3話 『努力と才能がぶつかる時』
姫さんとクラの性格は合わない気がする……。
でも、結婚が何故か決まっている……。
それは、逆らったら殺されるから。
―――クラディ 視点―――
食事を食べた後、なるべく日持ちする食材を選んで袋に入れ、小屋から出発した。
ボフストも城や町などで食料調達したいと言っていたので途中まで一緒に行動する。
「こっちで合ってるのか?」
「崩れたと言っても、あの塔はここから見えるだろ?」
東側を見ると、大きな塔が聳え立っている。だが、先っぽの方が崩れていて不恰好になっている。
「それが、東側にあるってことはこのまま道なりに進んで大通りに出ればそこを通って城に着ける筈だ」
「ホント、物知りだな」
「まぁ、この道は通ったことがあるからね」
「そういえば、旅人をしていたって言ってたな」
「正確に言えば、考古学者助手だね」
「だから、頭がいいのか」
「関係ない……と思うよ」
「俺は、あると思うけどな」
「まぁ、親父も頭がよかったしね」
「その考古学者ってお前の父さんなのか?」
そのまま、他愛も無い雑談をしながら歩く。
二人とも旅の経験者って言うことはありがたかった。
夜になれば、見張りをたてて、取り合えず大通りに出て馬車に乗せてもらおうと言う作戦だったのだが、ずいぶん早く着きそうだ。
いや、俺の方が遅いぐらいだ。
やはり、ボフストの茶色に染まった筋肉は伊達じゃないのだろう。
「体力あるな」
「まぁ、俺達の部族は獣、狐や犬とかと一緒になって魔物から村を守るんだ。必然的に筋肉質になる」
「だから、動物にも感謝してるのか」
「そういうことだ」
「なら、城に着くまでの間に剣を教えてくれないかな?」
「ん?どうしてだ?」
「少しぐらいは戦力になると思ってね。短い旅だけど足を引っ張るのは嫌だし」
「そうか。では、野宿する場合は早く準備しよう。余った時間で剣を教えてやる」
「ありがとう」
俺は親父と旅をしている最中は傭兵などを雇って守ってもらっていた立場だから、その時少し剣を握らせてもらったぐらいだ。
だから、足を引っ張るかも知れないが、少しばかし剣を習おうと思った。
少し歩くと、日が落ちてきた。
食料は十分にある俺達は歩いている間に集めた木の枝を集めて赤化鉱石を使って火をつける。
解説
道具 赤化鉱石
庶民にお手ごろ価格で売っている鉱石。
火をつける為にあり、旅人の必需品。
振ると古代の魔法のように火が飛んでいく。それを木に当てて焚き火などを作る。
空が茜色に染まり、魔物などが活発的になった頃にお湯を沸かしながら俺達は剣の訓練をしていた。
「こうか?」
まずは、持ち方を教えてもらっている。
右手を柄に当て左手で右手の下部分を持ち肩に力を入れる。
「そうだな……一番自分の持ちやすい持ち方が一番だ。まぁ、疲れにくい持ち方だ」
「疲れない……」
俺は肩に入っていた力を程よく抜き、右手を鍔よりにもって、左手を釣り合いが取れるように持つ。
知識だけはあるので、こんな感じとわかる。
知識と実際にやるのでは違うとわかっているので、しっかりとできている自信はないが、これが一番疲れない持ち方だ。
「そう、そんな感じだ。……忘れないように覚えておけ」
気づくと、お湯が沸いている。
今日はここまでにして、料理を作ることにした。
☆
―――姫君 視点―――
「父上……」
「……許可しよう。思うようにやりなさい」
父上は何か考えた様子だったが、笑顔で頷く。
民は、父上の人の良さを知っていて、そしてその娘に当たる私の性格が凶暴だと言う。
私は気にしていないのだが、父上は私の事をいつも気にかけてくれている。
だから、一人王都から離れたところにいるのだが、そのおかげで、クラと会えたんだ、必然……だといいな。
「ありがとうございます。母上は?」
昨日は話し合う時間なんて無かったので、聞いている。
母上も、父上と同じように心配性だ。
「元気にやっている。私が不在の時は政治面でも活躍していると聞いた」
「今も……ですね」
「ははは、そうだな」
頭を掻きながら、照れた様に頬を染める。
身内から始まり、他の国の王までいい妻をもらったと言われている。
母上に、父上の良いところを聞いてみても曖昧な答えしか返ってこないが……。
「それでは―――」
「待ちなさい」
扉を開けて廊下へ出ようとしたところで止められる。
振り向かずに、「何ですか」と緊張しながら言う。
こういう時の、父上は何かと言ってそれが当たってしまうのだ。
「私は、結婚に賛成だ。周りが何を言ってもな」
「……ありがとうございます」
叫びたい感情を抑えて扉を開ける。
急いで、外へ向かって走り出す。
「やったぞ……やった……」
自身では分からないが、たぶん顔が赤く染まっていると思う。
会ったばかりなのに、懐かしい感じのする少年。
それは、私にとってすごく大切なものなのだろう。
―――クラディ 視点―――
「うまかったぞ」
「ありがとう」
料理を食べ終わり、片付けている最中そんな事を言ってきた。
旅をしているのに料理ができないといっていたボフストは、長持ちする食材を簡単に焼いたりして食べているらしい。
「よく、生きてられるな」
「鉄の胃袋をもってるからな」
「頑丈なんだね」
ジャガイモの芽でも食べてしまいそうだ。
俺は、毒だと聞いたことがあるが、やれそうだと思う。
「なんだその目は?」
「いや、なんでもない」
「……そうか。俺はちょっと剣持って訓練してるから、何かあった叫んでくれ」
「わかった」
俺は、そう言って川に食器を持っていく。
後、三日使うのだ。一日目から汚していたんじゃ三日目には使えなくなる。
「ふふふ~ん♪ふふ~ふ~ん♪」
一年も家事をやっていると、こういったことに慣れてくる。
流れるような手付きで、食器類を洗う。
「果物でも流れてこないかな~」
旅をしていた時、一度だけ上流の方から果物が落ちてきたことがあった。
果物を落とした商人らしき人に会った時には、もうたべてしまっていたのですごく冷や汗を掻いた記憶がある。
「ん、あれは……」
目を凝らしたって分からないので、歩いて行って確認してみる。
そこには、あの塔で見た魔物と夫婦らしき男女に、俺と同じぐらいの少女が立っていた。
悔しいが、背で負けている……。
「おい、だいじょ……う……ぶか?」
俺が声を掛けている間にどんどん魔物を薙ぎ倒していく。
槍を使っている少女は、薙ぎ払いと同時に前に出る。
すると、前方に居た魔物の首が落ち、血を出さず黒い煙を上げて消える。
残った魔物は動揺している様だが、それが本能なのかはわからないが少女に襲い掛かる。
だが、少女は腰を低くし、足元をすくうように薙ぎ払う。そこから風が舞い上がり魔物の体を斬りつける。
黒い煙は傷が付いた場所から上がっていき、少女が薙ぎ払う体勢をやめると風がやみ魔物が落ちる。
それと同時に、魔物は消える。
「だい……じょ……うわっ!」
いきなりこっちに突きをしてくる少女の攻撃を避ける
足が速くてよかったと思う。
「え、えっと、俺は……いや、僕は敵じゃないから!」
「嘘……惑わすな!」
「ひ、酷い!」
ボフストを呼ばなくてはと思い、声をあげようとするが、気だけが先走って裏声になってしまう。
「ぼ、ボフスト!たすけ―――」
髪の毛が二、三本散る。
攻撃の速度がどんどん上がっている。後ろを向いて逃げたい気分だがそうすると突き一発で終わるだろう。
だから、避けなければいけない。
「甘い!」
―――ズシャッ
肉の切れる音がする。
わき腹をやられたらしい。
「うぐっ……ぶはっ……はぁ……はぁ」
衝撃と一緒に吹き飛び、地面に激突すると同時に血を吐く。
胃液も混ざって一気に腹の中が空っぽになる。
「……て、敵じゃないから……」
「嘘だ……」
「フー、やめなさい!」
「……お父さん」
「家の娘が失礼した。お怒りのようなら何なりと罰を……」
母親らしき人も駆け寄ってきて傷薬を塗ってくれる。
だが、わき腹が裂けるように斬れているのであまり意味がないような気もするが好意はありがたく受け取っておく。
解説
回復薬 傷薬
お手ごろな価格の回復薬。擦り傷などを治す程度ならこれを使えば一日で治る。
大きな怪我の時に塗っても意味があまりない。
薬剤師初心者が作っても安心な薬。
全部使い切ると、また新しい傷薬を塗ろうとしていたので丁重に断り話を聞くことにした。
「どうして、そんな襲われていたんですか?」
「この子は王立騎士団に入る為にルティア城へ向かう途中でして……夢はこの国の姫君であるシタル・メーグル・トルト様の近衛兵になることでして……」
ルティア城とはあの姫様が居た城だ。
一度しか見たことはないが、確かにあの近衛兵達は強そうだった。
憧れる気持ちも分かる。だが、それとこれとでは繋がらない。
「何で襲われていたんだ?」
「それが……」
横目で少女を見る。
一息ついてからまた話し始める。
「この子は、修行……いえ、暴れることが昔から好きで……夜ってのは魔物の活発になる時間帯です……」
「それで?」
大体予想がついてきたのだが、それに巻き込まれたと信じたくない。
「それで、一人で水を飲んでいた魔物に向かっていって……」
「巻き込まれた……と」
「はい……申し訳ございません」
この少女のお父さんはいい人だ。少なくとも俺の親父よりは……。
だが、これで城に着くまでの時間がだいぶ延びてしまいそうだ。
「もういいよ。私帰る……」
「何処にだよ!!」
思わず突っ込んでしまった。
傷が悪魔に切り裂かれたように痛む。
この少女は何処まで俺に痛みを与えたいんだろう。
「馬車の中……もう寝る……」
「馬車?」
「はい……自分は今は商人をやってまして……馬車は必要となってくるのですよ。今度王都で店を開店するんです。この子は近衛になりたいと行っているので途中、ルティア城に下ろしていこうかと……」
「ルティア城に行くのか?」
「はい」
「……一緒に同行させてもらえないだろうか」
ここから馬車に乗れるのならば、大通りまで二日、怪我をしているからもっと掛かるところを一日で着ける。
ルティア城までなら、三日掛かるだろう。
「えぇ、幸いにも荷物は別の運び屋に持たせてあるので……」
「ありがとう、もう一人いるんだが……」
「大丈夫です。後、二、三人は入れますよ」
「感謝する。荷物をまとめるからそれから案内してくれ」
「はい」
明日には大通りに着けるだろう。
俺はボフストに経緯を言って、了解を得て明日から馬車で移動することになった。
☆
―――ボフスト 視点―――
朝になると、俺達は馬車のある場所へ向かった。
相当クラの件を悪く思っているんだろう。
俺もあの傷を見たときは驚いた。
だが、今の問題はそれじゃない。
「お前誰だ?」
「失礼な!」
クラから聞いたのだが、こいつはクラに傷を負わせた犯人らしい。
クラが怒ってないようなので手は出さないが、侘びの一つでもいれたらどうだと思う。
「私の名前はフィーカ・アルド・ウェラリーだ。あの天性カシロアの娘だぞ!」
「なっ!」
じゃあ、あの今クラと話している男がカシロアだというのか……。
信じがたいが、俺があの時見たのがクラの強さならば本当かも知れない。
「私は父を誇りに思っている。よし、特別に父の話をしてやろう」
「知ってるからいい」
「家族にしか分からないこともあるのだ」
始めるぞ、と言うと座りなおし話し始める。
ちなみに、ここは馬車の御者台で、このフィーカとかいう奴と肌が擦れる状態になっている。
俺は元よりだが、こいつも気にしないらしい。
男らしいというか、豪胆というか……。
「―――そこで、父はこう言った。ドラゴンを倒すのならば私を連れて行け。酒場は騒然と―――」
どれもこれも知っている話だ。
俺も、戦士の一人として名のある傭兵はしっかりと記憶している。
カシロアというのは、天性の才能を持った傭兵といわれる最強の人間と他称されている男だ。
俺の中ではクラが最強なのだが、一度戦い方を見てみたい気がする。
小さい頃から戦って培った戦闘力と天性の才能を持った男の対決。
今日の夜に提案してみよう。
きっと俺の為になる勝負になる。
クラの怪我を使って無理矢理と言っているようだが、この好奇心はもう抑えられないらしい。
横で、カシロアの話をするフィーカを気が散るからと黙らせ、俺は夜に向けて頭の中でカシロアがどんな戦いをするか想像していた。
―――クラディ 視点―――
荷物を運ぶ為の大きな馬車の中で、俺はあの少女の父親が傭兵カシロアだと聞いて驚いた後、少し眠っていた。
ただでさえ怪我をしている俺が、昨日の夜は荷物をまとめ、馬車まで一人で歩いたんだ、すごい疲れが溜まっている。
「な、なんだとっ!!」
外から、大声が聞こえてくる。
何かあったんだろうか?
脇腹を押さえつつ立ち上がるが、カシロアさんが休んでてくださいと言うので、俺は馬車の中にいることにした。
確かに、魔物などだったら俺は足手まといになるだけだろう。
「何があったんでしょうね?」
目の辺りに皺がある、あの少女の母親が話しかけてくる。
俺は、小さいことに母親を亡くしているので不思議と話しやすい相手となっている。
「魔物とかだったら、危ないですよね」
「ふふ、そうですね」
「誰が魔物だって?」
「誰って、誰……でしょうね?」
自分でも汗を掻いてるのがわかる。
勿論、恐いとか驚いたとかじゃなく純粋に―――
「え、えっと、すいませんでした」
あの塔は、王家の物だったから、きっと賠償金を払わないといけないだろう……。
俺は一生逃げ暮らさないといけないのか。
「何を謝っている。妾は怒っておらんぞ?」
「あ、はい。すいま……えっと、怒ってない?」
「あぁ、怒ってなどおらぬ。どれだけ心配したことか……」
「あ、ありがとうございます……」
まさか、心配してくれているとは思わなかった。
責任でも感じているんじゃないだろうか……。
俺は、あの塔の中での記憶を思い返してみるが、記憶があまり無い。
ボフストと会ったところまで覚えているのだが、そこから吐き気がして思い返せない……。
「恐縮するな、帰るぞ」
「はぁ……」
俺は、母親を見る。
笑顔で笑っている様子は、いってらっしゃいと言っているようだ。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
少しだけだけど、心が晴れたような気がした。
―――フィーカ 視点―――
私は、強さを求めた。
父の名に恥じない娘になりたかった。
そうすることで、一人前と認めてもらいたかった。
その時、私は同い年の少女に憧れていた。
シタル・メーグル・トルト。
彼女の名前。この国の姫。私の憧れの人。
その人の近くに居たかった。
私は貴族じゃないし、強くもない。
だから、強さを求めた。
そして、強くなった今、彼女の元へ向かった。
唯一つ、彼女の側に居る方法。
それは、近衛兵になることだった。
一時は叶うことはできるのだろうか、と悩んだこともあった。
だが、やってみなければわからない。
それは、父が教えてくれたことだ。
その願いは思いもよらぬ形で叶うことになった。いや、正確には叶う希望が見えてきた……というところだ。
「ん、あれは!」
私は見た。
馬車に刻まれているその紋章は王家の紋章だ。
そして、この辺りにいる王家の血族は一人しかいない、シタル・メーグル・トルト様だ。
「なんだ?」
「見間違えようがない。王家の紋章だ……」
「な、なんだとっ!!」
唾が飛ぶ、しかしそんな事を気にしている時間はない。
馬を止め、一気に隣の馬車に駆け寄る。御者のところまで一気に駆け寄り、馬車を止めるように説得する。
「何処へ行くのですか!その中には姫様が乗っていらっしゃるんですよね!」
「なんだ君は?」
「五月蠅いぞ、妾は急いでいるのだ」
「姫様……」
その体付き、その顔、その格好。
どれをとっても私が尊敬するに値する人物だ。
だが、止まってくれそうにない。
……少々、悪い気もするが、クラディという私が誤って攻撃してしまった少年を使おう。
「怪我人がいるんです!」
「む……怪我人?」
「はい」
食い付いてきてくれている。
他の民からなんといわれようと、やはりあの王の血を受け継いでいる。
根は優しいんだ。
「名前は?」
「確か……クラディ……でした」
「なっ!それは本当か!」
肩に掴みかかられる。
いきなり興奮しだして、どうしたんだろう。
分からないが、あの少年はこの姫様とどういう関係か……、そっちの方が大切だ。
「ど、どういう関係で?」
「そんな事はどうでもいい。あの馬車の中だな!!」
「あ、ちょっと……」
どうでもいいと言われてしまった。
どうでもいい……。
「私は……側に居たい……」
覚悟は決まっていたはずだ。
だが、この抑えられない気持ちはなんだろう……。
暴れたいと泣き、叫ぶこの衝動はなんだろう。
「おいっ、大丈夫か?」
「お、おあぁああ……」
「やばそうだな……」
ボフストという男が私の近くに寄ってくる。
「すまないが、気絶してもらうぞ」
首筋に衝撃が走ると、次の瞬間には私の意識はなくなっていた。
―――姫君 視点―――
私が、馬車の取っ手に手を掛けた時、会話が聞こえてきた。
クラの声だ。だが、もう一つは知らない女性の声だ。
「魔物とかだったら、危ないですよね?」
「ふふ、そうですね」
「誰が魔物だって?」
自然と声が低くなる。
これは、人間の自然現象の一つだろう。
「誰って、誰……でしょうね?」
冷や汗のようなものを掻きながら、必死に弁解しようとするクラ。
もう少し、見てみたい気もするが、今は城に帰る事が優先だ。
「え、えっと、すいませんでした」
突然謝ってきた。
訳のわからない私は、少し裏声の入った声で聞き返してしまった。
「何を謝っている。妾は怒っておらんぞ?」
「あ、はい。すいま……えっと、怒ってない?」
怒ってなどいない。
塔が崩れたと聞いた時は、己の運命さえ呪った。
巻き込んでしまった自分が恐ろしかった。
「あぁ、怒ってなどおらぬ。どれだけ心配したことか……」
「あ、ありがとうございます……」
このことは、王家の失態ではなく、私一人の失態としておこう。
そして、一部の者しか知らない秘密にしよう。
「恐縮するな、帰るぞ」
「はぁ……」
気の抜けた返事をする、クラ。
呆れている表情も何処かいいな……。
「それじゃあ、いってきます」
「いってらっしゃい」
笑顔で、言うクラ。
見ていると、気分がいいようなもやもやしているような不思議な気持ちだった。
私には見せてくれない顔というものがやはりあるのだろうか……。
私の周りにいる者は皆そうだ……。
☆
―――クラディ 視点―――
俺は、何故か姫様と一緒の馬車に乗っている。
夫婦なら普通、と言いくるめられてしまったが、俺は試験と言われた塔の魔物殲滅を失敗したんだ。夫婦なのは可笑しいと思う。
「や、やっぱり婚約解消……ですよね?」
「……いや、似ているが違う」
似ているが違う?
流れ行く景色を見ながら考える。
似ているが、違うとはどういうことだろう……。
「もう、結婚だ」
「確かに、婚約は無くなってますね……え?」
「結婚だ」
……もう一度聞くのは失礼だろうか?
だが、俺の耳と頭が可笑しくなければ、さっきの言葉は『結婚』と聞こえた気がする。
「父上は、許可をくださった。母上も、父上がいいというならば許可してくださるだろう」
「で、でも、塔の中の魔物は……」
「関係は無い。アレをやったことに私自身……後悔してる。興味本位で巻き込んでしまった……すまない……」
「え、あ、あはは、いい、いいんですよ」
これは、きっと神様が与えてくれた死ぬ前の夢に違いない。
死ぬ前ぐらいはいい夢を見させてくれるなんて、いい神様だ。
「大丈夫か?まさか!この傷……私のせいで……」
脇腹の傷を見られたとき、すごく心配された。
それは、良人だからなのだろうか……。
「ち、違います。ちょっと色々あって……」
あの少女の夢はこの姫様の近衛兵だった。
今、犯人はあの少女と言えば、俺があの子の夢を絶つことになってしまう。
「色々……か。まぁいい。言えないことぐらいあるだろう。丁度いい、話したいことも終わった、昼にしよう」
黄金の懐中時計を手に、姫様が言う。
もう、そんな時間なのか。
「それと、ボフストだったか?中々見所のある奴だな」
「……そうですか」
なんだか、この国にボフストを引き止めておきそうで恐い。
何処かの国の貴族と言っていたからな……。
「そういえば、あの少女はなんだ?」
「あの子は、えっと……その……」
陰からだけど、少しだけ応援しよう。
「姫様の近衛兵になりたいそうです。道の途中で出会ったので、一緒に城に行くことにしたんです」
「ほぅ、私の近衛兵……腕が立つと見えるな」
俺は、このときわからなかった。
この後の展開を……。
―――ボフスト 視点―――
シタ姫の登場で、うやむやになってしまって、結局言えず仕舞いだっかが、昼には言ってみようとカシロアに声を掛けてみた。
「勝負……ね。私の得物は棍でね。娘に護衛はまかせっきりだし、腕も落ちている……すまない」
「そうか……残念だ……」
馬車に戻って、昼寝でもしていようかと思い、馬車の方に向かうが、そこに人影がいる。
「誰だ?」
「お前が、ボフトスだな?さっきの話は聞かせてもらったぞ」
「何?」
「あの娘と戦ってみないか?かなりの才能の持ち主だと見るが……」
「カシロアの娘か……確かに才能はありそうだ……」
戦ってみる……、どうしようか。
戦いたい気持ちの方が大きいのだが、女に手を出すというのは憚られる。
だが、戦いたい気持ちと気が引ける気持ちは両方ともあるらしく、すこし聞いて見る。
「そっちは了解しているのか?」
「あぁ、これが試験だ」
「試験?」
何の試験だろう……。
まぁ、相手が戦いたいのなら、戦ってもいいだろう。
「武器はこっちで支給する。木製だ」
「わかった」
なんだか、分からないが、少し面白いことになってきた気がする。
『後書きと言う名の雑談会』
作『今回は引き続き、ボフストに来てもらっています』
ボフ『今回は早く終わらせようぜ』
クラ『何でだ?』
ボフ『寝不足は戦士としてダメなんだ』
クラ『それは―――』
作『大丈夫だ。無理矢理にでも起こしてやる』
ボフ『何で!?』
クラ『まぁ、頑張ってくれ』
作『次回予告。クラ頼んだ。これにボフストの運命は掛かっている』
クラ『……。次回!どうやら疫病神というのは居るようだ。それはいつ何処に居るのか全く予想できない。『仲裁の傷跡』」
作『ほら……貴方の後ろにも……』
ボフ『そんなことより俺は?』
作『さて、今日は朝まで宴会じゃぁ~~!!』
ボフ『いやだぁあああ!!』