」
「きっと、忘れないよ」
恐怖とか、色々混ざって。
その後、二日後に来た小隊に盗賊を引き渡し、俺達は村の人のご好意で一晩したら帰ることになった。
『後書きと言う名の雑談会』
クラ『き、キス……』
作『自分はここでおさらばしておこうか』
クラ『待て!!俺の……俺の為にここに残ってくれ!!』
作『……ヘッ』
クラ『酷っ!!』
作『ほら、姫さんが着たぞ?』
クラ『奪取!』
作『姫さんを?』
クラ『違う!!』
作『捕らわれの姫を助ける馬の骨兵士クラ』
クラ『捕らわれてないし!自由奔放でしょ?そして、馬の骨兵士は酷すぎる!!』
シタ『お、クラよ。ずいぶんと探したんだぞ?』
作『さらば友よ。次会えるのを楽しみにしているぞ』
クラ『ちょ、そんな主人公の脇役で伏線を回収と同時に消えていくような奴が言う名言(?)を言いながら逃げないで!!』
シタ『さぁ、私の部屋にいくぞ』
クラ『やだやだやだ』
シタ『しょうがない。お前の部屋でいい』
クラ『に、逃げろ!!』