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29話 『世界の神の剣』

―――クロ 視点―――


最初はただの人間だった。

特に気配に怪しさも無く、普通の男だった。

その男は、私と我が同胞である姫様と一緒に中庭で修行をしている時、突然乱入してきて、そこから姫様が強い口調で注意すると、凶悪な臭いがして同じ魔族、世界の支配者。

つまり、エシェイルという男が現れた。


交戦状態に入り、数分後、不適合者(イレギュラー)でない姫様を戦わせるのは得策で無いのでひとまず不適合者(イレギュラー)を集めてもらう事にした。

その気になれば、止められただろうに、姫様に無関心で、ただ私を襲ってくる彼。

ミケも入ってさらに過激になる状況、打開策の無い時点で現れたのは厄介だった。


「つぅ~、こりゃぁ勝てにゃい。どうする?」

「そうですね。クラさんが加われば少しトリッキーな戦術も使えて楽になると思いますが……今の状況では待っているのは死ですね」


私たちの役割としては、私が攻撃、ミケが防御、クラが翻弄といった感じだ。

攻撃と防御だけで最後のボスを倒そうとしても無理だ。


「にゃい、どれだけ持つかにゃ?」

「……残り五分もないでしょうね。僕は絵を描いているわけですし、腕が激しく疲れます」

「ねぇ、君達は何でボクの邪魔をするの?ボクは正義だよ。母さんのやっている事と同じさ」

「殺しの何が正義だー!」

「……でも、君達はボクを殺す気なんだよね?ねぇ、君達はボクを殺さないと言い切れるの?ボクが死ななきゃ君達の理想は叶えられないんだよ?」

「ウハハー、難しい事は考えずに今はただ防げばいい。それだけにゃい」

「……このふざけた猫の言う事は気にしないで前を見たらどうですか?」


そう言って、障害になるような物を描いていくミケ。

私はその上に乗って相手を翻弄しながら攻撃していく。

すれ違い様の攻撃では威力がどうしても小さくなってしまうが、徐々にでいい、疲労を蓄積させたい。

それだけが二つ目の目的だ。


「……君達は僕の死を嘲笑うだろう。ただ生き残る愚か者は先に消そうと思ったんだ、わかる?」


つまり、全員が死なないなら……死んだ後、彼を拒否した世界が無くならないのなら彼が死ぬ意味が無いってことか。

……何で彼を人間は拒否したの……私はこんなにも……違う。

人間は皆いい奴ばかりじゃないんだ。

どっちかと言えば悪い人間の方が多い。


「……運が……よかっただけ……」


少し同情。

そのため、動きが鈍る。

彼はその隙を狙ってきた。


バキィッ!!ボゴォンッ!


すれ違い様、脇腹を蹴られた。

たぶん、骨は折れているだろう。

城の壁に叩きつけられ痛む全身を奮い立たせ立ち上がる。


「まだまだ……いけるよ」


私の体中を包む薄い紫色の煙。

あぁそうだった。

私は魔法で魔族としての私の姿を隠して本当の姿を誰にも見せてなかったんだ。



魔族としての、私の醜い姿を晒したら……私も差別される……。


それが嫌だった。

だから、私は逃げた。

必死で、逃げた。

骨が折れていて痛い。

でも、我慢して、逃げた。


地面が目の前に現れる。


あぁ……ここで終わりなのか……。


そのまま私は倒れた。





―――クラディ 視点―――


俺が騒音が聞こえる場所、つまり中庭に行くと殺気を放つ人外の化け物がミケの腹を突き刺していた。

そして、その鋭い手を引き抜き、一振りして血を払い飛ばす。

そばでは見知らぬ魔族の少女も横たわっている。


これはどういう状況だ……。


理解できない状況に、少し頭が混乱する。

しかし、理解する前に事が起こる。


その人外の化け物、エシェイルがこちらへ高速で移動し攻撃してくる。


ガキィッン!!


それを防いだのは姫様だった。

勿論、俺は体力もないし瞬発力だって……動体視力だって無い。

だから今の攻撃は見えなかったし反射的に動けなかったし、逃げようとも思えなかった。

それぐらいの早い世界の中で姫様がただ一人、攻撃を防いだ。

しかし、手が痛いようで顔を歪ませている。


「……クラには手を出させんぞ?」

「……ボクの邪魔を……何でするのかよくわからない」


姫様はエシェイルが命じれば世界がその存在を無いものへと変えてしまう一般的な存在だ。

けど、俺は姫様みたいな力は無い。

それに、俺の能力、『モノカキ』だって相手には通用しない。

どうすればいいのかわからない。


恐怖で染め上げられた心を振り絞ってその場に留まる。

ただ、声は出せない。


「クハハハハ、楽しそうな事をやってるじゃねぇか」

「何を言うか。さっきから見ていただろう?」

「ククク、バレてたのか」


エシェイルの後ろ、城壁の上にナシルが現れる。

不敵な笑みと共に、少し屈伸してから中庭に下りてくる。


この二人が信じられない。

まぁ、ナシルの方はまだわかるとして姫様は本当に女という性別なのだろうか……。


「……よくもボクを殺してくれたね」

「ククク、二度目だ。二回殺してやらぁ」

「わかってるの?ボクが命じれば君は死ぬんだよ?」

「ばぁか、命じる前に殺す」


そう言って、走る。

俺の横にさっきまで居た姫様はエシェイルの手を払い顔を蹴ろうという体勢になっていた。


瞬間、世界が破裂した。


「なぁッ!!」

「ク……ッ」


足元が無くなり、一時的に重力が俺の体を下へ落とそうとする。

しかし、世界が消えた、つまり重力すら無くなった。


「あぁ、ダメだなぁ……―――」


野獣のような容姿、赤い瞳、黒く長い(たてがみ)


「世界はボクの物。だから、無駄なんだよ。だから、君も大人しく死んでね」

「な……」


その姿は《化物(バケモノ)》。

俺が居る空間は本当に不安定で、今にも崩れそうな脆さを持っている。

そんな中に確認できる”生物”は二つ。


「ど、どうなって……」

「わからないの?世界を吸収したんだよ。君達の言う神様ごとね」


光も闇も無い世界で二人、俺と《化物》が居る。

そんな中、そんなふざけた説明でも信じるしかなかった。


信じたく無いのに。



遅かったんだ……。

世界から力を切り離そう何て……無理……。


勝てる見込みの無い戦い。

何もできない状況。


無の世界。そこに俺たちは居る。

そして、本当の無が訪れる時を待つ。


「そんなの……」


『嫌に決まっている』


俺は涙を流しながら言う。


「仇は必ず討つよ」

「世界一つ飲み込んだボクに勝てると思ってるの?それこそ滑稽(こっけい)だね」

「……勝てるさ」


それだけ呟き。

俺の武器、一本の筆を取り出す。


感覚を掴んだばかりの魔力を筆に流し込み、世界へと命じる。


『二人を他世界へ』


この世界の力だけじゃ勝てない。

ならもっとでかい世界の力を借りればいい。


そこで戦えばいい。


瞬間、目の前の『()』が『(ユウ)』に変わった。





人間の支配する世界。

そこは無駄にでかい世界。

今まで力を溜め込んできた世界。


「ゴメン……だけど使わせてもらうよ」


折角この能力の使い方がわかってきたんだ。


「……何処?ねぇ、ここ何所?」

「知らない。俺だって始めて来たんだから」


そんな初めての世界で、お前を倒してやる。


「世界の神ってのをやっと理解できた気がするよ」

「何を言っているんだい?」


世界の神。

それは、世界を守る神でも世界と共に生きている神じゃない。


緑の豊かな周りに囲まれ。

知らない人間に囲まれ。

とても大きな世界に包まれている。


「世界の神ってのは世界の力を自在に使う神なんだ」


支配者。

神。


どっちが強いなんてわかるだろう。


憎き仇(エシェイル)から世界を引っぺがせ』


絶対命令権を持っている俺の方が強い。


虹色の煙がエシェイルの体から上がる。

これで姫様達は世界と共に元に戻った……はず。


……仇は討つよ。


ナシルからもらった剣を鞘から抜き、(エシェイル)向かって斬り付ける。


肉を斬る音。感触。

それら全てが俺の中に入ってくる。


それは罪悪感というやつだろう。


「あ、あぁ……」


全てを搾り出したような声をあげ、黒い煙となるエシェイル。


そこには混沌が出来上がっていた。


『後書きと言う名の雑談会』


作『……死んだ……』

クロ『ウハハー! 私は不滅―――』

作『みなさん、幻聴が聞こえたような気がしたんですが……』

クロ『げ、幻聴じゃな―――』

作『……大丈夫。お前の分までたぶん生きてやる』

ミケ『僕についてはスルーですか。戦いの描写もなかったですし』

作『……ミケの文句が聞こえてくる。呪われたかな……』

クロ『ねぇ、私たちって脇役?』

ミケ『微妙な位置です』

作『では、次回予告』


作『……クラは全てができて全てができない存在。思い次第で全てが変わる。頭をフル回転させご覧ください。では、次回!『神の創造』クラは神なのか王なのか……』 

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