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5話 『100点を奪取せよ』

クラ、悲惨。

そして、弄られキャラは動き出す……。

 ―――クラディ 視点―――

 

 俺の脇腹が治り、新たに脚が骨折するという事態が起こったころ、事件は起こった。

 

「姫様、酷いですよ……」

「いや、すまなかったと言っておろうに……」

 

 俺達が、話しているとそこへ一人の兵士が走ってくる。

 

「ひ、ひねさぐっ!!」

 

 もはや、別の言葉になっている兵士の言葉に姫様は動揺することなく答える。

 俺は、兵士達の顔だけは覚えたので、見知った顔となっているのだが、何かあったのだろうか。

 

「ぜぇ……はぁ……、サルタ侯爵が……」

「ほぅ、ラトンの所の息子か。確か前に勝手に許婚(いいなずけ)とされていたな。今では無効になっているはずだが?」

 

 その場合、ここに来たのなら理由は一つだろう。

 俺は隠れる場所を探しながら兵士に聞いた。

 

「怒ってる?」

「だいぶ……」

 

 取り合えず、姫様の部屋に行こう。

 あそこなら安全……だと思うから。

 そんな考えを知ってか知らずか……姫様に首根っ子を掴まれる。

 勿論、動けない訳で城門まで引きずるように連れてこられる形になった。

 どうやら俺の扱いは馬以下らしい。

 

「いや、すまなかったと言っているだろう」

「脚を骨折していると何度言ったらわかるんですか」

 

 松葉杖が何処かへ行ってしまったので歩く事ができない。

 これなら、兵士が来た時点で逃げればよかった。

 

「さて、アホサルタの顔でも見るとするか」

「アホ?許婚なんだろ?」

「今はお前だ。勝手に決められた許婚など無効だ」

 

 なんという理屈だろう。

 少し俺には理解できない言葉なのだが、真意だけは受け取れる。

 特に、顔からして。

 いや、体全体から―――

 

『あんなアホと結婚するくらいなら平民と結婚した方がマシだ』

 

 と、物語っている。

 少し見てみたい気が湧いてきたのだが、松葉杖がないと歩けない事に気づく。

 

「肩を」

「あ、ルーさんありが……何処から?」

「いえ、食堂から城門が見えたものですので」

 

 食堂を探してみると、俺から西側の二階の確か階段の近くの場所に食堂はあった。

 俺からすると、唯一普通の行動が取れるのと同時に、緊張の糸が途切れる場所なので重宝している。

 

「ありがとうございます」

「おい、クラ。見えてきたぞ」

 

 見えてきたと言っても、馬車しか見えないのでどんな人かはわからない。

 

「ご機嫌麗しゅうございます姫様」

「死ね、サルタ」

 

 なんと殺伐とした挨拶だろう。

 いや、気配すら感じなかった。まさか、姫様が接近に気づかないなんてすごく陰が薄いか気配を消すのがうまいんだろう。

 たぶん、侯爵とか言っていたので相当な権力を持っているのだろう。俺なんかよりずっと結婚相手に相応しいように見える。

 

「そ、それは、ずいぶんお元気だったようで。こちらの方が噂の?」

「お前に教える義理は無い。さっさと死ね」

「ひ、姫様」

「何だ?」

「せめて、自殺に追い込むぐらいにしておいてあげてください」

「……しょうがない。わかった」

 

 いや、ルーさん?

 その前に、姫様?

 しょうがなくありませんって。と、言っても俺が今すべき事は脚の骨折を直す事だ。コイツを守ることではないので放っておくことにする。

 

「ひ、ひぃ」

 

 顔が青くなっているサルタさん。

 同情しているが助ける気にならないというのはこの事だろう。

 

「サルタ。お前はクラの強さを疑っているな?」

「そ、そんなことは―――」

「あるな?」

「は、は、はははは~~」

 

 すごく不自然な笑い方になっている。

 これは、彼の身の為に結婚は解消した方がいいのかも知れない。

 ……狙いは姫様の権力かも知れないが……。

 

「クラは怪我をしている。怪我人相手に勝っても意味は無いだろう。フー頼んだ」

 

 さっきから傍観していたフィーカが、歩いてこちらに向かってくる。

 後ろには何故かボフストが居る。

 

「あ、クラ。ここ給金がいいから働く事にした」

「うん。……って、いきなり何ていう宣言してるの!!」

「いや、いいだろ?」

「まぁ、俺には拒否権は無いだろうけど……」

 

 横目で姫様を見ながら思う。

 だが、気づいてないようにサルタという侯爵を罵倒し続けている。

 なんだか、言ってはいけないような秘密も混じっておりすごく悲惨な状態となっている。

 

「よし、フーよ。この武器を使ってこいつを倒せ。サルタ。お前はこれを使ってフーを倒せ」

 

 木製の槍を渡されたフィーカは邪魔になる鉄槍を地面に置き、独特な構えを取る。

 ボフストとの戦いは全部見る事ができなかったので、少し驚く。

 

「片手で持ってるけどいいの?」

「あぁ、棒術のように連打される攻撃と、槍術のように鋭い突き。独特な構えはそれを可能にしている」

「ボフスト、解説ありがとう」

「いや、問題は向こうだ」

「向こうがどうしたの?」

 

 見ていても、特に変わった様子は無い。

 唯一つ、罵倒され続けた為か、疲れているように見える。

 ……いや、あの顔は……。

 

「そう、あの武器には呪いが掛かっている」

「……すごい、幸せそうな顔だね」

「あぁ、人の性格まで変えてしまうとは……恐ろしいな」

 

 たぶん、あの人の為の気遣いなんだろう。

 なんて優しい姫なんだ。

 着々と整っている舞台で指揮を執っている姫様を見ながら思う。

 

「ルーさん、サルタってどういう家系なんですか?」

「あ、説明しますね。サルタ・バシュケル・ロルバはロルバ家の三男で、残り二人のうち一人は放浪の旅へ、もう一人は将軍として王家へ使えています。三男のサルタは、この国の歴史と魔法を研究しています。そして、サルタが見つけた唯一の魔法がありました。その功績として姫様の許婚相手となったのですが、その魔法は魔力が無いこの世界では使えません。ですから、あってないような許婚なのですが、クラ様が現れた事で火が付いたのでしょう、ここに来たと……」

「ラトンっていうのは?」

「ラトン・グライ・ロルバ様のことです。剣を3歳の時から扱い、今では王都で新居を建てているところだそうです。サルタと違っていい人なので私も友好的に接する事ができます」

 

 サルタ=悪い男という方程式が俺の脳内で建設途中なのだが、それを止める者が居た。

 話題の男、サルタである。

 

「君がクラディ君かい?」

「違います。こっちです」

「俺はちげぇよ。さっき門で会釈していた男だ」

「そうかい、すまなかったね」

 

 姫様の言う通り、かなりのアホらしい。

 もう少し理解力のある人間に次は生まれ変わって欲しい。

 サルタ=アホな男という方程式に作り変えている最中、また建設途中に止める者が居た。

 話題の男、サルタである。

 

「き、君は何故嘘を付いたんだい?」

「え?嘘なんて付いてませんよ?俺の名前はトスクネ・イデラクですから」

「では、さっきの奴が嘘を付いていたのか……、侯爵たる私になんと言う仕打ち……」

 

 取り合えず、トスクネ・イデラクを逆さまにすると、クラディ・ネクストになるという事だけはこの三人の中では短い間の暗黙の了解となった。

 

「おい、準備が整ったぞ。アホサルタ、誰が移動していいと言った。早くここに来い」

「は、はい」

 

 権力に弱い男サルタ。

 今日も強く生きている事だろう。

 

「では、立ってみるのも脚に負担が掛かってしまいますし、そこの椅子を持ってきて見ましょうか。ボフストさんお願いします」

 

 木製でできた椅子を持ってくるボフストは一体何者なのだろうか。

 優に3人は座れる椅子に俺、ルーさん、ボフストの三人で座り、特等席を陣取った。

 だが、ルーさんは細身なので、女ならばあと一人入れるかもしれない。

 

「ルー、私の良人に手を出すなよ……」

「大丈夫です。こちらを空けておきます」

「うむ」

 

 どうやら、俺の意見無視で座る人が決まってしまったらしい。

 ボフストの眼差しが俺に変な感覚を与える。

 そろそろ、羞恥心を捨てた方がいいのかも知れない。

 

「では、審判は頼んだ。開始の合図は私がする」

 

 兵士の一人に審判を頼むと、そそくさと開始宣言をして俺の隣に座る姫様。

 腕を掴んでいる辺り、女の子らしいが、脚の上に脚を乗せないでほしい。色気より先に痛みがくるから。

 

「ボフスト、場所交代して」

「無理だ」

 

 時々、ボフストは俺を苛める。

 そう、今みたいに……。

 

「一瞬で終わったな」

 

 どうやら、戦いを見逃してしまったらしい。

 周りの兵士の顔からして、呆気なく負けたんだろう。

 

 

 サルタが。

 

 

「さて、俺は昼食を食べに行きますが、どうしますか?」

「俺とフィーカは兵士用の食堂に行くとして、ルーファンはまだ食べないんだよな?」

「はい、メイドですから」

 

 メイドが貴族を罵倒するところを見たような気がするが、きっと気のせいだろう。

 だって、メイドですから。

 

「よし、私はクラと一緒に食べるぞ。行こうか」

「ちょ、肩が外れる!怪我が増える!脚が!!」

 

 俺が死んでも、遺体を連れて連れまわされそうだ……。

 さすがに、悲しんでもらいたい……。

 

「おい、待て」

 

 アホの男。サルタが俺達を止める。

 取り合えず、ボフストは無視して通り過ぎる。

 フィーカは姫様を守りながら一緒に通り過ぎる。

 残った俺とルーさんは肩を掴まれる。

 

「貴族でもないお前がし、シタル姫の婚約者など認めん!!」

 

 そして、俺は思った。

 手を払いのけ、言ってやった。

 

「貴方の了解がいるんですか?」

「か、カッコいいですクラ様……」

 

 何故だろうか。

 今、姫様との結婚を容認してしまった気がする。

 周りを見たら、口を開けて放心状態のアホタだけだった。

 

「じゃあな、アホタ」

「それでは失礼します。アホタ様」

 

 この日、この時から彼のあだ名はアホタに決まった。

 

 

 ☆

 

 

 ―――姫君 視点―――

 

 

「うむ、取り合えず許可しよう。資金を使う場合は相談してくれ」

「わかりました。自治体へ呼びかけをした方がよろしいでしょうか?」

「いや、いい。逆に邪魔になるだけだ。数が多くとも息があってなくば意味は無い」

 

 伝令使(でんれいし)に伝える。

 塔を壊してしまった事での、魔物の凶暴化が進んでいるのだ。

 自治体とは、ギルドなどのことだが、アレは勝手に討伐などしてくれているので自由に動いてもらって構わない。

 私達がやるのは、王都に居る父上に救援を伝える事と、この地域を魔物から防ぐ事だ。

 

「クラに頼めば一発なのだが……。そういえば、聖剣の件、父上に伝え忘れておった。それも伝えておいてくれ。命令しだいでそちらに送る事もありえるからな」

「わかりました。それでは」

 

 広い室内で、一人欠伸をする。

 静かだが、少し鳥の(さえず)りが聞こえる。

 春は近いかも知れないな……。

 そんなことを考えながら、政務をこなしていった。

 

 少しすると、扉がノックされる。

 嫌な気配がするので、放置しておく。

 すると、外から声が聞こえてくる。

 

「シタル姫は不在か!」

「居ないぞ」

「そうか」

 

 そう言って、足音が聞こえてくる。

 去ったみたいだ。

 しかし、一分が過ぎた頃だろうか?

 扉が開け放たれる。弁償してもらうとしよう。

 

「どうした、アホタ」

「シタル姫までもがぁああ……」

 

 頭を抱えて悩む素振りを見せるが、こちらをチラチラ見てきて気持ちが悪い。

 実に不愉快だ。

 その、金髪を毟り取ってくれようか。

 一つ、咳払いをすると、立ち上がる。

 

「失礼。今日私がここに来た理由。わかっていますでしょう?」

「いや、馬鹿の考える事は理解に苦しくてな」

 

 馬鹿なのに変わりは無い。

 それも、特大の。

 

「そ、そうですか。ならば説明しましょう。何故、私との婚約を解消なさったのですか!!財力、権力、支配力。どれをとっても劣る平民と何故!!」

「知るか。惚れたんだ。簡単だろう?馬鹿でもわかるだろう?」

「なっ……」

 

 普通、一般的には一国の姫が惚れたという理由で平民と結婚することは絶対にありえない。

 それ以前に、結婚自体がありえないのだが、父上は了解してくれたので、それを可能にすることができた。

 

「ありえません」

「それは、利益を得るための勝手な言い分だろう?私はそういうの抜きで恋愛というものをしているのだ。まぁ、馬鹿には一生わからないがな」

「馬鹿とは……、一国の姫君がそのようなお言葉を―――」

「知っているぞ。お前は権力を振りかざして、平民を奴隷にしているようじゃないか。ん?そこに恋愛感情はあるか?私は奴隷になどしないぞ。しっかりと前向きに付き合って欲しいといって了解を得たんだ」

 

 まぁ、了解をしなかったらクラは死んでいるが……。

 汚れた空気を見ながら死体を見るような目で見る。

 

「うぐぅ……」

「貴族としての恥を知れ。お前が偉いのではなくお前の父が偉いのだ。その父の名を汚すお前は親不孝者じゃ」

 

 私に勉学を教えてくれた先生が老人だったので、少しじじ臭い言葉に時々なってしまうのだが、そんな事は気にしてられない。

 というか、早く出て行ってはくれないだろうか。

 

「出て行け」

「……」

 

 無言で立つサルタ。

 泣いているのだろうか。

 言いすぎなどではない。真実を言ったまでだ。

 

「お前のない頭で考えてみろ」

 

 私は、サルタを避け、部屋から出て行った。

 

 

 ―――クラディ 視点―――

 

 今日の昼。俺はまた怪我が増えた。

 姫様の機嫌が悪いようで、今度は腕をやられた。

 やはり、サルタというアホ貴族はどうにかして追い出さなければいけないらしい。

 

「しかし、どうやって……」

 

 考えても答えは出てこない。

 地味な苛め程度では、王都へ帰ってくれないだろう。

 殺すという線は取り合えず無しにして、どうにかならないものかと考える。

 

「やぁ」

「今日はとても清々しい日だ。こんな日には運動するのもいいかも知れない」

「君は、怪我をしているんだろ?」

「チッ」

「チッって言った!今、チッって言ったよね!」

 

 目の前で唾を飛ばしまくるアホタ。

 考えている間に来るとは不覚だった。

 

「今から、殺るしかないか……」

「危ない臭いがするな……。いや、違う。私がここに来たのには理由があるんだよ……」

「そうか。俺は無い」

「聞いてくれるか。そう、お前に決闘を申し込む」

 

 無視されるのに慣れてきたのか、勝手に話を進めるアホ。

 

「もはや、名前じゃない!!」

「何を言っているんだ。アホ」

「アホって言った。しかもさっきの口に出してたし!」

 

 それにしても、決闘を申し込むって……。怪我人を甚振って何が楽しいのだろうか。

 俺にはわからない。

 

「決闘と言っても、歴史の学院入試試験で勝負だ」

 

 学院は、確か貴族と、一部のお金持ちしか入れないと聞いた事がある。

 アホタは、自分なりに考えて決めたんだろう。

 

「いいだろう、受けて立つ。勝負は今日の6時30分より開始とする。制限時間は30分。これでいいか?」

 

 確か、入試の時はこんな感じの規則があったような気がする。

 

「あぁ、いいだろう。勝った方には……」

「わかっているさ」

「ならいい。後4時間か……。それまで精々勉学に励む事だな」

「お前など、脳の6%しか使わなくても勝てるわ」

 

 勿論、その微妙な数字で相手を挑発しているのだが、やはりというべきか、慣れているだけあって素通りされてしまう。

 

「ふぅ……取り合えず、寝るか」

 

 松葉杖を手繰り寄せ、自分の部屋に向かって歩いていく。

 途中に、ルーさんに会って手伝いましょうか?と聞かれたが、一人でいいと断って自分の部屋に向かった。

 

 そして、俺がベッドで横になって、5分が経った頃だろうか?

 程よく、眠気が襲ってきた頃、ノックもせずに扉が開かれる。

 そして、二人分の足音が近づいていくと鳩尾に激痛が走る。

 

「ウゲボッ!!」

「おい、クラ。聞いたぞ。あんな馬鹿を相手にしなくとも良い。そうだな……一緒に昼寝でもするか」

「姫様、違いますよ。クラ様は字が読めないのです。早く覚えさせねば……」

「あ!」

 

 今、気づいた。

 文字には二通りあって、一つは俺が読める古代文字。少しだけ書けるようになったが、まだまだ覚え切れていない。もう一つは、現代文字。一般的に使われている文字だと聞かされている。だが、平民が普通に生活する分には文字がなくても困らないので貴族や商人などが使っている。そして、今回使う文字は現代文字だ。俺に勝機はないだろう。

 

「クッ、妨害の策を練らねば……」

「それは違うと思いますよ……。勝つ為にも、文字を覚えなくては」

「いや、馬鹿など無視して―――」

「男には、逃げちゃいけない勝負が(たぶん)あるんだよ!」

「今、心の中でたぶんと付け加えなかったか?」

「加えてない」

「そうか」

 

 兎に角、ルーさんの言う事は正しいので、文字の勉強をしなければいけない。

 読むのには困らない程度にはしておきたい。

 

「よし、図書室へ行こう。あそこなら王都程ではないが、大体の本がある」

「そこで、勉強か」

「あぁ、やるからには負けるなよ」

「案内しますね」

 

 松葉杖を持って、立ち上がる。

 

 ―――バタン

 

「お、おい、大丈夫か!?」

「クラ様!」

 

 たぶん、原因はこの二人だ。

 扉を突き破り、寝ている相手の鳩尾を殴るんだもの。

 

「ほら、負ぶってやる」

「素直にありがとうと言えなのは何でだろう」

 

 きっと、殴った張本人だからだと納得しつつ、姫様の肩に手をかけて負んぶしてもらう。

 思ったより小さいその肩は、頼りなかったが覇気に満ち溢れていた。

 

「え、ちょ、え?」

「行くぞ!」

「あ、姫様!」

 

 確か、廊下は走ってはいけないという規律があったような気がする。

 だが、長い道があれば人は誰しも走りたくなるだろう。それが急いでいるときでは尚更で、姫様も例外ではなかったようだ。

 それに巻き込まれた俺は、自分で思っていて悲しいが不幸であろう。

 廊下の突き当たり、そこに図書室がある。

 そこには、この国の歴史から絵本まであって、俺の興味を誘う本ばかりだ。

 入ると、中々出る事のできないと言うのが難点なのだが、今回は字の勉強が目的だ。

 こうなったら、本気でやるしかないだろう。

 

「よし、まずは自分の名前からだ」

「その前に、参考書を!」

「え?あ、うむ」

 

 どうやって、勉強しろと言うんだろう……。

 

 

 ☆

 

 

 血の滲む努力の末、あやふやながらも一通り文字を頭の中に入れることが出来た。

 時計を見れば、もう6時15分と中途半端もいいところだった。

 

「復習したいところだが、行くぞ。会場の手配はしてある」

「あ、片付けは―――」

「しない。ルー、頼んだ」

「わかりました。頑張ってくださいね」

「はい、絶対勝ちますよ」

 

 正直、自信はないのだが、勝つしか方法はない。後はやるだけだ。

 

 会場に着くと、何故か薬師のお兄さんとその他の薬師さんが居た。

 ……何かあるのだろうか……。

 

「さて、決闘(試験)を始めます」

 

 今回は、姫様が審判をしないようだ。

 監視体制はバッチリのこの場所で、姫様がいたら気が散る……ということだろうか?

 

「開始!」

 

 俺の意思を全く無視して始まってしまった。

 

『Q1.貴方がもっとも愛する女性の名前は?』(フルネームで)

 

 いちもんめからぁああ!!

 

「何故だ……何処の学院がこんな試験をするんだ……」

「静かに」

「はい、すいません……。試験とかは初めてなので」

「そうか。次は気をつけたまえ」

 

 さて、この問題。

 答え方しだい、いや、姫様の名前を書かなければ殺される。

 しかし、フルネームというところが問題だ。

 俺は、姫様の名前を全部覚えていないのだ。いや、この名前で書きましょうという時点で可笑しいのだ。

 家族と書いて逃げれないじゃないか。

 

「……確か……シタ……ル……幼名は……メ……メーグルだったけ……」

 

 どうすればいい……。

 後は、トルトを付ければいいだけなのだが、これが厄介だ。

 何故か、わからないが名前が間違っているような気がする。

 ……男は後ろを向かないものだ。

 次の問題。

 

『Q2.目の前に眠りの姫がいます。さてどうする?』

 

「はい、質問です」

「質問は許されていません」

「……すいませんでした」

 

 明らかに学院試験ではない。

 しかも、作った人物が誰かわかるという折り紙つきだ。

 取り合えず、『キスをする』だろう。

 しかし、何故か間違っている気がする。

 気にしたら負けのような気がする。

 次の問題。

 

『Q3.とある国のお姫様が塔の最上階に掴まっています。さてどうする?』

 

『自分で逃げてください』

 

 次の問題。

 

『Q4.しっかりとQ3をやってください。もう一度解答権が与えられました』

 

 さて、どうすればいいんだろう。

 ここに、物語を書いて行けと?

 

『ぼろぼろのつり橋を渡り、城門に構える門番兵を倒し、城内にいる荒れ狂う悪者を倒し姫を救う』

 

 次の問題。

 

『Q5.その後どうなった』

 

『二人で駆け落ちした』

 

 次の問題。

 

『Q6.貴方は一国の姫と結婚したいですか?』

 

『これは、真理テストですか?』

 

『Q7.違います』

 

『そうですか』

 

『Q8.私の思い人は?』(これを書けたら100点です)

 

 今までの問題はなんだったんだろう……。

 さて、これはなんだか危ないな……。

 ……書こうか。

 

『クラディ・ネクスト』

 

 ……当たっていることを願う。

 

 

 ☆

 

 

 ―――フィーカ 視点―――

 

 くふふ、ついにクラディを斬る時が来た……。

 姫様の隣は私一人で十分……ふふふ。

 

「では、結果発表」

 

 このために、クラディの問題用紙をばれないように変えたのだ……。

 これは、負けは確定しているだろう……。

 

「勝者……」

「頼む―――」

 

 クラディが何か言っている。

 たぶん、私にしか聞き取れない声だ。

 

「取り合えずは生きていく方向でお願いします」

 

 本当に、中途半端な祈りだ。

 しかし……何故、これに姫様は惚れたんだろうか……。

 わからない。

 あの、戯けはふぃ、フィーカちゃんなどと言って……この私を愚弄する奴だ。

 ……あの時は、羞恥で顔を赤くしてしまったが、その恨みはここで晴らさせてもらう。

 

「クラディ・ネクスト」

「うりゃぁあああ?」

 

 ……クッ、クラディめ……。

 私を、辱めるとは……。

 許せん……。

 

 

 ―――クラディ 視点―――

 

 何故だか、殺気がする……。

 まぁ、勝ったんだからいいか。

 

「ふぅ、寝よ」

「その前に、勝利の―――」

 

 商品か何かだろうか?

 

「キスだ!」

「返品します!」

「無理だ!」

 

 腕が押さえつけられる。

 この腕は……。

 

「ボフスト!」

「まぁ……割り切れ」

「うわぁあああ~~~」

「ほら、チューっと」

 

 俺の唇が奪われる。

 ファーストキッスがこんな形で終わるとは……最悪だ。

 

「妾の始めての接吻を受け取ったな?王都へ行ったら婚儀の準備じゃ」

「だぁっ!」

 

 に、逃げないと!

 

「ま、負けた……」

「死ね」

「あぁ、死ぬんだったら俺の盾に!」

「お前らは、慈悲とか無いのか!」

「ボフスト、それは言えないよ!」

「……割り切れ」

「無理だ!」

 

 この後、サルタを宥めるのに夜中まで掛かった……。

 俺の睡眠時間はすごく削られた。

 そして、何故か俺はサルタのライバルとなってしまった。


『後書きと言う名の雑談会』


作『一つ言うと、自分の中ではサルタがエロタに変換されている』

サル『酷いのでは……、って名前の略し方がサルとは……』

クラ『しかし、殺伐としたあいさつだったな』

サル『話題を変えてきましたか……いいでしょう』

作『今日は女性人はお休みです』(飽きっぽいの多いので)

ボフ『それにしても、今回は……クラは悲惨だな』

クラ『わかってくれるか……』

作『やっと腹の怪我が治ったのにね』

サル『怪我すること自体が不甲斐ないです』

作『エロタは幼少の頃姫さんに殴ったり蹴ったりされまくれ特殊な体質になっているのである』

サル『エロ……いや、何でもありません。っていうか、殴られていません』

作『次回予告、エロよろしく』

サル『唯のエロに!?』

ボフ『長引くと……だぞ?』



サル『……次回!誰かの陰謀か?はたまた復讐か?『色々あるけど聖剣優先』だ』

クラ『聖剣?』

作『ネタバレになりそうなサブタイだった……』

ボフ『……次回……な』

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